取材

音を生み出すプロが語る「アニメ効果音の現場とこれからの音響効果」


音響効果というのは、アニメでいうと「セリフ」と「音楽」を除いた音を担当する部分。環境音や動物の鳴き声、さらにはロボットの動く音など、アニメを支える色々な音を生み出しています。

CEDEC2011のセッション「アニメ効果音の現場とこれからの音響効果」にはそのプロフェッショナルである、フィズサウンドクリエイションの庄司雅弘さん、松田昭彦さん、新井秀徳さんが登場。これまで自分たちがどのような作品でどうやって効果音を生み出してきたかということについて、具体的な手法を交えつつトークセッションが行われました。

バンダイナムコゲームス 中西哲一さん(以下、中西):
「アニメ効果音の現場とこれからの音響効果」ということで、今回お話をしていこうと思います。本日、司会の方を進行させていただきます、バンダイナムコゲームスの中西です。よろしくお願いいたします。

本日の主役はこちらのお三方です。フィズサウンドクリエイションの庄司様、松田様、新井様です。それでは庄司さん、ご説明の方よろしくお願いします。

庄司雅弘さん(以下、庄司):
今日はみなさんどうも初めまして。暑い中といってもだいぶ涼しくはなってきましたが、わたくしたちフィズサウンドクリエイションは、アニメーションの音響効果をやっております。


一言にアニメーションの音響効果と言いましてもいろんなやり方があるのですが、俗にいうセリフと音楽“以外”の音をアニメーションの絵に合わせてつけると。それが僕らの音響効果としての仕事というところになります。そのへんのところについて、今日はどちらかというと師匠である彼、松田と新井君、二方に今日のことをいろいろと、「音響効果とはなんぞや」というところから少し突っ込んでいってみたいと思っております。いろんな話が出てくると思いますので、楽しく聞いていただければ、こちらにはゲーム関係の音響効果を担当なさっている方もいらっしゃると思うので、少しでも足しになれば、今後、楽になるかと思いますので。

この音(ビームライフルの発射音)は誰でもご存じかと思います。うちの会社の松田昭彦。


代表作は初代ガンダムをはじめ、銀河鉄道999、千年女王、今ならちびまる子とかクレヨンしんちゃん。少し前になりますが名作シリーズ、美味しんぼ、それとYAWARAとかシティーハンターとか、というようなもろもろの作品をやらせておりまして。松田はフィズサウンドクリエイション創立以来の立役者でありまして、アニメの音響効果にこの人ありと、効果音の時代を築き上げてきた人間と言っても過言ではありません。趣味は庭いじり、特にバラのガーデニングにおいては、住んでいる地域においてもそうじゃなくても、少し有名なくらいの人物になっています。また時間があればハーレーダビットソンにまたがり、関東エリアを縦横無尽に駆け巡っております。また趣味において、高校時代からサッカーもやっておりまして、今ではシニアチームのオーナーを務める人物でもあります。年は現在で59歳で、いろんな意味で現役でバリバリとやっております。


これが右隣、メガネをかけた新井秀徳です。この写真は……ちょっと今のこんな風なのと比べたら全然想像がつかないですけども、サラッと流します。新井秀徳です。


代表作はDr.スランプから始まり、ドラゴンボール、ワンピース、こち亀をやって、少し前にあたしンちという作品もやらせていただきました。高校時代に手先の器用さと、類いまれなセンスを持ち合わせた人望がウケまして、高校の時はデザイン科を専攻しておりました。将来は美術の世界で大成しようと思いまして、上京したのですが、なぜかこの仕事に就いていると。三十有余年、音響効果に携わり、独特な新井ワールドというサウンドを創り上げています。また、趣味はですね、特にバンジョーの名手でもありまして、年に数回、バンド仲間とライブハウスとかで講演を演奏しております。音楽の感性が新井の創り出す効果音に多大な影響を与えているといっても過言ではありません。まあ後ほど、音響効果のことについて音楽との関係を新井の方から話していただくつもりではおりますが、いろんな意味でも音楽というものは外すことができないのではないかと思っています。また趣味のところで新井はオフロードバイクに興味がありまして、オフロードバイクを所有して、日夜、荒野を駆け回っております。現在、54歳。今も新井ワールドさく裂であります。


わたくし、庄司雅弘と申しますが、フィズサウンドクリエイションの代表を務めさせていただいております。私は山形の農家の生まれで、広い田んぼの中でのびのびと成長したのんびりとした性格であります。時間があればトンカチをいじくって自分のオモチャを自分で作るという、そういったちょっと根暗な感じのするところがありました。現在もそういう感じのところがあるのですが。まぁでも、子供の頃にいろんな材料を使っていろんなものを作ったというところが、今でも自分の仕事である音響効果にも反映されているのではないかと自分では思っております。趣味はごく一般的な日曜大工、それと新井と同様ですね、今はバイクには乗ってはいないのですが、バイクが趣味でオフロードバイクに乗っていました。これからも時間があれば乗りたいなと思っています。以上、こちらの代表3人の説明をさせていただきました。


