TikTokが原因でルーマニアの大統領選挙が無効になったとの判決、極右候補を支援するロシアの介入が背景に
ルーマニアの最高裁判所は2024年12月6日に、同国で行われた大統領選挙の第1回投票の結果を無効にするという決定を下しました。この選挙では、TikTokやTelegramなどのプラットフォームにおいて親ロシア派候補のカリン・ジョルジェスク氏を支援するオンラインキャンペーンがロシア政府の後援で展開されたことや、選挙インフラが8万5000件以上のサイバー攻撃を受けていることが報告されています。
Commission has stepped up its monitoring of TikTok
https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_24_6243
Romanian court annuls first round of presidential election | Romania | The Guardian
https://www.theguardian.com/world/2024/dec/06/romanian-court-annuls-first-round-of-presidential-election
Romania Scraps Election After Russian Influence Allegations - WSJ
https://www.wsj.com/world/europe/romania-scraps-election-after-russian-influence-allegations-0a2e8ba6
Romanian Elections Targeted By 'Aggressive Hybrid Russian Action,' Declassified Documents Show
https://www.rferl.org/a/romania-russia-election-interference-tiktok/33227010.html
EU puts TikTok on watch over election security | TechCrunch
https://techcrunch.com/2024/12/05/eu-puts-tiktok-on-watch-over-election-security/
ジョルジェスク氏は、「選挙運動への支出ゼロ」を宣言してルーマニア大統領選に出馬しましたが、無名のジョルジェスク氏の知名度は低く、2024年10月に行われた世論調査ではジョルジェスク氏の支持率は1%に達しませんでした。しかし、2024年11月24日に行われた第1回投票で、ジョルジェスク氏は大統領選における有力候補とされていたエレナ・ラスコーニ氏らを抑え、約23%の得票率でトップに躍り出ました。
これを受け、ルーマニア政府は今回の選挙に関する調査を実施。情報機関による調査の結果、ルーマニア国籍のボグダン・ペシルという人物が、ジョルジェスク氏の情報をTikTokやTelegram上で拡散したインフルエンサーらに合計38万1000ドル(約5700万円)を支払っていたことや、約2万5000のTikTokアカウントを利用した大規模な選挙運動が展開されていたことが報告されました。
「TikTok動画が選挙結果に与える影響が大き過ぎる」としてルーマニア規制当局がTikTokの一時停止を要求、大統領選挙で親露・極右の無所属候補がTikTokで扇動し1位になったため - GIGAZINE
また、TikTok上にはジョルジェスク氏の人気を後押しするための数多くのボットアカウントが作成されていることが明らかになっており、TikTokは「ルーマニアではボットによる何百万もの偽の『いいね!』やアカウントを削除しています」と伝えています。
こうしたジョルジェスク氏を支援する大規模なオンラインキャンペーンの背後にはロシア政府が関係していると考えられています。実際にジョルジェスク氏は2018年に「ロシアのウラジミール・プーチン大統領は非常に愛国的な指導者だ」と親ロシア的な発言を残しています。
ドイツ外務省は「ロシアの偽情報がルーマニアの大統領選挙に影響を与えているというルーマニア当局の報告からは、ロシア政府が私たちを分裂させ、EUとNATO内の結束を弱体化させようとする意図が感じられます」と批判しました。
Reports by Romanian authorities that Russian disinformation is influencing the presidential elections in #Romania show: Putin wants to divide us & to undermine the unity within the EU & NATO. But Europe stands strong. Together, we will protect our democracies from hybrid threats.
— GermanForeignOffice (@GermanyDiplo) December 5, 2024
さらに、ルーマニア情報局は2024年11月19日に、常設選挙管理局(AEP)のITインフラがサイバー攻撃の標的になったことを報告。攻撃者は公開ウェブとAEPの内部ネットワークに接続されているマッピングデータを持つサーバーを侵害し、中央選挙管理局や有権者登録サイトなど、ルーマニアの選挙サイトのアカウント認証情報が流出しました。流出したデータはロシアのサイバー犯罪フォーラムで掲載されています。
ルーマニア情報庁(SRI)によると、攻撃者は正当なユーザーを標的としたほか、投票セクションのオペレーター向けのトレーニングサーバーの脆弱(ぜいじゃく)性を悪用して侵入に成功したとのこと。また、サイバー攻撃の数は8万5000件以上に上り、選挙情報の改ざんやシステムへのアクセス拒否などの被害が出ているそうです。
こうしたオンラインキャンペーンやサイバー攻撃を受け、ルーマニアの最高裁判所は2024年12月6日に、11月24日の第1回投票の結果を取り消す決定を下しました。これにより、大統領選挙の日程が再調整され、必要なステップを踏んだ上で再選挙が行われることになります。
マルセル・チョラク大統領は「今回の投票結果は、ルーマニア人の投票結果がロシア政府の介入の結果として露骨に歪曲(わいきょく)されたことを示しています。今回の裁判所の決定は唯一の正しい解決策です」と述べています。一方でジョルジェスク氏は今回の決定について「民主主義を攻撃するクーデター」と批判しています。
また、欧州委員会はデジタルサービス法(DSA)に基づいてTikTokに対して「TikTokはEU圏内の選挙プロセスや市民の議論にもたらす可能性のあるデータを保存せよ」という命令を下しています。さらに、欧州委員会はルーマニアのセキュリティ当局やユーロポール、EUサイバーセキュリティ機関を含む各種機関と緊密な連携を取ることを報告しました。
・つづき
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