「人間の顔がまるで悪魔のように見える」という奇妙な症例が報告される、実際に見えている顔の再現画像も公開

アメリカのテネシー州クラークスビルに住むヴィクター・シャラーさんという男性は、ある日を境に人々がまるで「悪魔のような顔」に見えるようになってしまいました。シャラーさんを襲った「Prosopometamorphopsia:相貌変形視」という特殊な視覚障害について、医学誌のThe Lancetで報告されています。
Visualising facial distortions in prosopometamorphopsia - The Lancet
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(24)00136-3/abstract

If faces look like demons, you could have thi | EurekAlert!
https://www.eurekalert.org/news-releases/1038350
Seeing Demons: Man's Rare Brain Condition Transforms Faces Into Monsters : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/seeing-demons-mans-rare-brain-condition-transforms-faces-into-monsters
Rare disorder causes man to see people's faces as 'demonic'
https://www.nbcnews.com/health/health-news/disorder-man-sees-demonic-faces-rcna144533
シャラーさんは2020年11月のある日、突如として人間の耳や鼻、口が後ろに向かって引きつるように伸び、額や頬に深い溝があるように見え始めたとのこと。記事作成時点で59歳のシャラーさんは、「最初に思ったのは、『悪魔の世界で目覚めてしまった』ということです。どれほど恐ろしかったか、想像もできないでしょう」と述べています。
最初のうちは憂うつだったシャラーさんでしたが、ルームメイトと彼女の2人の子どもと一緒に暮らしているため、次第に悪魔のような顔を見ることにも慣れていきました。そのおかげで人前で新たな悪魔のような顔を見てもそれほど怖がることはなく、人々を見分けることもできました。
そんな中、シャラーさんは視覚障害者の教師をしている知り合いから、「相貌変形視」というまれな視覚障害なのではないかと教えられたそうです。シャラーさんはダートマス大学の社会知覚研究所に通い、2023年に相貌変形視であると診断されました。
相貌変形視は人間の顔の一部または全体がゆがんで見えてしまう障害であり、ほとんどの場合は数日または数週間で症状が治まるものの、中にはシャラーさんのように数年以上も顔がゆがんで見え続けるケースもあります。相貌変形視の症例報告はただでさえ貴重ですが、シャラーさんの症例はさらに「実際の人間の顔だけがゆがんで見えて、同じ顔でも写真に写ったものはゆがまない」という点が特殊でした。そこで社会知覚研究所の博士課程に在籍するアントニオ・メロ氏らの研究チームは、シャラーさんが見ている人間の顔を再現することにしたとのこと。
研究チームはボランティアとシャラーさんを対面させた上で、ボランティアの顔写真を見せて「実際の顔がどのように見えているのか」を聞き取りながら、画像編集ソフトで写真を修正しました。その結果を示した比較画像が以下。左側が実際のボランティアの写真で、右側がシャラーさんに見えている顔を再現したものです。目・耳・鼻・口などのパーツが引きつり、深いしわが刻まれたことで、確かに「悪魔のような顔」に見えています。

横顔はこんな感じ。やはり異様な風貌に見えていることがわかります。

これまでに発表された相貌変形視の症例は100件に満たないため、研究者らは顔の処理を行う脳ネットワークの機能不全が原因ではないかと推測しているものの、何が症状を引き起こすのかはよくわかっていません。頭部外傷や脳卒中、てんかん、片頭痛に関連する症例もありますが、脳に明らかな構造変化を伴わないケースもあるとのこと。
シャラーさんの場合、43歳の頃にコンクリートで頭を打って頭部に重傷を負ったことがあるほか、症状が出る4カ月前には一酸化炭素中毒になっていました。研究によるとMRIスキャンで脳の左側に病変が見つかったそうで、これが相貌変形視を引き起こしている可能性があると報告されています。
研究チームは、1週間か2週間に1人のペースで相貌変形視の症状を訴える人にインタビューしており、相貌変形視を抱えている人は報告数よりも多い可能性があるとのこと。また、相貌変形視の認知度が低いため、医師が症状を聞かされても相貌変形視であると診断できないことも考えられます。
論文の共著者でダートマス大学社会知覚研究所の主任研究者であるブラッド・デュシェーヌ氏は、「私たちは、精神科医から統合失調症と診断され、視覚に問題があるのに抗精神病薬を処方された相貌変形視患者の話を聞いたことがあります。また、相貌変形視患者の中には、顔のゆがみが精神疾患の兆候だと人に思われるのを恐れて、顔の知覚に問題があることを話さないケースも珍しくありません。この問題は、あまり人に理解されないものです」とコメントしました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik
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