取材

「しまかぜ」の改造を手がけるフランスの造船所に潜入、インタビュー&取材レポ


1年ほど前にフランスを訪れた際、たまたまラ・ロシェルにある港「ポート・アトランティック」を見学する機会があったのですが、中では日本の「しまかぜ」という船を改造していました。艦これでおなじみの「島風 (島風型駆逐艦)」のような軍艦ではありませんが、日本の船が海外で生まれ変わる様子がとても興味深かったので、日を改めて取材を申し込み、ポート・アトランティックの造船所のマネージャーからいろいろ話を聞いてきました。

Port Atlantique La Rochelle - Site officiel
http://www.larochelle.port.fr/



◆しまかぜ・ENIGMA XKの見学
ポート・アトランティックに到着。入り口には船をかたどったモニュメントが設置されています。


部外者はIDカードなしでは立ち入りできない地区です。


港内の移動は車を使っており、今回一部を案内してくれる男性に迎えに来てもらいました。


さっそく中へ移動。


1年前に見たしまかぜはどうなったのか尋ねてみると……


内部からアスベストが発見されたため作業を中断しているとのこと。


1年前は着手したばかりだったので、船底は赤かったのですが、白く塗り直されています。


側面の船名が剥がされた跡を発見。


正面から見るとこんな感じ。以前見た時はもっと大きかった気がしたので聞いてみると、完成品の設計に合わせて胴体を切断したとのこと。アスベストはその際に内部から出てきたそうです。


船底は木材によって固定されています。


内部は「少し入るくらいなら問題ない」ということで上がらせてもらうことに。


しかし、セキュリティ上の関係から内部の撮影はNG。エンジンの設置場所などを説明してもらいました。


「ちょっと見てほしいものがある」と呼ばれてついて行くと……


なんともともと描かれていた「しまかぜ」の船名を消す前に書いてみたとのこと。


読めるかどうかが心配だったそうですが、ちゃんと読めることを伝えるとうれしそうな様子。「僕たちは使われなくなった船に第2の人生を与えているんだ」と語る男性からは、愛着を持って作業に取り組んでいる様子が感じ取れました。


脇にあったロープが気になったので何に使うものなのか聞いてみると……


暇があれば以下の本を読みながらロープの結び方を練習しているそうで、「この本は海の男のバイブルだ」と話していました。


続いて、以前しまかぜが配置されていたドックには、新たに着工した大型船「ENIGMA XK」が置かれていました。


かなり大規模なプロジェクトとのことで、現在はこの船に集中して作業を行っています。


完成後はロックを開けば海水を取り入れることができ、船を移動できる仕組み。


このバルブを回せば開くようです。


安全のためヘルメットを借りて船の下に降りてみます。


船底には足場が作られています。これ以上先は危険なため進めるのはここまで。


上に上がって船の反対側へ。


デッキをごしごし中。


船体の側面は木材で固定されています。


こちらも内部の撮影はNGでした。


造船エンジニアの人が移動に使う自転車。この港自体が小さな街になっており、多くのエンジニアが港内のアパートで生活しているとのこと。


これは船を運ぶ機械。


ポート・アトランティック港には積み荷を運ぶ船は入港せず、修理やメンテナンスを要する船だけが集まる港とのこと。


入港した船を配置しておく「ドライ・ヤード」。以下はポート・アトランティック最大の規模のもので、商業用のタンカーでも入りそうな大きさです。


出港時にはこのバルブを回すわけですが……


人間の力では回せないようになっており、すぐ横のコントロール室から操作します。


◆インタビュー
船と港の見学が終了したので、しまかぜとENIGMA XKの改造を手がける造船会社のマネージャーが待つオフィスへ。


階段を昇ると……


受付があります。


来客用のソファも置かれており、フランスらしいポップな色合いのオフィスです。


船の設計図を印刷するプリンターがあり……


設計図の作業に当たっている人を発見。


海の男の好みなのか、オフィスで使っているPCはMacが多め。


別の部屋にはiMacもありました。


というわけでプロジェクトマネージャーのLionel Pradadinesさんにいろいろ話を聞いていきます。


GIGAZINE(以下、G):
本日はお話を伺うお時間をいただきありがとうございます。まずはポート・アトランティック港で、「しまかぜ」や「ENIGMA XK」といった船の改造を行うライオネルさんが務める企業「Agence Atlantique de Gestion Navale(AAGN)」について教えてください。

Lionel Pradadines(以下、L):
ポートアトランティク港には複数の造船会社が入っていてAAGNもその中の1つだよ。我々は主に船のメンテナンスおよび改築・改造を請け負ってプロジェクトを作っているんだ。例えば、オーナーが「船を買いたい」と持ちかけてきたら、我々は船の業者との間に立ってそのやり取りを受け持つんだ。そのまま船をオーナーに引き渡すこともあれば、オーナーと予算を取り決めて、希望通りに作り替える改造プロジェクトを組んでいるよ。オーナーはわざわざ港まで来て「船を買いたい」「ヨットを買いたい」と言わなくても、アメリカ・日本・中国など世界中から船を探して、我々プロがしっかりと管理・整備した上で船を入手できる革新的なビジネスなんだ。


G:
なるほど。ENIGMA XKやしまかぜを見せてもらいましたが、改造プロジェクトは完了するまでにどれくらい時間がかかるのでしょうか?

