取材

アニメエフェクトの極致、これがハリウッドを震撼させた日本の技術


「視聴者の目に引っかかるエフェクトとは何か?」を考えつつ、長年、トップランナーとして第一線でアニメエフェクトを作り続けてきた橋本敬史さん。クセのある気持ちいいエフェクトを作るためであれば物理法則や時間曲線すらもねじ曲げながら、誰もマネのできないエフェクトを作り上げてきました。普段は物語やキャラクターの背後でふと見逃してしまいそうな炎や水、スパークなどのエフェクトは、どのようにして生き生きとした映像表現となり得るのでしょうか。

本稿は日本最大のゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC2011」にて「アニメのエフェクト、ゲームのエフェクト」と題して行われた講演で、休憩を挟んで前後編に分かれていたものを1本にまとめました。橋本さんが携わってきた多くのアニメーション作品で培われた職人技から、デジタルアニメーションやゲームにおけるエフェクト作りまで深く掘り下げています。


◆『アニメのエフェクト、ゲームのエフェクト』 ~前篇~ (11:20~12:20)

株式会社セガ エフェクトデザイナー 岩出 敬(以下、岩出):
まず、登壇者の紹介からさせていただければと思います。こちらが橋本敬史さん。経歴等は見ていただいたとおりですが、カリスマアニメーターです。


橋本:
カリスマじゃないと思いますけど(笑)

岩出:
今回、お話しいただくのは「エフェクトについて」ということになります。最近の作品ですと「モノノ怪」とか「空中ブランコ」とか。

橋本:
そうですね、最近はキャラの仕事が少し多いですが、基本は十何年前からエフェクト専門でやっていて、何年か前にタツノコプロダクションに所属しました。そこで「鴉 -KARAS-」というCGとアニメーションのハイブリッドな作品の、手描きの部分と3Dの橋渡しをしたことで、それからずいぶん、CGの仕事をするようになりました。「FREEDOM」にしても「スカイ・クロラ」にしてもそうですね。


岩出:
後半の方で、その辺りの苦労やデジタルアニメーションとの融合のお話をしていただければと思います。作品リストを見せていただいて思ったんですが、ガンダムエヴァンゲリオンのようなコアなファン向けの作品から、ここには載っていないところもありますが、ドラえもんからジブリアニメまで、すごいエフェクトであれば、どんな作品でも呼ばれてやるという辺りが、カリスマというかトップランナーなんだと感じました。今日はその辺りを中心に伺えればと思います。

私の方ですが、今回業界以外から来ている方もいるので、一応自己紹介です。岩出と申します。株式会社セガでエフェクトデザインをやっております。以前やった作品はこちらのスライドの通りです。橋本さんの作品数がすごく多かったので、私も普段作品リストに挙げないようなものを入れて水増ししていますが、こんな感じです。ゲーム業界の年次で考えると、もしかすると作品数では多い方かなとも思いますが、今は年に1本「龍が如く」シリーズをやっているところです。今回はこの2人で送らせていただきます。


今回は「アニメのエフェクト、ゲームのエフェクト」ということで、アニメ業界で橋本さんが今まで磨いてきたノウハウ、テクニックをまずはゲーム業界のエフェクトをやる方に、レクチャーのような形で聞いていただいて、それをゲームに生かしていけたらと思います。それに対してゲーム業界ではこうやっているとか、あるいはこういう制限があるといった部分を踏まえて、私が「こういう風に応用すればいいんじゃないかな」と思ったアイデアなどを交えながら進めていきます。

最初に打ち合わせをした時に、驚いたネタなのですが、我々ゲーム業界の人間がエフェクトを作る際は、基本的にツールを目の前に置いていて、ゲーム上ではどのように見えるのかをある程度確認できる状態でエフェクトを出しています。爆発のエフェクトだったらとにかく爆発させて、飛んでいる粒子をみて「この粒子はもう少し遅い方がいいのかな」「こいつのスケールは大きくした方がいいのかな。小さくした方がいいのかな」というのを、鬼のように繰り返してクオリティを上げていきます。そこで「繰り返しをいかに短くするか、それができる環境をいかに整えるかが、いいものを作る大事な要因である」という考えを持っていました。それに対してアニメは手描きですので、その辺の考え方は変わってくると思いますがいかがでしょうか。


橋本:
そもそもが自分が業界に入った時にはそういうシステムはありませんでした。なので、自分の中の、例えばカッチリ1秒、カッカだと0.5秒、その中の絵をちゃんと頭の中に記憶して、それをフィルムに展開していくというやり方をしています。たぶん先輩方の中には「何度も見る」ということをやっている人もいたとは思いますが、自分たちの世代ではあまりやっていませんでした。一発勝負にかける、みたいなところがありましたね。

「何度も何度も見て、絵を直していく」というやり方をしていくと、結局やっている作業のタイミングとか動きとかを見慣れちゃいます。だからあまりそこに時間を取られるよりは「一発でちゃんとやる」ということです。その1秒の感覚の中でいかに絵を作るのかということをちゃんと分かっていないと、職人的にいいものができていかないんじゃないかと思います。


先代の人たちにはビデオもなかったから、画面や実写的な映像を見てそこで決めるわけです。それで職人がうまく淘汰されて、上手な人たちが残ってきたと思うんです。やはり「何度も何度も見る」ということは、確かに完成形は見られるし、いいものにだんだんなっていくかもしれないんですけども、それ以上の「突き抜けたもの」が出てこないような気がするんですよ。なので、自分は「何度も見る」ということはしないです。

トップをねらえ!」というアニメをやった先輩がいます。合体のところをやっていて素晴らしい原画をいっぱい描いたのですが、そこは作品の決めだったので、ある時「果たしてこんな動きでいいのだろうか」とすごく悩んじゃったらしいんです。それで「クイックアクションレコーダー」という機械に動画を入れて何度もコマ単位で調整していったけれど、結局パッと3日後に気がついたら一番最初のタイミングが一番よかったということでした。アニメ的な職人気質なのかもしれませんが、自分の勘を信じてやるのが一番いいと思います。


岩出:
どうしてもゲームになると量産という部分が出てきたりしてしまうんですよ。

橋本:
でも、アニメもある意味量産です。スケジュールのない中でいかにやるのかというところで、やっぱり画面を見て何度もチェックするよりは自分の中の1秒の感覚、それに「どの絵を置くか」「どの絵を引っかけて残すか」といった感覚を研ぎ澄ますことが大切であったと思います。そのことが、ひいては業界全体の画面の質のアップに繋がるんじゃないかと思います。

岩出:
アニメ業界ですと、動画から入って原画にというように、ひとつのものを作るにもステップアップしていくところがあると思います。でもゲームの場合ですと、入ってきた人間がエフェクトなどゲームの素材だけを作っていくというやり方ではなく、ある部分の完成形まで一人で担当しなくてはいけないという事情があります。そのため、研ぎ澄ますところまでいかない人でも、最終的にどこまで持っていけるのか、という発想になります。


橋本:
確かに間口を広くするのもいいのかもしれませんが、やはり一番最後のクリエイティブな部分は、どの業界でもそうですけど、自分が根っこで持った感覚というか、誰にも教えられない自分だけが持っているものだったりします。そこの部分をさらに伸ばすことは考えなければならないと思います。

岩出:
頭の中で何度もやった上で、最終的に絵として出力する、みたいな感じになるんでしょうか。

橋本:
当然、自分でもその出力がピンぼけするときがたまにあるんですが、それはそれで自分のスキルアップにはなっていくと思うので。

岩出:
橋本さんと話して、確かに我々は「繰り返しどれだけやるか」という部分に特化しすぎたせいで、失われている部分があると思いました。私自身がエフェクトデザインと言いつつも、ツールを作る部分も兼任しているところもあったので。

橋本:
アニメ業界の絵が最近、タイミングとかが均一になりつつあるように感じます。要するに「リアルなものは、こういう動き」とか「リアルじゃないものはこっち」と。変わってきたのは、そういう「何度も繰り返してみるという装置」が業界に広まったからではないかと。あとはペンタブで絵を描いている方もいるし、極端な話、実写をロトスコして、アニメに落とし込んでいる人がいるから、そういうところもあると思います。

でもゲームの業界とは少し違って、昔ながらの感覚でやっている人たちも未だにいるからこそ、アニメというのは絵とかタイミングの幅が広いんじゃないのかなと思うんです。同じ爆発でも火の描き方が違ったり、ビームでも例えば「ビッ」と出るものがあったとしても、他のものは「ブブブ」とためてから「ビュッ」といったりとか。同じビームなのに何でこう違うのかというのは、作り手それぞれが持ったタイミング感覚だったりするのかもしれないですね。


岩出:
そうですね。例えばツール上でやった場合、上からチェックする人間がツールでやっているのを見て、それに対して「こう修正してくれ」みたいなことを言いやすいんです。そして、それを見て直したフォーマットを見てもらってまた直す、みたいなこともアニメ業界より簡単にやれてしまう。その結果その人が最初に作ったオリジナリティーがなくなることもあるかもしれません。作品としてのテイストをそろえるという意味では、必要なこととも言えますが。

