同じ時間でも「長い時間がたった」と認識していると傷の治りが進むという研究結果、時間の認識が傷の治るスピードに影響を与える可能性
「病は気から」と慣用句で言うように、心の持ちようや考え方によって病気などの症状が変化するという考えがあります。実際には効用などないはずなのに効果が見られるプラシーボ(偽薬)効果の一種とみられる一方で、心理状態が病気に与える影響を実証する研究もあり、ハーバード大学の心理学者が2023年12月に発表した研究では、傷が治る時間にも精神的な要因が影響し「時間が長く進んでいる」と感じるほど治癒が進むことが発見されました。
Physical healing as a function of perceived time | Scientific Reports
https://www.nature.com/articles/s41598-023-50009-3
Our Perception of Time Can Actually Speed Up Wound Healing : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/our-perception-of-time-can-actually-speed-up-wound-healing
ハーバード大学の心理学者であるピーター・アングル氏とエレン・ランガー氏は、プラシーボ効果に代表される「精神が体に、体が心に、同時かつ双方向の影響を与える」と仮定する心身統一理論に基づいて、「知覚時間」と「傷の治り」の影響を捉える実験を行いました。
実験では、33人の参加者の皮膚に熱したカップで吸引を行う「カッピング療法」の要領で観察可能な程度の小さなあざを作りました。このプロセスは3回行われ、それぞれ表示されているタイマーの速度を変更したり、参加者に気をそらすためのムービーを視聴させたり、一定時間ごとに出題されるクイズの出題頻度を調整したりするトリックで、参加者の時間経過に対する認識を操作しようと試みました。
3回のプロセスはそれぞれ、カッピングでつけたあざを28分後に再観察しましたが、1回目は14分(半分の長さ)、2回目は28分(時間通り)、3回目は56分(2倍の長さ)に感じるよう設計されています。
結果として、通常より時間経過を早く認識させた1回目は、通常通りの2回目と比べると、よりあざの治癒が遅いことが観察されました。さらに、より時間を長く感じる3回目は、2回目と経過時間は同じにもかかわらず、より治癒が進んでいることが確認されています。
以下の3つのグラフは認識時間ごとの治癒量を表しており、治癒量は数字が大きいほど傷の治りが進んでいることを表しています。グラフを見ればわかる通り、実際に経過している時間が同じでも認識時間が長くなるほど治癒量が高まっていることは明らかです。
アングル氏とランガー氏は、「知覚された時間が、実際の経過時間とは独立して、生理学的プロセスに影響を与えるかどうかを調査した研究はほとんどありません。今回の実験結果は、身体的治癒に対する時間の影響について、実際の経過時間とは無関係に、時間の認識によって直接影響されるという仮説を裏付けるものです」と結論付けています。
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