サイエンス

都市部で行う農業は意外と気候に優しくないという研究結果、どうすれば都市農業の炭素排出量を軽減できるのか?


市街地や住宅街などの街中で行われている農業は都市農業と呼ばれ、社会の持続可能性を高め、都市部に新鮮な農産物を供給してコミュニティや都市に利益をもたらすと注目を集めています。ところが、ミシガン大学の研究チームが行った研究では、「都市農業は思われているほど気候に優しくない」という結果が明らかになりました。

Comparing the carbon footprints of urban and conventional agriculture | Nature Cities
https://www.nature.com/articles/s44284-023-00023-3


Urban agriculture isn’t as climate-friendly as it seems, but these best practices can transform gardens and city farms
https://theconversation.com/urban-agriculture-isnt-as-climate-friendly-as-it-seems-but-these-best-practices-can-transform-gardens-and-city-farms-221537

都市農業の利点として挙げられているのが、果物や野菜を都市部に住む消費者まで届ける距離が短縮され、輸送による温室効果ガスの排出を抑えることができるという点です。また、都市部の気温が高くなるヒートアイランド現象を緩和させる効果も期待されており、都市農業は気候変動対策として有効だとみなされています。


ミシガン大学の研究チームは本当に都市農業が気候に優しいのかどうかを調べるため、北米とヨーロッパ5カ国の73カ所で庭師や共同農園のボランティア、都市農場の管理者などと協力して、都市農業と従来の農業が環境に及ぼす影響を比較しました。なお、都市農業に関する研究の多くは屋上の温室や垂直農場といったハイテクなプロジェクトを対象にしていますが、今回の研究は住宅の裏庭や共同農園などでみられる、ローテクな都市農業に焦点を宛てたとのこと。

研究チームは作物への水やりや施肥などの農業活動や、農場の建設および維持にかかる炭素排出量をモデル化しました。その結果、1食分の野菜や果物を生産する際の炭素集約度は、都市農業の方が平均して6倍も高いことが判明。地方の農場から都市部まで農作物を輸送することを考慮しても、都市農業は従来の農業より必ずしも環境に優しいとは限らないことがわかりました。

都市農業における主要な炭素排出源となっていたのは、作物を育てる過程そのものではなく農場のインフラでした。上げ床式の花壇(レイズドベッド)や農機具小屋、コンクリートの小道といった農場インフラが狭い場所に詰まっているため、広大な敷地で農作物を育てる従来の農業よりも、農作物あたりの炭素排出量が多くなっていたというわけです。


しかし、調査した73カ所のうち17カ所は従来の農場よりも炭素排出量が少なかったとのことで、研究チームは都市農業で炭素排出量を抑えるポイントを以下にまとめています。

◆1:食品廃棄物や水などの資源をリサイクルする
レイズドベッドや農機具小屋といった農業インフラを建設する際、わざわざ新しい材料を調達するのではなく、古い建築材料をリサイクルすることで炭素排出量を軽減できます。研究チームによると、木材・セメント・ガラスといった建材を再利用することで、炭素排出量を50%以上削減できるとのこと。

また、家庭などで出る食品廃棄物を堆肥として利用することで、合成肥料の製造に使用される化石燃料を削減し、埋め立て地に送られた生ゴミが生成するメタンを減らせます。他にも、農作物への水やりに貯留した雨水を使ったり、比較的きれいな下水を利用したりすることも、資源の節約につながります。

◆2:従来の農業では炭素集約度が高くなる作物を栽培する
大量のエネルギーを消費する温室で栽培されることが多いトマトや、すぐに腐ってしまうため輸送に航空機が使われるアスパラガスといった作物は、従来の農業だと炭素集約度が高くなってしまいます。これらの作物を都市部で栽培することにより、正味の炭素排出量を削減できるとのこと。

以下のグラフは、Beans(マメ類)・Carrots(ニンジン)・Lettuce(レタス)・Onions(タマネギ)・Tomatos(トマト)を1kg生産する際に排出される二酸化炭素量を、従来の農業(濃い緑色)と都市農業(薄い緑色)で比較したもの、マメ類・ニンジン・レタス・タマネギは都市農業の方が大幅に二酸化炭素排出量が多くなっていますが、トマトは都市農業の方が排出量が少ないことがわかります。


◆3:都市農場を長期的に維持する
都市部の環境は常に変化しているため、都市農場は開発の圧力に対して脆弱(ぜいじゃく)です。しかし、都市農業における主要な炭素排出源がインフラであるため、同じ都市農場を長期間にわたり管理・維持し続けることで、新たなインフラ建設を減らして炭素排出量を軽減できます。

研究チームは、「都市農場は生鮮食品の供給やコミュニティの構築、および教育といったエコシステムのサービスと社会的利益をもたらします。また、都市農場はミツバチや都会に住む野生生物のすみかとなり、ヒートアイランド現象からある程度の保護を提供します」「慎重な用地設計と土地利用政策の改善により、都市部の農家や園芸家は近隣住民や地球全体への恩恵を高めることができると、私たちは信じています」と述べました。


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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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