L:
プロジェクトによって大きく異なるけど、ENIGMA XKで言うと計画ではオーナーに引き渡すまでに全て含めて3年はかかる見通しかな。しまかぜは中身のエンジンを入れ替えたり、かなり深くまで手を入れる予定だから規模は異なるけど同じように時間が必要だ。どのプロジェクトもそうだけど、オーナーが突然心変わりして追加オーダーが入ることがあるから、引き渡し予定日が延期になるのはよくあることなんだ。


G:
引き渡し後にも同じ船からメンテナンスなどの依頼はありますか?

L:
もちろん依頼があればメンテナンスプロジェクトを組むこともあるけど、メンテナンスなどのテクニカルサポートは改造プロジェクトの契約に含まれているよ。

G:
並行して複数のプロジェクトを請け負っているようですが、従業員は何名くらいでしょうか。

L:
このオフィスにはプロジェクトを管理するマネージャーを含めて4人だ。現在ENIGMA XKには造船エンジニアを20人ほど使っているけど、作業員を何人使うかはオーナーとの予算との兼ね合いで変わるからなんとも言えないな。


G:
それでは、造船エンジニアに必要とするスキルについて教えてください。

L:
すべての海の男たちには国際海事機関(IMO)が定める、船員の訓練および海事教育に関する国際基準証明の「STCW 95」という資格が必要で、日本でもフランスでもアメリカでも同様の船員としての基準を証明できる国際資格だよ。船員・エンジニア・キャプテンと船に関わる職業には必ず必要なんだ。あとは携わる船に応じた造船技師の資格を学校に行って取得することも必要だ。

G:
先ほどENIGMA XKで作業している人を見せてもらいましたが、船を作るにあたって危険なことはありますか?

L:
危険なこと?何も危険なことなんかないよ。なぜなら我々はIMOの基準に沿った安全規則を設けていて、もしアクシデントが起こっても大事には至らないように何重にも安全装置を取り付けている。全ての作業員にはヘルメット・グローブ・サングラスなどを貸与しているし、全ての作業員が安全に作業できる環境を作るのは僕の仕事でもあるからね。もし規則を正しく守れない作業員がいれば話は別だけど。


G:
一般人である自分が船内を見学する時にも安全のためのヘルメットや蛍光ベストなどを貸し出してくれたことからも、安全を徹底していることは強く感じました。ライオネルさんはエンジニアではなくプロジェクトマネージャーを務めていらっしゃいますが、次は具体的なマネージャーの職務を聞かせてください。

L:
その名の通りプロジェクトの管理をしているよ。主にブローカーとの取引交渉だったり、オーナーとの打ち合わせだったりね。僕はブローカーじゃないから、直接船の売買を行うわけじゃないけど、専門的な知識を持ってオーナーの手助けを行うことができる。僕自身も船長になるために必要な「Master mariner」という資格を持っているけど、船の設計を指示するだけで作業を行うのは全てエンジニアたちだ。もし君が船を買いたくなったら僕のところへ来れば、世界中から良い船を探してあげるよ。

G:
ありがとうございます(笑)。ところで、1年前にここを訪れた時にもしまかぜを見せてもらいましたが、船体が小さくなっていましたね。日本では同じ名前の船がゲームのキャラクターとして注目を集めているのですが、しまかぜのプロジェクトについて詳しく教えてもらえますか?

L:
ちょっと待って、ゲームのキャラクター?PlayStationとかってこと?

G:
(PCで艦隊これくしょんのウェブサイトを見せながら)これがゲームの「島風」です。PCでプレイするブラウザゲームで、軍艦が女の子のキャラクターになっています。


L:
クレイジーだね(笑)。日本では船がアダルトゲームになっているんだ。これが人気なの?

G:
プレイヤーが多すぎて新規でプレイできないほど大人気です。ここで改造が進んでいるしまかぜは、船内にアスベストが発見されて作業が中断しているとお聞きしました。今後どのようにプロジェクトは進んでいくのでしょうか?

L:
しまかぜのオーナーはある島に住んでいるんだけど、彼は釣りや水泳なんかに使う趣味用のスポーツクルーザーを希望している。それでしまかぜを改造してスポーツクルーザーに作り替えるプロジェクトが立ち上がったんだ。希望のサイズと異なるので船体を切断したところ、中からアスベストが発見されてね。フランスでは1996年から違法指定されている危険な物質だから、現在は作業を中止せざるを得ないんだ。


G:
日本でも法律で使用が禁止されています。しまかぜにアスベストが入っているという情報はなかったのでしょうか。

L:
ブローカーとのやり取りでは「アスベストはない」と確認をとっていて、仕様書にも書かれていなかった。とにかく今はアスベストの除去作業を計画していて、6か月はかかる見込みだ。余分なコストもかなりかかるね……。アスベストの存在は外骨格を切断してようやくわかったわけだから、恐らくブローカーも本当に知らなかったんだと思う。外装には使われていなかったしね。現場の安全が確保できたらプロジェクトを再開する予定だよ。

G:
6か月後に再開できたとすると、船が完成するのはいつ頃になりそうですか?

L:
6か月後に除去作業が終わっていれば、長くても1年で完成品をオーナーに引き渡せると思う。他に何も問題が起こらなければね。


G:
何も起こらなければ良いですね……。現在作業中のENIGMA XKはどのような船になる予定でしょうか?

L:
ENIGMA XKはしまかぜより強度の高い船になる予定で、沖の方や流氷の中まで出られるような船として設計しているよ。強度で言うと「アイスクラス」という基準になる予定だ。完成予想図のデータがあるから後でコピーを渡すよ。

アイスクラス:氷海航行用の基準(船級協会より引用)

ENIGMA XKの完成予想図はこんな感じ。


G:
本日はどうもありがとうございました。

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in 取材,   インタビュー,   乗り物, Posted by darkhorse_log

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