中西:
ありがとうございます。それではさっそくテーマに行きましょう。「アニメ効果音ができるまで」という簡単な制作現場のフローの中から、みなさんからのご経験からのお話をいろいろいただければなと思いますので、お願いいたします。


庄司:
「アニメの効果音ができるまで」というタイトルで、基本的な作業で言えば、先ほども申し上げた通り、映像に合わせて、絵に合ったことを自分の持ち合わせているいろんな感性と知恵と体力を駆使して、その音を創り上げていく。そこが一番の基本になるかと思うのですが、それと映像を見て、その映像から受ける音響効果、音の色合いの具合を整える。あまりにも懸け離れた音同士がその作品に登場するとなると、それは少し変なことになりますよね。バランスが崩れた音になって、とても聞きづらいものになります。その辺の音の色合いというものを整えるということがとても大事というか重要で、それが私たちの仕事の基本でもあると思っています。


たとえば自動車の音でいえば、その絵で指定された車種がありますよね。その限定された音を作らなければいけないというのが、もちろん出てくるかと思うんですが、ただそれをそのまま使うというよりも……必要なときは必要なんですけど、それはそれで音響効果としては、そのまま使うというのは少しそこは首をひねらなければいけないのではないかと思っております。それはなぜかといえば、僕がその車の音をつけるときに、その車のそのものの音を使ったとします。今度は同じ日に松田が同じ車種の音をつけたとします。それも隣にいる新井も同じようなことをやった場合、三人とも同じような音になってしまうということが起きるわけですね。ところが音響効果という分野においては、たとえその車種が限定されているとしても、それぞれの感性というものがありますので、その感性を大事にして、その車の音をいかにアピールするか、その指示にあった音を創り上げていくかということが、ものすごく大事になってきます。ですから、私が作ったものと松田が作ったもの、新井が作ったもの、絵は同じなのですが、音がまったく違うと。音質とか音色とかがまったく違ってくる。それが僕ら音響効果としての仕事だと思っています。同じ音には決してならない。人それぞれの感性がありますので、僕らが仕事をやる時は絶対に同じ音にはならないということをポリシーとしてやっております。

それとあと、自分たちの作る上での演出する作業。僕らじゃなくて担当とか、相手方から指定されて「こういう風にしてくれ」という場合もありますが、あくまでも自分たちのポリシーをちゃんと全面に押し出せば、どの監督さんたちも納得していただけるという風になると思います。その辺はどうですか?

新井秀徳さん(以下、新井):
ごめんね、ちょっと硬いよね、すんません。僕らが作っている上で、ほとんどうちの会社なんかは音響演出とか絵コンテの演出がいても、ほとんど僕らが勝手に作っています。絵コンテ上で注意すべきところは監督さんの意向を察して音を作りますけれども、ほとんど自分の好き勝手に作りますね。


新井:
今は「ワンピース」をやっていますけど、担当演出によって「彼がこういうのが好きやから」というようなツボを突くような要点はちゃんと押さえておいて、あとは自分の好きな範疇でどっと作っちゃいます。今516話あたりのダビングをやっているんですけれどもが、ワンピースの場合はずっとストーリー漫画として繋がっているので、最初の頃に聞いていた音と今の音が変わってきたりするんですけれども、そこら辺はうまいことごまかして、みんなが納得できるような音にしています。東映動画の場合は音響演出というのがいないので、絵の方の監督とのやりとりでやっていますので、そんなにストレスはないんですけれど。ね?

松田昭彦さん(以下、松田):
今は東映動画じゃなくて東映アニメーション。

新井:
東映アニメーションね、ゴメンゴメン。東映アニメーション作品は「アラレちゃん」の頃からずっとやっているんですけれど、初期は音響演出がついてたんですけど、それ以降は一切なしで、ほとんどわたくしの独壇場でやらせてもらいました。

庄司:
先ほど、音楽とのニュアンスがありましたけど、そちらの方もお願いします。

新井:
僕はちっちゃい時からギターとか楽器をずっとやっていまして今もバンジョーは弾いています。「アラレちゃん」を僕がやるとき、短いカットでタッチ的な音というのはたくさんあったんですよね。鳥山明さんの作品はアメリカンチックな、さっき流れたファンファーレの音があったと思うんですけれど、出してもらえます?


