サイエンス

患者の移植用肝臓に自分のイニシャル「SB」を次々と焼き付けて医師免許を剥奪された外科医が当時を振り返る


イギリスの外科医であったサイモン・ブラムホールは、2022年1月に「患者の肝臓に自身のイニシャル『SB』を刻印していた」ことで有罪判決を受け、医師免許を剥奪されました。しかし、一部の患者からは罰金を支払うための寄付や復職を要求する請願書も提出されています。

‘I know someone who played noughts and crosses on one’: meet the top surgeon who burned his initials on a patient’s liver | Doctors | The Guardian
https://www.theguardian.com/society/2024/mar/16/surgeon-who-signed-patients-livers


2013年当時イギリス・バーミンガムのクイーンエリザベス病院(QEHB)で肝臓外科医として働くブラムホールは、8月21日に急性肝不全の患者に対する肝移植を成功させました。この時、ブラムホールはすでに400回近く肝移植手術を行っており、肝移植専門医として著名な人物となっていました。

しかし、手術から数日後、移植した肝臓が機能不全を起こしていることが発覚。すぐに2度目の緊急移植手術が行われましたが、その際手術を担当した別の外科医が、数日前に移植した肝臓に高さ4cmほどの「SB」の文字が焼き付けられていることが明らかになりました。このイニシャルを肝臓に焼き付けたのはブラムホールであることは明白でした。ある麻酔科医は、「2013年2月9日に実施された肝移植手術中に、ブラムホールが別の患者の肝臓に自身のイニシャルを刻印していた」と報告。また、2013年8月21日の手術に立ち会った看護師は、ブラムホールが患者の肝臓にイニシャルを刻印しているのを目撃し「何をしているんですか」と尋ねました。看護師の問いかけに対しブラムホールは「これが私のやり方です」と回答しています。


その後、この外科医はブラムホールの行為を病院に報告。2013年12月18日にブラムホールは停職処分を受けました。5カ月にわたる停職処分の終了後、ブラムホールはQEHBを退職し、2020年6月までヘレフォードの郡立病院で勤務を続けました。2018年にブラムホールには「患者2名に対し手術中に自身のイニシャルを刻み込んだ」との罪状で1万ポンド(約190万円)の罰金刑と120時間の社会奉仕命令が下されており、2022年にブラムホールの医師免許の剥奪が決定しています。

ブラムホールの行為に対して、自身の肝臓にイニシャルを刻み込まれた一部の患者はトラウマを抱えており、メンタルヘルスの問題に苦しんでいることが報告されています。この患者は「自分の肝臓に『SB』のイニシャルが入った写真を見たときの恐怖は私の心に永遠に残るでしょう。麻酔で意識を失っている間にこのような行為をされたと考えると恐ろしく感じます。この一件で、私の医師への信頼は打ち砕かれてしまいました」と主張しています。


しかし、もう一人の被害者であるトレイシー・スクリヴェン氏は「ブラムホールは私を救ってくれました。自身のイニシャルを刻み込まれたことはまったく気にしていません」と語っています。また、ブラムホールの手術を受けた元患者らは、ブラムホールの罰金をカバーするための数千ポンド(数十万円)の寄付を集め、900人近くがブラムホールの復職を要求する請願書に署名しています。元患者らは「自分の仕事に誇りを持った結果患者の肝臓にイニシャルを刻んだ外科医は、称賛されるべきであり、決して中傷されるべきではありません」と訴えています。

後にブラムホールは当時を振り返って、「8月21日の手術は困難を極めました。手術室には緊張感が漂い、手術が無事成功すると解放感が生まれ、それがイニシャルを刻むという行為に至ったのかもしれません。今になって思うと、この行為は不適切ですし、正しい行為ではありませんでした。しかし、当時はそんな行為をやってしまうような気持ちだったんでしょうね」と語っています。また「アルゴンビームコアギュレーターを用いて刻印した自身のイニシャルは、数日で消えるもので、後の手術で明るみに出るとは思っていませんでした」と述べました。

さらにブラムホールは自身の裁判を振り返り「裁判官から『お前がやったことは権力の乱用であり、医師への信頼の裏切り行為だ』と指摘されたことは、両親の死よりも耐えがたいことでした」と吐露しています。しかし、イニシャルを刻まれた患者がトラウマを抱えていることに後悔の念を感じているかと尋ねられるとブラムホールは「私は自分のしたことを恥じていますが、決して患者を傷付けていません。私の手術がなければこの患者は死んでいたでしょう」と語っています。


医師免許を剥奪された後の生活についてブラムホールは「私には信じられないほど協力的な妻がいます。私は彼女を不幸に巻き込んでしまいました。しかし、彼女がいなかったら私はここにいなかったと思います」と述べています。また、ブラムホールは一連の出来事を「Deceitful Blood」という作品にまとめています。

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in サイエンス, Posted by log1r_ut

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