コラム

Googleはなぜ「全自動化」できないサービスでは負けるのか?~後編~


Googleにも失敗がある……それが「Google Answers」という実に4年間も続けられたサービス。成功よりも失敗の方が多く学べるというのであれば、この失敗には何か学ぶべきことがあるはずです。Googleの成功にばかり目を向けるより、時にはその失敗にも目を向けてみましょう。そこにはきっと何かヒントが隠されているはずです。

というわけで、先の記事「Googleはなぜ「全自動化」できないサービスでは負けるのか?~前編~」のつづきです。Google Answers失敗の理由の核心と、その失敗を分析して誕生したライバルの猛追、そしてGoogleの失敗から学ぶことは何か?を以下、順に見ていきます。
■Google Answers失敗の理由その3「コミュニティ作りが苦手」


意外かもしれませんが、Googleはコミュニティを作るのが苦手です。というか、ユーザーとコミュニケーションを積極的に行っているような印象はありますが、それはユーザーの方から自発的にGoogleと関わっているだけであって、Googleからユーザーに関わって来るというのは極めて珍しいのです。つまり、Googleは利用者から見れば、いじっておもしろい「おもちゃ」でしかない、それが現実です。

例えば、先日の支払い遅延の件に関して、Googleの自前で持っているコミュニティを見ると意外に閑散としています。そして、Googleからの関わりの形跡は皆無。場は提供するし、システムも出すが、そこからあとの肝心の部分、「コミュニティを育てる」という手腕はありません。Googleスタッフによるブログも山ほどありますが、コメントを付けられるようなものはどこにもありません。

また、Googleに質問メールを送信したことがある人はみんな知っていますが、返ってくるメールは基本的に全自動の紋切り型テンプレートによる冷たい回答ばかりで、明らかに人の手を介していると思われるメールを引き出すにはそれなりの手腕が必要です。

このあたり、マイクロソフトは異常なほどコミュニティ構築に熱心です。これはネットサービスをメインとするGoogleと、ソフトウェアをメインとするマイクロソフトの差によるもの。というのも、ソフトウェア開発とはいうまでもなくプログラミングであり、プログラミングには過去の先達たちの残した資料やデータは必須。また、開発中にわからないことがあれば、もう誰かに尋ねるしか方法は残されていないという場合も多々あります。誰にも尋ねることができずに無茶なスケジュールで開発が行き詰まり、デスマーチに突入というのも珍しくないはずです。そして、Linuxというコミュニティに危機感を抱いた本家マイクロソフトは、ウインドウズに関連する様々なデベロッパーに対し、ある時期から非常に密なコミュニケーションを取るようになりました。それが一番端的に表れているのが「Channel 9」というサイトで、マイクロソフトの開発関連の光景を毎回ムービーで見せてくれます。コメントも可能で、コミュニティなども併設されており、海外では超有名。

Channel 9(本家)
http://channel9.msdn.com/

Channel 9(日本語版)
http://channel9.msdn.com/tags/japan

このあたりの意気込みは以下の日本語版の玄関ページで確認できます。とにかく書いてあることがすごい。掲示板の運営方針とかああいうものをさらに突き詰めた感じです。

Channel 9 の基本方針

1. Channel 9 は会話をするための場所です。Channel 9 は、マイクロソフトとユーザーが本音で語れる場を設けることを目的としており、マーケティング ツール、PR ツール、リード ジェネレーション ツールのいずれでもありません。

2. ひとりの人間として。Channel 9 は、Channel 9 のチーム メンバが自分らしくあることができ、チームについて紹介し、チームがマイクロソフト ユーザーについて知るための場所です。

3. 人の意見に耳を傾けてください。他のユーザーの意見から学べることは大いにあります。過剰な自己防衛に走ったり、議論に持ち込むために反論したりするような行為は禁止しています。他のユーザーの意見にも耳を傾け、そこから学べることを吸収してください。

