デジタル・フロンティアに「GANTZ:O」をどう作ったのか徹底的に聞いてきた その9・川村泰監督編
映画「GANTZ:O」について、キャラクター、背景、モーションキャプチャー、アニメーション、フェイシャル、セットアップ、エフェクト、コンポジットと、制作したデジタル・フロンティアの8つのセクションにインタビューを実施しましたが、こうして一回り話を聞いたことでさらに見えてくることもあるはず。ということで、改めて川村泰監督から、前回のインタビューよりも細かい部分についてのお話を伺いました。
前回のインタビュー内容はコレです。
初監督で「GANTZ:O」を絶妙なフルCGアニメ映画として完成させた川村泰監督インタビュー - GIGAZINE
川村泰監督(以下、川村):
キャラクターのデザインプロセスがどうなっているのかという質問があったので、お見せします。これが杏のレタッチ(ラフデザイン)です。ベースはレイカのCG画像から始めています。
川村:
こちらはデザインではなく、加藤のCG作成の過程です。レタッチを見せて一発目に上がってきたものがこれで、まだ完成イメージとはだいぶ違っていたので、「すぐにCG画像をレタッチ修正して」とチェックバックして、その後、2回目のCG加藤が上がってきましたが、もうちょっとだったので、CG画像をレタッチして「こんな感じにしてください」とCGモデラーにお願いしました。そうすると次にこれが上がってきて、その間に何回かあったかもしれないですけど、非常に良くなって、そこからは微調整を何度か繰り返して、完成しました。
GIGAZINE(以下、G):
これはすごい。
プロダクションマネージャー 舟橋俊さん(以下、舟橋):
最初のころは本当に映画を始めるにあたっての表情テスト映像を作っていて、そのときはリアル寄りにするか、着地を川村さんに探ってもらう形で行くのかの2方向がありました。そのころのテストで「リアル寄りならこんな感じ、2Dベースだとこんな感じ」というレタッチを川村さんにやっていただいて、ゴールは「リアルよりというよりはFFとかに近いものだよね」という話から始まっています。
川村:
これが全部レタッチで、別のCGキャラや写真をコラージュして構成しています。確か室谷をベースにレタッチして島木にしたり、岡にしたりしています。
舟橋:
女性は基本的にレイカがベースですね。
川村:
Vコンをアニメーターが見てアニマティクスを作っていきます。Vコンは、普通に紙芝居的にそんなに手を加えていない程度のシーンもあれば、かなり作り込んだVコンもあります。
公式サイトのメイキング向けに公開されていたVコンの映像がコレ。
CGMAKING_GANTZ:O_01 - YouTube
G:
やっぱり動画を見るとイメージが分かりますね。
川村:
まだアングルが違うところもありますが、これを全ショット作っています。軽く流すところもありますし、このシーンのようにかなり手を加えるところもあります。
G:
これはすごいですね。圧倒的にイメージしやすいです。
川村:
これは僕のイメージがあいまいなところこそ、たくさん動かしていますんですよ。コンテで「これはいける」というところはコンテのままだったりします。
G:
なるほど。
舟橋:
これは一度編集した後のVコンですが、尺を切る前は大体150分ぐらいありました。そのころは、シナリオはできていたけれど内容のコントロールはまだという状態でコンテが描かれていて、それを整理する段階で川村さんが正式に監督になりました。
川村:
次はキャプチャーの部分へいきます。
G:
これは……動線図?
