サイエンス

断食が免疫系のナチュラルキラー細胞を強化して「がん」への攻撃性を高めることが判明


がん細胞には、脂質を使って免疫細胞による攻撃を免れる能力があることがわかっています。マウスを使った新しい研究により、断食をしたマウスの体内では、免疫系の細胞が脂質に強くなるようトレーニングを受けていることが突き止められました。

Fasting reshapes tissue-specific niches to improve NK cell-mediated anti-tumor immunity: Immunity
https://www.cell.com/immunity/abstract/S1074-7613(24)00275-9

Fasting Primes the Immune System’s Natural Killer Cells to Better Fight Cancer, New Study in Mice Finds | Memorial Sloan Kettering Cancer Center
https://www.mskcc.org/news/fasting-primes-immune-systems-natural-killer-cells-to-better-fight-cancer-new-study-in-mice-finds

断食は人の代謝を改善して脂肪を減らすのに役立つだけでなく、がん細胞の成長に必要な栄養素の供給を絶ってがん治療の効果を高める方法としても注目されつつあります。


さらに、2024年6月14日付けの医学雑誌・Immunityに掲載された今回の研究では、断食によって免疫細胞の能力が最適化され、体の免疫機能が腫瘍を排除する仕組みが強化される可能性が示されました。

研究論文の筆頭著者である、アメリカ・メモリアルスローンケタリングがんセンターのジョセフ・サン氏は「がんの腫瘍は非常に飢えており、栄養素を吸収しては免疫細胞にとって有害な脂質まみれの環境を作り出します。今回私たちは、断食がナチュラルキラー(NK)細胞を再プログラムし、そのような環境でも生き残れるようにすることを明らかにしました」と述べました。


サン氏が言及したNK細胞は、がん細胞やウイルスに感染した細胞を殺す能力を持つ白血球の一種で、一般的に腫瘍内に存在するNK細胞の数が多いほど、がん患者の予後がいい傾向があります。

今回、研究チームはがんになったマウスを週2回の頻度で24時間絶食させる一方で、断食ではない時は好きなだけ食事ができるようにしました。そうすることでマウスの体重は維持されましたが、NK細胞には大きな変化がありました。

断食をしたマウスの体内では、人間と同様にブドウ糖の濃度が低下し、エネルギー不足の際に脂肪細胞が放出する代替エネルギー源である遊離脂肪酸が増加しましたが、絶食によりNK細胞はこの遊離脂肪酸をエネルギー源にするようになったとのこと。

研究チームの一員であるレベッカ・デルコンテ氏は「断食のサイクルを繰り返す度に、NK細胞はブドウ糖の代わりに脂肪酸を燃料源にすることを学びました。腫瘍には高濃度の脂質が含まれていますが、このトレーニングのおかげで腫瘍に入り込んだNK細胞がより長く生き延びられるようになったのです」と話しました。


研究チームはまた、断食が体内の免疫システムを最適化することも突き止めました。マウスが断食すると、NK細胞の多くが骨髄に移動し、そこで骨髄の細胞が作るインターロイキン-12というシグナル伝達タンパク質にさらされましたが、これによりNK細胞は抗がん反応に重要なサイトカインの一種であるインターフェロンγをより多く産生できるようになったとのこと。

一方、NK細胞は脾臓(ひぞう)にも移動しており、そこで脂質を燃料源にするようトレーニングを受けました。NK細胞が骨髄と脾臓に分かれてそれぞれの場所で別々のトレーニングを受けるのか、時間をかけて両方でトレーニングを受けるのかはまだ不明ですが、研究チームはマウスと同様に人間でも絶食が骨髄にも脾臓にも行かず体内を漂う遊離NK細胞を減らすと考えています。

既に、絶食と標準的ながん治療を併用した場合における安全性と有効性を検証する臨床試験が始まっているほか、将来的にはこのメカニズムを再現する薬剤の開発も進められるかもしれません。また、患者自身が断食しなくても、患者のNK細胞を体外で断食状態にして再投与するという方法も考えられます。

ただし、がんと断食に関する研究はまだ始まったばかりなので、専門家は患者がいきなり絶食を始めたりしないよう注意を呼びかけています。メモリアルスローンケタリングがんセンターの研究者で、今回の研究には直接携わっていないニール・アイアンガー氏は、「断食にはさまざまな種類があり、有益なこともあれば有害なこともあります。ですから、患者は自分にとって何が安全かつ健康的かについて医師とよく話し合ってください」と述べました。

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in サイエンス,   , Posted by log1l_ks

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