サイエンス

交通騒音と大気汚染が男女の生殖能力にそれぞれ異なる影響を与えている可能性


これまでの研究で、自動車や交通機関の騒音さまざまな健康被害をもたらすことや、大気汚染が人間の寿命に悪影響を及ぼすことなどがわかっています。これらの問題と不妊症の関連について調べたデンマークの研究では、大気汚染や交通騒音への暴露が不妊症の増加と関連しているだけでなく、それぞれが男女に異なる影響を与える可能性があると判明しました。

Long term exposure to road traffic noise and air pollution and risk of infertility in men and women: nationwide Danish cohort study | The BMJ
https://www.bmj.com/content/386/bmj-2024-080664


A new study has linked traffic noise and pollution to infertility - but the effects differed for men and women
https://theconversation.com/a-new-study-has-linked-traffic-noise-and-pollution-to-infertility-but-the-effects-differed-for-men-and-women-238223

記事作成時点では世界人口の6人に1人が不妊症の影響を受けていると推定されており、さまざまな要因が不妊症に及ぼす影響を知ることは重要な課題となっています。現代社会では人口の半数以上が都市部に住んでいるため、空気や騒音の問題を抱える都市に住むことが、不妊症に何らかの影響を与えているという説があるとのこと。

人間が汚染された空気から化学物質を吸入すると、それが血液を介して生殖器に移動することがあります。これらの化学物質はホルモンの分泌を乱したり、卵子や精子を直接損傷させたりすることで、生殖能力を低下させる可能性があるとのこと。交通騒音が生殖能力に及ぼす影響は明確ではないものの、一部の研究では騒音がストレスホルモンの分泌量を増加させ、生殖能力を変化させる可能性が示唆されています。


そこでデンマークの研究チームは、人々が大気汚染や交通騒音にさらされることが、不妊症にどのような影響を及ぼすのかを調査しました。デンマークでは国民に一意の個人識別番号が割り振られ、住所や仕事、学歴、家族構成といったデータを国内のデータベースに保存しています。

研究チームはこのデータベースを基にして、「30~45歳」「同居または結婚している」「子どもが2人未満」「2000年1月1日~2017年12月31日までデンマークに居住していた」といった条件に当てはまる男女を、妊娠しようとしている可能性が高いグループとして抽出しました。ここから「30歳未満の頃に不妊症と診断された人」「1人暮らしの人」「同性パートナーシップに登録済みの人」を除外した結果、37万7850人の女性と52万6056人の男性が残りました。


そして、デンマークの全国患者データベースから収集した「不妊症の診断を受けたかどうか」の記録と、住んでいる場所の詳細情報を分析しました。分析では、それぞれの住所における道路交通騒音と大気汚染のレベル、あるいは大気中の微小粒子状物質(PM2.5)の濃度について推定されたとのこと。

分析の結果、男性52万6056人のうち1万6172人と、女性37万7850人のうち2万2672人が不妊症だと診断されたことが判明。また、WHOが推奨する濃度より1.6倍高いPM2.5により多くさらされた男性は、不妊症のリスクが24%高いことがわかりました。一方で女性は、平均的な騒音である55~60デシベルより10.2デシベル高い騒音にさらされた場合、35歳以上の不妊症リスクが14%増加していることがわかりました。

大気汚染や交通騒音が不妊症に与えるリスクは、住んでいる場所が都市部であるか農村部であるかといった違いや、教育レベルや収入といった要因を考慮しても同様でした。今回の研究結果は、大気汚染や交通騒音といった環境的要因が不妊症のリスクに長期的な影響を及ぼすだけでなく、その影響が男女で異なる可能性があると強調しています。


男女で異なる影響が出るのは、精子と卵子の産生の違いが理由である可能性も指摘されています。男性の体では思春期を過ぎてから常に精子が産生されており、環境の変化が生殖能力に与える影響が早く生じやすいのかもしれません。

一方で女性は、すべての卵子の元となる原始卵胞を生まれながらにして持っており、休眠状態のまま体内でずっと保存されています。思春期になると休眠状態の原始卵胞の一部が目覚め、次第に発育していって最終的に1個の成熟卵が排卵されるという仕組みです。そのため、女性は原始卵胞を環境の変化から保護するためのコントロールメカニズムを持っていますが、騒音などのストレスに長期間さらされると悪影響が出る可能性があります。

今回の研究は、個人のホルモンレベルや体重といった生物学的要因を調査したわけではなく、すべての人が不妊症かどうかの検診を受けたわけでもないなど、いくつかの制限があるのも事実です。それでも、前例がないほど大規模な研究であり、大気汚染と交通騒音が男女の不妊症に及ぼす影響を理解する上で、有用なステップになるとのことです。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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