ホウレンソウの葉緑体由来の構造をマウスの目に投与して光合成させることに成功

植物は光合成によって生きるために必要な物質を作りますが、動物は基本的に光合成を行うことができません。シンガポール国立大学(NUS)の研究チームは、ホウレンソウの葉緑体由来の構造をマウスの目に投与することで光合成を行わせる研究の結果を報告しています。
Transplanting light-dependent reactions for mammalian eye photosynthesis - Cell
https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(26)00469-1
Eyes that photosynthesise: NUS scientists plant a cure for dry eye disease
https://news.nus.edu.sg/eyes-that-photosynthesise/
Mouse eyes photosynthesize after plant-to-animal transplant | Nature
https://www.nature.com/articles/d41586-026-01559-9

動物は基本的に光合成を行うことができませんが、例外としてのう舌類のウミウシは藻類を食べた際に葉緑体を体内に取り込み、飢餓状態になると光合成によって作られた栄養を利用できると報告されています。この例からNUSのシン・クオラン氏らの研究チームは「哺乳類も限られた形で光合成能力を獲得できるのではないか」と考えました。そこで注目したのが体の中でも可視光が届きやすい「目」です。
研究チームはホウレンソウの葉緑体から「チラコイドグラナ」という膜構造を取り出しました。このチラコイドグラナは光を受けると細胞内でエネルギーをやり取りするために使われる「アデノシン三リン酸(ATP)」と、還元剤となる補酵素「ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)」を作ります。
さらに、このチラコイドグラナを細胞に取り込まれやすい約400nmの粒子に加工し、この粒子を研究チームは「LEAF」と名付けています。
通常の光合成では光を受けることでNADPHやATPが作られ、その後の反応で糖を作るためにNADPHが消費されますが、研究チームは葉緑体からNADPHを消費する部分を取り除いてチラコイドグラナだけを残したため、LEAFが行うのは光を受けてNADPHやATPを作る反応のみです。
こうした仕組みを治療に使う対象として研究チームはドライアイに注目しました。ドライアイでは角膜周辺の炎症によって活性酸素種が増え、細胞を傷つける酸化ストレスが高まることでさらに炎症が進む悪循環が起きるとされています。研究チームは可視光を使ってNADPHを作ることができれば、活性酸素を還元することでこの悪循環を抑えられる可能性があると考えました。

まず研究チームは実験室で炎症状態にした細胞にLEAFを移植してその働きを調べました。その結果、光を当ててから30分以内にNADPHの量が回復し活性酸素種が抑えられたと研究チームは報告しています。また、ドライアイ患者から採取した涙のサンプルで試したところ、LEAFはNADPHの量を約20倍に増やし、細胞を傷つける活性酸素種の一種である過酸化水素を95%以上減らすことに成功したとのことです。
続いて研究チームはこのLEAFを「目薬」としてマウスの目に投与する前臨床試験を行いました。その結果、屋内の環境光の下でLEAFを投与されたマウスでは5日以内に角膜の損傷が健康に近い状態まで回復し、研究チームは「既存のドライアイ治療薬であるレスタシスの効果を上回った」と報告しています。さらに2回目の前臨床試験でも治療効果が確認され、2カ月にわたる皮膚感作・眼刺激・臓器毒性の評価では有害作用が確認されませんでした。
シン氏は「植物から取り出した光反応を担う構造を哺乳類の組織に移植し、可視光だけで生物学的に有用な分子を作れることを初めて示した」と説明し、「私たちも限られた光合成能力を持つことができる」と述べています。

酸化ストレスはドライアイ以外の炎症性疾患にも関わるため、研究チームによると網膜・皮膚・骨格筋など可視光が届きやすい組織にもLEAFを応用できる可能性があるとのことです。
一方でハーバード大学の細胞生物学者であるコーリー・アラード氏は、「こうした試みは、最初はどうしても実用性のない一発芸のように見えてしまうものです」と述べ、効果がどれくらい続くのか、どの細胞を標的にできるのかを調べる必要があると指摘しています。
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in サイエンス, Posted by log1b_ok
You can read the machine translated English article We successfully induced photosynthesis i….







