サイエンス

ダ・ヴィンチはモナ・リザを描く際に有毒な塗料を使用していたことが判明


レオナルド・ダ・ヴィンチが16世紀前半に製作した「モナ・リザ」は、ポプラの板に油彩で描かれています。モナ・リザの絵の下地層から採取されたサンプルをX線と赤外線で分析した研究では、塗料に有毒な混合物が用いられていたことが判明しています。

X-ray and Infrared Microanalyses of Mona Lisa’s Ground Layer and Significance Regarding Leonardo da Vinci’s Palette | Journal of the American Chemical Society
https://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/jacs.3c07000


Leonardo da Vinci used toxic pigments when he painted the Mona Lisa - Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2023/10/leonardo-da-vinci-used-toxic-pigments-when-he-painted-the-mona-lisa/

ダ・ヴィンチの絵画のうち現存するものは20点もありませんが、モナ・リザは年代からすると異例なほど良好な状態で残っており、パリのルーヴル美術館で常設展示されています。パリ=サクレー大学の美術研究者で、オランダのアムステルダム国立美術館の科学部門にも務めるビクター・ゴンザレス氏らは、ダ・ヴィンチの絵画に用いられた材料を詳細に知るための研究をしています。

2020年に実施された科学的調査では、ポプラ板の表面とそれに続く絵の下地層において、ダ・ヴィンチは様々な材料を使用していたことが明らかになりました。例えば「聖アンナと聖母子」では、「ジェッソ」と呼ばれるイタリア・ルネッサンスの典型的なコーティング塗料を塗り、その上に白い下塗り層を使用していました。一方で、「ラ・ベル・フェロニエール」では鉛でできた油性下地層を使用しており、作品ごとに様々な材料を使用していたことがわかっています。

ゴンザレス氏らはさらに2023年の研究で、モナ・リザに関して詳細な分析を行いました。以下はモナ・リザをX線分析した画像で、X線からはポプラ板上に鉛ベースの顔料または鉛で処理された油性媒体を使用していたことを意味する重元素が発見されています。また、モナ・リザの場合は下地層にジェッソを用いておらず、古くから使われる白色塗料の鉛白を単層で使っていると研究者は結論付けました。


研究者らは論文の中で「1485年から1490年にかけて、ダ・ヴィンチのイーゼル画として知られている作品はそれぞれ異なる種類の下地層となっています。それらの共通点は、油性であることと、ダ・ヴィンチが著作の中で『ビアッカ』と呼んでいた鉛白色顔料が含まれていることだけです」とダ・ヴィンチが様々な材料を用いていたことを指摘。その上でモナ・リザについて、赤外線を照射して透過・反射した光を分光して得たスペクトルから対象物の特性を知る赤外線分光法も使用してより詳細に調べています。

結果として、モナ・リザの塗料にはいくつかの混合物が発見され、中には研究者が驚くものもあったとのこと。例えば「鉛白アクリレート」という混合物は、ダ・ヴィンチ作品でも後期の絵画でのみ検出されていたものでした。また、ダ・ヴィンチの他の作品では見られない「青鉛鉱」がモナ・リザの下地層で発見されており、これは17世紀オランダのレンブラント・ファン・レインがしばしば用いていたもののため、「2人の芸術家が、共通したプロセスで製作していたという証拠になる可能性がある」と研究者らは指摘しています。

下地層に使われている材料の発見と、ダ・ヴィンチの手記による研究を総合して、研究者らはダ・ヴィンチが酸化鉛を使用していたと結論付けました。論文によると、酸化鉛は皮膚の治療薬のレシピにも用いられていましたが、当時は酸化鉛に毒性があるとは知られていなかったそうです。酸化鉛の粒子はモナ・リザだけではなく「最後の晩餐」の下地層でも見つかっており、研究者らは「ダ・ヴィンチが根っからの実験家だったことは、ずっと前から知られていました。今回発見された酸化鉛の一種は、アルカリ環境でのみ安定する希少化合物であるため、直接用いられたのではないと考えています。確固たる証拠はありませんが、絵の具をより速く乾かす手段として用いられた素材が、毒性のある化合物を生んだ可能性もあります」と記述しています。

さらなる研究として、サンプルの塗料を用いた実験を行い、油性媒体、酸化鉛、鉛白色顔料が起こす相互作用を詳しく調べ、珍しい鉛ベースの化合物を生み出す可能性のある化学反応経路を特定することが計画されています。

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in サイエンス,   アート, Posted by log1e_dh

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