ロシアの偽情報作戦「ドッペルゲンガー」は西側諸国だけではなく自国首脳部も欺いている
ロシア政府主導の工作ネットワーク「ドッペルゲンガー」は、西側諸国を標的として、さまざまな偽情報作戦を展開しています。しかしその偽情報作戦が、西側諸国だけではなく、ロシア政府の首脳部も欺く結果になっていることを、世界情勢を扱うニュースサイト・Foreign Affairsが報じています。
The Lies Russia Tells Itself: The Country’s Propagandists Target the West—but Mislead the Kremlin, Too
https://www.foreignaffairs.com/russia/lies-russia-tells-itself
ドッペルゲンガーはアメリカ大統領選への介入なども行っており、FBIは2024年9月に偽ドメイン32件の差し押さえを行いました。
FBIが大統領選で偽情報キャンペーンをしていたロシアの工作ネットワーク「ドッペルゲンガー」の32のドメインを押収 - GIGAZINE
今回、Foreign Affairsが入手した情報は、「ドッペルゲンガー」に関与するロシア企業・Social Design Agency(SDA)の内部文書です。もともとは、匿名情報源が南ドイツ新聞に提供したもので、南ドイツ新聞からコメントを要請されたForeign Affairsが情報源に直接連絡したところ、2.4GBに及ぶ文書全体を入手できたとのこと。
流出した文書には、進行中のあらゆる段階の作業記録など、通常であれば数十年後に回顧録がまとめられたり、秘密情報機関のアーカイブに含まれたりすることでようやく世に出るようなものも含まれていたとForeign Affairsは報じています。
SDAは2017年12月に法人化された組織で、本部はロシア政府の中枢からわずか7分のところにあります。内部文書によれば、2024年時点の従業員は100人以上で、そのうち管理職が18人、記者と編集者が8人、報道監視スタッフが12人、SNS監視スタッフが20人、翻訳者が7人、ミームや漫画のアーティストが3人、映像プロデューサーが4人、他は多くのリモートワーカーだとのこと。
「ドッペルゲンガー」は、SDAが自ら名乗ったものではなく、EU DisinfoLabのアレクサンドル・アラフィリップ氏による命名で、名付けられた2022年以降、西側諸国は「ドッペルゲンガー」の詳細を暴くための大規模な取り組みを開始しています。
Doppelganger - Media clones serving Russian propaganda - EU DisinfoLab
https://www.disinfo.eu/doppelganger/
偽情報作戦が拡大した2023年11月から2024年8月だけでも、「ドッペルゲンガー」が生み出した偽サイトの数は700以上あり、「ドッペルゲンガー」はロシア最大級の「偽情報生産工場」となっていたそうです。
SDAの文書によると、「ドッペルゲンガー」は西側諸国を標的として偽情報作戦を展開したものの、自らの上層部やロシア政府すら欺いた可能性があります。また、偽情報作戦を最も後押ししたのは皮肉なことに西側諸国による「ドッペルゲンガー」のことを懸念する報道だったとのこと。
たとえば、対象国で「ドッペルゲンガー」による作戦が脅威として認識されている内容の報道があったことを、SDAは誇らしげに記載していたそうです。
Foreign Affairsは、偽情報作戦へ対抗するために、作戦の上流に誰がいるのかを暴いて公開していく取り組みは大きなプラスの効果があると述べています。また、ほとんど影響がないような作戦の効果を誇張してしまうことは、むしろ偽情報を展開するエージェントに利してしまうと注意を喚起しています。
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