川村:
動線図ですね、モーションキャプチャーはコンクリート打ちっ放しの殺伐としたスタジオで撮るので、こういう説明が必要なんです。GANTZ玉があって加藤がいますね。一気に撮ることになるので、レイカはこの辺りでこっそり移動しておいてとか、カメラはここにどんどん寄っていくとかそういうものを描いてあります。グループショットみたいなものは動きがしっかりしていないとわけが分からなくなるので、これをまず考えて、リハーサルで見せたんじゃなかったかな。
舟橋:
リハーサルだけじゃなくて、本番でも見ていましたね。
川村:
GANTZ部屋に呼ばれたヤクザが、例のスーツケースみたいなものを持って鈴木を突き飛ばして窓ガラスに当てるとか。そういう配置とかですね。
川村:
これはGANTZ部屋からの移動後です。灰色のマークは死体で、加藤がいて西がいて……左側からお歯黒が来るので、カメラはどうなっているかとか、そういうことを示しています。
川村:
こっちに妖怪たちが来るときに、加藤はここに隠れて移動するとか、逃げる経路を作ります。
川村:
こういう風にブロッキングしていかないと撮影が混沌としてしまうので、これを決めないと、セットではないので誰も芝居のよりどころがないんです。「ここがイスで、ここが車で」とか決めてやらないと破綻してしまうので、もう事前に決めます。これこそシミュレーションの一つというか、たぶんこうやって動いてこうなるから、もちろんコンテを見ながらやりますけど、コンテだとこの距離が足りないなとかが分かってきたりするので。キャラクターが多いとこれぐらいのことをしないといけないんです。この位置にカメラを置くとレイアウトが決まるだろうと考えながらやっています。大阪チームが来た時のレイアウトだったり、こういうのが延々とたくさんあります。これは烏帽子巨人ですね。
川村:
あと何個かはアニメーターにも手伝ってもらいました。
G:
「段差あり」というのも書いてあるんですね、細かい。
舟橋:
基本的にはセットを組まないで撮影するのですが、ある程度はバミリとして組んで「このエリアですよ」ということは再現していました。
川村:
そういう感じですね。こういう地味なものがたくさんあって。
G:
地味ですけれども、これこそ必要なのだということが分かりますね。
川村:
そう、必要なんです。あとカメラマンがたくさんいるという話をしたと思うんですが、あれこそアニマティクスと撮影を繋ぐちょうど良い素材なのでこういう風に編集して、見るアングルは違いますけど、編集ポイントを決めてしまいます。ショットの切り替わりとデータの切り所ですね。すごくのりしろがたっぷりで、どこで切るかで結構センスに分かれてしまうので、私がデータの使いどころを決定すれば作業がすごく楽だったりします。こういうインサートを入れたりとか。今の加藤の鼻息の芝居とかは、現場で「これ良い!」と思って、このショット割りにしたんです。加藤が鼻を「ふんっ」とやった後、杏が「うふっ」となって、息が混ざって面白いなということで、「これでいくからアニマティクスもこうして」とアニメーターに願いしました。こういうアニマティクス制作用ディレクション動画をたくさん作りました。
CGMAKING_GANTZ:O_02 - YouTube
G:
なるほど。
舟橋:
アニメーションの時はこれが基本的な指示動画になります。セットアップとかエフェクトの指示書とか、シミュレーションとかエフェクトの時の指示書は似たようなものなんですけど、ここにキャラクターがいて「こっちから強い風が吹いてるよ」とか風の方向だとか、このタイミングから風が吹いてとか、そういうのは全部川村さんの指示ですね。
川村:
火災の順番マップというのもありますね。
G:
火災の順番!?
舟橋:
ぬらりひょんがレーザーを撃つから、このショット以降、ここのビルは燃やすこと、とかです。
G:
あぁー。
川村:
後は手前のフォグと奥の霧とスチームとスモークと……全ショットこういう風に見せたいというディレクション動画で、さっきの動画もこれもすごく雑ですけど、設計図として慣れているので、みんなに見せれば分かってくれます。
G:
これは早く映像特典に入れてもらわないと。
川村:
入らないんじゃないですか?(笑)
G:
これだけで売り物になりますよ!
川村:
なりますかね?
