メモ

エジプト人が古代の儀式で体液や幻覚剤が入ったカクテルを飲んでいた可能性が研究により判明


古代エジプト人が使用していたとされるマグカップを分析した結果、お酒などの成分に加えて現代では「幻覚剤」と見なされる植物の成分が混入していたことが明らかになりました。神託を受ける人が、トランス状態になるために飲用していた可能性が指摘されています。

Multianalytical investigation reveals psychotropic substances in a ptolemaic Egyptian vase | Scientific Reports
https://www.nature.com/articles/s41598-024-78721-8

Study confirms Egyptians drank hallucinogenic cocktails in ancient rituals
https://phys.org/news/2024-11-egyptians-drank-hallucinogenic-cocktails-ancient.html

古代エジプトでは、「ベス」と呼ばれる神が信仰されていました。ベスは人々を危険から身を守ると同時に、危害を避け、その力で悪を防ぐことができたとされていて、危機的な状況においては血に飢えた女神ハトホルに、血に見せかけたアルコール飲料を飲ませて深い忘却の眠りにつかせたなどのエピソードが語られています。

他にも、夢をつかさどる神、喜びをもたらす存在、男らしさと性欲、豊穣と多産、そして出産と成長に至るまで、ある種の「再生」をつかさどる存在としても語られていたといいます。

以下が、さまざまな文献を元に再現されたベスの姿です。

by Eternal Space

ベスの崇拝と儀式は数世紀の間に形を変えつつも引き継がれ、特に紀元前330~西暦30年頃のプトレマイオス時代、あるいはそれ以前には、エジプトの首都メンフィス近郊のサッカラ遺跡に「ベスの部屋」が作られて儀式が行われていたとされています。

ベスに関連して複数発掘されている祭具が、「ベスの壺(つぼ)」です。ベスの壺はベスの肖像や頭部をあしらった陶器の一種で、エジプトでは紀元前1570年頃~紀元前1070年頃の新王国時代から、生産がピークに達したヘレニズム時代(紀元前336~紀元前30年)、ローマ帝国時代(紀元前30~西暦476年)まで流通していました。


このように、ベスの壺は複数の時代にまたがってさまざまな状況下で存在したため、ベスの壺が日常的な用途で使われたのか、それとも宗教的な儀式で使われていたのかを推測することは非常に困難でした。ところが、現存する「ベスの壺」のうち、紀元前2世紀頃に使われていたとされるものを調査した結果、壺に入っていた成分が判明したといいます。

南フロリダ大学のダビデ・タナシ氏らが、フロリダ州タンパのタンパ美術館で保管されているベスの壺から粒子のサンプルを収集して分光分析や質量分析を実施したところ、ローヤルゼリーや小麦、ゴマ、ワイン、糖度の高いハチミツまたは果実の痕跡に加え、かなり複雑な組成の調合薬の痕跡が確認できたとのこと。


調合薬の中で際立っていたのは、一般にハルマラまたはシリアン・ルーとして知られる薬用植物「ペガヌム・ハルマラ」でした。ペガヌム・ハルマラはアルカロイド成分を含み、夢を見ているような幻覚作用を引き起こすものであり、現代では危険ドラッグの成分としても知られている植物です。

古代ギリシャ・ローマ時代のベス崇拝に関連する儀式には、予知夢を得るために相談者が「ベスの部屋」で眠るという、神託を目的とした習慣があったことから、タナシ氏らは「幻覚作用がそのような目的に適していたのだろう」と推測しました。

また、ベスとペガヌム・ハルマラ、幻覚作用の結びつきを裏付ける証拠として、紀元前1294年~紀元前1279年に古代エジプトを統治していたセティ1世の神殿で見つかった文字から、ベスが「神託を与える者」や「夢を与える者」と呼ばれていたことがわかっているほか、種に麻薬的・鎮静的特性を持つとされるスイレンの花から顔を出す様子を描いたベスの置物が、少なくとも12点見つかっていることなどが挙げられるといいます。

言語学的にも、baššāšā(古代シリア)、baššūšā(現代シリア)、bešaš(古代アラム語)、basous(コプト)、bêsasa(現代エジプト)、bêsa(ギリシア医学パピルス)など、ハルマラを表す古今東西のさまざまな名前は「bs-」や「bss-」という文字で構成される語根を持っており、ベス(Bes)との関連性が指摘されています。特に、bêsaとbêsasaという名前は直接的にベスに由来し、「Besの植物」と解釈されているとのことです。


このほかベスの壺からは、使用量によって陣痛促進または堕胎作用のいずれかをもたらす「Cleome gynandra L.」という植物や、伝統的に駆虫薬や小児けいれんの治療薬として使われる「Cleome chrysantha Decne」という植物などが見つかっています。また、粒子に含まれていたタンパク質から、母乳または粘液(口内または膣)、血液など、人間の体液が意図的に飲料へ追加された可能性があることもわかっているそうです。

こうした情報から、神託を得る人は主に妊婦であり、妊娠・出産が危険と隣り合わせだった古代の世界で、妊娠の成功を確かめたい人々が「ベスの部屋」で幻覚を誘発する儀式を受けた可能性もあるとタナシ氏らは指摘します。

タナシ氏らは「これらの植物は、儀式において精神作用を引き起こすものとして意図的に使用されたと結論づけることができます。今回の研究で、古代エジプトの謎、つまり約2000年前にベスの壺がどのように使用されていたのかという秘密に、光を当てることに成功しました」と述べました。

なお、タンパ美術館で保存されているベスの壺の3Dモデルは以下のサイトから見ることができます。

Bes mug - 3D model by USF Institute for Digital Exploration (IDEx) (@usfidex) [49935b7]
https://sketchfab.com/3d-models/bes-mug-49935b7b1a3f459497cd10ee880231ff

