×
取材

郷田ほづみが声優と音響監督という2方向から見た音響制作の現場を語る


装甲騎兵ボトムズ」のキリコ・キュービィー、「HUNTER×HUNTER」レオリオ役として知られる声優の郷田ほづみさんですが、音響監督としてひぐらしのなく頃にぬらりひょんの孫といった作品のディレクションもされています。CEDEC 2012では声優、役者、タレント、舞台の演出などさまざまな経験を経て現在音響監督として活躍される郷田さんが、声優業界の実情や、音響監督とは果たしてどのような仕事なのか、ということを声優とディレクターという2つの立場から、制作上のエピソードを交えてユーモラスに語ってくれました。

タイトル | CEDEC 2012 | Computer Entertaintment Developers Conference
http://cedec.cesa.or.jp/2012/program/SND/C12_I0264.html

郷田ほづみ(以下郷田):
みなさんこんにちは。郷田ほづみと申します。こちらにありますように、「声優と音響監督から見たアニメーションの音響制作の現場」と言うタイトルで、今日はお話させてもらいます。声優と音響監督から見たってタイトルにあるように、私は一応、声優と音響監督を両方やっています。「一体どんな奴が喋ってるんだ」ということがわからないと思いますので、簡単に自己紹介をさせて頂きます(笑)僕が声優をやっている作品を何か見たことがあるっていう方はいらっしゃいますか?あ、ありがとうございます。では僕が音響監督をしているということを知っていたよ、という方は……。ああ、ありがとうございます。どっちも何とも言えない微妙な感じでしたけれども(笑)知っている方が沢山いて、大変話しやすいです。


声優の仕事を始めたのは、もう30年前になるんですけれど。1980年代ですね。いまだに代表作的な感じで皆様に知って頂けているのが、「装甲騎兵ボトムズ」という、サンライズのロボットアニメーション。その中で「キリコ・キュービィー」という役を頂いて、それがほぼ、デビューに近くて。その前に一本だけ「新みつばちマーヤの冒険」でアリの隊長というのをやっていたんですけども(笑)その後にオーディションを受けて、キリコ役に。そこから声優の世界に入って、その前からお芝居はやっていまして、アニメーションも好きだったので、声の仕事で生活できたらいいなあ、ということで声優を目指したんですけども。ご存じの方がいるかは分かりませんが、装甲騎兵ボトムズは1年間のシリーズで、それをやっている間にバラエティーの方にも足を突っ込みまして、コントグループなんですけど。怪物ランドという3人組のお笑いのユニットを組みまして、そっちで深夜番組なんかをやっていまして、アニメの仕事がほぼ出来なくなってしまったんですね。それでいったんは声優を続けることを辞めてしまったんですけど、それから数年たって、2000年に入る前くらいですかね、富山敬さんがお亡くなりになって。僕は富山さんをすごく尊敬していて、世代的にも宇宙戦艦ヤマトを再放送でなくリアルタイムで見ていたので、古代進のことをすごく知っていて、大好きな声優さんだったんです。その時に銀河英雄伝説というシリーズで富山さんが声優をされていて、シリーズはほぼ終わっていたんですが、外伝を製作することになって、その時に富山さんがやっていたヤン・ウェンリーという役をやる人がいない、と。銀英伝という作品は大河ドラマですよね。で、ほとんどの声優さんが、もう、出演しちゃってたんです。あれはダブリの役はあまりやらない作品だったらしく、当時の声優さんはもうすべて、網羅していた。銀河声優伝説って言われていたくらいですから。


会場:
(笑)

郷田:
それで、ちょうどその頃、青の6号というOVAがありまして、僕はその作品でまたアニメの仕事をやらして頂いてたんです。それと同時期に銀河英雄伝説も声を掛けて頂いて、その2つの時期がちょうど重なったということもあって、僕の中でもう一度アニメーションがやれたな、と。「これ、好きな世界だな」ということを実感しまして。ちょうどその頃はいろいろやっていたんですけど、段々と、もう一回アニメーションの世界に戻ってきた。そういう経緯があります。ですから、声優としてずうっと続けていたわけでは無いので、業界の中で、うんとベテランの人は僕のことを知っていたりとかするんですが、中堅の人たちは僕のことを知らないだとか、そういう時期もありました。それからアニメの現場に関わることになって長いので、今は皆さんと仲良くさせてもらっていますけど。だからアニメをやったり、バラエティの世界でコントのようなものをやったり、テレビドラマもやりましたし、映画もやりましたし。自分の専門が何なのか、もう分かんなくなっています。