G:
これはすごいですよ。
川村:
こういう風に爆発場所と、ビームがどの方向へ行ったのかというのと、加藤、山咲、レイカの場所と。0から1にゲージが溜まっては0に戻っていますが、これはぬらりひょんのビームです。
舟橋:
ぬらりひょんの目の光の指示ですね、発射して光るタイミングが1です。
川村:
このピカッと光るのは照明の演出になったりもするので、決めておいて後はライティングしてもらうだけにします。
G:
なるほど。
川村:
だんだんと時間とともに燃えるエリアが増えていきます。ぬらりひょんが映っていなくても赤い光が照らされるタイミングも全部決めています。これは僕がAfter Effectsをすぐに使えるので指示できることだと思います。この先は本当に混乱しそうで、ライティングの設定が複雑すぎてどこで燃えているのか分からなくなるので作らざるを得なかったんです。こういう地味なものがたくさん詰まっています。
G:
今のはかなり面白いですね。
川村:
アクションのところは先に全部編集してしまっていますが、実はもうちょっと長めのアクションがありました。あとは、レイカのCMも一応作って、キャプチャーもありますが、CGにしていない部分もたくさんあります。後はこういうネオンのタイミングとかですかね。最後の戦いの直前ですね、山咲が加藤のところへ移動してきますが、ちょうど後ろにネオンがあるんです。そのタイミングで、背後のグリーンのネオンが来て、目が持って行かれるようにしています。視線誘導というやつですね。ネオンサインの緑が来始めて、そこに山咲がちょうどいて、ネオンが完成することで見やすくしている、というわけです。
作業画面右下、ネオンがどのタイミングで光るかを合わせています。
G:
おおー、自然だ……。
川村:
あまり色とりどりにガチャガチャしているよりは赤と黒の方が邪悪で良いかなということでこういう風にしていたりとか、そういう細かいことをたくさんしています。演出ツールとしてネオンが効いてくるので、いろいろなところでネオンを使う指示をしています。
G:
すごいですね。
川村:
以上でございます。
G:
こんなにいろいろと作っていると魂を削られますね。
川村:
CGだと限度はありますが、やろうと思えばやれてしまんですよ。やれるんだったらやった方が良いということなので。
G:
それでもやれるからと言って、「ここまでは普通やらないのではないか」というぐらいやっていますね。フルコントロールできるCGならではという感じもします。
川村:
そうです。
G:
逆にCGじゃないとこんなに厳密なタイミング合わせみたいなことはできないだろうという感じですね。
川村:
でも、アニメだと手描きで背景を描くので、止めた絵で最高の絵を描くじゃないですか。CG映像はそれとは違ったアプローチの仕方があると思います。全くできないわけではないですがCGの場合は、ショットの絵のレイアウトというのも作ってあってそれ以上変えられないことが多いので、それはそれでそう切り取るしかない。そこは実写的な発想になりますね。
G:
なるほど。
川村:
アニメと実写の良いところをちゃんと考えつつやらなければなりません。
G:
これを見ると、スタンリー・キューブリックだったか誰だったか、映画監督が町並みを使って撮影をするときに、事前にミニチュアの模型を作ってどこにカメラを置くか考えたという話を聞きましたが、同じような感じがします。これはしっかりと計算・計画できる人でなければできない仕事ですよ、センスだけではとても難しい……。
川村:
頭から煙が出ます(笑)
G:
これはすごい企画力が必要ですね。
舟橋:
そして企画したところで「ここを削ってくれ」と無茶ぶりをしていく、と(笑)
川村:
せっかくできたと思ったら「工数がやばいので!」「スケジュールがやばいので!」と言って消していくんですよ!(笑)
舟橋:
でも、途中で増えているところもあります。
G:
「これは絶対に要るから!」みたいな。
川村:
そうそう(笑)
G:
なるほど、本当にありとあらゆるせめぎ合いですね。
川村:
そうなってしまいましたね。結局まだCG映画制作のノウハウが確立しきっていないんです。だからどこでもせめぎ合いになるんだろうなと思いながらやっていました。
G:
それでも決めた時点までに完成させないといけないですもんね。
川村:
実際、上を見るとハリウッドとかピクサーとか、とてつもなく羨ましいことをしている人たちもいて、「どこまでフルパワーを出せるのかな」ということは思ってしまいますね。
G:
いやー……川村監督は全力で何と戦っているのだろうかと思ったら、全てに向けて戦いを挑んでいる感じがしますね。CGで作品を作り上げるということがどれだけ大変か……。
川村:
それがもっと伝わればと思います。
G:
簡単に「CGにすればいいじゃん」なんて、口が裂けても言っちゃいけないですね。
舟橋:
CGだとお金もかからないと思われている方もいます。
G:
「CGで何にお金がかかるのか」って、あらゆるものにかかってますね。
川村:
作ったものをレンダリングすれば良いだけ、というわけではないですから。
G:
あれだけのアクションシーンがある作品で、これだけの長さ、よくぞこれだけ詰め込んだものができたなと……そりゃあ、今まで誰もこんな作品を作らないわけです。