橋本:
最初に作ったものが一番かっこいいのかもしれないけれど、それでは商品にならないからだんだんその作品の流れで均一になっていくということでしょうか。アニメはまだ1本24分のテレビシリーズの中でも、すごくデコボコがあって、それはアニメの良さでもあり、悪さでもあると言えます。逆にCGが均一で同じ感じになるのは、また良さでもあるでしょう。どちらがいいとか悪いとかは言えないですね。ただやっぱり、自分的には最後のその感覚のところだけは残しておいた方がいいような気がします。


岩出:
確かに、ゲームを作る上でも、何度も試して1週回ってみても「最初の方がいい」ということもありますからね。

橋本:
そうですね。

岩出:
ただやはり、ゲーム開発の環境が今はそういう状況ですし、要素がすごく複雑に絡み合っています。頭の中で考えたものが完全に一発でドンと行くのは現実的に難しく、どうしたものかなという思いもあります。自分なりにひとつ考えたことですが、パラメーター、例えば爆発の広がる速度をいじる前に、今まではいじってはその動きを見て直して、という感じでしたが、いじる前にいったん、どれくらいの速度で実際に動いているのかを目をつぶってイメージをしてみて、それに合わせて挑戦してみるというのはどうでしょう。本当にワンクッションですが「もうちょい早く。もうちょい遅く」と目で見て繰り返すだけではなく、頭の中で次のビジョンを本当に細かく、挟み挟みイメージする工程を意識して入れるとうことです。なにかの取っ掛かりにはなるのかなとは思います。


橋本:
アニメみたいに一発描きできるいいんですけどね。それができないから、なかなか難しい。

岩出:
別のネタになりますが、頭の中にあるイメージをよりダイレクトにゲームの最終形に持っていく方法は、ツールの改良を含めて考えていければとは思っています。ただ、今あるものの間に手数が挟まるのはひとつのネックになりますね。あと、橋本さんの原画集を最近見せていただいたんですが、何というか……。

橋本:
ストイックな?

岩出:
はい。

橋本:
すみません(笑)


岩出:
爆発や水などばかり、びっしり数十ページ入っていましたが、原画集の各コマがどういう風に設計されているのか、何を考えててこうなっているんだ、という部分が正直知りたくなりました。本当に見ただけでは理解できない部分もあって、個々に関してのこともありますが、エフェクト、つまり炎や水などを一発でボンッと持っていくためにどういうことを考えているのか、どんなテクニックがあるのかを聞ければと思います。


橋本:
まず、やっぱり絵は2次元なんです。そこでエフェクトに限らず、キャラクターにしてもなのですが、昔先輩に言われたのが「動いて見えるためには、どういうものを置いていったらいいのか」ということです。ある人は、キャラクターのアニメーションの原画を描くのに、まず下書きで鉛筆を寝かせてざーっとシルエットでやるんです。そしてその上に紙を乗っけて清書しだして、いきなりキャラクターができてしまう。「これは何をしているんですか?」と聞くと本人は「いや、適当な仕事だからいいんだよ」みたいな感じなんですが、どう見ても下書き鉛筆を寝かせて、擦ってるだけなんです。でも、後でその方が現場が終わったときに見せてもらったら、やはりとてもうまい。どうしてこんな描き方をするのか聞いたら「所詮、アニメーションはセルだ。平面のぺろっとしたものだから、輪郭をちゃんと考えて、要するにシルエットで動くものにしないといけない」と。


それが自分の中ですごく記憶に残ってます。例えば手を上げるにしても、体の真ん中からこう上げるだけじゃ、輪郭の中ではシルエットは変わりません。そのときは「少し体を斜めにして、こっちからやるととか、この隙間が見えたりすると、絵が動いたりしているように見える」と言われたりしました。だから火や煙、スパークなども画面に対する面積での上下、幅の振幅、シルエットの大きな変化などを結構考えます。

爆発の破片の配置を例に取ると、画面に対する破片の位置などをうまく構成して「このコマでは4分の1大きい破片があって、画面に対する密度が多かったら、次はそれをなくして、密度を下げる」というようなことをします。そうすると、目にすごく残るんです。あとは「動いている部分が大きい、小さいを入れる交互にやる」とか、そういうテクニックをいろいろ教わりました。それは本当に先人たちが数十年前の「タイガーマスク」とか、もしかしたらディズニーの時代から培ってきたことだと思うんです。そういうものを気にしておくようにしているかな。

あとは舞台の袖でも少し話しましたが「セルの番号を入れ替え」はよくやります。結構、自分は物理法則の演算に特化したアニメーターなのだと思っています。だから先ほどの「スカイ・クロラ」のように、CGと融合したものが適していると言われるんですが、そういった作品で原画を普通に描いていくと、演算を組んだようなものになりがちです。例えば炎だと「なびき」というものがあって、絵がどうしても「ものが上に上がるように動いていく」ものになってしまう。それを手慣れで描いてしまうと、どうしてもどこか自分が描いたことのあるフォルムになってくるので、あえて全部原画を描いたりします。

炎で言えば6枚から8枚、ループがあると16枚とかのリピートになりますが、その原画番号をたまに入れ替えてみたりするんです。実写をビデオで録ってコマ送りしてみると分かりますが、ムービーを通常の流れで見ると普通に動くんですけど、コマ送りすると実は動いていなかったりします。同じ位置に絵があったり、突然違う絵がパカッと入って次のコマでまた元に戻ったり、ということはあるんです。それは「物理法則や演算では決してできない絵が自然界ではある」ということです。そういうものを感覚で描くのはなかなか天才的なものを必要として難しいので「絵を入れ替える」「描いた紙を裏返してトレスし直して使う」「上下逆さにする」というようなことをして、ペラペラの質感の中にイレギュラーな感じを入れたりします。そうすると、自分で描いた絵でも普通とは違うものが入ってくるんです。スパークなんかでは、よくやりますね。


岩出:
スパークはゲームで作るときも悩みどころですね。自分の知り合いもアニメを描いていて、昔「鉄コン筋クリート」のプロモ版を作っていたらしいんです。どうやってもうまくいかないときに、森本晃司さんが「ちょっとやってみるわ」と言って「ココとココとココで、コレを置け」みたいにコマンド指定だけして、その通りにやったらすごくかっこよくなったという話でした。。

橋本:
確かに3Dやゲームの方でも使えるテクニックだと思いますね。

岩出:
どうしても我々は繋がったものしか作らないというか、ツールやゲームの特性で時間が連続的に流れていってしまうというところがあります。特に、最近の3Dゲームではそういう傾向が強くてランダム性が少ないので、例えばゲームのエフェクトを作っていて、特定のコマが順番を逆に入れ替えて出てくるようなことは基本的にないんです。手書きの場合はそれが試せて、その結果見えてくるものがあるんでしょうね。

橋本:
今思いついたんですけど、スパークでAとBと2パターン作って、それを交互に入れ替えてみるとか。そうすると同じスパークだけど「にじにじパカパカ」と、変な風になったり。何かそういう、簡単なアイデアで新しいものが出てくるんじゃないのかなと思います。


自分の描き方は残像や絵と絵の間を、いかに人間の目に見せるかというところにあります。「実は描いていないけど、描いたように見せるテクニック」や、逆に「描いているけど、それを描いてないようにみせるテクニック」であったりとか。スパークの話しばかりしてますが、スパークがこことここに動くのに、やっぱり本物は途中でパカパカパカとなったりするんです。でも最近、テレビではパカパカを入れるとディレイが掛かったりするので、それを作画で描くという高度なことを(笑)要するにこっちの絵とこっちの絵の残像の部分を……。

岩出:
ちょっと描いてみたりできますか?せっかく持ってきたので(笑)

橋本:
本来、これがこうなるわけですね。これに中割が入ったりするじゃないですか。



で、こうなってここが塗りの部分です。それが下に流れるわけだから、もっとこっちになって、これがこっちに行くと。またここにこういうのが現れたりするわけです。この間に、アニメーションだと1、2で、間に何か3枚とかあると、途中にこれは1、2コマで出すと1、2、3……9、10コマですよね。2コマ撮りの間にたまにカラーセルを入れたりするんです。これでカラーの部分がパカパカパカというテクニックです。


岩出:
消してしまうんですね。

橋本:
中割をさせるんです。そうするとぐにょーと動きながら、パカパカとなるんですが、それをディレイをさせないために、どういうテクニックをするかというと……。

岩出:
すみません、そのディレイというと?