音響監督については、アニメの世界には音響監督というポジションがあって、それをやってくれないか、とうお話を頂いて「やるよー」とやったんです。スタッフ的なことと、出演の両方をやるようになったんですね。こういう風にしゃべることってあまりないんですけど、今日は皆さんに現場についていろいろお話するということで。とっかかりもないし、どういう風に話したらいいのか、ということで事前に関係者の方々にリサーチをかけて、質問事項をいろいろ上げてもらったんで、そのうちから順番に答えていく形で進めていこうと思います。

その中に「なぜ音響監督をするようになったんですか」というものがありまして。それはまあ今の経緯です。もともと声優だったわけですけども、その後いろんなことをやってきていて、その間に舞台の演出とかもやっていたので、「声優やって、アニメの現場のこともわかっているし、舞台の演出をして、役者もお芝居も演出しているんだったら、アニメーションの音響監督をやってくれないか」ということをプロデューサーに頼まれたのがきっかけなんですね。もともとそんなに物事を深く考えるタイプじゃないので、「いいですよ」って2つ返事で。「やりますやります、やってみたいです」とさせてもらって。そしたらですね、これが、もう、やることが山ほどありましてね。どういうことをやるかと言いますと、「音響監督の役割について」というご質問がありますので、これからお話していきます。


どんなことをやるか。大体、アニメーションって絵が動いて、声が聞こえて、キャラクターが喋って、というものですから、音響監督っていうのはその音をつけるんだろうな、っていうことは漠然とわかるとは思うんですけど。具体的には、キャスティングをしますね。アニメーションに登用する、キャラクターに合う声優さんを選ぶ。でも実際問題、その作業は段々少なくなってきています。現実的にはね。音響監督に依頼が来る段階で既に声優さんが決まっている場合が今は増えていますね。原作側が「この人がいい」って言ったりだとか、制作側が「この人が人気があるから使いたい」だとか、制作委員会で全てキャスティングするだとか。そういうことが増えていますけども、基本的には役者さんをキャスティングする、というのも一つの仕事です。そしてアフレコですね。アフレコで、できあがった絵に合わせて役者さんが演技をする、それをマイクで録音するわけです。アフレコの様子っていうのはテレビでやってたりとかして、皆さんもご存じだと思いますけれども。実際は今のアニメーションの制作現場の画面には絵がほとんどありません。絵コンテってありますよね。アニメになる前のいわゆる設計図的なものです。コマに鉛筆とかで絵が描いてあるやつです。その絵コンテを撮影して、アニメーションの流れがわかるような形にして、フィルムを作ったりだとか、線だけで描かれた仮のフィルムだとかを作ったりして。なので、色はついていない。線画なんですね。そこに自分の役の名前がボールドっていうんですけど、画面にポコっと出るわけです。例えば自分がアンパンマンなら、「アンパンマン」って出るわけです。その印が出ている間にセリフを喋る。だから、絵は無くてタイミングだけ出てくるっていう感じですね。キャラクターも、絵コンテを撮影していればなんとなく鉛筆で描かれた感じでわかりますけれども、すごいラフな絵だったり、あと「丸描いてチョン」みたいなね、感じのキャラクターがアフレコ現場の画面上に出ているみたいな。ひどいものだと、キャラクターがみんな「ちびまる子の」おじいちゃんじゃないか!みたいな。だから非常に条件は悪いんですけども、その中でこう……役者さんにイメージを働かせてもらって、ストーリーに合うような演技をしてもらう。それを、目的に合うような演技をしてもらうようディレクションする、そういう作業をしています。


それと平行してですね、アニメーションに効果音楽をつけなくてはいけない。音楽は元からあるものではないので、作曲家さんを決めて、その作曲家さんにアニメーションに合う音楽を作ってもらうんですね。「こういう感じの曲がほしい」、「楽しい曲で」、「怒りの感じで」みたいな感じで音楽を発注して作ってもらって、話数ごとに音楽を貼り付けるというか。「どこからどこまで音楽を使いたい」っていう風に。あと効果音ですね。人が歩いていたら足音がするし、水に落ちたらジャッポンというし。その音も初めは入っていないわけですから。それは、それ専門の効果音のスタッフがいるわけですが、効果のスタッフの方が付けてくれたものを、アフレコが終わって、今度は音楽と効果音とを全部ミックスします。我々はそれをダビングと呼んでいます。アフレコの日があって、ダビングの日がある。そういう流れになっていますね。大体、30分のアニメーションだと、それを1日で済ませます。午前中……朝10時くらいから午後1時2時くらいまでかけて、アフレコをしたとすると。そして午後の4時から今度は夜の8時9時くらいまでダビングをする。毎週1回、そういうスタジオ作業の日があります。だから、3話のアフレコをやった日に1話のダビングをやるという感じですね。1話のアフレコをやって、すぐに1話のダビングはできないんですよ。仕込みの時間が必要なので。効果さんが音をつけたり、僕が音楽を選曲して、指定された箇所に音楽をちょうどいい長さに編集してそれを貼り付けたりする作業なので、だいたい中に1週間あけて、アフレコをした翌々週にですね、ダビングをやるという、そんなスケジュールなんですね。