(アラレちゃんのSE)

これは千兵衛が発明したときにばっと出る音なんですが、あれはオモチャのトランペットとシンバルを合わせて自分で作ったものです。最初に音楽のテープをいただいて、そのキーをすべて割り当ててるんですね。僕が入るまでのタッチ音を聞いていると音楽と合ってないんですよ。合っていない「ボヨン」とか「タン」とか「カン」とか単純な音しかなくて、その当時は音楽のピッチ、音程に合わせた効果音を入れるという作業をあまりやっていない人が多くて、楽器を弾く人もそんなにいなかったと思うんです。


僕の場合は1秒から5秒くらいの間でブリッジ的なタッチ音を作るのにあたって、「アラレちゃん」では菊地俊輔さんという方が作曲をしてらっしゃって、キーではCとDとGとAが多いんですけども、僕がやっているバンジョーもその辺りのキーが非常に多かったんです。それでマッチングしたというか、「音楽に乗っかっても違和感のない音が出なければいけない」というのが最初から僕のポリシーで、絶対音感を持っている人が聞いたときに気持ち悪くならないような音作りというものを目指していました。今もそうですけども。

すみません、この中で楽器を弾ける方はいるかな、手を上げてもらえる?……おお。それではサウンドの方に携わっている人?……君らは最初の段階でできています。基本です。楽器を弾ける人と弾けない人は大きく違うから。

松田:
すみません、僕はダメです。

新井:
本当に?今ではコンピューターでピッチを上げたりとか簡単にできるようになってきたけど、僕たちがやっていた時は6mmテープで作業をしていたので、ピッチを上げるのにも何をするにもコンデンサーを使ってました。スピードコントロールのテクニックでは、バッテリーの電圧を上げて回転数を上げるというやり方をやってたからね。


松田:
あとはテープレコーダーのキャプスタンというのがあって、回転数を徐々に変えていくやつがあるんですよ。パーツを回転軸にかぶせていって。


新井:
そうそう。極端に上げられはしないけど、微妙に変わっていくという。スプライシングテープを巻き付けて軸を太くしていって回転数を上げるというやり方とか。それと、電圧を上げるやり方、電圧といってもトランスみたいな大きなやつだけど、ぐっと上げると火花が出てきて煙を噴くんですよ。どこのスタジオでもそれはありましたよ。いきなりやると火が出たりするから、ほとんどのスタジオが使えなくなるんやね。その範囲内で本当にアナログの世界で作っていたから、今のやり方なんて言ったら本当に簡単やと思う。簡単すぎて、いじくり回しすぎるから全体が崩れてきたりしているというのを感じているんですけど……ハリウッドの音なんかもそうなんですけど。昔のアメリカのアニメーションの音というのはそういうものではなかったから、その時代の人たちはもうほとんど現場に携わってはいないでしょうね。日本の場合もそうなると思います。僕はひたすら断固アナログ派なので、ずっとこのまま続けると思います。この世界でできるのもあとちょっとしかないと思いますけど。

中西:
そんなこと言わないで下さいよ(笑)

新井:
この業界自体に見切りをつけていますので。

(会場笑)

新井:
アニメはもう全然、絵も入らないですからね。今日も帰って仕込みをするんですが、まったく絵が入ってない状態で、ワンケースを差し込むという(笑) この業界、三十何年やってるけど、ほとんど変わっていないですよ。三十年前と何も変わっていないです。絵も入らない、嫌がらせの一種ですよね。


中西:
何かこう変わったことで、というお話しがありましたら。

庄司:
とりあえず松田の方から……。

松田:
では楽器のできない松田が(笑)。小学校でやったリコーダーくらいしか楽器を使えない松田がお話を。ここにいらっしゃる方々はみんなデジタルな世界で生きている、仕事をやっている方だと思うんですよね。僕みたいに超アナログの世界から多少デジタルの世界まで仕事に携わってきて、初期に戻った超アナログな音の作り方をみなさまに教えていこうと思います。小道具を出すので、少しお待ち下さい。


新井:
私も初めて聞きましたよ。

中西:
司会もとても不安になりますね。

松田:
超アナログな音作りの基本の基本と言ってもいいかもしれない作業の仕方をみなさんに教えます。……これは1枚の皿です。無機質な何の意味もない皿です。この皿があるものに変化するわけです、何かを使えば。その何かというのは、梱包材に使われている発泡スチロールです。この発泡スチロールが発泡スチロールマジックといって、なかなかすごい威力があります。これをどう使うのかというと、まず軽く発泡スチロールを水で濡らしてあげます。いいですか?この無機質な皿と発泡スチロールが合体すると……。これ聞いて何の音だと思いますか?


新井:
分かった人いますか?

