乗り物

赤信号でも自転車に通行を認める「アイダホストップ」でかえって事故が減るのはなぜか?

By Tejvan Pettinger

交通事故の半分は交差点付近で発生するため、交差点での一時停止は事故を減らす有効な方法だと言えます。しかし、アメリカのアイダホ州では「自転車に交差点で一時停止しなくてもよい」という特別な交通ルール「アイダホストップ」を採用しており、アイダホストップによって交通事故を減少させることに成功しています。

Why cyclists should be able to roll through stop signs and ride through red lights
http://www.vox.com/2014/5/9/5691098/why-cyclists-should-be-able-to-roll-through-stop-signs-and-ride

アイダホ州では1982年から一時停止標識のある交差点にさしかかったサイクリスト(自転車乗り)に、以下の交通ルールを義務づけました。

1:歩行者・自動車・バイクがいる場合には、自転車は横断してはいけない
2:ただし、歩行者・自動車・バイクが見当たらない場合、自転車は一時停止標識にもかかわらず速度を落とした徐行状態で交差点を通過することができる

これは、安全が確認された場合にはサイクリストは一時停止することなく交差点の通過を認めるというもので、「アイダホストップ」と呼ばれるサイクリスト専用の特別ルールです。

アイダホストップがどんなルールかは、以下のムービーで簡単に理解することができます。

Bicycles, Rolling Stops, and the Idaho Stop on Vimeo


また、アイダホストップでは、一時停止標識だけでなく赤信号でも同じルールが適用されます。つまりサイクリストにとって赤信号は一時停止標識とみなすというわけです。なお、たとえ歩行者や自動車がいなくても自転車が減速することなしに交差点を通過することは禁止されており、違反者には最大360ドル(約3万6000円)の罰金が科せられます。

アイダホストップの様な特別の交通ルールが定められていない地域でもサイクリストが赤信号の交差点を横切る光景は非常によく見かけられます。なぜ、サイクリストが交通違反と分かっていながらも赤信号を徐行で渡ってしまうのかについては「省エネ」が大きな原因です。自転車は走行状態でペダルをこぐ場合に比べて、停止状態からペダルをこぐときにより多くのエネルギーを消費することは経験則で理解できるところ。すなわち、サイクリストは交差点で完全に停止してしまうと再び発進するのに大きくエネルギーを消費してしまうため、これを避けようとして停止せずに徐行のまま交差点を横切ることが多い、というわけです。

By Tejvan Pettinger

この点について、物理学者のジョエル・ファヤンス博士の実証試験によると、完全に停止した状態と時速5マイル(時速約8キロ)の徐行状態のそれぞれで、ペダルをこいでトップスピードまで回復させる場合を比較すると、徐行状態の方が25%も少ないエネルギーで済むことが分かりました。また、一時停止標識がたくさんある道路と一時停止標識が一切ない道路で走行比較したところ、一時停止標識がある道路で平均時速10.9マイル(時速約18キロメートル)で走行したのと同等のエネルギーで、一時停止標識のない道路なら時速14.2マイル(時速約23キロメートル)での走行が可能と分かり、一時停止しない場合は30%近くも省エネ走行が可能であることが判明したとのこと。

自転車に赤信号でも交差点の通行権を認めるアイダホストップは一見、危険に見えますが、1982年からアイダホ州でアイダホストップの運用が始まると、自転車の交通事故での傷害発生件数は減少しました。アイダホ州バイカーに比べて、似たような地形・降水パターン・交通レイアウトを持つカリフォルニア州サクラメントは30.5%、ベーカーズフィールドにいたっては150%も事故が多いとのこと。

なお、アメリカのいくつかの州では「安全が確認できる場合に自転車が赤信号でも交差点を通過できる」という、アイダホストップに似たサイクリスト専用の交通ルール(Dead Redルール)を定めています。


アイダホストップでなぜ事故が減るのかについてはいくつかの理由が考えられますが、その一つは自転車が自動車に比べると低速でかつ運転者の視野が広いため、交通状況をより正確に判断できるからというもの。一般的にサイクリストは自分が自動車を認識している場合でも自動車が自転車を認識していないのではないかと考え、いつでもブレーキをかけられる態勢を整え対向車線のチェックも怠らないものだとのこと。そのため、赤信号交差点への進入は自動車に比べて自転車の場合ははるかに安全というわけです。

また、アイダホストップが事故を減らせる要因として、交通量の多い道路からより交通量の少ない道路に自転車を分散させられることも挙げられています。多くの都市では安全で交通量の少ない道路ほど一時停止標識が多いもので、そのためサイクリストの中にはこのようなわずらわしい一時停止標識を避けるため、あえて交通量の多い道路を選んでいる人がいるそう。アイダホストップが導入されていれば、一時停止標識が多くても交通量の少ない道路を積極的に活用するサイクリストは増え、交通渋滞が緩和され事故も減るというわけです。

さらに、アイダホストップによる「自転車とその他の通行優先権の明確な線引き」も事故が少ない大きな原因と見られています。アイダホストップでは、歩行者や自動車が交差点にいる場合にはサイクリストに通行権が一切与えられていません。そのため、自動車のドライバーが、交差点付近にいる自転車が進入するのを予想して走行を躊躇したり、無駄に進路を譲ったりといったことは起こらず、予想外の動きが少ないこともあって自転車を巻き込む事故が減るというわけです。

By Steven Vance

もちろん、すべての都市や環境の下でもアイダホストップが安全に機能するとは限りませんが、自転車の特性を理解してそれに合わせたルール作りをすることで、自転車にとってもその他の交通者にとっても「安全で快適な交通環境は作れる」というお手本として、アイダホストップに学ぶところは大きいと言えそうです。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
なぜオランダが「自転車大国」なのかという知られざるその理由 - GIGAZINE

自転車人口の増加を受けてアメリカで進みつつある法律や道路環境の整備 - GIGAZINE

自転車専用の高速道路「SkyCycle」がロンドンで構想される - GIGAZINE

自転車世界一周で起きるトラブルの数々にどう対処するべきなのか - GIGAZINE

自転車乗りを車やバイクから守るためのウィンカー付きグローブ「Zackees Turn Signal Gloves」 - GIGAZINE

自転車専用レーンが車道に登場へ、来年度以降都内全域へ拡大予定 - GIGAZINE

渋滞中の悪質ドライバーに自転車乗りが復讐を果たすムービー - GIGAZINE

in メモ,   乗り物, Posted by darkhorse_log

You can read the machine translated English article here.