で、今アニメーションの現場についてお話ししていますけれども、音響の制作の現場っていろいろありまして、「テレビアニメ・映画吹き替え・ドラマ・ゲームの違い、この辺について教えて下さい」というご質問を頂きまして。テレビアニメっていうのは先ほどお話ししたように、アニメーションスタッフが作ったフィルムに合わせてお芝居をする。で、映画の吹き替えですと、ご存じのように外国のね、映画があって、外国語でしゃべっているのを日本語に訳したものを、役者さんがお芝居をするっていう感じになっています。基本的には役者がやる作業っていうのは一緒なんですけども、一緒なんですけど微妙に違う、っていうことはあるかもしれないですね。まあ役者の立場から言うと、アニメーションの場合はしゃべるスピード……例えば口がパクパクしている間にあるセリフをしゃべるわけじゃないですか。そのパクパクしている長さっていうのは要するにアニメーションのスタッフが決めているわけですよね。それと役者との正義が合わない場合があるんですよね。「この感情なのに、この口パクじゃあ、入らないよ」とかね。逆にイライラしているから早口でしゃべるのに、これだけ口パクがあったら口が余っちゃうよ、とか。パクパクがね。その場合現場で調整したりするんですが。じゃあセリフをちょっと足しましょう、とか、これはカットしましょう、とか。そういう作業もあるのです。個人的には台本を変えるっていうことが、僕はあまり好きじゃないので、作家さんがそれが必要だと思って、そういうセリフになっているので。ケースバイケースで現場で修正させてもらったりはしていますが、基本的に両方やっている立場としては、そういう意図で書かれたもの、そういう意図で用意されたセリフだったら、しかもその長さが必要なんだったら、感応表現の工夫でピッタリにしようじゃないか、っていうのは声優側の立場としても総監督的な仕事としても、そうやっていきたいというのはありますけれど、なかなかうまく行かない場合もあります。テレビアニメの場合はそういう感じです。


で、外国のね、映画とかテレビドラマを吹き替える場合は、アニメーションみたいに口が開いたり閉じたりだけじゃないんですよね。向こうは人間だから、息づかいもありますし、今僕がしゃべってるのも考えながらで、「え~」とか伸びる箇所があるように、他の国の言葉でもその時の感情で、強くハッキリしゃべらずにモゴモゴするときもあれば、ハッキリしゃべる時もある。そういうのがハッキリ見て取れるので、それを再現していく。日本語になりますとちょっとニュアンスが変わることもありますけれど、それを再現していくっていう面白さはありますね。吹き替えの場合。映画の吹き替えだと、当然、絵が無いっていうことはまずありませんからね。アニメみたいに。絵が無いってことが無いんで、その辺は助かるっていうと変な言い方ですけど。耳で言語を聞きながらやるんですよ、映画の場合は。だから、アメリカの映画だったら、英語を聞きながらしゃべるんですけど。言葉は全然聞き取れないから、音が聞こえるのに合わせてしゃべるって感覚でやるんです。これがね、イエスやノーという言葉は聞き取れるじゃないですか。英語がわかんなくとも。耳で自分の吹き替える声がイエス、って聞こえる。で、イエスっていうのは「ハイ」って言わなきゃならないんですけど、耳にイエスって聞こえていると、マイクの前で「イエス」って言っちゃうんですよね。

会場:
(笑)

郷田:
吹き替えなのに吹き替えてない、っていう、そういう笑い話みたいなこともありますけどね。「イエスをイエスと言うなら、お前はいらないんだよ。お前はハイって言え」みたいな。