松田:
これは受け取る側の発想でいいんです。たとえば皿に乗せた接点を小さくしてあげると……。なんだか小さなお猿さんに聞こえませんか?実はこれは「母をたずねて三千里」のアメデオです。アメデオがあまりにも演技をしてしまうと監督に呼ばれて「何か、素材でうまくやってもらえませんか」と高畑さんが戻すわけですよ。高畑さんというのはみなさんご存じの「アルプスの少女ハイジ」とかを監督なさった方ですけれど、「だったら役者にやってもらえばいいんじゃないですか?」と言っても「いや、印象が出ない」と(笑)。「役者さんがやると違和感がある」と。絶対に効果音で何とか小さな子猿の演技をさせてほしいと言われて「どうしたらいいのかな。猿の声を聞いても、あまりパッとするものがない」といろいろ考えたときに、ふと何気なく発泡スチロールを思い出したんですね。


この思い出した経験があるんですけれど、「アルプスの少女ハイジ」で高畑監督に付き合っているとき、ある話数で同じように発泡スチロールが活躍するシーンがあるんですよ。突然ですがみなさん、どういうシーンなのか分かる方はいらっしゃいますか?…………ちょっと想像がつかないですかね。ハイジがアルムの山に来て、山小屋がありますよね。山小屋のすぐそばにモミの木が立っているんですね。そのモミの木が風で揺られると枝がきしむんですね。さわさわという葉っぱの揺れている中に、何気なく枝のきしんでいる音が絶えず聞こえているんですね。それがなぜ大事かというと、ハイジがフランクフルトにいってホームシックになって、おかしくなってしまう話があるんですが、その話には、毎日毎日走っている馬車のきしんでいる音を、このアルプスの山のモミの木がきしんでいる音と勘違いをしてホームシックになってしまうという部分があるんです。そのときにも、ただ木がきしむ音だけを入れると効果的ではないんですよね。やぱり心理的にも圧迫するような音ではいけないというときに、やっぱり不思議と発泡スチロールマジックが発揮するわけです。水に少し浸すだけでいろんな音が出すことができます。一人ではできませんが、何人かでマイクの前で一斉に一斉に立っていろんなパターンで音を出すんですね。これは当時、テープレコーダーですけども録った音を短く18cmの回転で落とすと、木がきしんでいるような象徴的な音になって、木の葉のざわざわ音とあわせて混ぜ合わせると、すごく何とも言えない音になるという話もあります。

この発泡スチロール、アメデオにも使ったんですが、「七つの海のティコ」に小さなシャチの子どもがいますよね。それもやっぱりこの発泡スチロールマジックでいけるわけです。先ほどのアメデオみたいなお猿さんだったら、このようにキュキュっと鳴せばいいんですが、シャチになると少し面倒になります。

庄司:
では、それはこちらでやりましょう。

松田:
やっていただけますか?では聞いてもらいましょう。

庄司:
今から鳴らすのが本物のシャチ、というかイルカの鳴き声です。……これが本物なわけですが、これを絵に合わせた、芝居をするイルカの声に合わせるという作業。このオリジナルの声から作り出すというのはとても困難なわけですよね。


松田:
そうですね。現実の録音したイルカの声だと、毎回同じ音を使うような状態になってしまいますし、鳴き声にも表情も表現もない。ではどうすればいいのか?自分たちでイルカやシャチの音になろうと。それでこの発泡スチロールを持って、イルカ、シャチの子共になりきって、気持ちを入れてぐっと演技をするわけです。

庄司:
それを今からお聞かせしますね。……どことなくイルカに聞こえます。


松田:
ネタをばらされないと、どことなくごまかされそうな気がしませんか?それっぽく聞こえたと思うんですが、どうですか?(会場拍手)……これがですね、僕なんかこの仕事を40年やっているんですが、やはり先代から教わった物作りですね。自分で少しやってみたら、困ったときは自分で考えてやってみたらと、そういう発想のもとで考えられてきた音ということなんですけど、やはり音作りの原点というのは自分で何かを使って音を出すことですね。どんなものでもいいんですけれど、どんな楽器でもこんな無機質な皿でもしっかりとした音が作れると。

アメデオの話では、子猿が牛乳瓶の中に入っていろいろ芝居をするところがあるんですよ、ちょくちょく細かく。その臨場感を出すにはどうしたらいいんだろうと思うと、やっぱりビンですね。コップを持ってきて、コップの中でこれをこするんですね。それをマイクで拾うと、生の臨場感が出るんですね。コップの中でやりますから少しエコーでも掛ければ、チューン音ではなくて、本当にそのままの音が加工もしないでそのまま絵に乗せてオンエアで映っている。そういうことまで可能なんです。

だからみなさん、とりあえずは何か自分の体を動かしてものを使って、というような発想をたまに遊びでやると……毎日毎日それをやってしまうとちょっと問題ですが、たまに何か思いついたときに「ひょっとしたらこれ、遊びで」という感じで仕事をやると、意外と発展性があって、個性的な音が作れると思います。発泡スチロールマジックをこれから使う方がいらっしゃったら、使って下さい(笑)


庄司:
いろんなところに可能性がありますよね。これから音を聞いていただきます。こちらにいらっしゃる会場のみなさんに、これは何の作品でしょうか。どういうシーンでしょうか、というところを当てていただければなと思います。まずは始めに……

(効果音再生中)

庄司:
はい、分かる方いらっしゃいますか?