橋本:
えーと……ポケなんとかショックです。分かりますかね(笑)

岩出:
光過敏性のやつですよね(笑)

橋本:
そう、光過敏性発作です。そのために画面を溶かすというか暗くして、前の絵と後ろの絵を合わせてしまう、というようなことをやります。

岩出:
これはゲームでもやばくて、それをどうしようかということがありました。


橋本:
でもなぜか、コマーシャルではやっているという。まあそんな話はいいですけど。

岩出:
いや、これはすごくオイシイ話しかもしれないです。


橋本:
アニメでは使えても果たしてゲームで使えるかは分からないですが、例えばものが動くときに、自分は残像でやったりします。あとはコマを1コマじゃなくて、例えば1が2コマで2が3コマを使ったりと、同じ10コマでも尺を稼げてその中でパカパカを入れると、少ない枚数でも効果的に見えたりします。


岩出:
この辺はアニメならではのテクニックではありますね。光過敏性発作対策にいいですね(笑)

橋本:
ゲームでもそういうことがあるんですか?

岩出:
そうです。マシーンが用意してあって「ここは輝度変化が一定値を超えているので何とかして下さい」と警告が来ます。ゲームだとピカピカ光るような中間に今のような繋ぎの絵を用意してあるという形になります。それも手で描くわけにはいかないので、そういう絵を作ってくれる機能をプログラマーに頼む感じですかね。

先ほど「間を描かずに動いているように見せるのがテクニックだ」という話をされていました。これは炎の例だと、普通に繋がるものを描いた後に違うパターンを混ぜることで、「本来頭の中で保管している動きの絵」と「自分では考えていない別の動きの絵」の2つを視聴者が保管することによって、新しい動きが出てくるということでしょうか。

橋本:
あとは「そのエフェクトを見せたい、強調したい」というときに、自分は雑音をゴミと呼んでいますが、そこがわざと目に引っかかるように入れるんです。流れに引っかかりをつけることで見る人に「うん?」と思わせる効果です。

アニメ制作は共同作業なんですが、1クリエイターとして自分の仕事のここを見てもらいたい、というものがあるわけです。アニメは分業が多く、ワンカットの中でも背景を作る方、キャラクターを描く方などがいて、私はそのキャラクターの後ろのスパークを描くわけです。そこで変な引っかかりがあって「うん?」と思ってくれると、「このクリエーターは誰なんだろう」という話になるんです。姑息かもしれないけどそうやって仕事が回ったり、増えていったりしました。


まったく主張をしない背景的なものを作るか、ちゃんと生きたスパークなり爆発なりを作るかというのは、結構大事だと思うんです。わざとそういう引っかかりを作ったり、あとはタイミングもずっと1コマ作画で、30フレームなり60フレームなりの中でずっと均等に動いていて、突然違うコマ、違うタイミングのものを入れたり。

岩出:
特にリアル系のエフェクトをゲームで作る際、どうしてもリアルなものを作る以上、自然に見せる、馴染むという部分が大きいです。特にイベントシーンの後ろで起こっていることでは「馴染んでなんぼ」という話になりがちですが、そういう中でも主張をされてきた感じですかね。

橋本:
以前やった「スチームボーイ」という完成まで8年も掛かった作品の中で、監督であり漫画家でもある大友克洋さんが「エフェクトもキャラクターの一部であってほしい」ということをずいぶん言われてました。その中で、手前でキャラクターが遠目でポンと下を向いていて、その後ろで煙のエフェクトがなぜか渦を巻いているんです。絵コンテでそういう指示があったので普通に渦を巻いているものを描いたら「橋本、そうじゃない。これは手前にいる主人公の心の中を後ろの煙が表現しているんだ。だから悩んでいる煙を描いてほしい」と言われました。

スチームボーイ 予告編 Steamboy trailer - YouTube


岩出:
それは言われないと分からないですね(笑)


橋本:
そこでしばらく悩んじゃったんです。でも、言っていることは何となく分かるので、何回かラフを描いてやり取りして「右向きに巻くのはいいのか、左向きに巻くのはいいのか」というような話をしました。結局、完成画面は主人公の心の中を表すんです。だからエフェクトもやはり、心のある生きたものがいいと思っています。

岩出:
ちなみに、「スチームボーイ」のどの辺でしょうか?

橋本:
真ん中辺りです。まあ、見て下さい。主人公が悩んでいる後ろで渦が巻いていますので。

岩出:
なるほど。最近に描かれたエフェクトで、今言ったようなところが伝わってくる例になるものはありますか?家に帰って、チェックできるようなところで。

橋本:
うーん、どうでしょう?例になるかどうかは分からないですけど、会社によってエフェクトのタメ、詰め、動きは変えてます。例えば同じ爆発でも実写に近いものだったら、YouTubeで流れているものを見て、それを参考にしてやったりします。その原画集に載せた「スペースシャトルが爆発した映像をそのまま映像に落とし込んでほしい」と言われた仕事があったんですが、それも見ながらやりました。


CGはどうなのかよく分かりませんが、実はアニメは情報量が実写よりも少ないので、少し早いくらいの動きの方がよかったりするんです。「ここからここまでが3秒の煙」だったら、画面では自分の描いたものを1秒半から1秒18コマくらいに落とし込んだりします。その逆もあって、アニメ的なものをCGのタイミングにしようとすると、情報量が多いからアニメよりももう少しタイミングを伸ばした方がよかったりと。

そういうことを常に考えつつやります。あとは会社でタイミングはずいぶん違います。リアルさを要求するところもありますし、極論ですが、ジブリだと普通のアニメよりも1.3倍遅いタイミングの方がよかったりするんです。最近、少しお手伝いしたジブリ作品でも「リアルにやって下さい」と言われたんですけども、今まで描いていた爆発より1.3倍少し遅くしてみました。


岩出:
それは橋本さんの判断ですか?

橋本:
判断ですね。

岩出:
作品に合わせつつ。

橋本:
そういう感じです。

岩出:
水物で最近、やったものはありますか?

橋本:
最近やったのはこの前のヱヴァンゲリヲン。放送では私のシーンはカットされてましたが(笑)

岩出:
ああ、血が……。

橋本:
そうですね。血がドバッと出るようなものだったり、リアルなものを描こうとしたら、自分は実写を見ることが多いです。でも、なぜか実写そのままだと少しタイミングが緩かったりしますね。


岩出:
ちなみに空中から落ちてくる使徒を倒したあの場面ですよね。

橋本:
落下してくる使徒のところからずっと原画をやっています。

岩出:
血がバアッと飛び散って、テレビだとそこで終わってた、というところですね。


橋本:
はい、そこですね(笑)

岩出:
ブルーレイとかある方はあとで見直してみてください。

橋本:
実際には、実写も参考にしつつ、後で自分の中で消化していく感じです。3Dを作る人もそうだと思うんですが、そうすることで「イレギュラーの動きがまたこうやって出てくるんだ」とか「壁にぶつかるとどういう風に水が回転するか」とか「水が細いところから、太いところに出るときに、どこにどういう渦ができるのか」ということが結構分かります。

岩出:
観察をして、というところですか。

橋本:
当時、好きだった映画が「アビス」や「デイ・アフター・トゥモロー」で、その辺を結構見てやりました。あとはサメが出てきて、人を襲う「ディープ・ブルー」も水と爆発が結構いい感じでした。

岩出:
その辺の感じに手を加えつつ作ったと。

橋本:
そうですね。あとアニメは先人が作った水のフォルムが結構あるので「じゃあ、今風だったらどういう形になるか」とか、そういうことを考えながら描いています。

岩出:
例えば水の描写で「代表的なフォルム」みたいなものがあったりしますか?

橋本:
そうですね、水がこう流れて、こうはね上がったりする。アニメだと必ずここに、ハイライトが。


岩出:
橋本さんの原画にはハイライトがこう、丸いのがヒュッヒュッと。

橋本:
こういう影がこうあってとか、ここに飛まつがあって、とかですね。こういうのはドンブラコドンブラコの波にしても、やはりみんなハイライトを入れて、こう白波があって……というのは昔の東映アニメーションのものから。だからその中にまた少し違うフォルム。多分、昔は白波をこうやって描いていたんですけど。


岩出:
丸い感じですね。

橋本:
こんな感じですよね。それが今だともう少し違ったりするので、こうタッチみたいにしたり、この部分にガウス、ぼかしを掛けて霧モヤみたいなものを足したり。


岩出:
どれくらいぼかして下さいみたいなものですね。


橋本:
あとは水の中の透明度を再現したいので、ここに光り物を入れるとバスクリンのようなきれいなものになると。こういうのは別素材で、光り物をマスクで落とし込んだりします。


岩出:
素材というか、レイヤー分けみたいな感じですね。例えば、これだとしぶき部分は別素材だったりするんですか?

橋本:
しぶき部分はアニメーションだと同じじゃないかなと思います。ただここに、フリカケと呼ばれているんですが、小さい粒々を3D的にはめ込んでもらったりします。破片とかでもそういうのがありますね。

岩出:
フリカケ用の素材というのは?