郷田:
あと、CDドラマの場合だと、全く絵が無いわけですからね。これはもう役者さんが自由に、自分の間でしゃべられる。これはまあ、現場におりますけれども、非常に役者さんがイキイキできるジャンルの一つではないかな、と思うんです。ただ、これは制作上の問題で、CDドラマってだいたい1時間ぐらいの尺のものが多いんですよね、一般的にとられているものって。そうすると、それを大体3時間から4時間くらいで取らなきゃいけないんですよ。で、要するに1時間のCDドラマってことは、止めずにやっても1時間はかかるわけじゃないですか。なので、丁寧に取ってらんない、っていうのが現状ではありますね。だから、例えばキャラ設定だけ確認した後はもうリハーサルなしで、ぶっつけ本番で取っていくっていうのが実情ですね。本当はね、時間が許せばもっともっと丁寧に取れるんですけど、それはもうプロの役者さんたちにお任せ、みたいな、そんな取り方が多いですね。だから、役者さんによっては別に絵にも合わせなくていいし、セリフも覚えないでいいし、台本をそんなに読まないで来たりなんかする人もたまにいたりします。なのでちょっと解釈が違う感じで本番を収録しちゃったりね。もちろんその後にリテイクはしていきますけども、丁寧に何回かテストをやって、それで「じゃあこういう感じで声を当てていきましょう」ってできれば、もっともっといいものができるのになあ、という思いが、たまにあります。


ゲームでの音声収録も今は結構ありますよね。今日ここにいらっしゃっている方はゲームの関係の方が多いんじゃないかなあ、と思いますけれど。この、ゲームの収録の仕方っていうのは独特ですよね。そのキャラだけで、1人でスタジオのブースに入って、そのキャラのセリフだけを延々と取り続けるみたいな、そういう感じの現場が多いんです。あるスタジオで、ゲームの収録をしたときに、「じゃあ回して行きますから。テスト本番でいきます」みたいな形で、その時も時間との戦いだったんです。テストなし、いわゆる本番ですよね、そうやって取っていくケースって多いんです。そのスタジオのディレクターに、「もう回しますけど、全部のセリフを2回ずつ言って下さい」って言われて。それは、もちろん時間は倍かかりますけど、ある意味効率のいいやり方だなって思ったのは記憶していますね、そうするとね、2回目の方が大抵いいらしいんですよね。同じセリフでも。僕が逆にディレクションの立場でゲームを録音させていただくこともあるんですけど、割とそのやり方でとるようにはしています。役者さんもイキナリやるんで、芝居が自分のイメージの通りにちゃんとなっているかが、1回声に出してみないとわかんない時があるんですよね。で、声に出してやってみて、それに微調整を加えてやっていったり、あとは、うまくいったから2回目はちょっと遊びを入れてみようだとか。2回やると役者さんなりに全く同じようにはしない。何かしら調整してくれて、それがいい味になったり、1回目でちょっと失敗したら2回目でそれを修正してくれたりだとか。もちろん一発でいいっていう時もありますけどね。使う側がそれを選べるというか、そういう感じですね。


次に行きます。「どのような事前資料がほしいですか」というものです。アニメーションの場合ですと、テレビシリーズだと何話か続いていて、ゲストで出演するときとか、全然お話がわかんない、という時がありますね。だからレギュラーで出ていても飛び飛びでしか出てなかったりすると、間がどんなお話になっているかがサッパリわからない。だけれども制作の現場は淡々と進んで行く、っていう。だから分かっている人はいいけども、出演しているにも関わらず分からずに進めている、っていう人けっこういるんじゃないかな。そういう現状はありますね。で、聞けば答えてあげるんですけど、なかなかそれを説明してくれない。そういう現場は多いですね。なので、多少はそういう分かるようなものが欲しいなとは思います。だからといってレギュラーとしての出番があったりなかったりするセミレギュラー的なポジションの人に出てない話数の台本までくれるかといったらくれないし、じゃあ台本を渡したとして出てない役者さんがそれを読むか、といったら読まないし。そういう意味では原作があるものは、役者さんが原作をチェックすれば流れが分かったりするんですけが、オリジナルのものに飛び飛びで出ていると、「まったくわからない!」というのがありますね。