松田:
Drスランプアラレちゃん!(笑)

庄司:
惜しい!(笑)分かる方、いらっしゃいましたら手を上げていただけますか?


松田:
実はですね、ドラゴンボールの僕が一番最初に作った……(笑) はい、ファーストガンダムでアムロが初めてガンダムに乗って起動するところの音ですね。ありがとうございます。

庄司:
では、次に行ってみましょうか。

松田:
いやいや、さすがにガンダムに関しては発泡スチロールは使っていません。この皿も使いません(笑) 割れるシーンがあれば使うかもしれませんが、やはりガンダムに関しては機械音ですね。シンセの音を多く使っているんですけれども、やはりどうしてもガンダムの素材の原点はメカですからね。ですから素材のほとんどは現実音です。


ネタばらしになりますが、30数年経っているからいいのかもしれませんが、今みなさんに聞いてもらったガンダムが起動をする音ですが、あれは何の変哲もないモーター音です。ただのモーター音をそのまま使ってしまうとNGですから、多少は機械を通して加工して、ハーモナイザーとか当時いろいろあった機械の中に、その何の変哲もないモーター音を入力して、いろいろアレンジして、その起動する音を作り出すという方法でした。基本は本当に機械音ですね。普段からいろんな機械音を聞いておいて、このモーター音はこれに使えるかなとか考えたりしていました。

一番バカバカしい話しなんですが、たとえばホワイトベースでガンダムが出動するときにハッチが開きますよね。そのときに「うーん?どの機械音で遊ぼうかな?」と思っていたんですが、音源になっているのは掃除機の音なんですよ、実は。どの家庭にもある掃除機の音を録音して、そのままですとただ掃除機の音ですから、録音した音の回転数を半分に落とすと掃除機の音じゃなくなるんですよね。不思議と重い機械音になるんですよ。「これは使えるな」ということで、ハッチが開くシーンにこの掃除機の音を使おうと。そういうネタばらしです。

中西:
ありがとうございます。では次を少し聞いていただきます。

(効果音再生中)


これが分かる方は挙手をお願いします。……あれ?さっきはうなずいている方が結構いましたけど、恥ずかしいんですかね(笑) はい、そちらの方。

A:
ドラゴンボールではないでしょうか?

庄司:
ドラゴンボール、正解です。では少し説明をお願いします。

新井:
説明?別にこれは何話の何とかではなくて、これを少し作ったというだけです。

(会場笑)

新井:
本当です、僕はそんなに何かを考えたりはしてないですよ

では説明しましょう。一週間に1本、20分の作品を、その当時はそれ1本だけではくて、3本ほどレギュラーを持っていたんですが、それを追い詰められて追い詰められて、音を作らなくてはいけないんですが、はっきりいってほとんど適当です(笑)。僕の場合は適当にやっていたんですが、その帳尻合わせみたいなものがうまいんでしょうね。全体の頭、オープニングからラストまでのトータルバランス、それと音楽と同じような音頭(おとあたま)と余韻。余韻が次の音頭にかぶるという部分をものすごく重視して今まで作ってきました。

音楽がなければないほど私の音はええ具合になりますが、音楽が邪魔をしているから嫌なところはありますね。ドラゴンボールをやっているときもすごいストレスがあったんですけど、音楽なんていらへんかった、本当。戦いのシーンとか。

(会場笑)

新井:
それで、一番まじめに考えたのがオーラの音なんですよね。みんな「シュワシュワシュワ……」という音で表現してくれますが、これは本当にまじめに作りまして、一回オーラが出たら、ずっとセリフをしゃべっていても音楽が入っていても、光っている間はずっと鳴り続けてなければあかんということ。これが一番面倒くさいんですけど、アップで出たときにバンと出るんですが、引っ込んでも絶えずシュウシュウと鳴っているという。これは当時、ハーモナイザーという機械がうちの会社に入りまして、フェイズシフターとハーモナイザーという機械とシンセサイザーで作っているんですけれど、あと6mmテープのフィードバックエフェクトというもので作っていました。

