コラム

ネットコミュニティが崩壊するとき


GIGAZINEが今の形になるまでいくつかのネットコミュニティに参加したことがあり、主催などもしたことがあります。ゼロから作られたコミュニティの初期メンバーとして参加し、その栄枯盛衰を目撃したこともあります。それらの経験などから、コミュニティをビジネスの中核とすることは大変な困難を伴うことだと感じました。

ここでは、ネット上のコミュニティが「崩壊」するという最悪の結末、そして崩壊をすべて回避した最終形態について考えてみようと思います。コミュニティを中心とするビジネスや、ユーザー参加型コンテンツ、あるいはそういうコミュニティを主催・運営する方々の指針となれば幸いです。

~もくじ~
1.「ときめきメモリアルオンライン」に見るコミュニティ完全崩壊への流れ
2.創成期~成長期:炎上して燃え尽きるまで
3.円熟期~硬直期:後先考えず食らいつくす「ネットイナゴ」化
4.衰退期:SNSに見るユーザー大移動、そして誰もいなくなった
5.巨大化するネットコミュニティはやがて「国家」に匹敵するのか

■1.「ときめきメモリアルオンライン」に見るコミュニティ完全崩壊への流れ


ときめきメモリアルオンライン」とは、コナミが2006年3月23日から開始したMMO型コミュニティゲーム。MMOとは「Massively Multiplayer Online」の略で、要するにたくさんのユーザーがネットを通じて一つのゲームに参加する形態のこと。この「ときめきメモリアルオンライン」もそういった数あるユーザー参加型ゲームだったわけです。しかし、2007年7月31日 23時59分に全サービスが終了することが確定しています。

ときめきメモリアルONLINE|お知らせ|サービス終了のお知らせ

最初はサーバが人だらけになるほどの大人気ぶりで順調だったはずなのに、一体何が起きたのでしょうか?はっきり言うと、コミュニティを軽視した行動をし続けた結果、大部分のユーザーが離れたのです。あらゆるネットコミュニティの崩壊要素が詰まっている非常に参考になる例です。このことはWikipediaに非常に詳細にまとめてあるので、上から下まで一読することをオススメします。

ときめきメモリアルONLINE - Wikipedia(サービス終了決定に至った要因)

スクリーンショット使用に関しては、プレイヤー自身のブログなどである程度自由な使用が出来るように、他社MMORPG並みの規制緩和を求める声が上がっていたが、これも一切行われず、プレイヤーに敬遠される一因になった。また、プレイヤーによる自身のブログなどへの掲載も禁止し、違反者への処罰・罰則をちらつかせ続けた事が、結果としてプレイヤーたちを萎縮させ、ゲームの口コミ的な宣伝効果さえ完全に殺す事になってしまった

例えば、スクリーンショットの掲載などについては事前に「公認ファンサイト」として認定される必要がありました。

ときめきメモリアルONLINE|コミュニティ|公認ファンサイトのススメ

ときめきメモリアルONLINE|コミュニティ|公認ファンサイトFAQ

しかしこの公認ファンサイトになる条件が異常に厳しかったわけです。再びWikipediaを見ると、こう書いてあります。

ときめきメモリアルONLINE - Wikipedia(サービス終了決定に至った要因)

「公認ファンサイトのススメ」(上記外部リンク参照)でも、ページを開くと「ダメ!!ダメ!!」「ごめんなさい」という表現や、制限・処罰・罰則といった強烈な言葉が頻出する。また同様に、公式トップページから「公認ファンサイト」紹介を選択しても、真っ先に目に飛び込んでくるのは「めっ!」という、規約違反を侵しそうなプレイヤーに警告を発するイラストが現れる。また、非公認のホームページにも巡回を行い、規約違反と見なせるものにたいして実際に警告を行った。これらのように、ファンサイト運営希望者のみならず、全てのプレイヤーに対し、まず規制と処罰ありきで対応する様にしか見えない高圧的な姿勢に、プレイヤーの多くは萎縮し幻滅を抱き、一方では大きな批判が集まり、実際、非公式の仲間内のコミュニティのホームページなどもほとんどが活発とはおよそ言い難い状況に終始した。

ときめきメモリアルONLINE - Wikipedia(他社に類を見ない厳格な制度)

