ロシアの破壊工作が疑われたバルト海の海底ケーブル損傷について「やっぱり事故の可能性が高い」と当局者は考え始めている

2023年から2024年にかけて、ヨーロッパ大陸とスカンジナビア半島に囲まれたバルト海の送電や通信用の海底ケーブルが貨物船によって傷つけられ、送電や通信に被害が及ぶ事態が相次ぎました。一連の海底ケーブル破損については、「ロシアによる破壊工作ではないか」という見方も強まっていましたが、大手日刊紙のワシントン・ポストは、アメリカやヨーロッパの安全保障機関の間では海底ケーブル破損は「事故だった」という認識が高まっていると報じました。
Accidents, not Russian sabotage, behind undersea cable damage, officials say - The Washington Post
https://www.washingtonpost.com/world/2025/01/19/russia-baltic-undersea-cables-accidents-sabotage/

アメリカやヨーロッパの安全保障機関は、ここ十数カ月にわたりバルト海で相次いでいる海底ケーブルの破損について、ロシアによる破壊工作を念頭に置いて捜査を行ってきました。この捜査の中心となっているのは、「ロシアの港を出入りする船舶が北欧全域にガスや電気、インターネット通信を供給する海底ケーブルを切断した疑いがある3件の事例」です。
このうち1件は2023年10月に起きたもので、フィンランドとエストニアを結ぶバルト海の海底ガスパイプラインと通信ケーブルが、香港籍のコンテナ船「NewNew Polar Bear」によって破損しました。このほか、2024年11月にはリトアニアとスウェーデンおよびフィンランドとドイツを結ぶ海底ケーブルを中国船籍の貨物船「YI PENG 3」が切断した事例が起きており、同年12月にはフィンランドとエストニアを結ぶ海底送電ケーブルが破損して大規模障害が発生しました。
12月に起きたケースでは、バルト海を航行していた貨物船「イーグルS」によって引き起こされた可能性があると報じられています。フィンランド当局はイーグルSについて、ウクライナ侵攻から原油の輸出制限という制裁を受けているロシアが石油取引に利用する闇タンカーである「影の船団」だとにらんでおり、実際に押収されたイーグルSには無鉛ガソリンが約3万5000トン積載されていたそうです。
フィンランドが海底送電ケーブルの損傷についてロシアの「影の船団」の犯行を疑い捜査中 - GIGAZINE

ロシアは一連の海底ケーブル破損について関与を否定していますが、アメリカやヨーロッパの安全保障機関はその主張に懐疑的な目を向けてきました。2024年11月には、欧州各地で相次いだ国際小包の爆発がロシア軍情報機関によるものであり、アメリカ行きの、航空貨物便で爆発を引き起こそうと狙う計画の予行演習だったと報じられました。また、同年7月には「ロシアがウクライナ軍の砲弾を生産するドイツの大手防衛企業CEOの暗殺を計画していたが、アメリカの情報機関が事前に察知して暗殺を未然に防いだ」と報道されています。
ヨーロッパ各国の安全保障当局は、ロシアがエージェントを使って数百件に及ぶ放火や鉄道の混乱、小規模な破壊活動を行っており、ヨーロッパに分裂を招くと共にウクライナへの支援を減らそうと画策していると非難しています。こうした中で、海底ケーブルの破損がロシアによる破壊工作の一環だとする見方は強まっており、2025年1月14日には北欧など8カ国の首脳がフィンランドの首都ヘルシンキで会談し、NATOと連携して海域でのパトロールを強化することを確認しました。
しかしワシントン・ポストによると、アメリカとヨーロッパ6カ国の安全保障機関が関与した調査では、これまでのところ船舶が故意にあるいはロシア政府の指示で海底ケーブルを破損させた証拠は見つかっていないとのこと。むしろ傍受した通信やその他の機密情報からは、海底ケーブルの破損は「整備が不十分な船舶に乗船した経験の浅い乗組員が引き起こした事故」であることが示唆されているそうです。
捜査は依然として進行中であるため、詳細な情報や証言者の身元は不明ですが、アメリカ当局は各事件で示された「明確な説明」に基づき、海底ケーブル損傷は偶発的な事象であった可能性が高いと考えています。この意見にヨーロッパの2つの情報機関の当局者も同意しているほか、あるヨーロッパの当局者はロシアが海底ケーブル損傷に関与していないことを示す「反証」があると証言したと、ワシントン・ポストは報じています。

とはいえ、バルト海で起きた海底ケーブル損傷が単なる事故だという主張に対しては、懐疑的な声も上がっています。かつてアメリカのロシア担当国家情報官を務めたエリック・チャラメラ氏は、確かに海底ケーブル損傷が偶発的な事故の可能性もあると認めつつも、「モスクワの諜報機関がドイツ企業幹部の暗殺を試みたり、ヨーロッパ中の工場で火災を起こしたり、貨物機に爆弾を仕掛けたりしている以上、ロシアによる協調的なキャンペーンを否定することは難しいです」と語りました。
また、欧州議会のフィンランド代表であり元フィンランド軍情報部門トップのペッカ・トヴェリ氏は、海底ケーブルの破損は典型的なハイブリッド戦略の一部だと主張。「ハイブリッド戦略で最も重要なのは否認可能性です」と述べ、ロシアの諜報機関は法廷で通用する証拠を残さなかったかもしれないが、それだけで事故だったと結論付けるのはナンセンスだと述べました。トヴェリ氏らはロシアが海底ケーブル損傷に関与した証拠として、「関連する船舶に異常な行動がみられたこと」「ロシア軍が長年にわたり海底インフラを調査してきたこと」などを挙げています。
その一方でワシントン・ポストは、北大西洋条約機構(NATO)加盟国の海底ケーブルを標的に攻撃を仕掛けることにより、ロシアにとって重要な資金源である石油の密輸に厳しい目が向けられるリスクがあると指摘。また、イーグルSの調査について説明を受けた北欧の当局者は、「私たちは常に『影の船団』の船舶は状態が悪いと想定してきましたが、これは私たちの予想以上に劣悪でした」と述べ、タンカーの整備状態がかなり悪かったと証言しています。
ヨーロッパの安全保障当局は、フィンランドの主要諜報機関も2024年12月の一件は事故だったという見方を示しているものの、ロシアの関与が完全になかったと断言するのは難しいかもしれないと考えているそうです。イーグルSの捜査を主導するフィンランド国家捜査局の広報担当者は、「捜査はまだ進行中であり、損傷の原因や複合的な要因について最終的な結論を出すのは時期尚早です」とコメントしました。
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