CERNがLHCを用いた実験で作られた最も重い反ハイパー核「反ハイパーヘリウム4」を発見
欧州合同原子核研究機関(CERN)が2024年12月9日、大型ハドロン衝突型加速器(LHC)を用いて宇宙誕生時の高エネルギー状態を再現した実験で、新たなハイパー核である「antihyperhelium-4(反ハイパーヘリウム4)」を発見したと報告しました。
Antihyperhelium-4: First Evidence at the LHC - CERN Document Server
https://cds.cern.ch/record/2917859
ALICE finds first ever evidence of the antimatter partner of hyperhelium-4 | CERN
https://home.cern/news/news/physics/alice-finds-first-ever-evidence-antimatter-partner-hyperhelium-4
通常の原子核は中性子と陽子から構成されていますが、ハイパー核は陽子と中性子に加え、ハイペロンという粒子(バリオン)によって構成されています。ハイペロンとは、素粒子の一種であるストレンジクォークを含んだバリオンのことです。
ハイパー核は原子核がどのような仕組みで形成されているのかを理解する上で重要ですが、ハイペロンは不安定で約100億分の1秒の寿命しかなく、原子と中性子からなる核子より圧倒的に短命であり、自然界ではめったに見つかりません。また、実験室で作成することも非常に難しいため、物理学者にとって魅力的な研究対象となっています。
CERNのLHCを用いたALICE実験は重イオンを加速・衝突させることで、ビックバンの100万分の1秒後に宇宙を満たしたとされる物質の高温高圧状態・クォークグルーオンプラズマを生成します。また、原子核とハイパー核、およびこれらの反物質である反原子核と反ハイパー核の生成に適した条件も作り出すとのこと。
ALICE実験ではハイパー核が大量に生成されますが、これまでにLHCで観測されたのは最も軽いハイパー核であるhypertriton(ハイパートリトン)とその反物質であるantihypertriton(反ハイパートリトン)、そして2024年に発見されたantihyperhydrogen-4(反ハイパー水素4)に限られていました。
新たにCERNの研究チームは、2018年に行われた鉛・鉛衝突実験のデータを使用し、従来のハイパー核探索技術よりも優れた機械学習技術を用いてハイパー核や反ハイパー核の痕跡を調査しました。
分析の結果、3.5標準偏差の有意性で反ハイパーヘリウム4が存在する証拠を発見しました。反ハイパーヘリウム4は2個の反陽子と、反中性子と反ラムダ粒子1個ずつからなる反ハイパー核で、LHCで見つかったこれまでで最も重い反ハイパー核でもあります。
ビッグバンでは物質と反物質が同じ量生成されたはずですが、現在の宇宙では物質が大多数を占めているという不均衡があります。ハイパー核や反ハイパー核の測定は、現在の宇宙にみられるこの不均衡性を調査するのに役立つとのことです。
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