例えば、他のキャラが「あれ、この人悪い人だったのに、なんでもういい人になってるの?」とか、全然わかんなかったりします。あと、それとはまた違った問題で、オリジナルの作品の場合、音響の現場って一番最後なんですね。企画から始まって、台本を練る、脚本家さんたちやプロデューサーや制作委員会の方々がタイトルを練って、シナリオを作って、それを絵コンテにして、作画して動画にしてっていう一連の作業がありますよね。その最後に音を付けるって言う音響の現場がありますので、企画から始まって、そのお話がどういう風に作られているかっていう、そういうプロセスを我々は知らないんですよね。だから、アニメーションのスタッフの方々はそのアニメーションのストーリーなり世界観をものすごく分かっていて。もちろん自分たちで作っているわけですからね。その作業の中で、省略していく作業っていうのがものすごく、美学だと思うんです。多くを語り過ぎない。だから最終的に作られていたセリフなりシナリオなりをどんどん削っていく作業ってあると思うんですね。「ここは語らずに表情だけで見せよう」だとか、ここはこの絵をポン、と見せれば伝わるとか、実際にキャラクターがしゃべらなくてもわかるんじゃないか、とか。それはそれで素敵な演出になっていくと思うんですけど、それによって本来後から参加した我々がわかるはずのところが省略されている場合がある。省略されていても、みんなは知っているわけですよね。でも最後に参加した我々のポジションで、全部を理解するためには時間がかかるわけです。だからその辺は僕も気をつけるようにはしています。

あと、ゲームをしている現場の方からよく聞かれたりもするんですが、台本が横向きじゃダメですか、って。「縦書きの台本が欲しいですか?」って聞かれるんですけど……欲しいですね。目の間にモニターがあって、我々はしゃべるんですけど、画面と台本と、交互に見るんで。縦書きってやっぱり目の動きに、ちょうど合うんですね。画面を見てちょうど顔を下ろした時に台本が見れる。台本を読みながら確認出来て、読んでる最中でも目を上げると画面が見れる。横書きだと、画面から目を下ろした時に、左にいって右にいって、左にいって右にいって、画面を見て、目線を下ろした時にまた文章の頭を探して……と、着地点に気を遣うので。


次は「音響効果について、どう考えていますか」、というご質問を頂いていまして。アニメーションに限定してお話させて頂きますと、効果音というのはやっぱりものすごく大切ですね。音がつくことによってリアルになるし、イメージも広がるし。ただ本当に専門的な職種なので、我々素人が簡単に音を付けられない、大変な作業ではあります。なので音響効果をやっている専門の会社で専門のスタッフの方々にお願いして効果音を付けるわけですけど、最近はどの効果のスタッフもプロ中のプロの方が多いので、本当に信頼して音を付けて頂くことができる。なおかつ、やっぱり仕事を一緒にやりたいなあ、と思わせてくるスタッフは、そこにさらに独自のアイデアをプラスしてくれて、音をつけてくれる。リアルな音はもちろんなんですけど、例えばコミカルなシーンだと、そこに独自のアイデアが入っていたりだとか。そういう方々、僕も全員は存じ上げていないんですけど、何回か仕事をする上で、そういう風に感じた方はまた是非仕事をしたいな、という感じで、ご一緒させて頂いたりしています。音響効果の仕事っていうのは、面白いな、と思う反面、大変だな、とは思います。今いわゆるProTools、ツールスっていうコンピューターのアレで音声を貼り付けたりできますけど、ちょっと前は全部6mmで回していましたからね。普通のテープレコーダーで。テープレコーダーに音がいくつも入っていて、それに合う箇所をテープを掛け替えてね、効果さんがそのタイミングで音を出してってやってましたからね。それでこちらのイメージと違ったり、あとアニメの場合は監督が、総監督がもう1人いますからね。総監督のイメージと違ったりすると、効果音を変えなければならない。6mmでやってる頃は、「そんなこと言われても、そんな音持ってきてないよ!」っていう話にもなったんですが。「会社にはあるけど……じゃあ取りに行ってくるから!」って、効果さんがテープを取りに行く間、2時間待ち、とかね。今はもう全部ハードディスクで持って来られるから、割と、そういう音を付け替える作業も楽になりましたね。それでも怒り出す効果さんはいますけどね。監督が「全然違う、何回付け替えてもイメージにあわない。別の音を」って言って、効果さんもキレて、ハードディスクでたくさん音を持ってきてはいるんですけど、「これは魔法の箱じゃねえんだよ!」って、怒り出す人もいます。という感じで、職人的な効果のスタッフと、作品のイメージを何とか音にしたいっていう総監督と、間にいる中間管理職が音響監督だと思って頂ければ、分かりやすいと思います。そういうのを調整していって、監督がイメージするような音を効果さんにつけてもらう。一度キャラクターが画面上でブロッコリーを食べているシーンがあって、それに効果さんがサラダを食べているシーンの音をつけてくれたんですけども、監督が「このブロッコリーは、そんなに茹でてないんだ」って言い出したんです。


