サイエンス

クマムシの驚異的な放射線耐性の秘密が遺伝子に着目した研究で明らかに

by Philippe Garcelon

クマムシは体長わずか50μm~1.7mmほどの小さな動物で、極度の高温や低温環境、真空状態、高線量の放射線などに耐えられる生命力で知られています。そんなクマムシを放射線にさらした際に発現する遺伝子を調べた新たな研究により、クマムシの驚異的な放射線耐性の秘密が明らかになりました。

Multi-omics landscape and molecular basis of radiation tolerance in a tardigrade | Science
https://www.science.org/doi/10.1126/science.adl0799


New Tardigrade Discovery Reveals Secrets of Radiation Resistance : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/new-tardigrade-discovery-reveals-secrets-of-radiation-resistance

クマムシは通常の生物だったら死に至るほどの放射線にさらされても生き延びることができます。クマムシの半致死線量(照射された対象の半数が死に至る線量)は3000~5000Gy(グレイ)。ヒトの半致死線量はわずか4Gyであることを考えると、クマムシの放射線耐性がいかに強いのかがわかります。

中国の研究チームはクマムシの放射線耐性について調べるため、6年前に発見された新種であるHypsibius henanensisを用いた研究を行いました。Hypsibius henanensisのゲノムを詳しく調べたところ、1万4701個ものタンパク質コード遺伝子が発見され、そのうち4436個はクマムシに固有の遺伝子だったそうです。


研究チームがHypsibius henanensisを放射線にさらすと、2801個もの遺伝子発現が確認されました。その後、これらの発現した遺伝子について分析し、クマムシの放射線耐性のメカニズムについて調査しました。

分析の結果、クマムシの放射線耐性には大きく分けて3つのメカニズムがあることがわかりました。1つ目のメカニズムには、細菌から遺伝子の水平伝播(HGT)によって移入した可能性がある「DODA1」という遺伝子が関係しています。

DODA1は放射線に反応して、主に植物や菌類、細菌などにみられるベタレインという色素を生合成します。このベタレインが放射線によって生成される有害な分子を中和し、放射線耐性を付与すると研究チームは説明しています。


2つ目のメカニズムは、クマムシに特異的なタンパク質である「TRID1」が放射線によって誘発され、相分離を含むプロセスで通常よりもはるかに速くDNA損傷が修復されるというものです。


3つ目のメカニズムは、ミトコンドリアでアデノシン三リン酸(ATP)産生に関わる「BCS1」「NDUFB8」という2つのタンパク質が、放射線に反応して増加するというもの。これにより、ミトコンドリアでのATP産生と酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)の再生が加速し、DNA損傷の修復が促されるとのことです。


Hypsibius henanensisではこれら3つのメカニズムが組み合わさることで、放射線への耐性を獲得しているとみられます。研究チームは、「他のクマムシ種の放射線耐性も同様のメカニズムによって生じるのか、それともこのメカニズムがHypsibius種に特有のものなのかを知るには、さらなる研究が必要です」と述べました。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1h_ik

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