川村:
難しいですよね。
G:
もう、「この作品、よく完成したな」という気がします。
川村:
CGがずっとアウェイだったという、呪いみたいな執念みたいなものがありました。CG屋さんなので散々いじめられて……そういう被害妄想のような屈折した想いも少しあったりしました。
G:
今回は「GANTZ:O」を作り上げたセクションの皆さんにインタビューをして、あれだけのものを作り上げるには、これだけのものを結集させる必要があったのだと、とても納得しました。あれだけのものは、そうそうはできませんね。
川村:
本当にできないです。僕はもともと社内のCGディレクターだったというのもあって、みんなの能力や得意分野をある程度把握しているというのもポイントだったと思います。
G:
それを分かっていないと何をどうすれば良いのかも全然分からないですし、指示を出すのも「単純に指示を出すというレベルではないんだな」ということが分かりました。1個何かをやる度に、先ほど仰っていたように全部が動くことになる。
川村:
そうです。
舟橋:
ある程度進んでから、例えば「もうちょっと腕を上げてよ」というだけで、腕を動かすからには胸の揺らしを変えないといけないし、髪の毛だってかかっているからその動きも変えないといけないし、レンダリングとライティングをしないといけないし……。
川村:
エフェクトが絡んでいたらエフェクトのレンダリングもしないといけない。
G:
その覚悟を持って「変える」という指示を出さないといけないんですよね。できる限りのことを前倒しで、最初に段階でどれだけ作っているかで決まる……と、カラーキーであり、Vコンというわけですね。……改めて、監督は超人ではなかろうかという感じがしてきました。
川村:
CGを扱えるということと、さんざんCGをやってきたことでしかないです。もうとにかく、監督としては脳内シミュレーションしてコストパフォーマンスを上げるしかありません。それを普通の監督のディレクションでやっていたら恐らく全然予算に収まらないです。予算からはみ出してでもさらにお金をつぎ込むか、やはりやめるかということになると思います。
G:
見ていて、どこに手の抜きどころがあるかがまったく分からないですが(笑)、そういうことも決断してやってきたわけですよね。
川村:
メリハリとして「ここはさらっとOKを出そう」とか、「ここは出さない」というのは決めています。それでもさらにたぶんアクシデントが起きるので、それを何となくバッファとして余力を常に持たせていたら、エフェクトの時に気付いたら余力がなくなっていて「これはヤバいな」と思いました。12月ぐらいからだった?
舟橋:
いや、11月から3月ぐらいですね(笑)
G:
それは端から見ているとどんな気分なんですか?
舟橋:
気が気じゃないです
川村:
1月ぐらいになると、やるしかない状態になるよね。
G:
これが完成したときはどんな気分でしたか?
川村:
5月ぐらいまでやっていて……4月ぐらいに奥先生がTwitterで「おすそわけムービー」を上げていたじゃないですか。その前までは完全に朦朧というか、コンポジットをすると絵の作業ばかりなのでだんだんと脳が絵の能力しかなくなってきて……僕の中では脳にはいくつかモードがあって、「喋るモード」とか「モデリングモード」とか「コンポジットモード」とかある中で終盤はすべてがコンポジットにいくのでボーッとしていました。当然、夢でコンポジットをするぐらいになっていました。
舟橋:
レンダリングが終わって最後の絵が見えてきたのは3月の中頃ぐらいで、コンポジットまではいかないですけど、全要素を入れたムービーで一回試写をしたんです。
川村:
そこでようやく、クライアントとしては絵が見えて「あ、良いじゃん」となって……それが終わりの二週間前ぐらいですが、その時期より前だと、仕方がないことですが、全然ピンと来ていない方がいらっしゃって、盛り上がっていない感じがありました。CGはやはり本当に「最後の最後」の最終画が仕上がってこないと、まだみんな分からない状態ですよね。
舟橋:
それで、最終的に完全に終わったのが5月の中頃ぐらいですね。
G:
なるほど。大変ですね……。
G:
失礼ながら、完成までは「GANTZ、CGアニメ映画化、大丈夫かな、どうなるかな……」と思っていました。でも、見てみるととにかく「すごい」。役者がすごい、演出が凄い、音がいい、いろいろとありますが、この作品の場合は「何やらものすごいものを見た気がする、なんだ、一体今、何を見たんだ……」と、理屈ではなく心を奪われたという感じでした。こうして、監督やスタッフの皆さんから詳しい話を聞くことができて「今までの同系統の作品とはすべてが違うのだ」ということがわかりました。
川村:
そうですか。ありがとうございます。
G:
今回は本当にありがとうございました。
以上、合計9回にわたってデジタル・フロンティアの川村泰監督、そして各セクションの方々から「GANTZ:O」をいかにして作ったかという実制作の部分の話をお届けしました。
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