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古代エジプト人が使用していたとされるマグカップを分析した結果、お酒などの成分に加えて現代では「幻覚剤」と見なされる植物の成分が混入していたことが明らかになりました。神託を受ける人が、トランス状態になるために飲用していた可能性が指摘されています。

Multianalytical investigation reveals psychotropic substances in a ptolemaic Egyptian vase | Scientific Reports
https://www.nature.com/articles/s41598-024-78721-8

Study confirms Egyptians drank hallucinogenic cocktails in ancient rituals
https://phys.org/news/2024-11-egyptians-drank-hallucinogenic-cocktails-ancient.html

古代エジプトでは、「ベス」と呼ばれる神が信仰されていました。ベスは人々を危険から身を守ると同時に、危害を避け、その力で悪を防ぐことができたとされていて、危機的な状況においては血に飢えた女神ハトホルに、血に見せかけたアルコール飲料を飲ませて深い忘却の眠りにつかせたなどのエピソードが語られています。

他にも、夢をつかさどる神、喜びをもたらす存在、男らしさと性欲、豊穣と多産、そして出産と成長に至るまで、ある種の「再生」をつかさどる存在としても語られていたといいます。

以下が、さまざまな文献を元に再現されたベスの姿です。

by Eternal Space

ベスの崇拝と儀式は数世紀の間に形を変えつつも引き継がれ、特に紀元前330~西暦30年頃のプトレマイオス時代、あるいはそれ以前には、エジプトの首都メンフィス近郊のサッカラ遺跡に「ベスの部屋」が作られて儀式が行われていたとされています。

ベスに関連して複数発掘されている祭具が、「ベスの壺(つぼ)」です。ベスの壺はベスの肖像や頭部をあしらった陶器の一種で、エジプトでは紀元前1570年頃~紀元前1070年頃の新王国時代から、生産がピークに達したヘレニズム時代(紀元前336~紀元前30年)、ローマ帝国時代(紀元前30~西暦476年)まで流通していました。


このように、ベスの壺は複数の時代にまたがってさまざまな状況下で存在したため、ベスの壺が日常的な用途で使われたのか、それとも宗教的な儀式で使われていたのかを推測することは非常に困難でした。ところが、現存する「ベスの壺」のうち、紀元前2世紀頃に使われていたとされるものを調査した結果、壺に入っていた成分が判明したといいます。

南フロリダ大学のダビデ・タナシ氏らが、フロリダ州タンパのタンパ美術館で保管されているベスの壺から粒子のサンプルを収集して分光分析や質量分析を実施したところ、ローヤルゼリーや小麦、ゴマ、ワイン、糖度の高いハチミツまたは果実の痕跡に加え、かなり複雑な組成の調合薬の痕跡が確認できたとのこと。

調合薬の中で際立っていたのは、一般にハルマラまたはシリアン・ルーとして知られる薬用植物「ペガヌム・ハルマラ」でした。ペガヌム・ハルマラはアルカロイド成分を含み、夢を見ているような幻覚作用を引き起こすものであり、現代では危険ドラッグの成分としても知られている植物です。

古代ギリシャ・ローマ時代のベス崇拝に関連する儀式には、予知夢を得るために相談者が「ベスの部屋」で眠るという、神託を目的とした習慣があったことから、タナシ氏らは「幻覚作用がそのような目的に適していたのだろう」と推測しました。

また、ベスとペガヌム・ハルマラ、幻覚作用の結びつきを裏付ける証拠として、紀元前1294年~紀元前1279年に古代エジプトを統治していたセティ1世の神殿で見つかった文字から、ベスが「神託を与える者」や「夢を与える者」と呼ばれていたことがわかっているほか、種に麻薬的・鎮静的特性を持つとされるスイレンの花から顔を出す様子を描いたベスの置物が、少なくとも12点見つかっていることなどが挙げられるといいます。

言語学的にも、baššāšā(古代シリア)、baššūšā(現代シリア)、bešaš(古代アラム語)、basous(コプト)、bêsasa(現代エジプト)、bêsa(ギリシア医学パピルス)など、ハルマラを表す古今東西のさまざまな名前は「bs-」や「bss-」という文字で構成される語根を持っており、ベス(Bes)との関連性が指摘されています。特に、bêsaとbêsasaという名前は直接的にベスに由来し、「Besの植物」と解釈されているとのことです。


このほかベスの壺からは、使用量によって陣痛促進または堕胎作用のいずれかをもたらす「Cleome gynandra L.」という植物や、伝統的に駆虫薬や小児けいれんの治療薬として使われる「Cleome chrysantha Decne」という植物などが見つかっています。また、粒子に含まれていたタンパク質から、母乳または粘液(口内または膣)、血液など、人間の体液が意図的に飲料へ追加された可能性があることもわかっているそうです。

こうした情報から、神託を得る人は主に妊婦であり、妊娠・出産が危険と隣り合わせだった古代の世界で、妊娠の成功を確かめたい人々が「ベスの部屋」で幻覚を誘発する儀式を受けた可能性もあるとタナシ氏らは指摘します。

タナシ氏らは「これらの植物は、儀式において精神作用を引き起こすものとして意図的に使用されたと結論づけることができます。今回の研究で、古代エジプトの謎、つまり約2000年前にベスの壺がどのように使用されていたのかという秘密に、光を当てることに成功しました」と述べました。

なお、タンパ美術館で保存されているベスの壺の3Dモデルは以下のサイトから見ることができます。

Bes mug - 3D model by USF Institute for Digital Exploration (IDEx) (@usfidex) [49935b7]
https://sketchfab.com/3d-models/bes-mug-49935b7b1a3f459497cd10ee880231ff

in Posted by log1p_kr

You can read the machine translated English article here.