当初ファンサイト運営者はこぞって公認申請を提出したが、以上の理由により当時運営されていた大規模な情報サイト・攻略サイトなどはほとんどが不合格となり、正式サービス開始と同時に公認を受けることができたのは、主に個人のブログなどを中心とした20サイトにとどまった。公認が下りなかったサイトは、全面的に改修を行い公認基準を満たして再申請を行うか、あるいは非公認のままでの運営を行う代わりに、SSの使用を断念するかの選択を迫られることになる。このため公認基準や上記のゲーム内容自体への不満からサイトを閉鎖し、ゲームそのものからも手を引いてしまったところも現れた。更に、非公認で運営を続けていたとある大規模攻略情報サイトが、コナミより閉鎖命令を受けるという事件も発生してしまった。

その一方で、公認を受けることができたファンサイトに関しても、運営を続ける限りは半永久的にその厳しい規定に服従しなければならなくなった。例えばコナミは、公認サイトのリンク先に規定違反があった場合にも、公認を取り消す可能性があるという見解を明らかにしており、事実上公認ファンサイトと非公認ファンサイトの表立った相互交流は認められないとしている。

また公認ファンサイト規定では、パスワードロックをかけたメンバー専用ページの設置を禁止しており、例えばクラス・グループ内での部外秘の打ち合わせをしたい場合でもクローズドな掲示板やチャットルームを使用出来ないため、結果的に外部の会員制SNSなどへのコミュニティの流出を促進してしまっているのではないかという見方もある。そのため運営者でありコミュニティゲームを自ら謳った筈のコナミ自身が、ユーザーコミュニティの幅を狭めているのではないかとの声が根強かった。

それ以外にも自由度が意外に低いシステム上の不備や公式イベントを8ヶ月も開催しないなど運営体制への不満、30日間1200円という割高な価格設定であるにもかかわらず無料体験版が存在しないなどなどのむちゃくちゃな状況によってコミュニティは完全崩壊してユーザーが大量流出。あわてて7つあったサーバを2つに統合して残されたユーザーを結集させてコミュニティの活性化を図るものの時既に遅し、閉鎖を待つのみとなりました。

以上の状況を総合すると、コミュニティを厳しい規定や規約、ルールなどでがんじがらめに縛って完全統制することはネット上では事実上不可能に近く、ほかのもっと自由なコミュニティに流出するという非常事態を招く結果となります。

つまり、ネット上のコミュニティは完全コントロールしようとすると崩壊する、と。

確かにコナミが打ち出したFAQや公認ファンサイトに限ってスクリーンショット掲載を認めるなどの行為は実社会の法律を遵守する上ではむしろ「当然」であって非難されるようなことではないのかもしれませんが、実社会と法律が乖離するのは今までの歴史上、数多く繰り返されてきたことであり、特に進歩と発展の速度が桁違いに早いネット上においては、法律を取るかユーザーを取るか、そのあたりのバランス感覚が必須というわけです。

次に、ネットコミュニティを創成期、成長期、円熟期、硬直期、衰退期という流れの中でそれぞれどのように崩壊していくかを見ていきます。

■2.創成期~成長期:炎上して燃え尽きるまで


ブログが定着しかけた一時期、「炎上」という言葉がネットのあちこちで聞かれるようになりました。自分のブログにただでさえ話題を振りまきそうなエントリーや記事に対し、そのコメント欄に大量のユーザーが殺到して感情的なコメントを延々と書き込み続け、さらにそれに対してブログ開設主の取る行動、例えばコメント削除や別エントリーによる反論や言い訳がさらなるコメントを招き寄せる燃料となり、最終的には完全に燃え尽きて閉鎖する以外に事態を収拾することができなくなってしまうほどの状態のことを言います。

炎上 - Wikipedia(ブログにコメントが殺到する状態)

炎上して閉鎖してしまった例は数多くありますが、特に有名なのはやはり大手企業が主催した以下の2つの件です。まずはソニーのウォークマンに関するブログ。いわゆる「ヤラセ」だったのにさらに言い訳を重ね、開設してからわずか数日で閉鎖。

ソニーの「沈黙」3――血祭りになったヤラセ「体験日記」:阿部重夫編集長ブログ:FACTA online

ソニーは海外でもPSPについて同様のことを行って失敗しています。こちらも大炎上したようです。

ソニーまたヤラセ:PSP絶賛の偽「ファンサイト」で炎上 - Engadget Japanese

最初の出発点が「嘘」のコミュニティは必ず成長の途中でそのことがバレます。そして崩壊します。最初の出発、つまり土台にあたる部分が嘘なのだから当然です。ある意味、論外。

