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学校のカウンセラー不足を解消するために「AIと人間のハイブリッドチャットボット」の導入が進んでいる


10代の若者は勉強や家族関係、友人付き合いなどで精神的な不安を抱えることが多いため、教師や専門のスクールカウンセラーによるメンタルのケアは重要です。アメリカではスクールカウンセラー不足を解消するために、「AIと人間のハイブリッドチャットボット」の導入が進んでいると、経済紙のウォール・ストリート・ジャーナルが報じました。

When School Counselors Aren’t Available, a Human-AI Chatbot Answers - WSJ
https://www.wsj.com/tech/ai/student-mental-health-ai-chat-bots-school-4eb1ba55

米国スクールカウンセラー協会は学校に対し、生徒250人ごとに少なくとも1人のスクールカウンセラーを雇用することを推奨していますが、アメリカ全土では平均して376人に1人のカウンセラーしかいないとのこと。また、17%の高校にはそもそもスクールカウンセラーが1人もいないそうで、生徒のメンタルケアをする人手が足りないことが問題となっています。


この問題を解消するため、アメリカのAIスタートアップであるSonar Mental HealthはAIと人間を組み合わせたハイブリッドチャットボット「Sonny」を展開しています。Sonnyの強みは生徒との対話をAIのみに任せるのではなく、心理学・ソーシャルワーク・メンタルヘルスサポートなどのバックグラウンドを持つ人間が介入し、チャットを見直したり、AIのヒントを元に自ら生徒に返信したりするという点です。

Sonar Mental Healthのスタッフは一度に15~25個のチャットを監視し、生徒が自傷行為や自殺願望をほのめかした場合、必要に応じて保護者や学校管理者、警察などに通知する仕組みとなっています。

スタンフォード大学経営大学院の在学中にSonar Mental Healthを立ち上げたドリュー・バーヴィル氏は、「Sonnyは人間の副操縦士や助手のようなものです」と語っています。バーヴィル氏は、10代の若者における不安や抑うつの割合が上昇する中で、スマートフォンを通じていつでも連絡できる状態であることが、メンタルヘルスの問題を早期発見する方法だと考えています。Sonnyは若者が気安く話しかけられるよう、10代の若者が話す言葉や受け入れられやすい絵文字について学習しており、「クールな兄姉」のように若者とチャットするとのこと。


すでにSonnyは全米の9つの学区で採用されており、公立の中学校や高校に通う合計4500人以上の生徒が使用できます。Sonnyを採用する学区の多くは、低所得者層の住む地域や農村部を抱える、メンタルヘルスサービスが不足している地域だそうです。

カリフォルニア州リッチモンドの高校に通う17歳のミシェル・エレーラ・ロハスさんは、幼い頃からうつ病に悩まされてしばしばセラピストの診察を受けてきました。2024年9月に学校がSonnyを導入した時、ロハスさんは試しに「大学の奨学金申請についてストレスを感じている」とメッセージを送ってみたとのこと。

当時、ロハスさんはいとこが亡くなったこともあり、友人と遊んで気を紛らわせようとする日々を過ごしていましたが、ある時Sonnyから奨学金申請の進捗を気にかけるメッセージが届きました。ロハスさんがいとこの件や作業が進んでいないことを話すと、Sonnyは気晴らしをするのは正常な対処法であり、自分自身でいとこの死を悲しむ時間を取る必要があると述べつつ、申請作業を進めるように励ますメッセージを返しました。このメッセージを見たロハスさんは、誰かが自分のことを気にかけてくれていると感じ、申請作業に集中するモチベーションになったと語っています。

それ以降、ロハスさんは友人に頼るのが難しいと感じた時、Sonnyにチャットを送るようになりました。ロハスさんはSonnyを使うことについて、「私は特定の状況に執着してしまうことがあり、同じことを何度も話すと友人を困らせることがあると知っています。Sonnyなら、何を話しても困らせているという感じがしません」と述べており、Sonnyは人間の友人よりも相談や会話のハードルが低いと感じているようです。

記事作成時点では、生徒はアメリカ東部標準時の8時~26時までSonnyとチャットすることが可能。バーヴィル氏は今後スタッフを増やし、24時間体制にしたいと語りました。


SonnyのAIはスタンフォード大学とカリフォルニア大学アーバイン校のメンタルヘルス臨床医と研究者のチームにより、動機づけ面接と認知行動療法の手法によって訓練されているとのこと。とはいえ、ボディランゲージやちょっとしたしぐさからうつ病や不安の兆候を見つけられる人間のセラピストと違い、Sonnyはあくまで生徒が自ら入力したテキストに依存している点に限界があります。

そのためバーヴィル氏は、学校や生徒への説明会では「Sonnyはセラピストではない」ことをはっきり明言しており、Sonnyも生活の中で人と話すよう生徒に勧めています。また、生徒はソーシャルメディアのアカウントをSonnyと共有することもでき、その場合はアカウントの投稿からメンタルヘルスの問題を監視してもらうことが可能。もし生徒のメンタルヘルスに問題がみられる場合、人間のスタッフが学校や保護者と協力してセラピストを見つけるのを支援するそうです。

なお、自傷行為や暴力行為の兆候がある場合を除き、スタッフは生徒とSonnyが交わしたやり取りの内容を開示しないとのこと。また、生徒がSonnyと会話するアカウントを削除した場合、60日間の保持期間を過ぎると会話履歴は削除されます。Sonnyのサービスは学区あたり2万~3万ドル(約300万~450万円)であり、学区はメンタルヘルス支援の助成金から費用を支払っているとのことです。

実際にSonnyを導入したアーカンソー州ベリービルの高校では、Sonnyに登録した175人の生徒のうち53%が月に数回メッセージを送っており、導入後は生徒の違反行動が26%減少するという成果が得られました。また、テスト期間の前にメッセージの数が増加したことから、その期間中に生徒の感情をサポートする必要があると学校が気付く役にも立ったとのこと。さらにミシガン州メアリーズビルの高校では、自殺を考えたという生徒をSonnyを通じて特定し、サポートを提供することができました。

メアリーズビルの特別支援教育および州・連邦政府プログラム担当事務局長のカリー・スミス氏は、「私たちはSonnyを使うことにより、それがなければ水面下で見えなかったであろうメンタルヘルスのサポートが必要な生徒を、見つけることができるようになると思います」とコメントしました。

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