会場:
(笑)

郷田:
もっと生に近いブロッコリーなんだって監督が言い出して。効果さんが「そんなの色が付いてねえからわかんねえよ」と。白い線画ですからね。「色がついてねえのに、わかるか」って言い出して。で、「後で色が付いたらもっと固い感じが分かるようになるから、もっとカリッ、シャリッて音にしてもらわなきゃ困る」って。すると「そんな音ねえよ」と。それでけんけんがくがくになりまして。で、「じゃあ今取りましょうか、取りましょうよ」って提案して。ダビング作業もスタジオでやっているわけですから、生で取れるわけですよ。実際はダビングの現場で生で音を取るっていうのはほとんどないんですけど。「取りましょう。音を生で作って下さい、待ってますから」と。そしたら効果さんが「わかった、そうしよう」と。「じゃあ何かかじれるものを、リンゴでも何でもいいから持ってきてくれ」ってなって、でもスタジオにリンゴなんかないじゃないですか。で、アシスタントの子が「何か探してきます!」って事務所の方に走っていって。そしたらちょうど、そのスタジオで、バーベキューを何日か前にやったばっかりで、材料があったみたいなんですよね。で、「ありました!」って持ってきたのが、タマネギだったんです。

会場:
(笑)

郷田:
どうするの……って思ったら、効果さんが「よしわかった、マイクを持ってきてくれ」って、タマネギ1個持ってスタジオのブースに入っていって、タマネギをばりばり食いましたからね。その時「ああ、この人はプロだな」と思いました。それで、監督も大満足で、何とかその現場は終わりました。そういう、効果さんと監督の戦いっていうもの。どちらも、やっぱりこだわりたいっていうのがあると思うんで。それが面白いし、音響監督っていうポジションでいうと、そこを調整しなきゃいけないという、一つの課題はありますね。あとは花火。アニメーションで花火のシーンがあったりして、これは今までに3回くらい経験があるんですけども、アニメーションの監督は花火があると、音をずらしてくれ、って言うんです。実際に花火が光ってからドーンって聞こえるまでには時差があるじゃないですか。光って、1秒くらいたってから、ドーンって来るわけで、それがリアルですよね。なので、そうしてくれ、って監督は間違いなく言いますね。でも効果さんは「アニメでそれやると、おかしいよ」って言うわけです。でも監督は自分のこだわりがあるわけですから、リアルにしたい。「花火が光った時に音が聞こえるのは変だから、音をずらしてくれ」、と。「じゃあ試しにちょっとやってみましょうか?」って効果さんに直してもらって、音をずらすと、やっぱりね、何か失敗したみたいな感じになるんですよね。音がずれちゃった感じになってします。そうすると監督も納得して「元に戻してくれ」となるんですけど。そういうのは独特だな、と思いますね。


「収録の順序で気をつけることはありますか」と。これは声優さんに対してですね。作り手側からしても、演じる側からしても、流れに沿って感情表現できるほうが、順番としてはやりやすいですね。ただ、アニメなんかだと、叫んだりするシーンが多かったりして、そういうシーンは後回しにしたりだとかはたまにあります。叫んで声がカスカスになってしまって、その後の他のセリフが聞きづらくなってしまったりするといけないので。多少叫んでも平気だろう、ちょっと叫んだぐらいで声がかれちゃうようじゃ声優としてダメなんじゃないの、って思うかもしれないですけども、今の声優さんって1日に何本もお仕事されているんで、「すみません、前の現場で今日何回も叫んできたんで」って言われると、気を遣わざるを得ない。そんな感じですかね。

「声優さんによい演技をしてもらうための工夫はありますか」、と。これは今の話に繋がりますけど、役者さんに対する気遣いっていうのは心がけるようにはしています。でも、声優さんの方は声優さんの方で、作り手に気を使うって事が僕は大事だと思いますね。声優っていうのはある種、職人的な作業なので、その現場で要求された感情表現……お芝居をしなきゃいけないんで。役者が独りよがりになっちゃったりすると、多分面白くないと思うんで。それはお互いに気遣いが必要だな、と常に思います。たまにすっごいアドリブを言う声優さんがいて、もう、家で考えてくるんですよね。家で考えてきて、自分のセリフ消しちゃって、書き直しちゃってる人がいたりなんかして。面白い時はいいんですが、それが的外れだったりだとか、キャラが崩れちゃったりだとか、おかしいなって時に「元に戻してください」って言ったら、「もう消しちゃって何が書いてあったか分からない」って言われて、新しい台本を渡したくなりましたけれども。そんな風にいろんな方がいらっしゃいますね。