橋本:
フリカケ用の素材は作画で別に描いています。テレビシリーズの「NARUTO」や「ブリーチ」では、フリカケ素材をかなり爆発や破片の中に敷き詰めてやっています。

岩出:
それは何コマかで動くようなものですか?

橋本:
普通にこうなったのが、こうちぎれて、こう切れるというものです。そういうのを何パターンか作って、この中にはめ込んでいきます。


岩出:
これ欲しいですね。

橋本:
こうすると少し豪華になります。手書きでどんどん描いていくのはやはり分業では難しいので、あらかじめこういうのを作っておいた方がやりやすいです。多分、ヱヴァンゲリヲンもやっているんじゃないかな、ドカーンと。自分の原画の中の崩れるところで画面をコマ送りにすると、描いたことのない破片があったりするんです。「これは……?」と思ったら、やはり別のところから素材を持ってきて、はめ込んで少し豪華に見せてたりということもあります。あとは細かく崩れるのを小さくして入れるとスケール感が出るので結構やってます。


岩出:
なるほど。その辺も馴染みがいいような素材を橋本さんの方で描かれているんですか?

橋本:
はい。岩出:
次に行きましょう。アニメはやはりコマで考えますが、ゲームはどうしてもリアルタイムで流れていく時間の中で作っていきます。その部分の違いを踏まえて、アニメ的にコマで考えたときにタイミングを取るやり方を教えてもらえればと思います。アニメ業界の人には初歩的かもしれないですが、例えばボールが弾む際に「どこと、どこを絵にすることで動きが出てくるか」みたいな。

橋本:
アバウトな言い方だと時間の曲線をずらすというか、要するに本来のタイミングは「ギュッ、ドカーン」で行く。1、2、3、4、5……となるのを、この絵を見せたいから、ここをためて、その次の部分の中を抜く、というようなことなのかなと思います。


岩出:
すみません、例えばボールが落ちて、弾むとした場合にリニアな例と、あるいは橋本流ですと、この辺を刻むみたいなことを?

橋本:
時間曲線ということですかね。ボール?

岩出:
はい、そうです。

橋本:
なんて言うんでしょうかね。少し話しがそれるかもしれないですけど、実写を切っていく……。


岩出:
ああ、リニアに。

橋本:
それをリニアに切っていくと、どうしても絵の位置が中途半端になったりします。先人に教わったのは、例えばボールがこう落ちる動きがあって、跳ねる動きがある、それを時間軸で切っていくとどうしても、ボールがこの辺りだったりするときがあるんです。次の跳ねた時もこの辺だったり。それを昔から言われてるアニメーションでは、ここの距離が短くなるとあまり跳ねた感じがしない、と。だからこれの次にもう跳ねた絵の方がよかったりするということです。

あとは、何て言ったらいいか、人を殴るというか「あしたのジョー」的な感じです。


岩出:
あしたのジョー的な(笑)

橋本:
見えない絵を見せるみたいな流れになると思いますが、パンチを人に繰り出すときに、こう顔があるとパンチがこうあって、むぎゅっとなると。
でもこの絵を入れるか、入れないかで相手に対する手の痛さが分かったり、分からなかったりする。なんて説明したらいいんでしょうね(笑)

岩出:
その絵が必要ということなんですよね。

橋本:
当たった痛さを分からせるためにはこの絵が必要ですし、逆に手の早さを見せるためにはこの絵は必要ではなかったりします。絵で描くより、実際にやった方がいいですね。だからこうやって……殴っちゃっていいんですかね(笑)


岩出:
私は殴るゲーム業界ネタがあるんですけど(笑)

橋本:
こうやって、これやるとやはり痛く見えるんです。だから最近、テレビの「NARUTO」だと、ここからパッとやると、ここでぐにょーっという絵があってから、ここに戻ったりする。そうすると表情も分かるし、痛さも分かる。でもそれが超人的な早さだったりすると、ブルース・リーの腹をクッとやると人がすっ飛ぶという絵がありますが、当たった絵がない。ないけど、相手の反射によって動いているように見えるというか、力の強さが分かるというか、そういう描写になります。

岩出:
この状態で、次もこの状態なんだけど、相手は飛んでいるみたいな感じですか?


橋本:
そこにテクニックとして先ほど言ったようなタッチみたいなものを入れます。例えばこれの次の絵には何かぶれているような絵を入れる。そのときにはもう、キャラクターが飛んでいるという。そうするともっと力が強くみえたりするテクニックはあります。


岩出:
どうしてもゲームだと、特定の瞬間の絵を見せたくても、計算で全部やっているのでそれができないということがあります。

橋本:
そこから逆算して作っていくということはできないんですか?


岩出:
うーん。

橋本:
アニメでは、「最後の爆発のこの絵を見せたい」というのがあると、それを逆手にとって時間軸を逆回しのように原画を描いていくやり方があるんです。そうすると、例えばいらない絵、いらないコマを描かなくてもよくなって、絵の収まりがちゃんとそこにできます。

岩出:
そうですね。アニメのその辺りをゲームでも役立てられればと考えていましたが、それができる環境が作れればいいかと思います。例えば爆発に関して、普通に爆発させると破片はリニアに飛んでいきますが、あるコマがすごくかっこいい破片になったらそこが長く映るようになったり、爆発直後に絵がその状態になって、あとはゆっくり広がっていくだけ、という絵を意図的に作るツールだったり。プログラマーに相談しようと思いますが。


橋本:
「スカイ・クロラ」でやったように、3Dの中に手書きを混ぜても全然構わないと思うんです。それにリニアの計算で破片を入れていたけど、途中までしか見えていなくて次にはアウトしてしまうものを、わざと画面に引っかけて印象に残したり、というのは手で描くことでできると思います。また、時間曲線の違うものを、例えば爆発でグアーッと1秒で動くものの中に、違う計算で18コマで動くものを1秒に伸ばして入れたりと。要は時間の流れが違うものを同じ空間にはめ込んでしまう。そういうことをすると「あれ?」と思いますね。

岩出:
引っかかりができるということですか。

橋本:
そうです。いつ見ても3Dで思うのはそこのところです。画面があまりにもきれいに動きすぎていて引っかからない。だから「あれ?」と思う部分をどうやって入れるのかというと、わざと置くか、わざと伸ばすか、わざと時間の違うものをはめ込むか、ということになりますかね。


岩出:
その辺のウソのつき方は、ゲームで可能なことがかなり制限されているので難しさもあるかもしれません。でもアニメがやっているように、「ここは時間を早めた方がかっこいいかな」と思って同じ爆発でも自由自在に間を抜いたり伸ばしたりしているのを、ゲームでも自由にやれる方法を考えていければと思います。CG業界の方からも最近伺ったんですが、CGの爆発や液体、波などに関しても、コマを詰めたり伸ばしたりが自由にやれているようで、実はやれていないのはゲームだけなのかな、という気もします。

橋本:
確かにリアルタイムで動く空間の中に異質なものを入れるのはなかなかむずかしいと思います。


岩出:
ゲーム全体ですと、よくできた格闘ゲームなどでは、当たった瞬間に少しゆっくりになってその後バーンと飛ぶような表現はできてはいますね。

橋本:
気持ちのいい感じで。

岩出:
そうですね。タブが止まった瞬間にエフェクトがきれいなシルエットに出るように調整している感じはあるので、もしかするとその辺りが突破口になってくるかもしれません。

などと言っている間に、そろそろですね。前半はトピックを3つほどやりましたが、後半は前半に1つ漏れてしまったものがあったので、そちらのお話を引き続き聞きつつ、ゲーム業界とアニメ業界での違いをもう少しクローズアップきればと思います。また橋本さんがアニメとゲームとCG、デジタルアニメと出会った最初の頃の苦労など、おもしろい話が聞けたらと思います。前半は以上になります。後半もよろしくお願いします。


橋本:
よろしくお願いします。お疲れ様です。<休憩>


◆『アニメのエフェクト、ゲームのエフェクト』 ~後篇~ (12:20~13:20)

岩出:
それでは「アニメのエフェクト、ゲームのエフェクト」の後半を始めます。前半はレクチャー的な部分も多かったのですが、後半は「アニメに対してゲームだとこう」という話も少し交えられればと思います。最初は「デジタルアニメーションの時代になって橋本さんらが築き上げてきた、エフェクトにおけるデジタルと作画の融合の黎明期」的なお話しいただければと思います。「スチームボーイ」や「鴉 -KARAS-」などが、私の知る限りでは、その辺の最初の時期の作品になるかと思います。


橋本:
そうですね。実は「スチームボーイ」の前にも、15年くらい前からになりますが「3Dのアニメーションの人たちが手描きアニメ的なものをやりたいから、それをラフ原画で描いて下さい」という仕事がずいぶん出てきてました。とあるシリーズもののロボットのラフ原画を描いていて、チェックは何度かしたんですが、その中で「ん?」と思ったことがありました。

