Metaが地球を「W」字で結ぶ全長4万kmにわたる海底ケーブルを計画中、建設費用は1兆5000億円超に達する可能性も
海底に張り巡らされている海底ケーブルは、SNSや動画配信サービスなどさまざまなインターネットサービスにとって必要不可欠な存在であり、近年は大手テクノロジー企業が海底ケーブルの建設に出資することも増えています。テクノロジー系メディアのTechCrunchが2024年11月、「Metaが全長4万kmにわたる海底ケーブルを単独で敷設することを計画している」と報じました。
Meta plans to build a $10B subsea cable spanning the world, sources say | TechCrunch
https://techcrunch.com/2024/11/29/meta-plans-to-build-a-10b-subsea-cable-spanning-the-world-sources-say/
Meta is building the ‘mother of all’ subsea cables - The Verge
https://www.theverge.com/2024/11/29/24308746/meta-10-billion-global-subsea-cable-project
MetaはFacebookやInstagram、WhatsAppといったサービスを展開しており、その製品とユーザーは固定トラフィック全体の約10%、モバイルトラフィック全体の約22%を占めているとのこと。また、近年のMetaはAIへの投資も積極的に行っており、AIビジネスにおいても信頼性の高いインフラストラクチャーの確保は必要不可欠です。
2024年10月には「Metaが海底ケーブルの敷設を計画している」と、海底ケーブルプロジェクトに焦点を当てたブログのSubsea Cables & Internet Infrastructureで報告されました。そして新たにTechCrunchは、Metaに近い情報筋の証言で、Metaが全長4万kmにわたる海底ケーブル敷設を計画していることを確認しました。このプロジェクトにとって重要なのは、「Metaが世界にまたがる海底ケーブルの唯一の所有者およびユーザーになる」という点です。
海底ケーブルの専門家であるスニル・タガレ氏は、Metaの海底ケーブル敷設プロジェクトは20億ドル(約3000億円)の予算でスタートする予定であるものの、プロジェクトの進展と長期化に伴ってコストは100億ドル(1兆5000億円)を超える可能性が高いとTechCrunchに語っています。
Metaに近い情報筋によると、プロジェクトはまだ初期段階であり詳しいことは決まっていないとのこと。Metaは2025年初頭に、予定されているルートや容量、建設理由などについて確認する予定だそうです。
記事作成時点では、海底ケーブルを構築する能力はSubComのような一部の企業に限られており、多くのハイテク企業がその顧客となっています。そのため、Metaが実際に海底ケーブルを敷設するには、かなりの時間とコストが必要になるとみられています。
海底ケーブル業界のアナリストであるラヌルフ・スカボロー氏は、「海底ケーブル敷設船の需要は本当にひっ迫しています。これらの船は分刻みで高いコストがかかり、数年先まで予約が埋まっています。海底ケーブルを敷設するために利用可能なリソースを見つけることが課題になっています」と語っています。Metaがこの問題を解決する方法としては、「海底ケーブルの敷設に必要なセグメントごと構築する」というシナリオも考えられるとのこと。
長年にわたり海底ケーブルは通信事業者が出資・所有する通信インフラストラクチャーの一部でしたが、近年は大手ハイテク企業も出資するようになっています。すでにMetaは16の既存海底ケーブルの一部を所有しているほか、Googleは約33の地域的な海底ケーブルを所有しています。また、AmazonやMicrosoftも海底ケーブルの部分的に所有しているか、容量を購入しているそうです。
Metaが自社で世界全体にまたがる海底ケーブルを所有すれば、製品のコンテンツや広告を配信する能力を直接的に持つことにつながります。スカボロー氏は、「テクノロジー企業は自社の製品をエンドユーザーに提供することで収益を上げており、ビデオの配信やその他コンテンツの配信など、顧客体験を確保するためにできる限りのことをします。率直に言って、誰が従来の通信会社に頼るのでしょうか?テクノロジー企業は今や独立しており、自分たちで海底ケーブルを作らなければならないと気付いたのです」と話しました。
また、ハイテク企業が自社で海底ケーブルを所有することには、地政学的な問題も絡んでいます。近年は戦争による巻き添えや直接的な被害として、海底ケーブルが損傷を受けるケースがたびたび報告されています。2024年2月には、イエメンの武装勢力による攻撃の影響で、紅海を通ってヨーロッパとアジアを結ぶ海底ケーブルが切断されました。また、11月には中国籍の貨物船「伊鵬3号」が錨を下した状態でバルト海を航行し、2本の海底ケーブルが切断される事態が発生しました。
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以下の図は、Metaが建設を予定している海底ケーブルのルートを示したものです。まずは北アメリカから大西洋を横断して南アフリカの喜望峰に向かい、その後インド洋を横断してインド西岸を経由します。そしてオーストラリア北岸を通って太平洋を渡り、アメリカ西海岸へたどり着くという「W」字のルートが想定されています。このルートは紅海やエジプト、南シナ海、シンガポールといった地政学的リスクがある地域を避けるものだとのこと。
さらにタガレ氏は、ケーブルがインドを経由することについて「MetaがインドでAIトレーニングの拠点を建設することが理由ではないか」と推測しています。インドはコンピューティング帯域幅のコストがアメリカより大幅に安く、10月にはNVIDIAのジェンスン・フアンCEOがインドを訪れて「インドが独自のAIを製造するのは当然のことです」と発言するなど、AIインフラストラクチャーの中心地となるのではないかと注目されています。
一方、この主張に対してMetaに近い情報筋は、AIがプロジェクトに関連しているのかどうかを判断するのは時期尚早だと指摘しました。また、MetaはTechCrunchの記事にコメントすることを拒否しました。
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