あと、声優さんに対して何回もやり直しをさせたら悪いんじゃないかな、って何となく思っちゃったりもしますね。極端にリテイクを何回も何回もさせたりすると、体力的にも厳しいと思いますし、声優さんのプライドを傷つけることにもなると思いますんで、何とかうまく求めるものが出るような方法で説明なりなんなりしなきゃいけないな、とは思います。でも逆に遠慮する必要はないですね。声優さんって自信満々で芝居していたとしても、役者ですから、演出家さんや監督のイメージに合わせられるのがプロだと皆さん思ってらっしゃいますので。ですから、不機嫌そうに見えても、やり直してもらえるし、むしろやってもらった方がいいですよね。中には「あれ、もう一回やりてえなあ」と思ってもOKが出ちゃったら、役者さんからはあんまりね、言ってこられないんですよ。「もう1回やろう」とか。だから、ある意味遠慮無くリテイクをした方が、声優さんも、なんだろう、心残りがないというか。ただ、ベテランの、超ベテランの方に来て頂いた時なんかには非常に気を遣いますね。やっぱり。「今のはあんまり良くなかったから、もう一回やって」って簡単に言えなかったりしますから。そういう時は「今のは今のでよかったのですが……別パターンを頂けますか?」とか。

会場:
(笑)

郷田:
「いやッ、非常によかったんですけれども、すみません、ノイズが入りました!」……ウソなんですけども(笑)


郷田:
そういう場合もありますね。ベテランさんなんかだと、自分で納得がいかない時に「今のはもう一回やらせてくれ」って言う方もいますけれども、「今ののどこが悪いんだよ……」っていう方もいるんで。そういう方にも「こうこうこういう理由でもう一回やって下さい」って言えばいいんですけど。簡単なことなんですが、ケースバイケースというか、役者さんのキャラクターに合わせて、気持ちよくお仕事して頂いた方が現場の雰囲気もありますしね。その辺は、我々、音響監督の仕事かな、と思いますね。

「演出する上で気をつけていることを教えて下さい」、と。まあ、いろいろありますが……アニメーションの場合だと、僕が心がけていることの一つは、絵に負けないようにする、っていうことですね。どんなものでもそうかもしれないんですが、目で見る情報と、耳で聞く情報とをミックスして我々は受け止めているじゃないですか。で、特にアニメーションの場合、絵に誇張が入っている場合が多いですよね。ビックリした時に顎が床についたりしますけども、実際にそういうことはないわけで、顔が口いっぱいになっちゃったりね。実際にはそういう顔にはならないんですけど、そういう時に、絵のテンションよりも芝居のテンションが低いと、なんかみすぼらしい感じに見えちゃうじゃないですか。逆はいいんですよ。表情よりもテンションが高いお芝居が聞こえてくるっていう場合は、そんなに違和感がないんですけど、その逆は堪えられないものがあるんで。ましてや、先ほどもご説明したとおり、絵が無い現場が多いので、その辺は確認しながら取ることになります。それで、できあがった絵を見て「あれ、話が違うじゃん。これはこういう顔だって言ってたじゃん」っていうことはたまにありますね。やっぱり絵に負けないようにしないといけないな、っていうのは役者さんをディレクションする上で心がけています。

で、あとは……やっぱりこれも役者さんの資質によるかもしれないんですけど……言葉を大切にしたい。よどみなくしゃべっていても、そこで必要とされる、聞きたい言葉っていうのは、ちゃんと印象的に入ってくるかどうか。もちろんキチンと発音してくれててキチン発声しててくれれば、間違いではないんです。でもそれだったら別にコンピューターが合成でしゃべってくれててもいいわけですよね。そうじゃなくて、役者というか、キャラクターが何かを伝えたくって、そのセリフをしゃべっているわけだから、どの部分をどう伝えたいかっていう、その辺は演技をする方に意識してもらいたいかなあって思いますね。


