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風刺マンガや反政府的な意見を規制する中国やトルコにおける現代の「検閲」の実態とは?


政治や社会問題をおもしろおかしく描写したり糾弾したりする風刺マンガは、しばしば権力者からの検閲や差し止めなどの攻撃を受けてきました。管理体制が強まる中国やトルコにおける政治風刺マンガ家が直面した検閲について、マサチューセッツ工科大学(MIT)と提携する出版局のMIT Pressが解説しています。

An Illustrated Guide to Post-Orwellian Censorship | The MIT Press Reader
https://thereader.mitpress.mit.edu/an-illustrated-guide-to-post-orwellian-censorship/


以下の画像は、「検閲とは2+2を5、もしくは3、あるいは権力者が言うことなら何でも、と決定してしまう力のこと」という言葉を表したイラスト。20世紀イタリアの思想家であるアントニオ・グラムシは権力による検閲について、「ルールは被支配者の同意によってその強制性を隠し、強制性を隠すことができるときに覇権的支配を達成する」と表現しています。


また、ドイツ出身の政治学者であるハンナ・アーレントは、全体主義の分析を通して、「権力には正当性が必要であり、暴力が乱用されるとその正当性が破壊される」と指摘し、非暴力で行われる検閲の重要性について発見しました。以下の画像は、大規模な粛正を含むスターリニズムなどの直接的な支配から、ルールやガイドラインの指定、検閲などによる支配に変わっていったというアーレントの思想を示したイラスト。


メディア研究教授のチェリアン・ジョージ氏とマンガ家でイラストレーターのソニー・リュー氏が2021年に出版した「Red Lines: Political Cartoons and the Struggle against Censorship」では、「世界で最も長く共産主義国家が続いている国」として、中国の検閲の例を取り上げています。ジョージ氏によると、中国ではハードな検閲とソフトな検閲の間で揺れ動いており、毛沢東の文化大革命では極端で妥協のないコントロールが実施されましたが、毛沢東の死後に文化大革命は終結を宣言され、後継者たちは大きく方針を変更。党の公式日刊紙に風刺をテーマとした「風刺とユーモア」という増刊号を出版するまで規制が緩やかになりました。


さらに、1980年代の鄧小平政権下では、共産主義のイデオロギーより近代化や市場の活性化が最優先となったことで、アーティストの活動範囲は大きく拡大しました。しかし、習近平が党首となった2012年以降は大きく逆戻りし、共産主義イデオロギーの純粋性や個人崇拝が重要視され、政府は反対派のさらなる弾圧を強調しました。

ただし、ジョージ氏は中国の管理体制について、「中国はあまりにも広大で人口も多すぎます。メディアも大量にあるし、権威が分散しすぎているため、毛沢東流の完全なコントロールは不可能です」と述べています。同じように、政治学者のマーガレット・ロバーツ氏は「厳しい管理体制下でも、中国の検閲活動には穴が多く、処罰も受けずに回避されている例が日常的に起こっています」と指摘した上で、そのような国で検閲を実施している方法として、「現代の中国の検閲は、『恐怖』『摩擦』『氾濫』を組み合わせて実施されています」と語っています。


「恐怖」については、中国国内のニュースメディアやインターネットプラットフォームのほとんどの管理職に働いているとジョージ氏は指摘しています。メディアや各種プラットフォームで間違った情報がうっかり公開された場合、強制収容所で重労働などということにはならないものの、即座に降格されてもう一度出世することが難しくなる可能性があります。

また、ジャーナリストやアーティストなどには、「お茶に誘う」という対応が行われることがあります。これは、政府が公的に罰を与えると裏目に出る可能性があるときに、お茶を飲みながら個人的な会話をすることで、相手を「威圧する」効果があるそうです。


ウイグル自治区出身の風刺マンガ家である王立銘氏は、選挙に対する党の厳しい監視に異議を唱えるマンガを発表したことで、共産党からお茶の招待を受けました。しかし、王氏は威圧に屈することなく活動を続けたため、今度は警察署で面会に招かれます。それでも王氏は活動を辞めなかったため、日本を訪問していた当時に政府系メディアから名指しで「親日の売国奴」と批判されたり、ショッピングサイトのページが理由もなく閉鎖されたり、ブログサイトのアカウントが削除されたりと、さまざまな嫌がらせが発生。王氏は身の危険を感じて帰国を断念し、埼玉大学で研究員として滞在した後に、アメリカへ移住しています。