4. 適切な判断を。意見を述べる前に少し考えてみてください。固定概念を押し付けたり、負の状況を引き起こすだけの何のメリットもない発言が見られます。

5. Channel 9 ではマーケティング活動は行いません。Channel 9 への投資は、驚きと喜びを得るために行っていることで、宣伝活動のためではありません。

6. 公序良俗に反する発言は禁止しています。恒常的な変化の定着には時間がかかります。

7. 引き際を見極めてください。議論しても解決せず、問題を引き起こすだけの話題もあります。これは検閲制度とは無関係ですが、現代社会の公序良俗を保つために必要です。法律や財産に関する問題を持ち出しても、事態は何も変わりません。公序良俗に反し、サイトにアクセスしたユーザーを動揺させ、負の状況を引き起こすだけですので、そのような行為は慎んでください。

8. ばかなことはしないでください。意地悪な人を好む人はいません。

9. 会話に参加してください。忙しいという理由だけで他のユーザーの意見に耳を傾けるのをやめたり、他のユーザーの意見に賛同できないからといって、会話への参加をやめたりしないでください。人間関係を構築するには忍耐が必要です。長い時間をかけて人間関係を構築することで、業界全体がその恩恵を受けることができます。

なお、Channel 9日本版サポートブログ: 試験放送終了に向けてのお知らせによると、日本語版はまもなく終了してしまうようです。このあたり、あまりコミュニケーションを日本人が重視しない傾向が如実に出てきた形でしょうか。そういう意味では、あくまでも待ちに徹して黙々と提供のみを続けるGoogleのおもちゃ的スタンスは日本人好みである、と言えるかもしれません。

一方、海外の本家マイクロソフトは、マイクロソフトの中の人たちと直接チャットできるチャットルームも開設しています。

MSDN Online Chats

日本からでも一応、担当者に聞く方法が確保されています。

Ask The Experts! ~ その疑問、マイクロソフトの担当者にきいてみませんか ?

ブログも山ほどあり、どれもこれもコメントも可能。これは日本語によるマイクロソフトのブログでも基本は同じ。

MSDN Blogs - Blogs
http://blogs.msdn.com/

Googleもブログを持っていますが、コメントできません。これは日本語版でも本家版でも同じです。

Google Japan Blog
http://googlejapan.blogspot.com/

Official Google Blog
http://googleblog.blogspot.com/

そういう視点で見ると、本家マイクロソフトは自発的なコミュニティの形成にも寛容で、質問されたらヒントを与えるとか、ときには新製品の情報をリークすることもためらいません。求められれば可能な範囲でそれに応じるのがスタンスらしい。

これは最初からそうだったわけではなく、先ほどもちらっとふれたように、Linuxの脅威を自覚してから「あのような強力なコミュニティ形成が我々にも必要だ」ということで方向転換したわけです。それまでは、今のGoogleのようなスタンスでした。これは予想というか予感ですが、どこかの時点で、これまで無敵を誇ってきたGoogleに危機的状況が訪れたとき、その危機をGoogleが肌で自覚したとき、マイクロソフトと同じような方向転換を図るのではないかと思われます。

つまり、「Google Answers」のような人力を介するサービスでは、コミュニティをいかに育成していくかというのは至上命題なのですが、Googleにはまだそのノウハウがなく、そしてあまり積極的ではなかったため、せっかく優秀なリサーチャーを多く抱えながらも失敗という憂き目に遭遇した、というわけです。このあたり、日本では「価格.com」などがコミュニティの維持に心血を注いでいます。当たり前のことですが、コミュニティは全自動ではできあがらないのです。

■Google Answers失敗の理由その4「強力なライバルの出現、質より量」


最終的に「Google Answers」へ引導を渡したのは「Yahoo! Answers」の登場です。登場したのは2005年12月9日。これはGoogle Answersの抱えていた各種の問題をすべて分析して解決することで出現した驚愕のサービスです。既存の検索というジャンルでGoogleによってシェアを奪われたYahoo!が、Googleとの激しい戦いにおいて正面から戦いを仕掛けて勝利したという、いろいろな意味で考察に値する事例です。Googleマジックが衰え始めたといわれたのもちょうどこの時期。

まずYahoo! Answersは「無料」でした。また、キャンペーンも大々的に行い、「Ask the Planet」というイベントでは、世界で最も高いIQの持ち主からの質問とか、質問の商品がガソリン1年分とか、前副大統領ゴア氏の質問に回答すれば自動車がもらえる、などなどの有名人や豪華景品の提供などを行いました。例えば、以下の質問は実際にこのキャンペーンで行われたもので、インドのカラム大統領が「今後地球人口は80億になっていくわけだが、テロをなくし、自由な地球を実現するために、どのようなアイデアがありますか?」と質問しています。

Yahoo! Answers - What should we do to free our planet from terrorism?

