「人間は平均して5000人の顔を覚えることができる」という研究結果が報告される
by Rebecca Zaal
人々が平地や都市に密集して生きるようになった現代では、人間は生まれてから死ぬまでの間に、数え切れないほど多くの人々と出会うことになります。「なかなか会った人の顔が覚えられない」という悩みを持つ人もいるはずですが、「人間は平均して5000人の顔を覚えることができる」という研究結果が報告されました。
How many faces do people know? | Proceedings of the Royal Society of London B: Biological Sciences
http://rspb.royalsocietypublishing.org/content/285/1888/20181319
Never forget a face? Research suggests people know an average of 5,000 faces | EurekAlert! Science News
https://www.eurekalert.org/pub_releases/2018-10/uoy-nfa100818.php
An ordinary human recognizes thousands of faces : Research Highlights
https://www.nature.com/articles/d41586-018-06998-7
人間の歴史の大部分において、人々が形成する社会的集団は小規模なものであり、それぞれが広く分散して生きていました。人口が急激に増加して町や都市が形成され、多くの人々が出会うようになったのは人間の長い歴史から見れば、非常に最近のことであるといえます。
人口密度が上昇すればそれだけ多くの「人の顔」を見ることになり、それぞれの顔が誰のものであるのかを識別する必要があります。ヨーク大学の心理学者であるロブ・ジェンキンス氏の研究チームは、25人の大学生を対象にして「いったい人間はどれほどの人の顔を覚えられるのか」という調査を行いました。
ジェンキンス氏は、「多くの個人を認識することは人間にとって非常に大切な能力です。その人が過去にどのような行動をしてきて、自分とどのような関わりをもっているのかを思い出すことで、人間はその人への対応を決定します」と述べています。今回の研究は、人間の脳がどれほど多くの人の顔を識別し、「個人情報などと合わせて記憶に残すことができるのかどうか」に焦点を当てているとのこと。
by Dazzle Jam
25人の参加者はいずれもグラスゴー大学かアバディーン大学の学生であり、そのうち15人が女性で10人が男性でした。平均年齢は24歳で、年齢は18歳から61歳までだったとのこと。参加者には実験の前に30ポンド(約4400円)が支払われ、その後は試験の結果に応じて追加の報酬が支払われたそうです。
実験では参加者に対して、まず最初に「名前は思い出せなくてもいいから、頭の中でハッキリと顔を思い浮かべられる知人」について思い出すように求めました。「家族」「友人」「友人の家族」「学校関係者」「バイト先の同僚」「近所の人」といったさまざまな分類を施したスプレッドシートに、参加者は個人の名前か、名前が思い出せない場合は「学校の管理人」「友人Aの父」といった風に関係性を記入していったとのこと。
すると、参加者は60分の実験中に平均して362個の「個人をはっきりと識別可能な顔」を思い出すことができたとのこと。また、最初の5分間と最後の5分間では思い出せる顔の数が半分ほどになったものの、60分の実験時間中に思い出せる顔が尽きてしまった人は少なく、多くの人はまだまだ思い出せる人の顔があるという結果になりました。研究チームは参加者の疲労を考慮して60分で実験を終えましたが、想起できる顔の減少を計算に落とし込むことで、人々は最終的に平均して549人ほどの顔を思い出せるはずだと推測しました。この計算は、別に募集した10人の参加者に対して後に行った、「実験室外で5週間にわたってありったけの顔を思い出してもらう」という実験の結果と大きく違いはなかったそうです。
個人的な知人を思い出してもらった後に、研究チームは25人の参加者に対して「直接的には知らないが、世間的に有名な顔」について思い出してもらいました。研究チームは知人の場合と同様にスプレッドシートに「芸術」「メディア」「映画」「音楽」「歴史的人物」といった分類を並べ、参加者が名前を思い出しやすい状況を作り出した上で実験を行ったとのこと。その結果、60分の実験中に平均して290人の顔を思い出すことができ、その後も実験を続けた際の推測値は平均395人となりました。
by Marco Derksen
続いて、研究チームは「公に有名だと思われる3441人の、合計6882枚の顔写真データ」を参加者に見せて、いったいどれほどの識別率が得られるのかをテストしました。この3441人のリストは、事前に12人の協力者がスプレッドシートに3カ月にわたって記入していった「公に顔が有名だと思われる人々のリスト」をもとにしているとのこと。研究チームは「この3441人が公に有名な人のリストを正確に網羅しているわけではないが、少なくともパフォーマンスを測るのに十分な数である」としています。
参加者はAバージョンとBバージョンの2回にわけて、3441人の顔写真について「知っている」もしくは「知らない」という判断を、手元のボタンを押すことで行ったとのこと。バージョンAの後に行われたバージョンBでは、バージョンAと同じ3441人について別の顔写真が使われ、異なる2種類の顔写真について両方とも「知っている」と判断できた場合のみ、「参加者はこの人物を知っている」とカウントしました。
その結果、参加者は平均して775人の顔について正しく「知っている」と判断することができました。一方で参加者のパフォーマンスには大きな隔たりがあり、3441人のうち400人程度しか判別できなかった人もいれば、2000人近くも判別できた人がいたそうです。バージョンAでのパフォーマンスが低かった人はバージョンBでもパフォーマンスが低い傾向にあったことから、人の顔を覚える能力は人によって大きな差があると推測されます。
研究チームによると、3441人の顔写真データに含まれる「実験室で思い出してもらった有名人」の割合は61%程度であり、25人の参加者が個別に思い出した39%の有名人は3441人のデータセットに表れなかったそうです。これらのデータを元に、研究チームは「頭の中で顔が思い出せる数:実際に認識できる顔の数=1:4.62」という比率をはじき出しました。頭の中で思い出せる顔の数の平均(549+395=944)を、はじき出された比率に当てはめることで、研究チームは「人はおよそ4240人の顔を認識できる」と論じています。
by Kaique Rocha
参加者が覚えていると考えられる顔の数は1000~1万人と非常に幅広いものの一定の範囲に収まっており、「4240人という数値はおよそ5000人と丸めてよいだろう」と研究チームは結論づけました。ジェンキンス氏は今回の結果について、「人間の人生のどこに覚えられる顔の数のピークが来るのかという点は、非常に面白い疑問です。生涯を通じて新たな顔を覚えていくのかもしれないし、特定の年齢に達すると次々に顔を忘れていくのかもしれません」と語りました。
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