IBMが世界で初めて耐障害性を備えた大規模量子コンピューター「IBM Quantum Starling」の開発に着手

世界初の商用量子コンピュータ「IBM Q System One」を2019年に発表したIBMが、これも世界初となる、耐障害性(フォールト・トレラント)を備えた大規模量子コンピューターの開発に着手したことを発表しました。
IBM Sets the Course to Build World's First Large-Scale, Fault-Tolerant Quantum Computer at New IBM Quantum Data Center - Jun 10, 2025
https://newsroom.ibm.com/2025-06-10-IBM-Sets-the-Course-to-Build-Worlds-First-Large-Scale,-Fault-Tolerant-Quantum-Computer-at-New-IBM-Quantum-Data-Center

IBM、新しいIBM Quantumデータセンターで世界初の大規模なフォールト・トレラント量子コンピューターの構築に着手
https://jp.newsroom.ibm.com/2025-06-11-IBM-Sets-the-Course-to-Build-Worlds-First-Large-Scale,-Fault-Tolerant-Quantum-Computer-at-New-IBM-Quantum-Data-Center
IBM lays out clear path to fault-tolerant quantum computing | IBM Quantum Computing Blog
https://www.ibm.com/quantum/blog/large-scale-ftqc
Realizing large-scale, fault-tolerant quantum computing - YouTube

IBMは、ニューヨーク州ポキプシーに新たに建設するIBM量子データセンターに、世界で初めて耐障害性を備えた大規模量子コンピューター「IBM Quantum Starling」を2029年までに配備する予定です。
「IBM Quantum Starling」は現行の量子コンピューターの2万倍の演算能力を発揮することが期待されています。Starlingの計算状態の表現には、世界最強のスーパーコンピューターでも1048台分のメモリが必要になるとのこと。Starlingを用いることで、ユーザーは量子状態の複雑さを完全に探索できるようになるとのことです。
IBMのアーヴィング・クリシュナ会長兼CEOは、「IBMは量子コンピューティングの次のフロンティアを開拓しています。数学、物理学、エンジニアリングにおける当社の専門知識が、大規模で耐障害性に優れた量子コンピューターへの道を開いています。現実世界の課題を解決し、ビジネスに計り知れない可能性をもたらすものです」と語りました。
Starlingの200の論理量子ビットで1億の量子演算を実行することで、医薬品開発や材料発見、化学、最適化などの分野で必要な計算能力にアクセスできるようになります、これは、2000の論理量子ビットで10億の量子演算を実行できる「IBM Quantum Blue Jay」の基盤となるものだとのこと。
Quantum Roadmap
https://www.ibm.com/roadmaps/quantum/2030/

「論理量子ビット」は1量子ビット分の量子情報を保持する役割を担う、エラー訂正された量子コンピューターの単位で、エラーの相互監視のために連携する複数の物理量子ビットで構成されています。大規模な量子コンピューティングのためには、できるだけ少ない物理量子ビット数で、量子回路を実行できる論理量子ビットの数を増やすことが重要ですが、これまでは明確な道筋が見えていませんでした。
これまで標準とされてきたエラー訂正コードには、拡張するなら複雑な操作を実行するのに十分な量子論理ビットを作成するため、実現不可能な物理論理ビットが必要になるという課題がありました。
IBMは、qLDPC(量子低密度パリティチェック)符号を導入したエラー訂正コードにより、エラー修正に必要な物理論理ビットの数を大幅に減らして、必要なオーバーヘッドを約90%削減。また、物理量子ビットからの情報を効率的にデコードすることで、従来のコンピューターリソースでもリアルタイムにエラーを特定し訂正する道筋を示したとのこと。
IBMによると、IBM Quantum Starlingの2029年実現を目指し、以下の3つのプロセッサに取り組んでいくとのことです。
・「IBM Quantum Loon」(2025年予定):同一チップ内で量子ビットを長距離接続する「Cカプラー」など、qLDPC符号のアーキテクチャーコンポーネントをテストするよう設計。
・「IBM Quantum Kookaburra」(2026年予定):エンコードされた情報を保存・処理するため設計されたIBM初のモジュラー型プロセッサー。量子メモリーと論理演算を組み合わせ、フォールト・トレラント・システムを1つのチップを超えて拡張するための基本要素。
・「IBM Quantum Cockatoo」(2027年予定):2つのKookaburraモジュールを「Lカプラー」で組み合わせたもの。量子チップをより大きなシステムのノードのように相互接続することで、非現実的な巨大チップの構築が必要なくなる。

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