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ミッキーは2024年にパブリックドメイン化、約1世紀にわたるディズニーと著作権との「三角関係」の歴史とは?

by Kansir

1928年に「蒸気船ウィリー」に登場したミッキーマウスは、繰り返しの著作権保護期間延長を経て、2024年1月1日、ついにパブリックドメインとなります。登場から95年間、ミッキーとディズニー、パブリックドメインをつなぐ密接な「三角関係」について、デューク大学のパブリックドメイン研究センターでディレクターを務めるジェニファー・ジェンキンス氏が解説しています。

Mickey, Disney, and the Public Domain: a 95-year Love Triangle | Duke University School of Law
https://web.law.duke.edu/cspd/mickey/


ミッキーマウスは1928年に公開された「蒸気船ウィリー」に初登場したキャラクターなので、「蒸気船ウィリー」の著作権保護期間満了に伴ってパブリックドメインになります。なお、「蒸気船ウィリー」そのものは日本では既にパブリックドメインとして公式に無料公開されています。

「セレブレーション!ミッキーマウス」 蒸気船ウィリー - YouTube


1970年にアメリカで初めて成立した著作権法は、保護期間を「14年間」と定めていました。この著作権保護期間が延長を繰り返したのはミッキーマウスが原因と言われており、著作権保護期間を「95年」へと延長する1998年の著作権延長法は、「ミッキーマウス延命法」「ミッキーマウス保護法」などと呼ばれています。この期間延長について、多くの学者は「文化遺産をデジタル化し、アーカイブし、アクセスする能力に壊滅的な影響を与える、経済的に逆進的な施策」だとして批判しました。

ミッキーマウスをパブリックドメイン入りから守ってきディズニーのことを、ジェンキンス氏は「パブリックドメインを利用する才能と成功を収めた実践者です」と指摘しています。

たとえば、「アナと雪の女王」はアンデルセンの童話「雪の女王」からインスピレーションを受けていたり、「ライオン・キング」はシェイクスピアや聖書、その他の叙事詩、パブリックドメインのクラシック音楽などを取り入れていたりと、著作権の切れた有名な古典を巧みに利用しています。そもそも、ミッキーマウスの動きはサイレント映画のスターであるチャールズ・チャップリンダグラス・フェアバンクスなどを模倣したものであることを、ウォルト・ディズニーがインタビューで語っています。さらに「蒸気船ウィリー」というタイトルも同じ年に先行して公開されたバスター・キートン主演の「キートンの蒸気船」という映画にちなんでつけられており、パブリックドメインになった作品だけではなく、著作権で保護されていない「人やキャラの動き」「タイトル」などを活用しているとジェンキンス氏は解説しています。


ディズニーは著作権保護の延長を求めるロビー活動と、パブリックドメインを侵食的に用いるトッププレイヤーを兼ねており、それぞれの象徴的存在がミッキーマウスです。そのため、ジェンキンス氏はこれを「三角関係」と表現しています。

「蒸気船ウィリー」がパブリックドメインとなる2024年1月以降にできるようになることと引き続きできないことについて、ジェンキンス氏は「皮肉なことに、ネズミの形をした図で示すことが出来ます」と以下の図で解説しています。図の緑色で示されているように、蒸気船ウィリーのムービーおよびそこに登場する「ミッキーマウス1.0」はパブリックドメインとなるため、自由に複製、共有、改変できます。しかし、オレンジ色で示されている「その後のバージョンのミッキーマウス」や「商標」を含まない形で使用する必要があります。


ミッキーマウスは初登場以降、目や鼻、トレードマークの「白い手袋」など、細かい変更を繰り返しています。そのため、「蒸気船ウィリー」より後に見た目が変更された部分は自由に使うことはできず、あくまで「蒸気船ウィリー」に登場したままの姿である「ミッキーマウス1.0」が自由に利用可能となっています。


ただし、「蒸気船ウィリー」より後の全てのミッキーマウスが個別に著作権で保護されるわけではありません。著作権は「独創的で創造的な表現」にのみ適用されるため、「ファンタジア」に登場する魔法使い姿のミッキーマウスのような特徴的なデザインは保護される可能性が高くなりますが、耳の大きさや鼻の形が変わった部分については、「単なるささいなバリエーション」として保護の対象外になる可能性があります。また、「蒸気船ウィリー」のミッキーマウスは白黒で言葉を話しませんが、独自の配色をしたり、独自の声をあてたりすることは問題ありません。

もう1点重要な点として、「商標」の問題があります。ディズニーは、「ミッキーマウス」という名前が商標登録されているため、著作権保護が切れたとしても、自由に使用することはできないと主張しています。しかし、著作権と商標権は異なり、商標が禁止するのは「消費者を混乱させたり、間違わせたり、欺いたりする可能性がある形の使用」であるため、パブリックドメインとなってミッキーマウスを使って「ディズニーの作品ではない」と明記する形ならばOK。アメリカの最高裁判所は、過去の判例で「著作権の期限切れによって認められる自由をブロックするために、商標権を使用することはできない」と明言しています。


ディズニーはミッキーマウスをはじめとするキャラクターや作品を厳格に保護すると同時に、パブリックドメインから豊かなインスピレーションを受けていました。そして、2024年1月からはミッキーマウスもパブリックドメインとなり、「パブリックドメインからアイデアを受け取り、そうして生まれた作品がパブリックドメインとなっていく」というサイクルに組み込まれていきます。ジェンキンス氏は「ミッキーマウスは、ディズニーが多大な恩恵を受けたパブリックドメインの領域に足を踏み入れていきます。この時に、パブリックドメインに対する自らの恩義をディズニーが忘れないことを願いましょう」と語っています。

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in メモ,   動画,   映画, Posted by log1e_dh

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