インタビュー

デジタル・フロンティアに「GANTZ:O」をどう作ったのか徹底的に聞いてきた その7・エフェクト編


CG映画を作る工程の中で、水や光、煙などを入れる「エフェクト」は終盤の1つの盛り上がりです。2016年10月14日から公開されている映画「GANTZ:O」は、全編がナイトシーンで構成された激しいアクション映画ということで、エフェクトチームの作業量は非常に多く、監督が「終わるのかな?」とそのヤバさを心配したほど。上記の牛鬼登場シーンでは、エフェクトを構成するパーティクルの数は実に3億を超えます。いったい中の人はこのヤバい状況をどう戦ったのか、エフェクト室の松井孝洋さんにお話を伺ってきました。

川村泰監督(以下、川村):
エフェクトは、プロジェクトのかなり最後の方に盛り上がるというか大変になるチームなので、一番大変です。今回は一番やばそうでした。

GIGAZINE(以下、G):
やばいというと?

川村:
終わるのかなぁ、という(笑)

CG制作本部 CG部 エフェクト室 室長 松井孝洋さん(以下、松井):
ボリュームが……そうですねぇ。

川村:
さっきの胸揺れとかは楽しんでやっていたのですが、「これはやばいなぁ……」と。

G:
それはすさまじいですね。

川村:
細かい話は松井の方からしますけれども、今やばいなと言ったところで言うと、アクション映画なので、バトルをしていたら煙とかも出ますし、GANTZなので血とかも出ますし、光り物もありますし、エフェクトのないシーンがないと言っても良いぐらいなんです。

G:
言われてみると、今回は確かになかったですね。

松井:
ボリュームで言いますと、900ショットもエフェクトがありました。

G:
900ショット!?普通はそんなにないですよね。

川村:
全体でいうと、大体全部で1350ショットぐらいあります。細かいものとかを除いて大きく繋いでいっても、制作したものでいうとテレビの画面とかも作ったりはしているんですけど、そういうのを除いて1350ショット、その内の900ショットを松井が統括しました。

G:
それはすさまじい。

川村:
なので、GANTZ部屋はエフェクトがないので「憩いの場」です。

G:
なるほど!

川村:
エフェクトがないと逆にごまかせないという部分もあるので、コンポジット的には憩いの場ではないんですけど。エフェクト的に憩いの場になるのはGANTZ部屋ぐらいかな。

松井:
ショットは900なんですけど、その中でも要素というのがあって、1ショットにつき何要素もあったりするので、要素で言うと1900要素以上あったんですよ。

川村:
爆発、煙、火花、破壊、あと岩とか瓦礫みたいなものとか。

G:
しかも作業工程も最後ということは、もうある程度の締め切りが見えている状態なんですかね。

川村:
最初から締め切りは全部設定されているのですが、前の方のスケジュールが被ってくるところではあるので、後ろの工程の方が大変ではあります。

松井:
ボリュームがそういう感じなので、見せ場としてはたくさんあるんですけど、今日はその中でも一番最強の武器として出てくるZガンと、道頓堀川の水について触れさせていただけたらと思います。まずは原作にある絵がベースです。これは漫画なので、当然動いてはいません。ここからどうしていくかというのを最初に考えるんですけれども、それに伴って各アーティストにイメージボード、どういうイメージで進めていくかというのを作ってもらっています。イメージボードをもとに監督と話をさせていただいて、たとえばZガンのエフェクトには当初は稲妻が入っているイメージだったんですが、これは最終的に取ることになりました。シンプルにしたいということですね。


川村:
そうそう。シンプルだけど、しっかり「圧」を強調して、こちらからするとわけのわからないものが物が一瞬バッと来た方が良いかなという。

G:
なるほど。

松井:
それでもまだ派手だということで、完成した本編を見ていただくとわかりますが、基本的には空気の歪みをメインに表現したものになりました。本編に出てくるZガンを一通り繋いだ映像を見てもらうと……

川村:
Zガン集だね。

松井:
このエフェクトがやはり一番反響が大きかったです。

川村:
反応がすごかった。奥先生のお裾分けというか、リツイートもZガンのところが一番でした。

G:
これを観た時に、「原作が動くとこうなるんだ!」という感じがしましたね。

川村:
社内でも、他のディレクターとかCGプロデューサーがこれを観て、「あ、こうなってるんだ!」と驚いていました。

G:
ものすごくインパクトがありました。

川村:
大阪編は、Zガンデビューというか、Zガンが最初に出てくるところなので。

松井:
まずこの最初のショットが指針で、一番最初に取りかかったショットです。

G:
それがこのショット?

