フランスでメッセージアプリの「バックドア義務化法案」が否決される、偶然電子投票システムが故障しハッキングかと騒ぎになる一幕も

麻薬密売の撲滅を目的に、SignalやWhatsAppなどの暗号化メッセージアプリの通信内容を情報機関に提出させるフランスの法案が、2025年3月20日から21日にかけてフランス国民議会で行われた審議により、反対多数で否決されました。電子フロンティア財団はこの決議を「デジタル権利、プライバシーとセキュリティ、そして常識の勝利」と述べて歓迎しています。
Narcotrafic : l'Assemblée refuse l'accès aux messageries chiffrées, contre l'avis de Bruno Retailleau | LCP - Assemblée nationale
https://lcp.fr/actualites/narcotrafic-l-assemblee-refuse-l-acces-aux-messageries-chiffrees-contre-l-avis-de-bruno
L’Assemblée nationale vote pour le maintien de la confidentialité des messageries cryptées, lors d’une nuit agitée
https://www.lemonde.fr/societe/article/2025/03/21/l-assemblee-vote-pour-le-maintien-de-la-confidentialite-des-messageries-cryptees-lors-d-une-nuit-agitee_6584121_3224.html
A Win for Encryption: France Rejects Backdoor Mandate | Electronic Frontier Foundation
https://www.eff.org/deeplinks/2025/03/win-encryption-france-rejects-backdoor-mandate

今回議会で否決されたのは、ブルーノ・リテールロー内務大臣が強く推進していた「Proposition de loi visant à sortir la France du piège du narcotrafic(フランスを麻薬密売の罠から解放するための法律案)」です。この法案の草稿には、当局がメッセージサービスから自動収集された情報とデータに、永続的かつ完全にアクセスできるようにする条項が盛り込まれていました。
事実上、エンドツーエンド暗号化を骨抜きにし、バックドアを作成することを義務付けるこの条項は審査の過程で削除されましたが、一部の推進派は規定の復活を目指していたとのこと。

フランス政府は法案を説明するウェブページで、「フランスにおける麻薬取引の影響に関する上院調査委員会の報告書では、これまで影響を免れていた中規模の町や農村部を含めたフランス全土が麻薬取引に汚染されていることが判明しました。これにより、我が国が転換点に立たされていることに加え、何にも増して国家的な対応力、洞察力、一貫性が不足しているという憂慮すべき事態が明らかになりました」と訴えています。
またリテールロー内務大臣は、フランスの犯罪組織との関与が疑われている麻薬密売人で、刑務所への移送中の銃撃事件により脱走したモハメド・アムラを念頭に、「アムラの逃亡は9カ月続きましたが、この法案の手法であれば、半分の時間で済んだはずです」と述べました。
一方、セキュリティの専門家やプライバシー擁護派は法案に強く反対しており、電子フロンティア財団は「この法律案は、反麻薬法の皮をかぶった監視体制の『ほしい物リスト』でした。その中には、広く非難されている『ゴースト参加者モデル』、つまりバックドアではないふりをしたバックドアの復活も含まれていました。この手法を使うと、法執行機関は暗号化されたチャットにひっそりと参加することができ、プライベートなコミュニケーションという概念そのものが損なわれることになります」と述べました。
この法案を審議する議会は紛糾し、中には修正案を提出した議員らを「銃の運び屋」呼ばわりする発言もあったとのこと。

さらに、偶然電子投票システムが故障して採決ができなかったため、最終的に副議長が577人の議員全員の名前を読み上げ、出席議員らが順番に登壇して口頭で賛否を回答するアナログな方式で投票することになりました。
その結果、深夜にさしかかって日付が変わる頃に反対119票、賛成24票の反対多数で法案が否決されました。
デジタル権の擁護団体は、今回のフランスの決定がアメリカやイギリス、オーストラリアなど世界各国で議論されている反暗号法案の廃止につながることを期待しています。電子フロンティア財団は声明の中で「フランスがバックドア条項を拒絶したことは、世界中の立法府に向けた『公共の安全の名の下に基本的人権を犠牲にする必要はない』というメッセージになるでしょう。暗号化は正義の敵ではなく、プライベートな会話をする権利を含む、私たちの基本的人権を支えるツールであり、現代の民主主義とサイバーセキュリティの柱でもあります」と述べました。
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in ネットサービス, セキュリティ, Posted by log1l_ks
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