素材は何を使ったのか、いろんなことをやっていましたのでほとんど覚えていません。いろんなものでやっていて、ただこの周期だけは、お母さんの胎内のグウグウグウという列車の音みたいなものがありますよね、あの周期に近いようにしてるんです、これ。だから子どもが聞いたときに違和感のない音なんですよ。僕は科学とかが好きやったから、そういう本を昔から読んでいて、あの音がそういう音だということは分かってましたから。

あと先ほども言いましたが、音楽と効果音というのは類似するところがあるんですね。だから楽器とまったく一緒で、音楽の三要素がありますよね。メロディーとリズムとハーモニー。やっぱりリズムというものは、結構人に与える影響というのが大きくて、たとえばこういう「シュッシュシュ」というような摩擦音ですが、こういうものがずっと繋がっていると、ある程度聞かせると頭の中に刷り込まれるので、あとはそんなに聞かさなくてもよかったりするんですよね。だからその周期というのをすごく考えていろいろ作っているんですよね。「子どもに悪影響のない音を」というのと「音楽とマッチングする音作り」ということを僕のポリシーでずっとやってきているんですね。まじめに作ったのは、これと気円斬の音くらいかな(笑)……です。

(会場笑)

庄司:
僕も知らなかったですよ、それ(笑)


庄司:
では、次に行きます。

(効果音再生)

庄司:
この音が何に使われているか分かる方はいらっしゃいますか?分からないですよね、すごくマニアックですから。

松田:
マニアックだね。僕も分からなかった。他社の音じゃないの?(笑)

庄司:
これは種を明かしますと、私が作りました、「コードギアス」でメカのアクションにつけた音なんですが、この音は自分の声がベースになっているんですよ。機械的な音も含めてはあるんですが、基本的には自分の声ですね。どう録ったかというと「ハーッ」「へーッ」という感じの低い声を何種類かテープに録るんですよ。


松田:
ザクのパクリだね。

庄司:
そうです。

(会場笑)

新井:
あ、大猿のパクリだ。

庄司:
え、大猿?(笑)

新井:
大猿は僕の声。

庄司:
ああ、そうなんだ(笑)

松田:
ザクの呼吸音も僕の声なんですよ(笑)

庄司:
という風にですね、基本……。

新井:
そんなこと言ったら、ペンギン物語の婆さんの声は僕の地声ですよ。あれは20代のころ……クレジットされてないでしょ?あれ、実は僕の声なんですよ。この人にね「端役できへんか?」ということでやったんです。ね?

松田:
さすがにね、発泡スチロールじゃ「ワン」とは出せなかったんですよ。

庄司:
いろいろありがとうございます。という風にですね、声を使って加工するという作業も結構あります。たまたま僕がこれに関しては自分の声とちょっとしたメカの音と、あと動物の鳴き声の音も入れているんですね。その動物の鳴き声もいろいろ加工していたり、先ほど松田の方からもありましたけども、回転速度を遅くしたりだとか、イコライジングとか、いろいろありますけど、基本的にはやはり生音ですね。それをベースに作っています。結構ありますよね、声で音を作ることは。


新井:
僕が一番初期の頃は先代の石田社長から褒められたのは、シカの声があるじゃないですか。「キー」というような高い笛のような声ですね。あれでミサイルの音をを作ったことがあります。

松田:
一緒に繋げて?

新井:
あれに回転を加えるとヒューンという音が出るんですよ。

松田:
花火の打ち上げ音みたいなやつね。

庄司:
ヒューンってやつね。

松田:
そうそう。

庄司:
この新井という人は声を担当して、いろんなものを作ることをすごく得意にしている人で、今日は持ってこれなかったんですけど……。

新井:
本当に、昔から声はたくさん使いました。その当時はテープレコーダーというものが6mmテープで、一般の方でいうとオープンリールというやつですが、スピードを二段階に調節ができて、19と……。


庄司:
サンパチ?

新井:
サンパチは今のやつですから。707の場合は19の下ですよね。

庄司:
ああ、7.5ですね。

新井:
そうです。19と7.5ですね。19のスピードとその半分のやつと。まずは正規の回転数と、スピードを落とす2種類。そしてスピードを落として伸びたものを普通にすれば、その倍のスピードになるというやり方と、逆回転というやり方ですね。テープを裏返しにして逆回転の音を作るんですね。ですから「パーン」という音ですと、「ムホッ」という感じに後ろが伸びます。僕の音はわりと逆回転の部分だけを使うというのが昔から好きでやっていました。今でこそコンピューターでどないにでもできますけれども、大変でしたよね。6mmテープと16mmのシネテープで編集していたんですけども。