松井:
そうです。

川村:
やっぱりセットアップと同じで最初の仕組みとかやり方を決めるんですけど、それを指針ショットと言ったりします。そこであらゆる要素とかを検証して仕込んだら、他のところは量産できるという流れになっています。

G:
このシーンを最初に選んだ理由というのは何かあるんですか?他にもZガンを使うシーンはいろいろあると思うのですが。

川村:
Zガンが最初に出てくるシーンなので、ここで親切に説明しているんです。なので、ここをちゃんと分かって良くできれば他はOKというぐらい、ここのシーンが一番たっぷり映っているんですよ。確か僕がここにしてくれと言ったと思います。

松井:
原作でも同じような演出で出てくるショットなので、ファンの方も喜ぶんじゃないかというショットです。

G:
大画面のスクリーンで観て「おおっ!」と思いました。

松井:
それのエフェクトがあるものと、今のファイナルのものと、キャラクターと背景だけの絵との違いですね。これがエフェクトのない状態です。

最初にZガンが使われる、対網切り。エフェクトが入る前はこんな感じ。


G:
おおー。

川村:
味気ない。今はこのZガンのところだけで話していますが、最初のライターの火とかもちゃんとエフェクトでやっています。

G:
言われてみればそうですよね。ちゃんと炎が光ってます。

松井:
こういう感じになっています。この歪みを作るためにいろいろと素材を出していまして、その素材を見ると何てことなく見えると思うんですが、こういう素材の組み合わせでできています。


G:
いや、これだけでもすごいですよ。

松井:
造りとしてはすごくシンプルなんですけど、いろいろな要素を複雑に絡ませて作っているエフェクトです。

G:
エフェクトで、こういうものを組み合わせたらこうなるだろうというのは、今までの経験上のものなのか、それとも試行錯誤を繰り返した結果なのでしょうか。

松井:
経験ももちろんありますが、試行錯誤はしましたね。

G:
今回のこのZガンを使ったときの「びちゃーん!ばちゃーん!」という部分だと、どの辺りが試行錯誤しましたか。

松井:
まずは「筒状の歪みの見せ方」ですよね。すごくシンプルなので、逆に難しいんです。基本、ただの筒で「空気の圧縮によって潰す」というエフェクトなので、そういうエフェクトにどうやれば見えるかというのが一番難しかったですね。

G:
Zガン以外にこんな妙な表現をしているものは見たことがありません。漫画で見たときも、「これは何が起きたんだ!?」という感じでした。

松井:
ここはじっくり見せるショットではあるんですけど、基本的にはもう数コマの世界なんですよね。

G:
漫画だとコマの移動だけで済むので、一瞬で「バン!」とやっても分かるんですが、「これを動かすとこうなるんだ!」と驚きましたね。

松井:
筋状のラインが見える部分があると思うんですけど、そこには結構こだわっています。

川村:
後ろに何があるかも重要で、ああいう看板を配置すると空気の歪みが分かりやすいんです。

G:
透けて見えますもんね。

川村:
シチュエーションとのバランスもあったりして、後ろに何もないと何も見えないという感じです。

G:
かといってそのまま見えていると意味がない。その辺りのバランスが必要なんですね。こんなにたくさん組み合わせるんですねぇ。

松井:
そうなんです。たぶん見ている方にはこんなに素材があるということは分からないと思います。

G:
光の筋の塊がすごいですね。

松井:
これでそれぞれの素材の歪みの強さを変えたり、歪みの範囲を変えたりして、あの筒を作っています。


G:
最初にがっちり作り込んで、そこから後はその応用という感じですか。

松井:
そうですね、後はショットバイショットで少しずつ調整しながらやっていきます。

G:
こうやって素材をバラバラに見ると「なるほどー」という感じですが、完成したものを見ると「あれを全部組み合わせたらこうなるんだ!」という感じがして、不思議ですね。