自分の「誇張した動き」や「中を抜いたタイミングの動き」をそのままちゃんと表現できる人、要するに「『勇者シリーズ』みたいな動きにしてほしい」と言われて、そのケレン味のある動き、誇張のある動きを3Dで表現できる人と、自分の中で勝手に組み替え直して、私の描いたものとはまったく違うものを作ってそれでもうまい人と、言葉を悪くすると「うん?これはどうみても違うんじゃないか」というタイミングの人がいるんだなということが分かったんです。

チャレンジする人でこっちに寄って来てくれる人もいるし、またチャレンジしない人というか、やはりアニメ業界でもそうですけど、保守的な人もいると。その差を自分は面白いなと思ったんです。その流れで「スチームボーイ」という仕事が来ました。結局「スチームボーイ」ではエフェクトは全部手描きでしたね。


岩出:
「スチームボーイ」は蒸気がすごく特徴的です。メイキングを見たこともありますが、やはりデジタルの撮影が工程にがっちり入ってくるようになったときに、それに合わせた絵を考えていかなければならなかったんだろうと感じました。

橋本:
セルアニメーションの中では、エアブラシと塗ったセルの部分を透過させることによって蒸気を表現してきました。それをデジタルで新しいものを作ろうと、大友さんの最初の絵コンテをいただいてから1年間くらいずっと半本番、半テストみたいなことをやっていました。作品全体に8年掛かりましたが、その中で3年目くらいにやっと蒸気の形の完成型がカキッときた感じです。その間にはずいぶん試行錯誤しました。それがゲームの仕事に使えるかどうかは分かりませんが。

岩出:
でも単純に見てみたいです。それを見た方たちがどう生かすかを私が考えてしまったらもったいないと思いますし、実際メイキングを見たときに「あ、こうきたか」というものが正直あったので、よろしければどのようにあの蒸気が生まれていったのか教えていただければと思います。

橋本:
描きながら話すのもあれですが、疲れて仕事をしているときに自分の描いた絵が何となく蒸気に見えてきた、ということがある日の時点でありました。


岩出:
目がかすんで、みたいな感じですか。

橋本:
今までは吹き出しからの煙というのは、アニメーションではこんな風に描いていました。プヒューと出てモコモコモコと。これをデジタルでぼかしていくと、結局ここの部分が前後を全部食い合うというか、背景とセルの部分に浸食し合ってしまうわけです。


岩出:
これを普通にぼかすと、ということですか?

橋本:
そうです。そうするとこの完成画面が全体的にモヨモヨモヨンとなってしまうんです。


岩出:
ディテールが死んでしまうみたいな。


橋本:
甘くなってしまうんですね。これをどうしようかという話と、あとはリアルな蒸気を作るのにはどうするか。


まず蒸気の作り方で考えたのは、煙が吹き出しから出て行って消えるまでの間に、何発も何発も蒸気が出ていくので、ピュッと出て消えていくものを1つのレイヤーの中に10個くらい重ねるということです。1つの画面の中にそれを10個くらい重ねて、常に出ているものと消えているものを混在させることを考えたんですが、それだけで1カット200~300枚掛かってしまうことになりました。実際「スチームボーイ」は全部で10数万枚掛かったんですが、このまま行くと20万枚以上を超えるんじゃないかという。

そこで素材集を見てみると、煙は中にいっぱい渦を巻くものがあるわけです。これを輪郭で描いて、中素材にいちいちクルクルクルとちぎれながら回るものを10個くらい描いて、輪郭の中に素材として入れ込むと奥行きが出るんじゃないか、とかいろいろやってみました。それでもやはり枚数がいってしまう。


結局のところ、さっきの話に戻りますが、寝ているときに描いた絵が、こう適当に爆発みたいに描けてたんです。眠くて眠くてしょうがないときにこれを見たら、ここがいい具合に目のかすみと相まって、こうギザギザギザと描いたものが煙っぽくフラクタルな感じに見えました。それにプラスして、実際のところ昔の先人たちの考えた煙というのはこう描いて、必ずこう影を落とします。でも影を落として、それを透けさせるということは、そこの部分はかなり透過率が高くて色が薄くなっていく。そして白い部分が色濃くなるので、そういう描き方ではないんじゃないかと。そこから中素材というものを考えたんです。いろいろ複雑ことばかりですみません(笑)


岩出:
いやいや、3年掛かったというお話ですから。

橋本:
もう、実に3年くらい掛かりました。結局こうギザギザ描くというところまで。


岩出:
フラクタル模様みたいな。

橋本:
そうです。あるとき突然思いついたフラクタルで、全部、四角というかトゲがあるような感じで描く。そして今言った透け具合のバランスを変えてここのところの輪郭を暗く、内側を明るく塗ります。そうするとこのように、目を細めてみると分かると思いますが、両方が浸食されて、ぼかされていい具合になります。当時画期的だと思ってこれを開発したら案の定、各業界がいろいろマネしまして「やったぞ!」と思ったりしました。


岩出:
やはり反響は、試さないと絶対に出てこないものですからね。

橋本:
同時期に別の作品でリアルな映像を作ろうとしたのが、Production I.Gが出した「BLOOD」という作品です。その「BLOOD」でも、蒸気や煙をいかにリアルにするかを試行錯誤してたみたいです。制作状況のテキストをいただいて見たら、撮影監督がかなりCGに詳しい方で、CGの煙はメタボールで、丸の連携の形で煙を作っていたんです。

岩出:
それを「どれくらいボケさせるか」みたいなパラメーターで最終的に形にする、という感じですね。

橋本:
これを実は作画でやっていました。当時、驚いたのは普通は煙がモコモコモコと描くものをですね、全部丸で、こういう風に原画を描いていたということです。


岩出:
1つずつ描くんですね。

橋本:
丸描いてましたね。「ここまでやるならCGでいいじゃないか」と逆に思いましたけど。でもこれには売りが結構あって、さっき「中素材」と言いましたが、二重にエフェクトの中に線を描かなければいけないところが、これは目を細めると補完というか、間の部分は後ろが透けるような素材になっているんです。周りもボケるから、結局はムラのある素材がなくても、全部ムラのある感じになるのが利点です。

岩出:
密集した作画がされているところが濃くなると。

橋本:
でもやはり、後でやった作画監督とかに聞いたら「これはもう人間のやる作業じゃない」と。


岩出:
CGの手で描くべきだと。

橋本:
どう見ても。後は何が辛いというと、手でひたすら丸を描き続けているのは、要するに絵を描いているような描写にならないわけです。だからそういうのが面白いと。自分の「スチームボーイ」とこれを融合させて、面白いことができないかなと思いました。それからテレビシリーズをいろいろやったり、ヱヴァンゲリヲンやハウルをやったりしたんですが、その中で両方のいいとこ取りをしようじゃないかと。中素材を二重にするのも、やはり分かっている人にしかできない。画面の作りができないので。


今、私の中で主流は「いばらの王」という作品で、やはり蒸気を描いたりしました。予告編をみるとかなり蒸気が出てますね。またあれもCGじゃないかと言われたんですが、全部自分で描いています。丸はすごく描きづらいので、手でつぶしたような四角にしていきました。これをやるとボカしたいところが全部ボケていって、筋のところはしっかり見える感じになります。


「いばらの王」ストーリーガイド - YouTube


いろんな会社で自分の理想の画面を作りたいときに、同じように「スチームボーイ」みたいなことをやっても、極端な話、濃い色で塗られて、蒸気の芯の部分が影になって暗くなってしまったり、芯がないような煙になってしまったりするんです。だからといって、いちいちテキストを配ってもしょうがないので、なるべく誰でもできるようなエフェクトにしようかなと思っています。

岩出:
確かに、ボケ具合や透け具合を別にうまく指定するのはなかなか難しいですね。

橋本:
そうですね。濃さにしても「スチームボーイ」では「ボケボケ」とか「スケスケ」とか「ボケボケスケスケ大ボケ」とか、そう言うと現場の人たちはそれで「ああ、じゃあ今回のガスは小ボケですね」と分かるんです。でもやはりそれは他社ではなかなか通じなかったりします。蒸気に関してはそんな感じです。


岩出:
現場の方とかなり近いところで仕事をされている感じですね。

橋本:
「スチームボーイ」に限っては同じすごく広い1フロアの中で、監督以下美術さんも撮影さんも全部いたので、何かというと「橋本さん、この子のボケどうですか」と。それで「もっとボケてくれ」とか(笑)

岩出:
ツッコミが欲しくなりますね(笑)


橋本:
そうそう。「もうちょっとボカさないで」とか、そんな感じです。だから7段階から8段階くらいのボケ具合をだんだん向こうも慣れてきて「ちょっと小ボケ」と上に描いただけで、うまくボカしてもらったりとか。