中国の検閲方法としてロバーツ氏が挙げた「摩擦」とは、風刺アーティスト本人や作品自体を規制するのではなく、アーティストがさまざまなコンテンツやアイテムにアクセスすることを困難にし、活動を不便にすることです。ジョージ氏は中国のインターネットを「壁に囲まれた庭園」と表現しており、VPNなどの回避ツールを使って禁止されたサイトにアクセスすることも、近年では困難になっているとのこと。


ロバーツ氏の3つ目の項目「氾濫」とは、規制したいコンテンツから注意をそらしたり印象を薄めたりすること。中国当局はボットによって増幅された荒らしチームによって、1日に約120万件のコメントを投稿しているケースもあるそうです。これにより、政府のプロパガンダや質の低い意見、話題を変える全く関係ない投稿などを量産して、規制したいコンテンツを他の人の目に入りにくくしています。

中国とは異なり、トルコは一党独裁ではなく、民間のメディアも多くあります。そのため、トルコには豊かな風刺マンガの歴史がありますが、中国と同様に現代の権威主義的な検閲が行われています。

2014年からトルコ大統領を務めるレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領が率いる公正発展党は、2002年に誕生した初期は自由化改革を導入しましたが、2007年以降は方針を転換させてインターネット検閲を大幅に強化しました。2016年に軍部がクーデターを試みた際には、政府は反政府勢力とみられる人々に大規模な弾圧を開始し、数カ月で150以上のメディアが閉鎖されています。

トルコ最古の独立系新聞社の取締役であるムーサ・カート氏は、2014年に重大な汚職スキャンダルをマンガにしました。ここでは、エルドアン大統領が選挙集会にリモート出演する際にホログラムの演出を使ったことから、「警備員がホログラムだから盗み放題だ」と強盗する人たちのイラストが描かれています。


トルコ政府はこのマンガを理由にカート氏を投獄しようとしましたが、裁判所は訴えを棄却。しかしその後、2016年のクーデター未遂に際して、テロ氏組織を支援した疑いでカート氏は投獄されました。あからさまな弾圧は他者への警告として機能するため、カート氏らの投獄は、エルドアン大統領の権限を大幅に強化することになりました。

さらに、トルコの検閲は「メディアキャプチャ」の典型的な事例だとジョージ氏は述べています。トルコでは高いレベルの報道の自由があるわけではありませんが、政府を批判できる新聞は常に存在しており、また民営のメディアも多く存在しています。しかし、民営メディアは利益志向のため政府のライセンスや契約、補助金に依存しており、経済的な面で政治的な脅迫にさらされているとジョージ氏は指摘しています。

公正発展党がメディアへの権力を高めた理由に、デジタルメディアの台頭があると考えられています。元マンガ家のサリフ・メメカン氏は、「以前は、たとえ編集者と意見が合わなかったとしても、コラムニストやマンガ家の声を求めて新聞を購読する層も多かったため、私たちを評価してもらえました。しかし、デジタルメディアの出現により、新聞は販売収入を失い始め、編集者は読者よりも政府との契約を優先しはじめました」と活動を辞めた理由を話しました。

弾圧により検閲と規制は強まっていますが、トルコの風刺アート文化は少なくともオスマン帝国時代にまでさかのぼるとされており、エルドアン大統領もこの文化を完全に打ち砕くことはできていないそうです。トルコの風刺マンガ雑誌「Leman」は、毎週のように危ないボーダーラインを攻めるテストを続けており、他の雑誌が閉鎖される中でも、依然として存続しています。

一方で、「Leman」を創刊した元マンガ家のトゥンケイ・アクギュン氏は、「エルドアン大統領には多くの支持者がおり、支持者が群がって弾圧を行うため、以前より弾圧のボーダーラインを見定めるのが難しくなっています」と難しい現状を語りました。2016年のクーデター未遂事件の後、「Leman」の表紙にはクーデターの兵士たちとともに民間の暴徒たちが描かれたところ、親政府の作家たちから中傷キャンペーンが勃発し、雑誌社の外に暴徒が詰めかけたそうです。

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in メモ, Posted by log1e_dh

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