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ロシアの侵攻に対するウクライナの抵抗から西側諸国の軍が学ぶべきことをまとめたレポートが公開中


2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻は当初のロシア優位という見方を覆し、1年以上が経過した記事作成時点でもロシア軍はウクライナ東部の一部地域を占領するにとどまっており、ウクライナの激しい抵抗が功を奏した形となっています。スロバキアの軍事シンクタンクであるGLOBSECが、ロシアに対するウクライナの抵抗から北大西洋条約機構(NATO)が学べる戦訓をまとめたレポート「How to beat Russia: What armed forces in NATO should learn from Ukraine’s homeland defense(ロシアに勝つにはどうするべきか:NATOの軍隊がウクライナの国土防衛から学ぶべきこと)」を発表しました。

How to beat Russia: What armed forces in NATO should learn from Ukraine’s homeland defense | GLOBSEC - A Global Think Tank: Ideas Shaping the World
https://www.globsec.org/what-we-do/publications/how-beat-russia-what-armed-forces-nato-should-learn-ukraines-homeland

How to beat Russia by Nico Lange v7 web.pdf
(PDFファイル)https://www.globsec.org/sites/default/files/2023-02/How%20to%20beat%20Russia%20by%20Nico%20Lange%20v7%20web.pdf

レポートでは「ロシアはウクライナに対する侵略戦争を続けていますが、その軍隊はすでに敗北しています。ウクライナの抵抗および同盟国のサポートに直面し、ロシアはその軍事的目標をほとんど達成できていません。明らかにウクライナは勝利するでしょう」と記されており、ウクライナは国土防衛において並外れたスキルと創造性を発揮したと指摘。オープンソース・インテリジェンスや実戦に携わったウクライナ人指揮官や兵士へのインタビューに基づき、NATOに対する提言を以下の10項目にまとめています。

◆1:社会全体で総力戦に取り組む
・社会の大部分に対し基礎的な軍事訓練および医療訓練を提供する。
・市民の資格を生かした軍事予備軍の戦略を立てる。
・地域、地方レベルでの定期的なシミュレーションや演習を実施する。
・国土防衛のためのコミュニティを構築する。
・危機管理および防衛訓練を役職に就くための必須条件とすることで、市長や知事、意思決定者を育成する。
・市民社会から提供されるデータを収集し、利用するためのインフラを構築する。


◆2:データに基づいた最新の戦闘を行う
・戦場における完全かつ継続的なデータ接続システムを導入する。
・司令部の全レベルにわたるデータを収集し、データ分析を革新する。
・戦術支援用の低軌道衛星コンステレーションを構築する。
・組み込み型の「情報軍」を設立する。
・時間に制約のあるターゲットに対するオペレーション速度を向上させる。
・イノベーションと調達のサイクルを根本的に加速する。
・民間によるイノベーションに門戸を開き、新規企業やスタートアップのアクセスを容易にする。


◆3:下層と中層に多くの指揮責任を持たせる分散型ネットワークを構築する
・機動性のあるスタッフと迅速性および適応性に優れた部隊を増やす。
・高度に詳細な軍事計画や厳密すぎる指揮系統は避ける。
・状況に応じて口頭での合意や意思決定に委ねる。
・ネットワークやマトリックス構造での思考および行動を促進し、堅苦しい構造から脱却する。
・非専門職への責任委譲を強化する。
・根本的に異なる指揮系統が成功するためには、異なる仕組みが必要かどうかを調査する。


◆4:部隊のロジスティクスや指揮、コントロールに一貫した焦点を当てて戦況を整える
・軍事的機動性を向上させる。
・軽度~中程度の戦力をさらに重視する。
・スピードを強化することで質および量に勝る相手を倒す方法を探る。
・相手との直接的な交戦を避け、物資や交通網に対する攻撃を仕掛ける「シェーピング作戦」の訓練を実施する。


◆5:ドローンの大量運用に備える
・ドローンを全軍に一括導入する。
・特別に開発された軍用ドローンだけではなく、安価な市販のドローンも軍事目的に活用する。
・新しくてシンプルな、コスト対効果の高いドローンを迅速に開発する。
・中国製商用ドローンへの依存度を下げる。
・ドローンの軍事的操縦能力についての教育を全軍的に行う。
・費用対効果の高いドローンを調達する。


◆6:小規模な部隊を運用して局地戦で勝利するためのシステムを作る
・非対称で機動性の高い戦闘が可能な軽歩兵大隊や中隊を再導入する。
・歩兵部隊にコマンド作戦と市街戦の戦術を再教育する。
・移動式対戦車兵器、対空兵器、対ドローン兵器の装備、在庫、生産能力を増強する。
・輸送においては粒度の高い輸送や物資の事前配備を強化し、標準のコンテナやドローンを活用する。
・歩兵に対する高強度な訓練と演習システムを確立する。


◆7:防衛戦における大砲運用について再考する
・車輪付き、追跡型、けん引型、自走式などの自走砲部隊を大幅に増強して再配置する。
・砲弾および弾薬の生産能力を増強する。
・ウクライナで収集されたさまざまなロシア軍の銃器や弾薬について調査する。
・AIを利用したソフトウェアを大砲に組み込む。
・目標捕捉と射撃統制にドローンを活用する。
・対砲兵射撃能力を向上させる。
・高速キルチェーン、高機動、高精度を目指した装備と訓練を整える。
・弾薬庫を増設して弾薬物流を改善する。


◆8:鉄道など民間輸送システムを活用した安定的なロジスティクスで戦闘部隊を背後から支える
・民間輸送に冗長性と危機管理能力を持たせる。
・政府の危機管理基金を使用して民間輸送システムの修理能力増強やスタッフの訓練、スペアパーツの備蓄などを促進する。
・防衛ロジスティクスに民間インフラを広く活用するための法的枠組みおよび資金を提供する。
・現実の状況に即した夜間のロジスティクスオペレーションを集中的に訓練する。


◆9:高度なオペレーションのセキュリティや厳重な機密保持、巧みな偽装工作に注力する
・現実的な安全保障環境の下で定期的かつ集中的に訓練を行う。
・敵が保持するセンサー性能の最新情報を細かく把握する。
・敵勢力の語学や地理、文化的な知識を収集する。
・部隊における官僚的な手続きを再考し、厳格な運用セキュリティの観点から大勢が参加する組織文化を育てる。
・厳重な防衛と市民や議会による監視のバランスに対処する。


◆10:情報戦において優位に立つ
・NATO諸国の軍隊における戦略的コミュニケーションの構造とコンテンツ制作を抜本的に変革する。
・充実したメディア制作能力とコミュニケーション能力を確立する。
・さまざまなチャンネルでクオリティの高い情報発信を行う。
・迅速な意思決定と自由度の高いコミュニケーションを実現する。
・プロのクリエイターをパートナーにする
・戦略的コミュニケーションを政治の最高レベルで構造的に支える。

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in メモ, Posted by log1h_ik

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