睡眠で脳の老廃物を洗い流す仕組みが解明される、アルツハイマー病などの神経変性疾患の予防に役立つ可能性
私たちの脳は睡眠時でも休むことなく動き続けており、睡眠中の脳ではニューロンが協調して電気信号を発し、それらが蓄積してリズミカルな波となることで脳にたまった老廃物を洗い流している可能性が、ワシントン大学医学部の研究チームによって示されています。
The Glymphatic System – A Beginner's Guide - PMC
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4636982/
Neuronal dynamics direct cerebrospinal fluid perfusion and brain clearance | Nature
https://www.nature.com/articles/s41586-024-07108-6
Neurons help flush waste out of brain during | EurekAlert!
https://www.eurekalert.org/news-releases/1035658
脳細胞は思考や感情、体の動きを調整し、記憶の形成と問題解決に不可欠なネットワークを構築しています。このネットワークを維持してタスクを遂行するために、食事から得た栄養素がエネルギーとして脳細胞に供給されます。しかし、栄養素を消費すると、その過程で代謝による老廃物が作り出され、これらが蓄積するとアルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患を発症する可能性が高まることが指摘されています。
研究チームのジョナサン・キプニス氏は「このような代謝老廃物を脳が処理することが重要です」「睡眠とは、覚醒時に蓄積された老廃物や毒素を洗い流すために、脳が掃除を行う時間であることが知られています。しかし、このメカニズムは解明されていません」と述べています。
細胞や神経が密集した脳を掃除することは簡単なことではありません。脳を満たす脳脊髄液は、複雑に張り巡らされた細胞の間を縫って移動し、その際に有毒な老廃物を集めています。そして老廃物のたまった脳脊髄液は、硬膜のリンパ管へと流れていきます。しかし、従来の研究では脳脊髄液が動く理由が解明されていませんでした。
研究チームは、睡眠状態にあるマウスの脳を分析し、ニューロンが協調して電気信号を発し、脳内でリズミカルな波を形成することで、密集した脳組織に脳脊髄液を送りこんでいることを明らかにしました。さらに研究チームは、特定の脳領域の活動を抑制してリズミカルな波の形成を阻害すると、睡眠時に新鮮な脳脊髄液が流れることはなく、蓄積した老廃物が洗い流されないことを確認しています。
また、私たちが眠っている際にはレム睡眠やノンレム睡眠を繰り返しており、脳波のパターンは睡眠サイクルを通じて大きく変化します。研究チームは、高周波または高振幅の脳波が観測される際に脳脊髄液が大きく動くことを発見しています。
キプニス氏は「私たちが眠る理由の1つは、脳の洗浄を行うためです。そして、このプロセスを強化することができれば、睡眠時間を減らしながらでも健康を維持できるかもしれません。睡眠不足は健康に影響を与えますが、これまでの研究から、睡眠時間が短くなるように遺伝的に調整されたマウスは健康な脳を持っていることが示されています。この要因は、マウスの脳が睡眠時に老廃物を効率的に洗浄できる可能性があります。同様に、不眠症に悩む患者の脳の洗浄能力を高めることができるのではないでしょうか」と述べています。
また「このプロセスの研究をさらに続けることで、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患の予防や進行の抑制ができる可能性があります。今回の発見は、脳にとって有害な老廃物を除去する能力を高め、神経変性疾患による悲惨な結果につながる前に効率的に老廃物を除去するための戦略や潜在的な治療法を示すことができるかもしれません」とキプニス氏は推測しています。
・関連記事
徹夜による睡眠不足はカフェインや仮眠で穴埋めできるのか? - GIGAZINE
太極拳でパーキンソン病の症状を緩和できる可能性 - GIGAZINE
朝型・夜型など自分の体のリズムにあった時間帯に活動すると記憶力や判断力などが向上する - GIGAZINE
トナカイは食事しつつノンレム睡眠状態に入っている - GIGAZINE
健康的な睡眠のために最適な食事とは?避けるべき食習慣は? - GIGAZINE
・関連コンテンツ