人が根元に座って触れると鼓動に合わせて色が変わる巨大な光の花「Pulse&Bloom」
by Jim Urquhart/Reuters
毎年8月末から9月始めに行われる大規模な野外フェス「バーニングマン」はお金が使えず、参加者は全員何らかの方法で自分を表現しなければならないイベント。世界中からアーティストたちが集まるのですが、2014年のバーニングマンで、人が根元に座ってセンサーに触れると鼓動に合わせて色が変わる巨大な光の花「Pulse&Bloom」を展示したSamuel Clayさんが、作品を作るまでの過程を公開しています。
Building Pulse & Bloom - an interactive biofeedback installation at Burning Man 2014 | OfBrooklyn.com
http://www.ofbrooklyn.com/2014/09/6/building-pulse-bloom-biofeedback-burning-man-2014/
これが2014年8月25日から9月1日に行われたバーニングマンで展示されていた「Pulse&Bloom」。上からみると、花の根元に人が座っていることがよく分かります。
少し視点を下げるとこう。青い花の中にところどころ琥珀色に輝く花が混じっています。
「Pulse&Bloom」が動作する様子は以下のムービーから確認できます。
Pulse and Bloom @ Burning Man - YouTube
明るいうちに見るとこんな感じ。
砂嵐がすごいので口元を布で覆う女性と花の下で作業を行うClayさん。
Pulse&Bloomは1週間のイベント中に作られたのではなく、イベント前から時間をかけて準備されたわけですが、実際には以下の5つのプロセスを経て作られました。
◆1:回路基板をカスタムする
◆2:パルスセンサーをカスタムする
◆3:高電流LEDを使う
◆4:ファームウェアを書く
◆5:蓮の花を光らせる
ということで、まずは回路基板のカスタムから。
◆1:回路基板をカスタムする
ライトやタイミング・センサーのコントロールは回路基板で行います。Arduinoやブレッドボードでは確実性に心配があったので、ClayさんはOSH ParkとOSH Stencilsを使用。最終的に仕上がるまでに7つのバージョンの回路基板を作成したそうです。
この基板が花を光らせる高電流LEDをサポート。ATmegaシリーズのマイコンATmega328Pと花の軸にあるLEDは5V、パルスセンサーは3.3V、花びらのLEDは12Vで設計されました。12Vから5Vへの変換は3ドル(約300円)で購入した動作過電圧調整装置を使用、そして5Vから3.3Vへの変換はリニア電圧レギュレータを回路基板に直接はんだ付けして行ったとのこと。
回路基板のレイアウトは以下のような感じ。基板の大きさはガムのパッケージほどです。
受動素子など部品のはんだ付けははんだ用ペーストで行われました。
チップにはTQFPの0.5mmピッチのものを使用しているため、手作業ではんだ付けするのはほぼ不可能。これもはんだ用ペーストとホットプレートを駆使して作業を行います。
これが基板。
配線した基板はホコリなどをかぶらないようにプラスチック製のケースの中で保管されます。
◆2:パルスセンサーをカスタムする
蓮の花は人の鼓動と連動して光るのですが、Clayさんによるとパルス(鼓動)センサーの作成が最も難しく、楽しい作業だったとのこと。
高価なセンサーがよい働きをするのは確かですが、今回は資金の問題からパルスセンサーは蓮の花1本につき6ドル(約600円)のものを2つ使用。全部で40個のセンサーが用いられました。センサーの働きは指で触れたり手をかざしたりすると反応するというシンプルなものですが、砂漠という砂だらけの場所でもちゃんと機能する必要があります。
これがプロトタイプ。手をかざすと光が点灯し……
センサーを握ると赤外線で鼓動を感知し、鼓動に合わせて光が点滅します。
最終的にClayさんが使うことにしたのはSi114xというSilicon Labsの周囲光センサー IC。これには3つのLEDドライバが搭載されており、50cmを超える範囲の近接検出、高度な2D/3Dの動き検出が可能な多次元システム、心拍数/パルス酸素濃度測定などを実装することが可能となっています。
Si114xも非常に小さな部品のため、はんだ付けは非常に難しく、Clayさんの作業効率は80%にまで落ちたとのこと。これもホットプレートを活用してはんだ付けを行っていたのですが、最終的にはカップ一杯のパルスセンサーがゴミとなってしまったそうです。
これが完成したパルスセンサー。赤いライトで「どこに指を置けばいいか」ということを知らせてくれます。
◆3:高電流LEDを使う
