スパコンで10の25乗年もかかる計算をわずか5分で実行できる量子チップ「Willow」をGoogleが発表
Googleの量子コンピューティング研究部門であるGoogle Quantum AI Labが、105個の量子ビットを搭載し、量子エラー訂正の指数関数的な改善と超高速計算を実現した新たな量子チップ「Willow」を発表しました。
Meet Willow, our state-of-the-art quantum chip
https://blog.google/technology/research/google-willow-quantum-chip/
Quantum error correction below the surface code threshold | Nature
https://www.nature.com/articles/s41586-024-08449-y
Google reveals quantum computing chip with ‘breakthrough’ achievements - The Verge
https://www.theverge.com/2024/12/9/24317382/google-willow-quantum-computing-chip-breakthrough
Google gets an error-corrected quantum bit to be stable for an hour - Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2024/12/google-gets-an-error-corrected-quantum-bit-to-be-stable-for-an-hour/
従来のコンピューター(古典コンピューター)は「0」か「1」の2進数で計算を行います。しかし、量子コンピューターは、量子重ね合わせという現象を利用して「0」と「1」を同時に表現できる量子ビットを用いることで、一度に多くの情報を処理することが可能になり、古典コンピューターとは比べものにならないほど高速で計算することができます。
しかし、この量子ビットは「環境と情報を急速に交換する性質がある」ため、外界からのさまざまな影響を受け、エラーが発生してしまいます。そのため、理論上では計算を爆速で行うことが可能でも、実際はエラーが増えてしまうため、長時間に高精度の計算ができないという問題があります。このエラーをどのように訂正していくかが量子コンピューティングにおける最大の課題といっても過言ではありません。
Willowは105個の量子ビットが格子状に配置されており、3×3ビット、5×5ビット、7×7ビットというように正方形の配列で論理量子ビットを構成することが可能になっています。
Google Quantum AI LabがNatureに発表した論文によれば、量子ビットの配列を3×3から始めて、5×5、そして7×7と拡大していく過程で、それぞれのステップでエラー率をほぼ半分に低減することができたとのこと。
従来の量子システムでは、量子ビット数を増やすほどエラーが増加し、システムが古典的な振る舞いに近づいてしまうとされています。これが1995年にベル研究所のピーター・ショア氏が提唱した「量子エラーのしきい値理論」です。しかし、単にエラー率を低減しただけでなく、距離を2増やすごとにエラー率が2.14倍減少するという指数関数的な改善を示しました。これは、より多くの量子ビットを追加することで、さらに高精度な量子計算が可能になることを意味します。つまり、WillowはGoogle初の「しきい値以下」を示した量子チップになるというわけです。
Willowは単一量子ビットゲートで0.035%±0.029%、2量子ビットゲートで0.33%±0.18%という低いエラー率を達成しています。
また、Willowの量子ビットが励起状態を保持できるT1時間は68±13マイクロ秒に達し、前世代と比較して約5倍の改善を実現しているとのこと。加えて、1秒あたり90万9000回のエラー訂正サイクルを実行できる能力を持っています。量子コンピューティングにおいて、計算完了前にエラーを十分な速さで訂正できなければ結果が破壊されてしまうため、このT1時間とエラー訂正速度は非常に重要な意味を持つといえます。
Google Quantum AI Labは、Willowの成果は理論的な可能性を示しただけでなく、実際の超伝導量子チップで実証されたという点で画期的だと主張。大規模な障害耐性のある量子コンピュータの実現可能性を強く示唆する重要な実験的証拠となる、と期待を寄せています。
また、Google Quantum AI LabはWillowのもう1つの成果として、「記事作成時点で最速のスーパーコンピューターを使うと1025年かかる計算を、Willowであれば5分未満で実行できた」と報告しています。ただし、この結論は「ランダム量子回路サンプリング(RCS)というベンチマークをWillowで実行し、そのサンプリング結果を古典コンピューターで再現しようとする」という手順で行った上での試算によるものです。
Google Quantum AI Labは「高度なAIは量子コンピューティングを利用することで大きな恩恵を受けるでしょう。量子コンピューティングは、従来のマシンではアクセスできないトレーニング データの収集、特定の学習アーキテクチャのトレーニングと最適化、量子効果が重要なシステムのモデリングに不可欠です」と述べています。
また、Googleのスンダー・ピチャイCEOは「Willowは、創薬、核融合エネルギー、バッテリー設計などの分野で実用的なアプリケーションを備えた有用な量子コンピューターを構築するという私たちの取り組みにおける重要なステップであると考えています」とコメントしています。
We see Willow as an important step in our journey to build a useful quantum computer with practical applications in areas like drug discovery, fusion energy, battery design + more. Details here: https://t.co/dgPuXOoBSZ
— Sundar Pichai (@sundarpichai) December 9, 2024
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