岩出:
「鴉 -KARAS-」でもやはり橋本さんはかなり現場に近いという話を聞きました。3Dで動くものにまるまるマッチするものを手描きで付けたという話ですが。

【PV】鴉-KARAS- Full Episode Edition(KARAS Trailer 03) - YouTube


橋本:
「鴉 -KARAS-」は絵コンテをそのまま3Dの方々に投げました。最初、全シリーズの6話中3話くらいまでは自分がラフ原を描いたんですが、前半で話したとおり、3Dの質感が高いと自分の2D的なタイミングよりやや遅い方が、動きが軽くならずマッチングすることが分かりました。私の立場は特技監督といって、3Dと2Dのエフェクト作画の橋渡しみたいな仕事をしていました。ラフはカメラに対する絵の置き方などを示す意味はありますが、シートを描いてもあまり意味がないかなと思って、絵コンテをそのまま監督さんが直接渡して、その後で自分は1日の半分は3Dの方に行ってチェックをしていました。

楽しい現場でしたけど、最初はみんな好き勝手過ぎて、例えばイマジナリーラインなどを無視したものが上がってきたりもしていましたが、だんだん「橋本はどういうものが好みだ」とか「監督がどういうものを要求しているのか」という辺りは何となく流れで分かってよくなってきた感じです。


なぜ自分が特技監督になったかというと、例えば3Dが動くところで肩が壊れるとか、血がビュッと飛び出るとか、カット内で「目玉を妖怪が突き刺されたら、その目玉をどうしよう」とかは全然3Dでできると思いますが、「鴉 -KARAS-」の短いスケジュールではできなかったんです。なので、絵コンテで要求されたものを自分の頭の中で構築して、本来だったら画面内で妖怪が、カメラの中で真っ直ぐいなければいけないのを「ここの目が取れて、血がピューッとなる」というのを自分の中で想定して、フレームをここじゃなくてもっとこっちにして作ってみたり、ということをしました。


岩出:
レイアウトの時点ですね。

橋本:
そうですね。レイアウトというかモーション付けの時点です。

岩出:
「少し、左に寄せるようにしてくれ」と言って「俺があとでここに描くんでよろしく」みたいな。


橋本:
そんな作業をしていました。先ほど画面の引っかけと言いましたが、なるべく3D的な時間曲線ではない形で表現しようとしました。例えば目玉がポンと飛ぶとしましょう。これが1で、次が時間の曲線だとすると、流れで加速していくとこうなんです。でも画面の中で魅せるためには、それよりここに絵が欲しいということになる。


岩出:
まあ、消えちゃうわけですから。

橋本:
なので、そのための逆算で自分が絵と3Dをやったんです。「鴉 -KARAS-」で大変だったのはカメラが本当に3D空間をぐるぐる回るんです。その中でも一番大変だったのが5話で、モンスターが岩をグワーッと砕きながら地面から上がってきて、そこに刀を突き刺したキャラクタがーがしがみついていつつ、カメラはぐるぐる回って、しかも血しぶきがいっぱい飛ぶんです。で、上がってきたものは3Dの部分と、素体として等身3個くらい3Dがポイッと置いてある感じなんですが、それを全部手で描くという。しかもここから血があふれて体についているのも手で描いてくれと(笑)

岩出:
3Dモデルの表面を流れる血を手書きで(笑)

橋本:
貼り付けてそのままはできるんですけど、このドクドク流れたりするのは少し難しいので、小さいビデオを見ながらコマ送りにしたりと。

岩出:
絵で描く方ができないという話ですね。


橋本:
そんな感じです。

岩出:
今の話を聞いて思ったのは、新しい技術が出てくる現場というのは、橋本さんのような立場の方と3Dやデジタル撮影をやる方々が密に連絡を取り合って試行錯誤できるということが共通点かなと思いました。

橋本:
これを踏襲して、何ができるか、どうやればやりやすいかというところで、空間にゲージを作ってもらうのが分かりやすいかなとか思ったんです。その後でこれを見た人たちから頼まれた仕事がカップヌードルの「FREEDOM」というシリーズです。あれも3D的にぐるぐるカメラが回ったりして、BGが宇宙だったりするとまったく分からないので、空間にフィートのメモリをXZY軸に全部作ってもらって、そこに1、2、3、と全部数字を振ってそれをこう全部ゲージを描いてやってもらいました。


[CM] 宇多田ヒカル 「Kiss & Cry」 FREEDOM CM 04.20.2007 - YouTube


岩出:
3DCGの空間の中にゲージみたいな置いたのを見てながら、ということですか。

橋本:
それだけだと分からないので、DVDに焼いたものをもらって、コマ送りにしながら。

岩出:
映像を見つつ。

橋本:
はい。

岩出:
ガンダムユニコーン」の作成事例も見たんですが、最近はどういう風に動いているのかを伝えるのが重要というお話をされてましたね。

橋本:
そうですね。「スカイ・クロラ」という仕事もやはりこれの延長線上だったんです。初号のあとに「橋本はどこを原画したんだ」と日本の某トップアニメーターに言われて、ちょっと落ち込んだりしました。

スカイ・クロラ The Sky Crawlers 予告編 - YouTube


岩出:
それはうまくはまっていたということですか?

橋本:
ええ。タイトルには原画としてではなくCG班の方の作画として名前を載せたので、そもそも自分の名前がどこにあるのか分からなかったんです。あとは自分の描いたものが3Dにマッチングがいいので、まったく画面では分からなかったという感じです。「スカイ・クロラ」の仕事は、最初は全部3Dで爆発やら破片やら作る予定だったんです。でも、やはり血しぶきとか、爆発の火花とか、細かい破片とか、そういうものが3Dでは表現しきれていないと某監督さんが言われて、それで急きょ呼び出しを食らって「FREEDOMとかやってるんだろ、知ってるよ」という話になりました。

あれが今までと違うのは、もう3Dの方は結構完成形に近い形で、画面動も全部入っている。ようするに完成の絵だったんです。画面動とか入るとそもそも作画の中の軌道ゲージとか作れないんですが、それをやってくれと言われました。それも本当にコマ送りしながら。あれはまったく空戦なので、BGが空なんです。


なので飛行機がこう飛んでいるんだけど、空に描いてある雲の小さい傷みたいなものが画面内で何ミリどこに動いているかをこちらのモニターで物差しで計って「はい1コマ」、カチと送ったら「あ、2ミリだ」ということをやります。


画面動があるから、次はこの点が本来ならこう動くんですが、ぶれているからこうなって動かないんです。でもこの3D空間上では、物理法則に則った動きにしないといけないので、もう大変でした。手前に来る破片を描くにしても、この破片が本来だったらこうなるものを、間の絵が画面動でカメラが全体ぶれていたりするんで少し上で描いたり、下で描いたり。

岩出:
シェイクですかね。

橋本
そうすると破片を拡大するとですね、こういう破片があったら、次はわざとこういう風にずらして描いたりですね。

岩出:
確かに細かい動きになってくると、どうしても。

橋本:
だから誰も作画をしたと気づいてくれなくて。


音響はハリウッドに持って行ったらしいんですが、当然絵もジョージ・ルーカスのスカイウォーカー・サウンドの実写のスタッフも見に来ていたようなのですが、行った人たち聞いたのが「どうやったらこんなソフトが開発できるんだ」と。

岩出:
こういう破片を出すための(笑)

橋本:
そう。「どういうソフトで、この動きができているんだ」と。「それは橋本が描いている」と言ったら「Ohhh!」と言ってくれました。日本ではまったく誰も気づきませんでしたが、向こうの人に褒められて、私はその現場にいませんでしたがうれしかったです。このときの破片も画面に引っかける感じでやりましたね。


岩出:
かっこよかったのは、それを考えた上で計算された破片だったからという。

橋本:
本来だったら時間曲線と破片の曲線をだんだん加速していくんですが、それをわざと時間の流れの中でこっちに詰めて、こう行く。それで、この絵をここに引っかけるというか、ここでためて手前にキュッと飛ばせると自分的に気持ちいい動きなので、その時間と絵の伸ばし方を考えつつやりました。分かる人だけ分かってくれればいいんですが、日本の素晴らしいアニメーターの大先輩に「橋本どこやったの」と言われたときは、IMAGICAからうなだれて帰りました。

岩出:
実際に拝見しましたけど、リアルなだけじゃなくて「かっこいい」という部分が確実にありました。


橋本:
3Dはかなりかっこいいんですが、細かい破片の操作や細かい火花の操作はやはり難しいです。あとは物が突然割れて壊れるとか。この前、某3Dアニメーションのプロモーションを見たら、地面が割れるんですが、割れる前からよく見るとヒビが入ってたりしました。アニメで言うと、人が歩く後ろの崖の岩が既にセルになっていて「落っこちるぞ」みたいな感じですね。

岩出:
「崩れるー!」みたいな(笑)

橋本:
そういうところは難しいのかなと思ったりしますね。

岩出:
ゲームでは計算で作らざるを得ない以上、どうしても引っかけなどはできないですし、場合によっては毎回ランダムに結果が変わってしまう場合もあるので、その辺は難しいですね。でも、イベントシーンのように、どこからでも見えるという場面でなければ、最終的に画面からどう出て行くかを計算した上で作ったり、あとはアニメの方の奥がゆっくり、手前が早くみたいなのを組み合わせることはできそうですね。

橋本:
「鴉 -KARAS-」のときも、「画面パンチ」みたいなものがありました。


岩出:
画面パンチ?

