Microsoftは量子プロセッサー「Majorana 1」によるブレークスルーを主張する一方物理学者は「発表された論文にはデータが不足している」と懐疑的

Microsoftは2025年2月19日に、同社初の量子プロセッサー「Majorana 1」を発表しました。MicrosoftはMajorana 1について「マヨラナ粒子を観測・制御できる画期的なアーキテクチャ『トポロジカルコア』を活用し、量子ビットを高い信頼性をもってスケーラブルに生成するもの」と説明し、既存の古典的コンピューターでは計算不可能な問題を解決できる可能性があると主張しています。しかし、一部の専門家はMicrosoftのこの発表に対して懐疑的な目を向けています。
Microsoft claims quantum-computing breakthrough — but some physicists are sceptical
https://www.nature.com/articles/d41586-025-00527-z
Shtetl-Optimized » Blog Archive » FAQ on Microsoft’s topological qubit thing
https://scottaaronson.blog/?p=8669
Physicists Question Microsoft’s Quantum Claim - WSJ
https://www.wsj.com/science/physics/microsoft-quantum-computing-physicists-skeptical-d3ec07f0
量子コンピューターとは、0または1の単一の値をとる従来のビットではなく、0と1に加えて「0と1の量子力学的重ね合わせ状態」を表現できる量子ビットを使うことで、既存のコンピューターよりも格段に速い速度で情報を処理するものですが、量子ビットには「操作時の環境変化に弱い」という欠点があります。また、計算には「測定」が必要ですが、測定により量子ビットの状態が変わってしまうという問題も抱えています。
そこで、Microsoftはエラー耐性のあるトポロジカル量子ビットをデジタル方式で制御する「トポロジカル量子コンピューター」に着目しました。これは、通常よりも安定した量子ビットを作り、エラー訂正の必要性を減らすことで、処理速度やサイズ、制御性の向上が期待できるというもの。しかし、このトポロジカル量子コンピューターに必要な「マヨラナ粒子」は自然界に存在せず、磁場と超伝導体を利用して人工的に作り出す必要があります。
通常、電子や陽子といったフェルミ粒子には「反粒子」が存在します。マヨラナ粒子は自分自身がその反粒子と同一という不思議な性質を持つ粒子で、理論上存在することが指摘され、2018年にその存在が実証されました。これによりMicrosoftは、インジウムヒ素とアルミニウムを使って「トポロジカル超伝導体」を開発することに成功。マヨラナ粒子を利用した量子ビットをよりシンプルかつデジタル的に制御可能になり、大規模化しやすくなったとMicrosoftは伝えています。
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Microsoftは「100万量子ビット以上を実現する量子アーキテクチャと、数兆回の高速かつ信頼性の高い演算が可能なシステムが必要ですが、今回の発表によりその未来は数十年先ではなく数年以内に実現可能であることが示されました」と述べており、Majorana 1が量子コンピューティングにおけるブレークスルーであることを主張しています。
Microsoftは今回の発表と同時に、Majorana 1に関する論文を公開していますが、一部の専門家はこの論文に対して「主張を裏付けるデータが掲載されていない」と指摘しています。
オーストリア科学技術研究所の物理学者であるゲオルギウス・カツァロス氏は「この論文には量子ビット演算による追加データが含まれていません。それを見なければコメントできることはほとんどありません」と批判。また、ヘルムホルツ研究センターの物理学者であるヴィンセント・ムーリク氏は「このレベルの論文では、Microsoftが追求しているようなマヨラナ粒子を用いたトポロジカル量子ビットに基づく量子コンピューターを構築するアプローチは機能しません」と述べています。
また、バーゼル大学の量子物理学者、エレナ・クリノヴァヤ氏は「私たちは科学者であり、実際にデータを確認することで物事を信じています。量子コンピューティングは非常に難しい分野ですが、Microsoftは適切にデータを提供する必要があります」と主張しました。メリーランド大学の理論物性物理学者のジェイ・ソウ氏は「この論文は、科学の領域ではなく広告の領域です。今回発表された予備データはトポロジカル量子ビットの有望な証拠のように見えますが、より詳細なデータを注意深く分析しなければ、確証を持つことは難しいです」と語りました。

Majorana 1の根幹を成すマヨラナ粒子をめぐっては、数多くの研究グループがその存在を観測したことを報告しています。しかし、仮説の立証に役立たないデータを「外れ値」として除外し、役立ちそうなデータだけを抽出した論文もあり、マヨラナ粒子の存在を示す多くの論文が撤回・反証されています。
量子コンピューターに関する論文が続々と撤回されている理由を「マヨラナ粒子」の研究者が解説 - GIGAZINE

一方でMicrosoftの研究者であるチェタン・ナヤック氏は「私たちは研究の成果をタイムリーに公開するとともに、会社の知的財産を保護することにも取り組んでいます」「測定が複雑化するにつれて、従来の非トポロジカルモデルで結果を説明することは難しくなります。誰もが納得できる瞬間は1つもないかもしれません」と語りました。
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in ハードウェア, サイエンス, Posted by log1r_ut
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