先ほどと同じシーンにエフェクトが入ると、こんなにも印象が変わります。


松井:
素材はすごくシンプルなんですけど。血とかはまた違うやり方です。血は監督の方から最初のころにいろいろと言われましたね。

川村:
これは、アメリカンドラマの「アンダー・ザ・ドーム」を見せたんです。血が「ずばぁっ」て出てドームができるシーンがあるじゃないですか。

G:
ドームができて「すぱっ!」と切れるシーンですね。

川村:
僕はあれを見た瞬間に「あっ、これGANTZじゃん!」と思ったので、「これは見せなきゃ」と見せたんです。なかなかこういうサンプルがなくて探してたら、ちょうど見つけたんです。

松井:
これが血の作業画面です。


川村:
粒同士がくっつくんだよね。

松井:
そうですね。これがメタボールになって、ああいう血のオブジェクトを形成しているという感じです。


G:
そういう感じだったんですね、すごく生々しいなとは思っていたのですが。

松井:
最初は粒でシミュレーションして、血ができていきます。

G:
変わった血の表現だなとは思ったんですけど、これでああいう表現になるんですね。

川村:
このショットだとZガンは1発なんですけど、最後のZガンを連射している時は、シンプルだけど連射している分、素材数が大変なことになっています。

松井:
その数だけ存在するので。

G:
話の中で言っていた、「段々ヤバい感じになって、これ間に合うのかな」というのは、要するにこういうのがどんどん積み重なっていったということですか。

松井:
そうですね。


G:
これは全体でいくと大変さではまだ序盤の方なんですかね。

松井:
大変さで言うと、最初の段階では時間をかけて作ったんですけど、後は量産していくだけで、他のエフェクトも900あるので、ボリューム的にかつてないボリュームでした。

川村:
やってもやっても終わる気がしないんだよね、少し怖かった。

松井:
そうなんですよ。社内でショットガンというツールで進捗状況を管理していて、それでパーセンテージが出るんですが、終わらせても終わらせても増えないんです。

川村:
「今日の監督チェックで10個OKもらえました」と言っても、1900要素ある内の10要素なので、「あれ?今日1日終わったけど1%も増えてない」という。「今日めちゃくちゃOKを出したな~」と思って見たら全然増えていないんです。

G:
そんな状態が続くと心が折れそうですね……。

プロダクションマネージャー 舟橋俊さん(以下、舟橋):
今OKの話になって川村さんが1350ショットあると言いましたけど、アニマティクスとアニメーションだけでも単純に2800回OKを出し、シミュレーションでも同じ数だけOKを出し、エフェクトでも2000要素あれば2000要素分OKを出すので、10000回以上OKと言わないと終わらないんです。そのころ、監督は「口癖は『OK』ですよ」と言っていました(笑)

川村:
後半はもう、OKを出さないと終わらないので。

G:
しかも、OKを出さないと終わらないからと言って、デタラメにOKを出している訳にもいかないですよね。

川村:
そうです。

G:
作ったシーンで、OKを出してもらえない時もあるわけですよね。

松井:
そうですね。

G:
その時は作業量が多いと「くっ……監督め!」とか思ったりするんですか?

松井:
そうですね……というのは冗談で(笑)、川村さんは全体をちゃんと見て進めてくれる方なので、そんなことは全く思わなかったです。

舟橋さん、川村監督、松井さん。


舟橋:
逆に川村さんが拘られるところは大事なところだったりするので、エフェクト的にも抜けないところだったりとか。

松井:
やっぱり自分としても妥協したくないところはあるので、妥協しても仕方がないところは妥協しますが、どうしてもしたくないところは我慢して進める感じです。

G:
先ほども言っていましたが、無理はしないけど無茶はするみたいな感じですよね。

川村:
たぶんその思いがちゃんと伝わってる、素晴らしいチームです。

G:
本当にすごいですね。言うは易し行うは難しなことをやっていますね。

松井:
水のシーンなんですが、これがキャラと背景だけの状態になりまして、何もエフェクトがありません。


松井:
そして、これがエフェクトの入った状態ですね。


G:
エフェクトがあると、迫力がすごくて完全に大怪獣出現ですよね。

川村:
今回のプロジェクトで一番エフェクトの容量が大きかったです。

G:
ちなみにこれは最大でどれぐらいいったんですか?