洋画の吹き替えや、アニメーションでもそうですけど、一部に声優さんのお芝居が画一化しているっていう声も聞かれて。声優さんじゃない人を使いたいっていう作品も出てきています。プラス、「普段は声優をやらないけれど、この人は有名だから」、「この人を使うとワイドショーが取材に来るから」、「スポーツ新聞が取り上げるから」、という客寄せのために起用する。そういう場合もありますけれども、そういう作品を見たときにやっぱり「ああ、絵に負けてるなあ」って。別にお芝居は下手じゃないんだけど、これじゃあ足りないなっていう風に見える時がありますね。必ずしも、その人のお芝居が上手だからとかじゃなく、有名だからとか、そういう感じでその作品に関わっているのを見た時に「何かもったいないな」って思うことはありますね。それは起用される方も気の毒だなって思うんですけど。やっぱりどうしてもタレントさんを使いたいっていう、制作側の意向があります。これはどんな世界でもそうなんでしょうけども。女性のナレーションでだけで吹き替えるアニメーションが何年か前にあったんですが、キャスティングには手が出せなくて、誰が来るのかと思ったら超売れっ子のアイドルが来たんですね。本人も気の毒ですよ。ナレーションなんかやりたくないんですから。それで、スケジュールが取れないからって夜中とかに収録するしかないんですよね。しかもやったことがないから、まともにしゃべれないんですよ。本人がつっかかったりするから何回もやり直すんですけど、途中で「あれ、何か音が変だな……」と思ってナレーションブースの方を覗いたら、その子は頰づえをついてやっていて。そりゃしゃべれる訳がないですよね。でも現実にはそういうキャスティングで作品が作られるっていうこともあります。何がいいのかっていうのは分からないんですけども……。そういうケースもありますね。


時間も段々となくなってきました。とりとめのない話ばっかりで、何が言いたいんだ?って思われるかもしれないかもしれませんね。実際、私がやっている音響監督っていうポジションは、先ほども触れましたけど、橋渡し的な。役者さんと制作サイドとの中間にいて、監督の意図するところをうまく声優さんに伝える。効果さんがつけてくれる音を、より監督のイメージに近いものにする。そういう橋渡し的な役割が多くなると思っています。ものを作って行く上で、僕はそういうポジションってすごく必要だと思っています。皆さん、ゲームに関わっている方が多いと思うんですが、ある、ズバ抜けた才能っていうのは絶対に必要なんですよ。だけども、それだけだと商品化しないんです。絵描きさんはいいんですよ。画家は自分のイメージなり創作意欲なりをキャンバスと絵筆だけで表現して、自分のイメージを自分の作業だけで完結するじゃないですか。小説家もそうですよね。でも、我々がやっていることはそうじゃなくて、たくさんの人が関わって共同作業で何かを作っていく。その上で、絶対にズバ抜けた才能は必要です。でもそれを発揮する上で、それを理解してくれる人、現場でそれを生かしてくれる人っていうのは、ものすごく必要だと思います。この仕事をするようになって、それを感じました。そういう人たちと触れあいたいし、どんどん出会いたいし、仕事をしたいし。僕も表現者として作品に関わる時は、そういう風に思ってもらいたいし。幸運にも僕は表現する方と制作する方の、どちらも経験させてもらったので、いろんな現場を見せてもらって、そういう考えに至ったという感じですね。ですので、こうやって会場を見渡しますと、まだまだ若い方がたくさんいらっしゃって、どんどん新しいものをこれから作っていかれるんだと思うので、ぜひとも良き理解者なり、スタッフなり、仲間なりに巡り会って下さい。そういう意味では、こういう催しは非常に有意義だと思うので。僕も今回初めて参加させて頂いて、今日出会える人もたくさんいますでしょうし。非常によかったな、と思います。


どうも、今日は長い間聞いて頂いてありがとうございました。また、ご縁があればどこかでお会いしたいと思います。役者としてでも音響監督としてでも、「アイツを呼ぼう」と思われる方はお声かけを頂ければ、ありがたいと思いますんで。


本日はどうもありがとうございました。

・関連記事
一番難しいのは「生き残ること」、大塚明夫が「声優」という職業を語る - GIGAZINE

音を生み出すプロが語る「アニメ効果音の現場とこれからの音響効果」 - GIGAZINE

これがプロフェッショナルの仕事と生き様、マクロスの河森正治監督が語る「アニメーション監督という職業」 - GIGAZINE

現代風の音響効果で「スーパーマリオブラザーズ」がまるで別のゲームに - GIGAZINE

ファミコン時代の名作の効果音を現代風に変えることで雰囲気をぶち壊したムービー - GIGAZINE

in 取材,   アニメ, Posted by logq_fa