蓮の花を宝石のように輝かせる最たるものは、花びらに使った高電流LEDです。1つの蓮につき3つのパートに分けられた9個のLEDが使用され、定電流ドライバによって動かされました。
これが実際にバーニングマンで展示された蓮。遠目でも花がどこに咲いているかがしっかり分かります。
通常、1つのLEDは1つの定電流ドライバによって出力されます。しかし人が近くにいない待機状態の時、蓮の花は青色のまま変化しないので、Clayさんは1つのドライバで3つのLEDを運用したとのこと。蓮の花は100%の赤と50%の緑という2つのチャンネルを使ってピーク電流の一瞬だけ琥珀色に輝きます。
LEDは中国の業者から通常1個15ドル(約1500円)するSparkFun Electronicsの高電流LEDを1個0.86ドル(約90円)で購入。これはPicoBuck LED Driverを80個購入するという条件下での価格でしたが、15ドルのLEDを80個買っても1200ドル(約12万円)程度だったことを考えると、わずか数百ドル(数万円)の節約だったと言えます。
これがSparkFun Electronicsの高電流LED。25セント硬貨よりも小さいサイズです。
そしてこれがPicoBuck LED Driver。
200個の高電流LEDはそれぞれ陽極と陰極が6つついており、はんだ付けして接合する必要がありました。
これがドライバ・LED・基板を接続した様子。
◆4:ファームウェアを書く
Pulse&Bloomのソースコードは全てGitHubで公開されています。
samuelclay/pulse-bloom · GitHub
https://github.com/samuelclay/pulse-bloom
ファームウェアについて知りたい人は上記ページにある「src」の「pulse.cpp」を読むのがベストだとのこと。パルス・静止ステイタスなど、高度なロジックが記載されています。
◆5:蓮の花を輝かせる
バーニングマンは何もない広大な砂漠に街を作り出し、その中で作品を展示するので、都市にあるギャラリーとは違って展示環境が整っていません。そのため、Pulse&Bloomもバッテリーで動かすことになるのですが、ここまで大きな作品をバッテリーで動かすのはClayさんにとって初めての試みでした。
まずClayさんらはどのくらい大きなバッテリーが必要になるかを計算。待機状態にある時、蓮の花は0.75A・12Vの電気を流し、アクティブの状態になると1.5A・12Vに変化します。蓮の花は1日の95%を待機状態で過ごすので、Clayさんは平均消費電流を1Aと見積もりました。
12V・1Aの蓮の花が20本あるので、1晩で12時間ほど光り続けるとして240Ahが必要。車用のバッテリーで対応できるというわけですが、車用のバッテリーは80%までしか放電できないところを、船などで使うディープサイクルバッテリーなら20%まで放電できるということで、今回はディープサイクルバッテリーが使用されました。
これが蓮の茎となる軸部分。蓮の茎は大体1.8mから約4.8mまでの幅があり、重さは約22.6kg。
軸部分を支え、風に倒されないようにするため、大きな重しがつけられました。
重しの回りはスイレンの葉で覆い、センサーや回路基板を設置しているところ。全部で20本あるうちの1本に光がつくのを確認し、残りの19本は未組み立ての状態でClayさんらはバーニングマンへと旅立ちました。
これがバーニングマンに向かう時の写真。レンタカーを借り、自転車・テント・衣装・食べ物などを積み込んで出発します。
作品の設置などが必要な参加者は早期到着用のチケットが必要であり、腕にもバンドが付けられます。
砂漠の中で行われるバーニングマンでは、毎日何度も砂嵐に見舞われます。当然ながら回路基板なども砂まみれになるので、ジップロックに入れて対応。しかし完全に砂煙を遮断できるわけではないので、ここで分かった事実は「回路基板はすごく砂埃に強い」ということ。基板を作成している時はホコリをかぶらないようにプラスチックの容器に入れていたわけですが、実際は砂にまみれても問題なく機能したそうです。
砂嵐になるとこんな感じ。近くに誰がいるかも確認できないような状況になります。この中で荒っぽく使ってもセンサーや回路基板は平気だったわけです。
1年に1度だけ現れる架空都市「ブラックロック・シティ」で行われるバーニングマンは死亡者も出るほどの厳しいサバイバルイベントですが、その分、Clayさんのような本気で創作や表現を行う人が集う参加しがいのあるイベントです。まだ公式には発表されていませんが2015年は8月24日(月)から31日(月)まで行われる予定で、一般参加者向けの個人用チケットは毎年2月ごろに販売開始されます。
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