2025年は「国際量子科学技術年」、量子コンピューターはどのように機能してどんな進歩が予想されるか専門家が解説
国際連合は2025年を「国際量子科学技術年(IYQ)」と定め、量子科学とその応用に対する一般の認識を高めることを目指しています。量子コンピューターに必要な量子チップとはどのようなものか、実際に2025年からどれくらい量子コンピューターが発展していくかについて、量子システムの研究者が解説しています。
2025 will see huge advances in quantum computing. So what is a quantum chip and how does it work?
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量子コンピューターは、量子力学を計算に用いることで、従来のコンピューター(古典コンピューター)では実現不可能な大規模な計算を行うことが期待されているコンピューターです。一般的なコンピューターは、「0」または「1」のいずれかを表す2進数の形式で情報を処理します。一方で、量子チップの基本単位である量子ビットは0と1を確率的に表わす「重ね合わせの状態」を示し、基本単位で表せるパターンが多くなるため、量子プロセッサは従来のコンピューターよりも圧倒的に膨大なデータを高速に保存または処理できます。
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オーストラリア連邦科学産業研究機構の量子システム部門で主席研究科学者を務めるムハンマド・ウスマン氏は、量子ビットを実現するための方法や量子コンピューティングの活用方法について解説しています。ウスマン氏によると、量子ビットには品質があり、量子チップに数千の量子ビットが含まれる場合でも、その量子ビットが低品質な場合、量子チップは有用な計算タスクを実行することができないとのこと。
量子ビットを作るには、超伝導デバイス、半導体、フォトニクスなどのさまざまなアプローチがあります。それぞれの方法には長所と短所があり、量子ビットは温度の変化や制御信号の問題、製造プロセスの不完全性など、さまざまな要因に対して非常に敏感で変質しやすい性質があります。エラーが発生しやすくなった量子ビットは、「忠実度」と呼ばれる信頼性が低下します。そこで、エラーの情報を取りだして情報を復元することで忠実度の低下に影響されず情報を保持する「論理量子ビット」というものが設計されています。
2024年12月に、Googleが105個の量子ビットを搭載し超高速計算と量子エラー訂正の改善を実現した量子チップ「Willow」を発表しました。Googleの量子コンピューティング研究部門であるGoogle Quantum AI LabがNatureに発表した論文によると、量子ビットの配列を3×3から始めて、5×5、そして7×7と正方形の配列で構成し、最小の配列から拡大していくそれぞれのステップでエラー率をほぼ半分に低減することができたとのこと。また、Microsoftも2024年9月に忠実度の高い論理量子ビットを12個作成することに成功したと発表するなど、量子ビットの脆弱(ぜいじゃく)性を解決して量子コンピューターの実用化に近づく成果が見られています。
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Googleが「2024年末時点で最速のスーパーコンピューターを使うと1025年かかる計算を、Willowであれば5分未満で実行できた」と報告していたり、素因数分解の困難さを安全性の根拠とした暗号「RSA暗号」を量子コンピューターによって解読可能にしたと中国の研究者が発表していたりと、量子プロセッサが実現すると高いパフォーマンスを発揮します。そのほか、従来のコンピューターでは処理能力が足りなかった臨床試験データや遺伝学における新たな関連性を発見することで新薬の発見や医学研究に役立ったり、自律走行車や銀行業務などAIアルゴリズムを使用するさまざまなシステムの安全性を大幅に向上させたりと、完全に機能する量子プロセッサが実現した場合、研究や技術分野だけではなく、経済などの多くの分野に革命的な影響を与える可能性があります。
ウスマン氏によると、複数の論理量子ビットを統合して、一貫性を持って動作し、現実世界の問題を解決できる量子チップを実現するためには、まだ数年かかるそうです。実際、12個の論理量子ビットを作成したと発表したMicrosoftは、科学的な成果を期待できる「信頼性の高い論理量子ビットを100個作成できる量子コンピューターシステム」を2029年までに開発することを目標としており、商業的な成果を期待できるのはさらに1000個の論理量子ビットを搭載する必要があるとしています。
量子プロセッサが急速に進歩している一方で、ソフトウェア方面やアルゴリズムの分野での研究開発も注目が集まっています。ウスマン氏は「今後数年間で量子チップは引き続き大規模化されていくはずです。また、ハードウェア部分が量子プロセッサにより発展すると、量子アルゴリズムの開発、テストもさらに進みます。量子コンピューターを本格的に構築するには、チップ上の量子ビット数の拡大、忠実度の向上、エラー訂正の改善、ソフトウェア、アルゴリズム、コンピューティングその他など、多くの面で同時に進歩する必要があるため、困難な作業です。長年にわたる素晴らしい基礎研究を経て、2025年には、上記の全てにおいて新たなブレイクスルーがもたらされると期待できます」と語りました。
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