橋本:
画面パンチって分かりますかね。こうカメラにパンチするみたいな動きです。でもその動きがなかなかうまくできなかったので、3Dまでは手を上げるところまで作ってもらって「腕から先はモデルは作らなくていい」と。そこから先は全部セルに置き換えして、セル的な誇張を画面に入れました。3Dはこうなった後はキャラクターの手がなくて、ずっと引いていくだけで、セルの部分はグワッとためていくみたいな。


岩出:
そこは体が動いているのを見た後に描き加えていく感じでしょうか。


橋本:
そうですね。3Dは何となくラフを作ってもらったのがあるので、そこにもう少しアニメ的な伸び縮みの誇張したものを入れます。

岩出:
ゲームですと、その辺の誇張はスケールを掛けて、手前に来たものを大きくするみたいな表現をやっているものもあります。「奥ゆっくり手前早く」みたいなものはどうしても手で調整していかなければいけない部分もありますから。


橋本:
まあ、感覚ですからね。岩出:
今回のアニメでのそうしたテクニックを聞いた上で、シーンを作る際はすごく生かせる部分だと思います。貴重な話ありがとうございました。

「ゲームとアニメの違う部分」をここでいくつか私の方から話させていただきます。アニメのいい話ばかり聞いてても……というのがあるので。


橋本:
はい、どうぞ。

岩出:
その上で、それを解決する方法はないのかをみなさんと一緒に考えていければいいかなと。ゲームに関してはどうしても「360度どこからでも見られてしまう」という部分がアニメとは違う苦労のポイントだと思います。もちろんイベントシーンなどではあまり問題にはなりませんが、爆発の奥や手前と言っても見る方向が変わると全然別ものになったりします。その辺を踏まえて「3Dでありつつ、演出込み」というものを作る方向を考えていきたいです。


あとこれは悪いというか、いい部分でもあるんですが「プレイヤーの操作に対応して動きが発生する」ことがゲームのエフェクトの追求しなければならない方向性です。それができているからこそすごく気持ちのいいものになるので、そこもうまくアニメのノウハウと絡めていくことができればと思います。

橋本:
実はアニメーションというのは見た目の絵だけが勝負になるので、あまり3D的なことは考えなくてもいいんです。自分が3Dを見て「うぅん?」と思うことが、結構リアルなゲームなどで出てきています。多分、ゲームを作っている方々はYouTubeで軍事演習や本物の映像を見たり、例えば銃だったら本物の銃のレクチャーを受けに行って、実弾撃ってこんな動きだとかやったりしていると思うんです。すごくかっこいいし、リアルだとも思うんですが、いかんせんそれはリアルに行けば行くほど、ウソをついている部分が画面の中でばれてしまうんです。


いつも気になっているのは、爆発があるじゃないですか。例えば手前からババババと撃つ。壁に穴が空く。その穴が空く破片とかはよしとしても、そこに立つ煙とか常に同じようで。

「いばらの王」でも着弾シーンをやったことがあるんです。壊れるものを全部作画で描いて、さすがにいちいち煙が上がるのはそんなにできないのですが、アニメでやるときには必ず3パターンくらい作ってそれを大きくしたり小さくしたりします。素材によっては3パターン描いても裏返せば6パターンになるので、それプラス、上下を変えたりするといろいろなバリエーションをつけます。


でも、例えば3Dだと3D的な爆発の素材がゴンッと1つある。それを少し変えていけばもう少しバリエーションができるのになと。自分は実写を見るときもそういうところばかり見てしまうので、ハリウッド映画でも「あそこの煙もう少し上がらないのかな。もっとかっこいいのにな」とか、「なんでこっちの場所に干渉しないのかな」とか、「こっちのところに光の照り返しが入らないのかな」とか考えてしまいます。みんな肝心なところを画面動でドカーンとごまかしたりして、それはいかがなものでしょう?


岩出:
そうですねえ……。

橋本:
いかがなものでしょうなんて言うのはあれですが。確かにゲームのプレイヤーの人たちは、そこまで見ていないのかもしれないですし、肝心なところはそこじゃないのかもしれないですけど、でもそこの部分も大事だったりするんじゃないかと。

岩出:
いや、エフェクトの人間としては、やはりそこまでやれればというのはあります。ゲームのジャンルにも寄るのかもしれませんが、いつどんなタイミングで出るのか分からないものにコストをどこまで割くか、という話になってしまうんです。まあ、何パターンかを作って、それをゲームのデータの中に格納していく余裕があれば、ある程度は用意できるかもしれません。でもそれが後回しになってしまう部分だと、場合によっては削られてしまったりと。

橋本:
もちろん格闘ゲームや、FFなどは違いますが、リアル戦闘ゲームの中でのものやリアル実写合成のものなどのスケール感という部分ですかね。


岩出:
その辺は耳に痛いところですね。


橋本さんや私の方でいろいろ話してしまっている部分もありますが、最初に説明したように、今の話を聞いて「私だったらこういう風に生かす」という部分でしたり、橋本さんに何か聞いてみたいこと、あるいは橋本さんが関わられた作品で「この辺が気になったんですけど、実際はどうでしたか」というようなことでも、何でもいいので質疑応答の時間を取らせてい
ただこうと思います。

橋本:
もう1個補足をいいですか?

岩出:
ぜひぜひ。

橋本:
すみません。火花のことなんですが、これは自分に限ってかもしれませんが、時間曲線で広がるものにランダムなものを混ぜていくということを結構しているんです。ゲームなどの3Dで作る火花の中にも手描きのものをブレンドしていけば、ほんの少しいじるだけでリアルになるんじゃないのかなと。


というのは、これもまた描いた方がいいのかしれないですが、要するに人間の目は大きく動いたり、速く動くものに目が行くんです。なので、これはよく私が描く火花なんですが、例えば右から左に流れて消えるものがあるとすると、こう小さな火花と大きな火花をこう描くんです。


次にこういう大きいものだけとりあえずやって、小さいものはランダムに。本当に原画もこのくらいのペースでやっているんです。

で、ビュッとこう入れてみると、これが1コマだけあって次のコマでなくなっている。本来だったらインがあって、真ん中があって、アウトがあるものですが、1コマだけあっても流れで分かるんです。それプラス、こう大きなものの流れさえしっかりしていれば、細かいものは結構、適当にやってもなんとなく流れて見えるんです。その中でかなり酔っ払って描いたり、左手で描いたり、子供に描かせたりとかしてます。「一本線を描いてごらん」とやって「はーい」と。


岩出:
本当ですか(笑)

橋本:
「これもかっこいいから使いましょう」となりますよ。3D的なものでは、「規則正しく1つ1つが出て消える」感じになってしまうんです。だからその流れの中に、例えばビュッビュッというのを入れてみたり、または最初の話のように時間曲線の違うものを混ぜてみてミックスすることで新しいものが出てくるんじゃないかといつも思っています。

これは手抜きで効果的に見える技法で、本来だったら全部その点を1個1個追わなければいけないものを、何本かの流れによって、全体の流れをみせるというものです。あとは絵のバランスで、この4つに切った空間の中の点の配置をうまい具合に美的意識で考えてというようなことでしょうか。


岩出:
その辺は、ツールで出したもので作れてしまう弱点ですね。

橋本:
そこにこだわる必要はないのかもしれませんが。

岩出:
それを一段上に上げるためにはどうすればいいか、という意味ですごくいいヒントになりましたので、これを生かしていければと思います。

橋本:
よろしくお願いします。

岩出:
というところで、こういうノウハウとかいくらでも拾えるかと思いますので、もし質問等ありましたら、よろしくお願いします。


質問者1:
アニメーションには「エフェクトがメインになっているシーン」と「エフェクトに対してキャラクターのリアクションが主になっているシーン」があると思います。エフェクトが主流になっているところは、先にエフェクトの絵が先に来る感じでやっているのでしょうか。それともキャラクターが先に動いているところが描かれて、それに合わせて作る感じでしょうか?