次はドコモによるSNSでの炎上例。簡単に言うと、mixiというコミュニティ重視のSNSに開設されたのに肝心の「コミュニケーション」を拒否した結果、大炎上してしまったというわけ。

J-CAST ニュース : ドコモPR用「SNS」 10日で「炎上」

炎上プロモーション死屍累々 対話を拒絶したコミュニティは10日で閉鎖する | Web担当者Forum

なぜあのサイトが燃えたのか? 実例で学ぶ! ブログ炎上 第6回「コミュニティ内の炎上」【マネジメント】

会員同士のコミュニケーションが目的であるコミュニティサイトでコミュニケーションを拒否するような態度に出れば、ユーザーが不快感を抱くのは当然です。当初は管理人に対して考えを改めるよう促すコミュニティ参加者の声もありましたが、あくまでかたくなな管理人の対応にいら立ち、「何のためにこのコミュニティを立ち上げたのか」との疑問から「mixiにいるべきではないのではないか」、ひいては「mixiから出て行け」との動きとなったようです。特にコミュニティでは、同一コミュニティ内のユーザー同士で互いの同質性を求め合う傾向にあります。たとえ個人であろうと企業であろうと、価値観を共有できない相手には厳しい対応をしてしまうのです。


炎上というと既に存在するブログが崩壊するなどのイメージがありますが、コミュニティの形成という視点で「炎上」を考えてみると、一番炎上しやすいのはコミュニティの出発時だということがこれらの例からわかります。というのも、コミュニティには「空気」という場の雰囲気が存在しており、その空気を形成する一番最初の時点で適切な「空気」を作り上げないと、炎上を招くというわけです。

この両者はいずれもネット上にコミュニティを形成し、それによってクチコミ効果を狙い、製品の売り上げを伸ばしたいという戦略から生まれてきたものですが、そのスタート地点で華々しくコケてしまったわけです。

コミュニティの一番最初の誕生した直後、いわゆる創成期においては嘘いつわりなく、そしてそこから始まるであろう今後のコミュニティ成長のためにもきちんと密なコミュニケーションが必要というわけです。ドコモのように対話を拒否するだけでなく、ソニーのように最初から嘘をつくという「信頼関係の否定」も含まれます。

つまり、コミュニケーションを否定して拒否するコミュニティは成長せず崩壊する、と。当たり前のことですが、非常に忘れがちなことでもあります。

■3.円熟期~硬直期:後先考えず食らいつくす「ネットイナゴ」化


大量発生したイナゴが大群を作って空を飛んでいき、次から次と農作物を食い荒らし、その農地の作物を食い尽くすと次はまた新たな農作物を探して集団で一斉に飛び去っていく……これがいわゆる「イナゴの大量発生」ですが、ネット上で先ほどの事例のように炎上しているブログやSNSなどに押しかけるユーザーたちのことを「ネットイナゴ」と呼ぶようです。

ネットイナゴ - Wikipedia

池田信夫 blog はてなに集まるネットイナゴ

ネットイナゴとは - はてなダイアリー

ブログ(個人サイト)のコメント(投稿)欄へ一時的に、悪意のある(ネガティヴな)匿名論客が不特定多数現れる、または特定サイトからのリンクによって流れ込む様を「畑の農作物を食い散らかす"イナゴ(稲子)の大群"」の自然災害に準えた言葉。


円熟期、硬直期とは要するに「安定期」であり、成功している大半のコミュニティはこの状態にあるはずですし、この安定期をいかに維持するかが肝心なわけです。しかし、時としてこの安定化によってコミュニティ内部がまさに「イナゴ」化してしまうという場合があります。

2ちゃんねるでのいわゆる「祭」もネットイナゴの先駆けのようなものですが、円熟したコミュニティの参加者の一部が一種の「暴徒」と化すようになり、衰退期へと向かってしまうわけです。コミュニティの崩壊の原因である「安定からの衰退」ということで、爛熟した文明や国家の行く末みたいな感じも受けます。この時点での対処を誤ると、衰退期へと向かっていくことになります。