松田:
後は手回しですよね。手回しだと素材として作り始めて、音を完成させていくんですが、ほとんど手作りというんでしょうかね。なかなか今の技術ではできないところがね……。

新井:
6ミリフィードバックエコーみたいな、ソフトみたいなものがあるんですよ。ギターのエフェクターとか。使ってみたんですがまったく違います。テープレコーダーは三台モシーがあればフィードバックエコーという6mmテープを回して、それを録音しながら、こちらでデータで上げたら、その変わりが出るんですが、それは一緒になった音が出るという。60年代のアメリカとか日本の効果音はほんとどそれで作っていたんですよね。初期のやつなんですけど。今もそれは有効なんですよね、使い方としてはかなり。

松田:
かなりね。

新井:
僕なんかは音楽をずっとやっていたからかもしれませんが、70年代の音が一番野太い音なので好きなんですよ。音楽にしても、アメリカの映画の中の作品の音に関しては、70年代が一番いいと思うんだけど、今のハリウッドの音って全部一緒やないですか。

中西:
はい。

新井:
なんかパンチがないですね。あれですよ、みんなお酒を飲んでしゃべればどうとでもなりますよ(笑)

中西:
(笑)
(挙手を受けて)はい、何でしょうか?

B:
質問です。ガンダムにしても、マシンガンの音にしても、例えば本物と日本人の何となく作るマシンガンの音というのはかなり違うんですね。そのあたりの音の作り方のポリシーはありますか?

中西:
どうですか?

松田:
ウソの音と、現実に存在する音との違いですよね。基本、アニメーションは……作品でいうならガンダムが一番いいかもしれないですね。すべてがウソの世界から始まる音の入れ方です。聞く側がどう思おうとも関係ない。自分がウソの世界に入って、こういう風に音を作り上げているんだというポリシーをもってやらないと、恥ずかしくなっちゃいますよ。だから根本的な作業をやるときにはSF的、メカニック的な世界のアニメーションだとやはり自分自身もウソをやる気持ちでやります。ですから、現実がどうのこうの、SF的な音がどうのこうのというよりも、聞き手はまったく考えていません。聞き手を考えてしまうと、音の結果が出ないんですよ。十人十色、十人の人がガンダムのビームサーベルの音を聞いて、納得をするかといえば十人が十人納得はしないと思います。その中で三人くらい「少し変わった音だな」「耳に残るかな」という結果が出れば、自分にとっては正解かなという感じで音を作っています。

中西:
新井さんはどうですか?

新井:
僕は根本的に絵面に合っていないとイヤというタイプなので、ぴったり合っていないと気持ち悪いですね。僕の「アニメーションのリアリズム」は人とは少し違うのかもしれないんだけれど、実際にこういうのが本当にあったらこんな風になるんやろうなと思いながらも、自分の好きな音にしてしまいますね。大嫌いな音もたくさんあります。それは言えませんけど、他社のやつで……。見たらすぐにチャンネルを変えるんですけど。嫌いな音はたくさんありますけど、うちの音が一番おもしろいんちゃうかな?ね?

庄司:
うん、その通りその通り。

松田:
それは聞き手によりけりだよね。

新井:
最初のアラレちゃんなんかをやっていたのは僕が24歳くらいの頃ですけど、全部仕上がるとシネテープという、シネコーダーというテープレコーダーで開発していたんですが、先輩方に一回見せないといけないんですよ。セリフも音楽もその当時はないですから、SEだけで見せないといけない。まず最初の第一関門はこの人たち、一番こわい人たちでした。ここでダメ出しが出ると凹むんですよ。だから一生懸命やりました。「先輩を笑わせたら合格だ」というつもりで作っていましたね。うちの会社でみんな笑ってくれたら、他のスタジオで出しても大丈夫なんですよ。だから、視聴者のことなんて考えていませんでした(笑)。このものすごい人たちを何とかウケさせることだけを考えていましたからね、20代の頃は。

松田:
そんなに年寄りじゃないよ(笑)

新井:
キャリアはこちらの方(松田さん)のほうが長いですから。それに松田さんはまだ若かったですし、鬼のような社長がいましたからね(笑)

中西:
ありがとうございます。他に何かございますか?

