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イランの違法な石油を中国に運ぶ大規模船団「闇の艦隊」とは?


車が無保険だったり車検切れだったりすると、交通事故が起きたときに問題ですが、ひとたびトラブルが発生すると大規模な海難事故に発展する大型タンカーの場合はなおさら重大です。耐用年数をはるかに超えた老朽船を無保険で運用し、制裁対象地域から違法に石油を運び出す、「闇の艦隊(Dark Fleet)」や「影の艦隊(Shadow Fleet)」と呼ばれる違法操業の実態について、BloombergのYouTubeチャンネル・Bloomberg Originalsがリポートしました。

The Illicit Shipping Trade Hiding in Plain Sight - YouTube


数十億ドル(数千億円)規模の制裁対象原油を取引する多数のタンカーの船団が捕捉されました。


南シナ海を中心とした海域で活動するこれらの「闇の艦隊」は、保険もかけず、位置情報を隠して身を潜めながら、制裁対象の原油を運ぶ老朽船で構成されています。


2023年5月、マレーシア沖の南シナ海で闇の艦隊を構成するタンカーのパブロ号が爆発炎上する事故が発生しました。


パブロ号は中国から戻る途中で、事故により乗組員3人が行方不明となり、死亡認定されています。


タンカーの平均寿命は通常であれば15年程度なのですが、パブロ号はそれを大きく上回る25年間にわたって運航されていました。保険会社もついておらず、数カ月間にわたって放置されたまま海上を漂っていたため、最終的にマレーシアが多額の費用を負担して回収することになりました。


専門家は「老朽船は以前にように解体されなくなり、代わりに闇の艦隊に使われるようになりました。規則を破ることをなんとも思わない企業や組織が、こうした艦隊を運航しています」と語ります。また別の専門家によると、かつて世界の船舶の95%は保険でカバーされていましたが、記事作成時点では80~85%に減少しているとのことです。


闇の艦隊は、規制が厳しい国の領海外など、監視の目が届きにくい海域に群がります。こうした場所は、中東の石油輸出国と中国のような石油消費国の中間にあり、また海も穏やかなため、原油の輸送にはうってつけです。


闇の艦隊の規模や往来の頻度は年々拡大しており、特に2018年のイラン産原油への制裁や、2022年にウクライナ侵攻を開始したロシアへの制裁が事態を激化させています。


闇の艦隊が輸送する原油の多くはイラン産で、その90%以上は中国に輸出されているとのこと。


生き残るために原油を売りたいイランと、安い「制裁オイル」で国際的な競争力を維持したい中国の思惑は一致しています。


闇の艦隊の船舶は、監視を避けるために自動船舶識別装置(AIS)を切るので、発見するには衛星のデータが使われます。


こうした船は、しばしば洋上で原油の移し替えをします。Bloombergが接舷しているタンカーの船影を捉えるアルゴリズムで船舶の動きを追跡した結果、問題の海域での船舶間移送は2020年の5%から2024年には10.3%へと増加していたことがわかりました。


2024年初頭から9月までに取引されたと見られる原油は3億5000万バレル、金額にして200億ドル(約3兆1500億円)相当に上ります。


闇の艦隊を構成している2隻のタンカー、タイタン号とウィンウィン号。


タイタン号はイラン産原油を輸送していることが知られており、ウィンウィン号の航跡は中国から南シナ海までを結ぶ不自然な線を描いています。


「タイタン号は非常に古い船で、就航から20年以上経過しています。見るからにさびついていて、整備は不十分です」とレポーター。


適切な安全対策が行われているかも不明で、万が一事故が起きれば、200万バレルもの原油が海に流出することになります。


闇の艦隊の取り締まりは行われていないも同然です。というのも、マレーシアの海運当局や沿岸警備隊はリソース不足で、密輸や人身売買、違法漁業などさまざまな海洋安全保障上の問題に直面しているため、この問題は優先順位が低いからです。


問題の背景には、制裁に対する国際的な温度差があります。特に中国には制裁を守るインセンティブがほとんどなく、また経済的な苦境に立たされていることもあって、安価なイラン産原油を購入する動機は十分だと指摘されています。


専門家は「制裁に効果がないわけではありませんが、効果が出るには非常に長い時間と、多大な努力が必要です。その実現には各国の協力と情報共有が不可欠であり、そうなってはじめて貿易や海路、環境や船員の安全が守られるのです」と話しました。

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in 動画, Posted by log1l_ks

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