実際にこの「さらなる安定かそれとも衰退か?」という節目を迎えているネット上のコミュニティについての縮図は以下で見ることができます。

naoyaのはてなダイアリー - はてなブックマークのコミュニティについて

はてなブックマーク - naoyaのはてなダイアリー - はてなブックマークのコミュニティについて

衰退期に落ち込まないようにするには、いわゆる運営側や管理側がしっかりとした指針を打ち出したり、システムの改善を行ったりする必要性が出てくるようです。これについては以前にもGoogle、Yahoo!、そしてマイクロソフトの3者のコミュニティ運営について以下の記事で書いたことがありますので参考にしてください。崩壊を回避する絶対的な解決方法はありませんが、ヒントにはなるはずです。

Googleはなぜ「全自動化」できないサービスでは負けるのか?~後編~ - GIGAZINE

■4.衰退期:SNSに見るユーザー大移動、そして誰もいなくなった


衰退期にはいるとユーザーが流出します。オンラインゲームなどでは無料期間が終わったらそのゲーム内で構築されたコミュニティが丸ごと別の新しいオンラインゲームに移動する……といったことも普通に行われています。

このような一種の「民族大移動」ならぬ「住人大移動」「ユーザー大移動」の有名な例が韓国のSNS界隈です。

mixiを超える存在は登場する--韓国SNSの歴史に学ぶ次の勝者の条件 - CNET Japan

かなり長い記事なのですが、Daum Cafe→Freechal→Cyworldというようにユーザーが大移動しているわけです。この大移動の原因はシステム的なものであるという側面が非常に強調されている気がしますが、逆に言えばそういう使い勝手における改善をちゃんとしていれば、つまりユーザー視点に立ったコミュニティ運営がシステム面含めて行われていればユーザーの流出はなかったわけです。

mixiもYahoo!もそれぞれ巨大なコミュニティを日本で築いていますが、機能的には後発の同系統コミュニティより上か?と問われるとそうではないわけで。それでもなお「安定期」の中にいられるのは先行者利益を守り続けるため、ある意味「コミュニティ」を壊さない運営を心がけているためだと予想されます。それもおそらくは「円熟期」などにさしかかっている古参ユーザーではなく、新しく入ってくる「新参ユーザー」あたりを丁重に扱うという方針です。

つまり、「新しい血を入れる」ことを延々と続けることで「そして誰もいなくなった」という状況を回避していると見る方が自然です。ただ、「日本人は一度気に入ったものからなかなか変えない」という民族性も考慮する必要性があります。

■5.巨大化するネットコミュニティはやがて「国家」に匹敵するのか


ネットコミュニティと簡単に言ってひとくくりにしてしまいがちですが、その運営というのは実際には複雑怪奇で手間と時間がかかり、あらゆる問題と直面することになります。その過程のどこかでたいていのコミュニティはつまづいてしまうわけですが、時には管理人が変わることで息を吹き返したり、一度解体して再出発したり、あるいは別のコミュニティに吸収されたりすることもあります。

これらさまざまな崩壊する要素を乗り越え、成長し続けるコミュニティというのが存在する場合、そういったコミュニティの運営や管理といったものはちょっとした「国家」のような様相を呈してくるはずです。巨大なネットコミュニティを主催したり、運営側に回ったことのある人であれば、「国家みたいな大きなものも一種のコミュニティなのではないか?」と感じたことがあるのではないでしょうか。

今まで数限りない多くのコミュニティに参加し、時には主催し、さまざまな経験をしてきました。その中で感じることは、おそらくネット上のコミュニティのどれかはわかりませんが、ほぼ確実にどれかが国家に匹敵するだけの力を持つときが来るのではないか?という期待です。インターネットは国家の国境でさえも比較的楽に突破できるようになっており、あとはコミュニケーションのツールである「言語」の壁を誰でも簡単に突破する手段ができれば、冗談抜きでそのコミュニティの主催者は国家首脳級の発言力を保持するかもしれません。

あの有名なGoogleのマスタープランによると、最終的にGoogleは世界政府が存在した場合に必要なものをそろえるという前提でサービスの拡張を行っているらしいので、国家に匹敵するだけの参加者数と国家レベルの運営管理能力、そしてそのネットコミュニティを維持するだけの運営資金が確保できたとき、崩壊しないコミュニティはネット上に新しい国家を建設してしまうのかもしれません。

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in ネットサービス,   コラム, Posted by darkhorse

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