松井:
要素を全部揃えるのに、3.5TBぐらいです。

G:
TB!?GBではなくてTBなんですね。

松井:
そうですね。

川村:
OKの出たものだけで、途中のものはたぶん消したりしているんですけど、最終的なものだけで3.5TBぐらい。

G:
これはすごい。

松井:
レンダリングしている粒で言うと、これだけの赤字になっている部分が粒で、3億ぐらい。

G:
3億4794万7116と書いてますね。


舟橋:
1回それをシミュレーションするのに(マシン1台で行った場合)8日近くかかるので、川村さんがNOと言ったらまた次に見せるのは最速でも8日後なんです。

松井:
これがそのエレメントで、実際のカメラよりわかりやすいように俯瞰からにしてあります。これが全部合わさって、完成のエフェクトになっています。


G:
なるほど、これであの「バシャァァァン」という感じが出るんですね。

松井:
これは全部別々にシミュレーションしたもので、それを最終的に合わせて1つのエフェクトになっています。

G:
確かにあのシーンを観たときに、漫画だと止まっているので、川が見えてから「あ、そろそろ出てくるシーンだ」と思ったら、ドォォォンと出てきて、「こんなに大きくないよ!」みたいな。すごくド派手なシーンだと思いました。

松井:
道頓堀川はあんなに水が出るほど深くないですよね。

G:
本当に1番最初はあれぐらいのシーンだろうと予想していたら、道頓堀を破壊する勢いだったのですが、これぐらいド派手だとすごいです。

松井:
これが全部合わせたものです。


G:
おおー。これは監督の方で「こういう風に見せたい」という指示があったんですか?こういう「ドバァァン!」というのは。

川村:
どうだったっけ。「バトルシップ」みたいにしたいというのはありました。

G:
なるほど。

松井:
あれを散々舐めるように観ていました。

G:
エフェクトの要求が毎回すごく高いですね。

松井:
でもやっぱり自分たちも高いレベルを目指してやりたいので、楽しかったです。

G:
「バトルシップみたいにやってくれ」と言われたときの感想はいかがでしたか、「え?」みたいに驚いたのか、それとも「これならなんとかなるだろう」だったのか。

松井:
なんとかなるかはやってみてからだったんですけど、単純に「やってみたい」というのが一番でした。

G:
やりがいがあると言うとあれですけど、すさまじいです。

松井:
邦画だと、水ですごく派手な演出はコストがかかってしまうのでなかなかやれないんです。それもあって、個人的にはすごく楽しんでやれました。


G:
これを観た後に、「GANTZロボと戦っているシーンだけで別個に映画ができるよね。1本の映画級の迫力がある」ということを話していました。

舟橋:
本当はもっとボリュームがあったんですけどね。

川村:
泣く泣く削ってしまいました。

G:
それは惜しい!

松井:
本当はもっとやりたかったんですが、水が一番コストがかかるので、予算の関係で泣く泣く。

G:
それでもやっぱりすごい。劇場で観た時もあのシーンの迫力が異常でしたし、正直に言うとあんな出現の仕方をするとは思いませんでした。「あれ、こんなシーンあったかな?」みたいな感じだったので。そういうのを支えようと思うとこれだけのことが必要なんですね。

舟橋:
水回りで言うと、ロボが歩いてくるじゃないですか。最初は屋形船を踏んでぶっ壊すというのもあったんですよ。

G:
監督としては、これは一発OKだったのか、それとも一回ぐらい差し戻しているんですか。

川村:
5回ぐらいダメ出しした気がします。

G:
5回!?

松井:
それぐらいはチェックしてもらいましたね。

G:
最初は何がダメだったんですか……?

川村:
水の形状が結構単純になりやすいんです。なのでもっと複雑にしたりとか。

G:
それでこういう複雑怪奇な「どわぁぁ」という感じになったんですね。

川村:
あとは、ライトが当たるので、「このタイミングの一番見えるところで一番格好良くしてくれ」と。

G:
なるほど、そういう指示なんですね。

松井:
上からスポットライトが来ているので。

G:
それで手前のところで「どーっ」となるから、なるほど。確かに複雑にしないといけないというのが分かります。

松井:
だいぶ誇張していますけどね。

G:
でもこれは誇張して正解ですよ。映像的に求めている以上のものは、あの「どぉぉぉぉぉぉっ」ですもんね。あれを観た時に、音響も相まってすごさを感じました。こうやって全貌を知ると、エフェクトって凄まじいですね……。本日はいろいろとお話いただき、ありがとうございました。

・つづき
デジタル・フロンティアに「GANTZ:O」をどう作ったのか徹底的に聞いてきた その8・コンポジット編 - GIGAZINE

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デジタル・フロンティアに「GANTZ:O」をどう作ったのか徹底的に聞いてきた その8・コンポジット編 - GIGAZINE

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