これには当初、回答が7000件以上も殺到し、海外では圧倒的な注目を集めました。さらに理論物理学者のスティーブン・ホーキング氏が登場、「人類は次の100年を生き延びるにはどうすればいいのか」という質問を掲載。当時の回答は実に1万6000件以上になりました。

Yahoo! Answers - How can the human race survive the next hundred years?

こういう派手なイベントを通じて知名度の向上を図り、利用者を集めていったわけです。

さらに2006年8月15日にはAPIを外部の開発者に向けて開放。そして2006年12月4日、ユーザー数は6000万人に到達、回答数は実に1億6000万件。回答者も質問者も分け隔て無く利用できるという雰囲気作りに突き進んだ結果が如実に明暗を分けたわけです。ちなみにGoogle Answersの最終的なリサーチャー数は800人でした。勝てるわけがない。

この人数の差は非常に重要です。Yahoo! Answersの回答者は厳選された精鋭ではなかったのですが、無料だったために回答者の数が尋常ではないほど多い。そして、数が多いということは、必然的に回答が返ってくるまでの時間も短くなる可能性がある。また、回答の量が多いので必然的にピンからキリまで質はバラバラになるものの、確実にその中にはキラリと光る回答も出てくることになります。この「キラリ」の積み重ねが成功への要因でした。Googleが少数精鋭主義で質を保とうとしたのに対して、Yahoo!はみんなの叡智を結集させる方向(Web2.0的方向)で動き、そのために必要なコミュニティの育成と維持というものに全力を傾けたというわけです。数が多くなれば「悪貨が良貨を駆逐する」現象が起きるわけですが、そうはさせないようにするのがコミュニティの運営手腕なのです。まさにGoogleとは逆です。先ほども書いたように、全自動化できない「コミュニティ」という人間の関わるものについて、それまでYahoo!が培ってきたノウハウの差がモロに出たというわけです。

なお、コミュニケーションに関して、Yahoo!もマイクロソフトと同じようにすでに方向転換済みで、公式ブログではコメントが可能です。

Yahoo! Search blog
http://www.ysearchblog.com/

Yahoo! 360° - Yahoo! Answers Team Blog (answers.yahoo.com)
http://blog.360.yahoo.com/y_answrs_team

日本語版ではコメントはできないものの、トラックバックは可能です。Googleはトラックバックすら受け付けていません。

Yahoo!ブログ - Yahoo!検索 スタッフブログ
http://blogs.yahoo.co.jp/yjsearchblog/

この方針転換はGoogleに検索シェア1位を奪われてから始まりました。そして現在も続いています。ボコボコにされてもそこからすぐに立ち上がる行動を始めるあたり、見習うべきものは多いはずです。

B3 Annex: Yahoo!内部文書「ピーナッツバター宣言」

「Yahoo!の戦略は、私にしてみれば、オンライン世界に立ち現れ続ける無数のチャンスに対して、広くピーナッツバターを塗ることのように聞こえる。結果、私たちが行うすべての事柄に対して広く薄く投資が行われ、なんら特定のことにフォーカスしていないのが現状だ」


■Googleの失敗から学ぶこと


良くも悪くも、全自動化されたサービスでシェアを奪うことに成功したGoogleですが、全自動化以外のサービスという側面で見ると、成功した事例は皆無です。Googleのビジネス的成功というのは、通常は全自動化できないようなものを全自動化することによって価格を極端に引き下げて広告によって無料化するという手法で成立しており、あまりにもコストがかかるようなもの、あるいは手間暇がかかるもの、要するに自動化できないジャンルにおいては非常に不得意である、ということです。

