氷で覆われた木星の衛星エウロパは酸素不足で生物が存在するには不向きかもしれないという研究結果
by NASA's Marshall Space Flight Center
木星の第2衛星であるエウロパは氷に覆われた地殻の内部に液体の水で構成された海があると考えられており、地球外生命体が存在するのではないかと天文学者らの期待を集めています。ところが、NASAの木星探査機・ジュノーの観測データを分析した新たな研究では、エウロパで生成される酸素の量がこれまで考えられていた量よりも少なく、生命を維持するには向いていない可能性があると判明しました。
Oxygen production from dissociation of Europa’s water-ice surface | Nature Astronomy
https://www.nature.com/articles/s41550-024-02206-x
Europa, Thought to Be Habitable, May Be Oxygen-Starved - The New York Times
https://www.nytimes.com/2024/03/04/science/europa-moon-oxygen.html
Jupiter’s moon Europa produces less oxygen than we thought – it may affect our chances of finding life there
https://theconversation.com/jupiters-moon-europa-produces-less-oxygen-than-we-thought-it-may-affect-our-chances-of-finding-life-there-225002
Jupiter's moon Europa lacks oxygen, making it less hospitable for sustaining life | Live Science
https://www.livescience.com/space/jupiter/jupiters-moon-europa-lacks-oxygen-making-it-less-hospitable-for-sustaining-life
エウロパは地球の月よりもわずかに小さい直径3100kmほどの衛星で、地殻内部には地球の約2倍もの大きな海があるとみられています。また、エウロパは太陽から遠く離れているものの木星との相互作用で熱エネルギーが生み出されており、生物にとって重要な二酸化炭素やその他の化学元素があることも確認されているため、生命が存在している可能性があると期待されています。
水・適切な化学元素・熱源という生命の基本的な構成要素を持っているエウロパですが、地球とは生命にとって重要な酸素の作られ方が異なります。地球では植物やプランクトンの光合成によって酸素が大気中に送り込まれますが、エウロパでは宇宙から飛来した荷電粒子が氷の地殻に衝突し、凍った水を水素と酸素の分子に分解するとのこと。
アメリカのプリンストン大学の天文プラズマ物理学者であるジェイミー・サライ氏は、「氷の地殻はエウロパの肺のようなものです。この有害な放射線から海の下を守っている表面は、ある意味で呼吸をしているのです」と述べています。
by NASA's Marshall Space Flight Center
コンピューターモデルを使った以前の研究では、エウロパで毎秒1000kgの酸素が生成されていると推定されていました。新たにサライ氏らの研究チームは、NASAが2011年に打ち上げた木星探査機・ジュノーの観測データを分析しました。
ジュノーは木星だけでなく木星の衛星についてもフライバイ(接近飛行)による探査を行っており、2022年9月にはエウロパへのフライバイを実施しました。ジュノーはエウロパの表面から約352km上空を通過する際、荷電粒子観測装置による水素分子の測定を行ったとのこと。
エウロパの表面で作り出される水素と酸素のうち、軽い水素はそのまま大気中に浮遊しますが、重い酸素は地表付近にとどまったり氷に閉じ込められたりします。これらは同じ水分子が分解されたものであるため、水素の量を測定すればどれほどの酸素が生み出されたのかがわかるというわけです。
分析の結果、エウロパの表面で生み出される酸素の量は毎秒約12kgにとどまり、以前のコンピューターモデルによる推定値よりはるかに少ないことが判明しました。サライ氏は、「これは私たちが予想していた中でも最下限です」と述べつつも、これは必ずしもエウロパに生命が存在しないことを意味するわけではないと指摘しています。
記事作成時点では、ジュノーが再びエウロパにフライバイする予定はありませんが、研究チームは今後も観測データの分析を行うとのこと。サライ氏は、「今回の発見は氷山の一角に過ぎません。これから何年もかけて、この1回のフライバイで得られた観測データを掘り起こし、すべての宝物を見つけるつもりです」と述べました。
なお、NASAはエウロパの生命探査を行う宇宙船「エウロパ・クリッパー」を2024年中に打ち上げる予定で、2030年にエウロパに到着してから50回近くにわたるフライバイを実施する計画です。
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