橋本:
アニメーションのカットの流れは、まず絵コンテに沿って基本的に同じ方がエフェクトもカットも描きます。その後に来る私たち作画監督、絵の監督の作業では、まず作画監督が先にキャラクターを絵に入れて、その後で私です。なるべくキャラクターを見せてあげたいという思いがあるので、キャラメインという感じです。


ただ、その中でエフェクトがおざなりになるのは非常にもったいないと思うので、キャラクターを一応引き立たせつつ、サブのエフェクトはそれなりに個性を出して、クセというか、自己主張するようなものを目指しています。

例えば爆発をよけながらキャラクターが走って逃げるとしたら、爆発が全部かぶっちゃったらいけないんですが、体の一部だったら全然問題ないんです。それによってやはり絵にもっと危機感や臨場感が出たりしますから。その中でも顔の一部だったらいいけれど、目は隠しちゃダメだったりするので、顔に爆発が掛かっても必ず目のところだけは開けてみたり、ということにはやはり気を遣っています。

質問者1:
あと爆発という話が出たのでお聞きしたいのですが、エフェクトは大概において力の向きというか、爆発のこの辺りは外側に向けての力が大きいけれど、この辺りは障害物があるのであまり、といった場所もあると思うんですが、そうなったときは、そのやり方だと「キャラクターの絵に合わせて、この辺は強めに描いて、この辺は少し抜いて」というようなやり方でやってらっしゃいますか。


橋本:
まさにそうかもしれないです。あと時間を逆に描くと先ほど言いましたが「キャラクターのこのポーズのときにこの爆発のこのフォルムが欲しい」といったら、まずそこから描いて逆算して持って行くということは結構やっています。

質問者1:
なるほど。ではエフェクトを作っている側からして「このエフェクトはここの力が強いから、むしろキャラクターにはこういう風に動いて欲しいな」みたいな場合もあったりするんでしょうか?

橋本:
えっとですね、力関係がありまして(笑)例えばヱヴァンゲリヲンだったら「シンジ君にこう動いて欲しい」と思っても、言うことを聞かないと思うので、それに沿ったエフェクトを張るようにします。あと実はエフェクトアニメーションとかメカニックアニメーションの作画監督という呼称が出てきたのもここ10年とか15年の間で、やはりアニメーション業界の流れはキャラクターアニメーションありきなんです。予算の問題もありますのでそこに人件費を割くよりは、あわよくばキャラクターをやる人もエフェクトも一緒にやって欲しいということになっちゃいます。そうするとキャラクターの方に力を入れて、エフェクトは後回しになるんですね。力関係と言いましたけど、やはり業界的な力関係はキャラクターありきです。


例えばキャラクターに「そこのシーンでよけて欲しい」という話になると演出論になってくるので、演出さんとあらかじめそのカットを作る前段階で打ち合わせをしたりしますが、やはりキャラクターメインになります。「キャラクターがこういう演技をするから爆発は追っかけて欲しい」とか。「爆発はこうだからキャラクターはこう」とは逆にならないと思います。

質問者1:
分かりました。ありがとうございます。

岩出:
他にありますか?

質問者2:
少し本講演とはずれてしまうのかもしれませんが。エフェクトの動きやモーションの話で、人にモーションを教えるときに、先ほども出ましたが「気持ちいい動き」とありました。「ここでフレームは切れた方がいい」とか「ここは中抜きした方がいい」というのを教えていますが、その「気持ちいい」という感覚の基本になるものが、そのクリエーターによって結構違うと思います。


自分は「これが気持ちいい」と感じていて、相手が出したものを「気持ちいい」とは感じないけど、でも「向こうは気持ちいいのかな?」と思うことがあったりと、モーションの動きはテンプレート化されてないんです。それに関してアニメは「これを参考にしろ」みたいな話やテンプレートはあるんでしょうかね?それとも本当に延々とやり続けることで「この監督はこういう動きが気持ちいいんだな」という話になるんでしょうか?

橋本:
後者でもあるし、前者でもあります。自分は音楽聞きながら仕事をしているんですが、リズムで話しが通じる人には、結構同じような気持ちよさが通じると思います。例えば爆発だと「ドカーン」じゃなくて「グッグッグッ、ガーン」だったり「グッガーン」とか。人によってはリズムで打ち合わせをする人がいます。例えばパンチだと「グッ、パン」とか「グ、ガン」とか、それだけで何となく感じが分かるし「多分、このグッのところが1コマで中割が入って、ガーンのところは1コマ中位置で、あと中抜いて、最後は3コマ、4コマでためていくんだな」とか、そういう共有できる人とはやはり合いますね。


テンプレというのは確かにないのかもしれませんが、だいたいどの業界でもそうだと思いますが、優秀作品みたいなものがあります。「この優秀作品のこの爆発な感じ」とか。あと自分がよく打ち合わせで話をするのは実写の映画の「あのシーンの、あの爆発」とか「あのシーンの、あの波をもう1.3倍速い」とか「頭の方を少し抜いた感じに」という感じです。エヴァの庵野さんも打ち合わせでは、いつもそうらしいです。

岩出:
ウルトラマンみたいな(笑)

橋本:
「ウルトラマンの何話の、何話のあの光」とか、「あの怪獣のあの歩き」とか。そんな打ち合わせだったりするので、それがちゃんと共有できるかですよね。もちろん共有してもらうだけじゃなくて、自分がちゃんと努力して、そういう映像をたくさん見ることが大切です。別に自分もアニメーターだからって、アニメだけ見てるわけじゃなくて、そういう実写の自然物やらなんやらを見てますし、そこにはいろんな発見があって、その中で「じゃあ何が気持ちいいのか」と考えます。

「気持ち悪い」と言う人ももしかしたらいるかもしれませんが、やはりみなさんの気持ちは9割方、8割方、同じような感覚で気持ちいいと感じてくれると思います。そこから先の部分は趣味であり、本人の感覚だったりすると思うんです。自分としては「じゃあ、1割落として9割の段階で全員気持ちいいにする」か、もう1割足して「『うわぁすごく気持ちいい』と思わせるけれど、気持ち悪いと言う人も出てくる」か、どちらを取るかといえば、気持ち悪いと言う人がいたとしても、それは逆な褒め言葉だと思って「もう少し上を上を」とやっていった方がいいといつも思ってます。

質問者2:
私も教えるときに、擬音になってしまうんですけど。

橋本:
擬音はいいですよ!擬音は(笑)

質問者2:
伝わる人にはやはり伝わるんですよね。「シュンじゃなくて、シュバッよね」みたいな感じの話をよくしますが、それが伝わらない人にはなかなか厳しくて、大変だなと日々思っている次第です。


橋本:
自分は「音で体に映像を染みこませる」というやり方を結構しています。実写でもアニメでも、手で自分はこういう風にやっているんです。「ググググググ」とか「ガガガガガガ」とか「ギュギュギュギュギュ」と。こうすることで、あの映像のあのタイミングが「ガガガガ……ここは4コマだな」とか、見ると分かるんです。あとは自分の中のタイムラインが1秒は「カッカッ」で、だいたいこのくらいというのを持っているので。


岩出:
リズムがあると。

橋本:
体の中にその1秒があり、これで「映像を手と脳みそに染みこませて自分の中のアーカイブを作っていく」というようなやり方をしています。

岩出:
最後に橋本さんが今後、何かエフェクトをアニメーターとしてやっていきたいような仕事やチャレンジがあれば、聞かせてもらえればと思います。

橋本:
そうですね。ゲームの仕事は何度も結構携わっていて、実写の依頼も少しあったりして、たまたま機会がなかったからできなかったんですけど。樋口監督のガメラとか……。

岩出:
出演されるお話ですか?

橋本:
私じゃないですよ。アニメーションの部分があるじゃないですか、体から出る虫とか。実ははるか昔に「カトちゃん、ケンちゃん」というテレビ番組があって、それでアニメと融合みたいなコーナーがあったんです。カトちゃんが「フン!」と鼻息を出すと、鼻からこう煙が出たりして、それが全部手書きだったんです。自分の机の上にプリントアウトで全部こう置いてやりました。志村けんと加藤茶が演技しているものがあったりと、そういうのが結構楽しかったのでやってみたいです。

あと、「スカイ・クロラ」は実写的なエフェクトをかなりやろうとしたんですが、ハリウッドの映画の中でも、舞台が実写なだけで煙を同じようにCGで作っていたりします。そこに今言ったような引っかけるような破片を描いてみたり、煙の中に実写っぽいイレギュラーな煙を入れたりと。マスクで素材を抜いて、そこに実写ではめ込めば、多分できると思うのでやってみたいですね。


岩出:
何となく、完成のイメージがある感じですか。

橋本:
そういうのをなんかやってみたらおもしろいんじゃないのかなと。

岩出:
すごく見てみたいです。

橋本:
がんばります。

岩出:
ではお時間となりました。今日は「アニメのエフェクト、ゲームのエフェクト」ということで、橋本さんの話を多めに聞かせてもらいましたが、ゲームの方でもこの辺りをぜひ前向きに取り込んで、よりよい形にできればと思います。みなさん、がんばりましょう。

あと、せっかく橋本さんにこういうお話しをいただきましたので、今後アニメの方とゲームの方の交流が続けていければ、より面白い何かが生まれて来るんじゃないかと思います。

橋本:
ぜひぜひ。

岩出:
それではこのセッションに関しては以上となります。ありがとうございました。

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in 取材,   アニメ, Posted by darkhorse_log