植物はストレス下で悲鳴を発しており蛾はこの音を頼りにどこに卵を産みつけるか決めていることが明らかに
植物の中には脱水状態などのストレスにさらされると、超音波のクリック音で悲しげなメロディを奏でるものが存在します。そして、一部の蛾はこのメロディを聞き分け、卵を産む場所を決めるための指標としていることが明らかになりました。
Female Moths Incorporate Plant Acoustic Emissions into Their Oviposition Decision-Making Process | bioRxiv
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2024.11.06.622209v2
When They Hear Plants Cry, Moths Make a Decision - The New York Times
https://www.nytimes.com/2024/12/06/science/moths-hearing-plant-sounds.html
イスラエル・テルアビブ大学の研究チームは、2019年12月に「植物はストレスにさらされると超音波の悲鳴を上げる」という研究論文を発表しました。論文ではトマトやタバコといった植物に、「水不足」や「茎に切れ目を入れる」といったストレスを与え、植物が発する音を調査。その結果、植物はストレスの種類によって異なる音を発することが明らかになりました。
ストレスを受けた植物は「超音波の悲鳴」を上げていると研究で判明 - GIGAZINE
by fetcaldu
この研究を行ったテルアビブ大学の昆虫学者であるリア・セルツァー氏ら研究チームは、植物がストレス下で発する悲鳴を昆虫が聞き、何かしらの行動指針にしている可能性を疑い、新しい調査を開始。この調査結果が、2024年11月に医学・生物学関連のプレプリントサーバーであるbioRxivで公開されました。セルツァー氏は新しい論文について、「これは新しい発見です。植物は音を発し、昆虫はそれを聞いています。昆虫は特定の音に同調し、その意味を理解・考慮しています」と語っています。
研究チームは、植物が発する悲鳴を聞くことができるエジプト綿葉虫と呼ばれる蛾の一種を使い、「エジプト綿葉虫が卵を産む場所を決める際に、植物の悲鳴を参考にするか否か」を調査しました。セルツァー氏は「エジプト綿葉虫の幼虫は、母親が卵を産みつけた場所で成長します。つまり、母親は卵を『幼虫が成長するのに適した場所』に産みつける必要があります」と語っています。
研究チームはまず、エジプト綿葉虫のメスが「乾燥した植物」よりも生まれたばかりの幼虫に十分な食料を提供してくれる可能性が高い、「繁茂した植物」に卵を産みつけることを好むことを実証しました。次に、エジプト綿葉虫が「植物が発する悲鳴」を利用して、卵を産みつける場所を決めているかどうかを調べるために、別の実験を考案します。
この実験では、実験場の両端に「水分をたっぷり含んだ健康なトマト」を植え、片方のトマトの近くで「水分を失ったトマトが発する音」を録音したものを流しました。実験の結果、エジプト綿葉虫は「水分を失ったトマトが発する音」が鳴っていない方のトマトに卵を産みつけることを強く好むことが判明しています。
セルツァー氏は、メスのエジプト綿葉虫はトマトが発する音を「トマトが近くに存在する」という情報として認識するだけでなく、「音を発するトマトは水分が足りていない」という情報としても認識していると指摘しました。
セルツァー氏ら研究チームは次のステップとして、この概念が自然界でも同じように起きているものかどうかを調査したいと考えているそうです。セルツァー氏は「研究室で起こることと自然界で起こることとは異なる場合があるため、この調査は本当に興味深いことです」と語りました。
また、セルツァー氏は蛾が音響信号以外にも匂いやその他の情報をどのように組み合わせて利用しているかなど、さらなる研究が必要であると強調しています。「より多くの昆虫が超音波を聞き、より多くの植物がストレス下で音を発する可能性があります。我々はこの現象が、より多くの昆虫と植物によって行われていると信じています」とセルツァー氏は述べました。
ウィスコンシン州にあるローレンス大学で感覚生態学を研究するジョディ・セドロック氏は、「彼らは信じられないほど素晴らしい研究を行いました」「この論文は、エジプト綿葉虫が特定の種の植物が発する音に注意を払っているという、非常に強力な証拠になると思います」と述べ、セルツァー氏らの研究を称賛しました。ただし、「植物が発する音に蛾が注意を払っている理由については、まだ完全には明らかになっていません」とも指摘しています。
一方、トリノ大学の動物学者であるフランチェスカ・バルベロ氏は、「仮説が証明されたかどうかを判断するために必要ないくつかの重要な詳細が欠けています」と述べ、今回の論文に慎重な評価を下しました。ただし、バルベロ氏は「植物の生物音響学のさらなる研究への道を開く可能性があります」と述べ、論文に期待も示しています。
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