「シュレーディンガーの猫」をシリコンチップ上で実現する量子ビットを開発したという研究報告
箱の中に入れた猫が生きているのか死んでいるのかを考える「シュレーディンガーの猫」は、20世紀前半にオーストリアの物理学者であるエルヴィン・シュレーディンガーによって提唱された思考実験です。このシュレーディンガーの猫の量子状態をシリコンチップ上に実現したと、ニューサウスウェールズ大学の研究チームが発表しました。
Schrödinger cat states of a nuclear spin qudit in silicon | Nature Physics
https://www.nature.com/articles/s41567-024-02745-0
Quantum engineers create a 'Schrödinger's cat' inside a silicon chip
https://phys.org/news/2025-01-quantum-schrdinger-cat-silicon-chip.html
1935年、シュレーディンガーは「確率に左右される量子力学は不完全である」と主張するため、「シュレーディンガーの猫」という思考実験を提唱しました。
箱の中に放射性元素とガイガー計数管付きの装置、そして生きた猫を入れることを想定します。放射性元素は1時間当たり50%の確率で崩壊して放射線を出し、ガイガー計数管付きの装置は放射線を検知すると毒ガスを発生します。もちろん毒ガスが発生すると猫は死んでしまうので、1時間後に箱の中で猫が生きている確率は50%になります。つまり、箱を開けて確かめてみるまで、箱の中の状態は「猫が生きている状態」と「猫が死んでいる状態」の重ね合わせになるといえるわけです。
by ADA&Neagoe
「シュレーディンガーの猫」のポイントは、量子力学的な現象を「生きている猫」と「死んでいる猫」という巨視的、すなわち人間のスケールで観測可能な状態に結びつけたところです。言い換えるなら、「シュレーディンガーの猫」は「ミクロな量子現象がマクロな世界の状態をどのように決定するのか」という問題を提起しているといえます。
今回、研究チームはシリコンのナノ電子デバイスに埋め込まれたアンチモン原子を使って、従来の量子ビットよりも複雑な量子状態を作り出すことに成功したと報告しています。また、シュレーディンガーの猫の状態を「大きく離れたコヒーレント状態の重ね合わせ」であると定義し、アンチモン原子を用いた量子ビットはこれを実現したものだと主張しました。
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