バイデン大統領がTikTok禁止法に署名し売却か撤退までの「270日」のカウントダウンが始まる、異例のスピード成立の裏には何があったのか?
アメリカのジョー・バイデン大統領が2024年4月24日に、TikTokの中国親会社・ByteDanceに対してTikTokの売却を命じる法案に署名しました。「TikTok禁止法」とも呼ばれるこの法律の成立により、TikTokは最短9カ月、最長でも12カ月以内に事業をアメリカ企業に売却することが義務付けられ、売却しない場合はアメリカでアプリを配信することができなくなります。
Inside Lawmakers’ Secretive Push to Pass the TikTok Bill - The New York Times
https://www.nytimes.com/2024/04/24/technology/tiktok-ban-congress.html
今回成立した法律は、「外国の敵が支配するアプリケーションがもたらす国家安全保障上の脅威からアメリカ国民を守る法律」です。アメリカ議会下院は2024年4月20日に、この法案をウクライナやイスラエル、台湾を支援する緊急予算案とともに可決。法案は23日に上院を通過し、大統領による署名を待つばかりとなっていました。
TikTokの禁止・売却を強制する法案がアメリカ上院でついに可決、バイデン大統領は「ただちに法案に署名して国民に演説する」と発表 - GIGAZINE
かねてから「法案が机に届けられ次第署名する」と声明を出していたバイデン大統領は24日に、法案に署名しました。これにより、TikTokに売却か撤退かを迫る270日間、約9カ月のカウントダウンが始まりました。
アメリカにおけるTikTok禁止法の成立は、ByteDanceを通じて国民の機密情報が中国共産党に流出することを危惧している規制当局や超党派の議員らによる取り組みの集大成と位置づけられています。
TikTokの弊害に対する危機感は欧米全体に広がりつつあり、4月24日には動画の視聴などでポイントが稼げるTikTok Liteの特典プログラムが、特に子どもに対する依存性をまねいているとのEUの批判に対応するために、TikTokが一部機能の停止を発表していました。
Statement on TikTok Lite: "TikTok always seeks to engage constructively with the EU Commission and other regulators. We are therefore voluntarily suspending the rewards functions in TikTok Lite while we address the concerns that they have raised."
— TikTok Policy Europe (@TikTokPolicyEUR) April 24, 2024
政府が特定のプラットフォームを閉鎖に追い込むことに対しては、言論の自由を保障する合衆国憲法修正第1条に反するとの批判がなされており、専門家は「TikTokが禁止法への対抗訴訟に踏み切った場合、TikTokが中国共産党のプロパガンダの道具になっていることや、プライバシーの懸念があることを主張して当局が裁判に勝つことは難しいだろう」との見解を示しています。
その一方で、「アメリカの敵」と認識されている中国が、将来的にニュースや情報ネットワークを掌握しアメリカの言論を脅かす危険性があるとの懸念も根強くあります。そのため、当局は国家の安全保障を守ることを目的に掲げることで批判をかわす目算だとされており、法律の正式名称に「国家安全保障上の脅威からアメリカ国民を守る」との文言が含まれているのもこれが狙いの可能性があるとのこと。
また、Metaを率いるマーク・ザッカーバーグ氏は、2018年に以前から買収を目指していたリップシンクアプリ「Musical.ly」をTikTokに奪われたり、TikTokと同様のショートムービー機能「Reels」を2020年にローンチし巻き返しを図るものの苦戦が続いていたりと、TikTokと浅からぬ因縁があります。そのため、ザッカーバーグ氏は2019年のジョージタウン大学でのスピーチで、TikTokが中国のアプリであることを声高に指摘して検閲の危険性を訴えるなど、早くからTikTokを目の敵にしており、アメリカの政界でTikTokに対する風当たりが強まってきた背景にはこうした動きがあると指摘する声もあります。
対するTikTok側も、2024年だけで史上最高額の700万ドル(約11億円)の費用を投じて大規模なロビー活動を展開していたことが暴露報道で明らかになっています。また、議会では関係者の間で「稲妻走り(Thunder Run)」と呼ばれる、TikTok規制を目指す少数の超党派議員による水面下の取り組みがあったことも伝えられており、今回異例のスピード成立となったTikTok禁止法実現の裏には、複雑な政治的思惑が絡んでいました。
当のバイデン政権は、2024年11月の大統領選挙での再選を目指す中で「若い有権者に声を届けるために使用するあらゆるツール」のひとつとして引き続きTikTokを活用し続けると表明するなど、図らずもTikTokが若者から絶大な支持を集めていることを自ら裏付けており、TikTokが人気を武器にどこまで規制法に対抗できるかに注目が集まっています。
TikTokの広報担当者のアレックス・ハウレック氏は声明で、「この法律が秘密裏に作成され、拙速に下院を通過し、最後にはより重大で絶対に可決しなければならない法律と抱き合わせで可決されたのは、これがまさしくアメリカ人にとって好ましくない禁止法だからです。世界の自由を前進させることを目指していると主張する政策の一環として、1億7000万人のアメリカ人の表現の自由の権利を踏みにじる法律を議会が可決するというのは、悲しくも皮肉なことです」と述べました。
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