庄司:
自分たちはこの仕事やっておりまして、この音響効果というものに対して、あまりにもいろんなものが溢れているなと。どこをどうひしめいているのか、どう叩いても、みんな同じような感じがしてしまう今日この頃であるな……という風に、私もそうですが、ここに来ている松田も新井も「何とかならないですかね」という感覚があるんですね。「これからの効果音」ということで、どうすればいいのかなと色んなことを考えていますが、まずはやっぱり自分たちがポリシーをもって音を作り出すという基本的なところから何かが抜けているんじゃないか、というところが今、私たちが話をしている最中なんですが、その辺どうなんでしょうかね、新井さん。

新井:
この中でサウンドエフェクトだけを作っているという人いますか?ゲームで何人ぐらいいます?……ああ、そんなものですか。君たち、もっと前に来なアカンで(笑) 最初に入ったときにどういうやり方で始めましたか?やっぱりコンピューターだけを使ってました?音源というか。

C:
専門ではないんですけど、僕はスター・ウォーズの音の作り方ということで、ライトセイバーの音を……。

新井:
それ、ちょっと言ってもいいかな?それ、君はそういうの(作り方)を知っていたやろ?僕は24の時に有楽町で見ましたよ。ライトセイバーの音を聞いて、会社に戻ってすぐに作りました。

C:
(発言聞き取れず)

新井:
一番いいところを体験しましたね。その通り、その通りです。僕が帰って作ったときは、シンセサイザーでブーンとホワイトノイズみたいなものを出して、スピーカーで出た音を安物のマイクに掃除機のパイプを繋いで、スピーカーの前でこういう状態で振って、先ほど言ったような6mmのフィードバックエコーを掛けながら「ブンブンブン」とやるんですね。それはちょうどクリリンの気円斬のところでも使っているんですけど(笑)

この人たちもよく私の素材で何か作っています。ね?

庄司:
はい。その通りです(笑)

新井:
映像なしで日常的に何かを聞いたりしたときに「この音、おもろいな」と思ったら、頭の中に蓄積できる量が多ければ多いほど、実際に変わった音を作ろうと思ったときに、その引き出しをちょくちょくたどって、いろいろ考えることができます。音を分析したときですよね。この音は、この音とこの音とこの音を足せばなるんじゃないかという、そういう聞き方をするといいと思います。ただ、僕はゲームの音作りというのはまったく知らんから、何とも言えへんけど……おもしろいか?(笑) (会場からの「面白い」という声を受けて)おもしろい?なるほど、おもしろいんや……。あんなもん、ボタンを押したら音が変わってしまうやないか!(笑)まあ、(自分の中のゲームは)スーパーマリオで終わってるからな……。あれはすごいですよ。音楽と効果音のマッチングがすごいですから。スーパーマリオが一番すごいと僕は思います。あとは……まあ。

中西:
松田さん、どうですか?

松田:
自分たちが幸せに思う部分はですね、アニメーションの場合、20分ほどの作品になりますよね。それを一人で全部作り上げる。誰の協力も入れないで、たった一人で音を作り上げる。そういう達成感ですね。誰のイメージもない。ゲームの作り方がパートパートで「このパートはAさん、このパートはBさん」という感じ、そうやって完成されるのかどうかということは、よく分かりませんが、ただ今私が携わっているアニメーションは一個人で一つの作品を仕上げるという幸せ感、アニメーションの効果を作るという中では満足感がありますね。誰もこの作品には関与していない、僕だけが作り上げたものだという。そういう達成感は、ちょっと絵が入らなかったり、不思議なところがあるんですけれど、楽しい仕事かなというのはあります。

庄司:
最後の締めの感じという風になりますが、今こうやって諸先輩に色々と話をしていただきましたけど、やはり、努力をしましょう。あるものに甘んじず、オリジナルのものを作り出そうというそういう発想を、頭を柔らかくして、そこから物事を考えて作り出そうと。そういうことをこれからやっていくことで、サウンドエフェクトという分野で、もうちょっと考えてやっていただければ、もっと面白いものができるんじゃないかな、いいものがいっぱいできるんじゃないかな……と思います。

松田:
いや、そんなことないです。今の若者たちは素晴らしい才能をもっていると思いますよ。その才能をしっかり生かして、個々の才能を……創意工夫ですね。僕は超アナログの男なので、サウンドの世界においては本当に今の若い人たちには敵いませんよ。素晴らしい音をゲームの世界でも作り上げると思っています。そこにみなさん、料理と同じように、ひとつ自分なりの隠し味を持てばより良いものができると思います。その隠し味をみなさんの中で考えていただいて、この時代に生きていただければと思います。

新井:
若い人の方が僕なんかよりも学ぶべきことがたくさんあると思うのね。やはり、僕らが聞いてきた音楽や文化というのが昭和30年代からずっと聞いているわけやけど、今の若い人たちはそこら辺までさかのぼって勉強しないとアカンねんな。音楽なんかでもそうやけど、歴史がありますから。ですから、今だけの世界でいるのではなくて、過去の歴史を振り返ってみるのも絶対に勉強になると思いますので、いろんなことをやって下さい。

中西:
今日はお時間になりました。みなさん今日は本当にありがとうございました。

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in 取材, Posted by logc_nt

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