新型コロナの症状が長引く「ロングCOVID」は持続感染によって引き起こされている可能性
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者の約5~10%は症状が3カ月以上続く「ロングCOVID」を経験しています。ロングCOVIDについてはミトコンドリアの機能不全が影響している可能性や体中の組織でT細胞が異常に活性化していることなどが明らかになっているのですが、新たに体内に残留するウイルスによって引き起こされていることが判明しました。
Towards a cure for long COVID: the strengthening case for persistently replicating SARS‐CoV‐2 as a driver of post‐acute sequelae of COVID‐19 | The Medical Journal of Australia
https://www.mja.com.au/journal/2024/221/11/towards-cure-long-covid-strengthening-case-persistently-replicating-sars-cov-2
Long COVID appears to be driven by ‘long infection’. Here’s what the science says
https://theconversation.com/long-covid-appears-to-be-driven-by-long-infection-heres-what-the-science-says-244635
COVID-19パンデミックの比較的初期段階から、一部の人の体内では新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)あるいは少なくともSARS-CoV-2の残骸が、さまざまな組織や臓器に長期間留まる可能性が明らかになっていました。この現象は「持続感染」として知られています。
一部の人の体内にウイルスの残骸が長期にわたって存在することはすでに十分に立証されていますが、このウイルスの残骸(不活性化したウイルス)だけでなく、生きたウイルス(活性化したウイルス)も体内に残留しているのか、活性化ウイルスが残留しているならこれがロングCOVIDの原因なのではないかという謎については、これまではっきりしていませんでした。
持続感染の謎を解き明かすことができれば、以下の2点が明らかになる可能性があると、オーストラリアのバーネット研究所のウイルス研究チームは指摘しています。
1:免疫不全の重篤な患者で持続感染が発生すると、JN.1のような見た目が大きく異なる変異体が発生する原因となると考えられています。
2:急性疾患を過ぎても、より広い集団の多くの人々に症状を引き起こし続ける可能性があります。言い換えると、長期感染によりロングCOVIDが引き起こされる可能性があります。
「持続感染がロングCOVIDの原因であることを示す単一の研究はこれまでのところ存在しませんが、最新の複数の論文を総合すると、説得力のある主張が成り立つ」とバーネット研究所の研究チームは主張しています。
2024年2月にNatureに掲載された論文によると、軽度のCOVID-19患者の多くが長期にわたってウイルスの遺伝物質であるウイルスRNAを呼吸器から排出していたことが明らかになっています。ウイルスRNAの排出が持続する患者は、活性化ウイルスが体内に残留していることがほぼ確実で、COVID-19が長期化するリスクも高かったそうです。
さらに、別の論文では、COVID-19に最初に感染してから数年後の患者の血液から、複製中のウイルスRNAとタンパク質が検出されたことが報告されています。これはウイルスが体内のおそらく血液細胞内で長期間複製されている可能性が高いことを示す論文です。
別の研究では、急性感染から1~4カ月後に10の異なる組織部位と血液サンプルでウイルスRNAが検出されました。さらに、ウイルスRNAが持続的に陽性であった人は、ロングCOVIDであるリスクが高いことも判明しています。また、この研究では体内のどこにウイルスが残留するかについての手がかりも得ており、消化管はウイルスが長期にわたって潜伏する場所として非常に興味深い部位のひとつとされています。
さらに、2024年11月にはロングCOVIDの影響に対処することを目的とした共同研究プロジェクトである「RECOVER」の一環として、持続感染がロングCOVIDの可能性を高めるさらなる証拠が発表されました。複製能力を持つウイルスが体内で何年も生き続けることができるという証拠はいまだに得られていませんが、これは「ウイルスが隠れている体内の貯蔵庫から活性化したウイルスを分離することが技術的に難しいため」です。
これらの研究論文を踏まえ、バーネット研究所の研究チームは「体内に活性化したウイルスが存続していないとしても、持続感染がロングCOVIDの一因となっているという説は十分な説得力を持っていると主張します」と記しています。
これに対する対応策として、研究チームはロングCOVIDの予防と治療のために既知の抗ウイルス薬の試験を迅速に進めることを挙げています。これには糖尿病治療薬のメトホルミンなども含まれます。実際、抗ウイルス薬がロングCOVIDに対して驚くべき有効性を示したことが報告されており、疲労に関する障害の治療における潜在的な治療法としても抗ウイルス薬は期待されています。
もうひとつの大きな推進力となるのが、新薬の開発と迅速な検査のための臨床試験プラットフォームの確立であると研究チームは主張。しかし、これを臨床で使用できる形に転換するのは非常に難しく、「政府からの支援と投資が必要になる」と研究チームは語りました。
持続感染がロングCOVIDの一因、あるいは促進要因であるという説は、ロングCOVIDの謎を解き明かし、医療専門家の間での認識を高めるのに役立つ可能性があります。さらに、COVID-19の再感染率を下げることの重要性について、地域社会の認識を高めることにも役立つと研究チームは主張。実際、ロングCOVIDはSARS-CoV-2に感染した回数が多いほど発症リスクが高くなることが明らかになっています。
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