つまり、Googleと競合するサービスを出す場合、この点が重要なのではないかと考えます。マイクロソフトは打倒Googleのため、新たに「Live Search」というものを開始しました。WindowsVistaもメッセンジャーも何もかも、新しいマイクロソフトの出してくるサービスはすべて、Googleを打破するために作られたと思われる方向性がそこかしこに感じられます。いつも業界の最後尾から先駆者の動きや出方をうかがい、そして分析し、一気に追いついて引き離すというのが常套手段のマイクロソフト。その手法は新しい動きがあってもすぐに追随するわけではないので「時代遅れ」「流行に敏感でない」「新しい動きを取り入れるのが遅い」「そんなもの当たるわけがない」などという批判を最初は受けるものの、最終的には勝利者を目指すためのものでした。

また、Googleはコミュニケーションが苦手らしいと書きましたが、さすがにGoogleもポツポツと活動を始めているようです。例えば、以下がGoogleグループで活動しているGoogleの中の人たちの一部です。こんなところでアナウンスとかしていたのですね、全然知らなかった。このあたりは広報活動においてYahoo!のような体制を整えるのが急務では?

Google ガイド

Google デスクトップガイド

Google ツールバーガイド(Firefox)

Google ツールバーガイド(IE)

AdSensePro(ほとんど活動してない)

Gmail ガイド(最近はがんばってる)

まだ手探りといった感じですが、どこかでブレイクスルーするのかも。

あと、実はGoogle Answersとは、Googleが一番最初に取り組んだ既存の検索以外のサービスであり、このアイディアを出したのはほかならぬ創業者のラリー・ページです。この失敗が後のいろいろなサービスに生かされるであろうことは想像に難くありません。

また、当時のリサーチャーたちの一部は今、新しいサービスを開始しています。

Welcome to uclue.com (beta)
http://uclue.com/

質問するのは無料、その際に報奨金を示す。結果的には回答があったら5ドル~250ドルを支払うらしい。リサーチャーが75%を、残りがuclue.comへ。

で、早速「どこがGoogle Answersと違うのか?」という質問が書き込まれています。

Question: How does Uclue compare to Google Answers?

これに対する回答としては、回答までの速度が素早いこと、反応が早いこと、クレジットカードだけでなくPayPalが使えること、前払い式であるということ、違法な質問・学生の論文代筆・試験への回答はしないがそれ以外はなんでも答える、英語以外にドイツ語やスペイン語も利用可能、回答に満足できなかったら返金可能、30日間回答がなかった場合も返金可能、だそうで。失敗から学んだ結果だとは思うのですが、成功するのでしょうかね、これ?

最後に、Google Answers閉鎖が決まってからもっとも注目された質問、「何が原因でGoogle Answersは閉鎖されるのか?」を見てみましょう。

Google Answers: What has happened to Answers?

・クレジットカード詐欺でゲットした番号の正当性を確認するためにGoogle Answersが使われていたため、くだらない質問が多発した

・検索エンジン対策のSEOを行うためだけに質問文にリンクを入れ、スパム的質問を行う業者がめちゃくちゃたくさんいた

・質問に回答するために多くの時間と手間が必要だったのにそれだけの報酬が提示されず、未解決の質問が山ほどたまっていた

・Googleのメインページからのリンクをはずされ、人が急激に減った

・とにかく過去ログ検索をせず、同じ質問が繰り返されつづけた、もう飽き飽きだ


そして、完全にコミュニティとして破綻してしまった、というわけです……。

参考程度に、現時点で「Google Answers」と同じようなことをしている国内のサービスを列挙しておきます。生き残るのは、どこでしょうかね……。

人力検索はてな
http://q.hatena.ne.jp/

教えて!goo - 質問&回答 (Q&A) コミュニティ
http://oshiete.goo.ne.jp/

質問するならOKWave
http://okwave.jp/

Yahoo!知恵袋
http://chiebukuro.yahoo.co.jp/

ハンゲーム - 知識plusで全てが解決!
http://plus.hangame.co.jp/

答えてねっと トップページ
http://www.kotaete-net.net/

So-net MonDo(2007年3月28日13時で閉鎖)
http://mondo.so-net.ne.jp/mondo/index.jsp

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in ネットサービス,   コラム, Posted by darkhorse

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