AIで校正や制作を自動化し納期を約30分の1にして印税を100%還元する自費出版サービス「Spines」が既存の出版業界から反発を受ける
文章の校正や表紙のデザインといった書籍の制作全般の作業から流通までをAIに肩代わりさせ、執筆者に印税を100%還元させつつ納期も大幅に短縮するという自費出版のAIサービス「Spines」がスタートしました。人の手で編集する出版社よりも大幅にコストを削減できるとうたうこのサービスに、出版業界が反発しました。
The Bookseller - News - New publisher Spines aims to 'disrupt' industry by using AI to publish 8,000 books in 2025 alone
https://www.thebookseller.com/news/new-publisher-spines-aims-to-disrupt-industry-by-using-ai-to-publish-8000-books-in-2025-alone
Writers condemn startup’s plans to publish 8,000 books next year using AI | Books | The Guardian
https://www.theguardian.com/books/2024/nov/26/writers-condemn-startups-plans-to-publish-8000-books-next-year-using-ai-spines-artificial-intelligence
AI Publishing Startup Plans To Release 8,000 Books Next Year - Slashdot
https://slashdot.org/story/24/11/27/1347207/ai-publishing-startup-plans-to-release-8000-books-next-year
SpinesはAIを利用して本の校正、翻訳、表紙デザイン、出版、流通を有料で提供する新興テクノロジー企業です。共同創設者兼CEOのYehuda Niv氏いわく、人の手であれば6カ月から18カ月かかる出版作業を2週間から3週間にまで短縮できるといいます。著者は印税の100%を受け取り、著作権も完全に保持します。
料金は1824ドル(約27万円)から5496ドル(約83万円)で、AIではなく人間に校正または表紙デザインを依頼するオプションも存在します。他社の自費出版サービスには数万ドル(数百万円)がかかるものもあるそうで、比べるとSpinesの価格は格安だと言えます。
Niv氏は「私たちの目標は著者に力を与えることです。作家志望者が出版代理店に相談しても、有名人でも適切な人物でもないという理由で99%断られます。代わりに自費出版専門の出版社に相談すると数万ドルかかりますし、表紙のデザインや本のマーケティングなど各作業の専門知識が必要になり、納品まで1年以上かかることもあります。Spinesは、テクノロジーを使用して出版プロセスを合理化し、著者が最も得意なこと、つまり素晴らしい物語を書くことに集中できるようにします」と述べました。
こうしたサービスに、人の手で出版作業を行うことを仕事にしている人々が反発しています。作家、イラストレーター、翻訳者のための労働組合を代表するアンナ・ガンリー氏は「著者が期待するものを実現できる可能性は非常に低く、出版への最善の道だという保証もほとんどありません。AIに依存するシステムの場合は、サービスの独創性と品質の欠如が懸念されます」と指摘し、契約を締結する前に十分慎重に検討するよう警告しています。
一方で、事務的な単純作業では出版業界にとってAIの利用が有益になるとの見方もあります。編集コンサルタントを務めるアン・エルヴェ氏は、「ほとんどの大手出版社ではここ20年ほどの間に仕事が爆増し、担当者の責任が大幅に拡大しました。出版社の多くは、いかにしてプレッシャーを軽減し、簡単な仕事をAIに任せる方法を模索していると思います。例えば、メタデータの入力は非常に重要ですが時間がかかります。こうした作業をAIで合理化すると、よりクリエイティブな作業が可能になる可能性があります」と述べました。
自動化されたAIプロセスが人間の校正者やデザイナーに悪影響を及ぼす可能性について問われたNiv氏は、「私たちは人間の創造性に取って代わろうとしているのではありません。自分の原稿を出版して世界中に流通させるための、最も効率的で最も新しい方法を探している人間に焦点を当てています。私たちが望んでいるのは、AIにシスティーナ礼拝堂の絵を描かせることではなく、洗い物をAIにやってもらうということです」と答えています。
Spinesは2024年9月までに273冊を出版していて、2025年の目標は最大8000冊の出版とのこと。Spinesは次に著者の声を複製できるオーディオブックの開発を模索しているそうです。
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