ネットサービス

インターネットを劇的に高速化できる新技術「L4S」をApple・Google・NVIDIA・Valveなどが推進中、一体どういう技術なのか?


インターネット通信における「遅延」をほぼ完全に解消し、インターネット通信の考え方を根本から覆す可能性を秘めた新しいインターネット標準が「L4S」です。L4Sの賛同者にはAppleやGoogle、NVIDIA、Valveなど名だたる大手テクノロジー企業が名を連ねています。

Apple, Google, and Comcast’s plans for L4S could fix internet lag - The Verge
https://www.theverge.com/23655762/l4s-internet-apple-comcast-latency-speed-bandwidth


インターネットの通信速度は日に日に高速化していますが、ウェブサイトの読み込み速度に時間がかかったり、高解像度の動画を再生した際にバッファリングが必要になったり、動画の再生が途切れたりすることは昔から変わりありません。この問題の主な原因は「遅延」(ping)です。

この遅延をほぼ完全に解消することができる計画が、Apple、Google、Comcast、Charter、NVIDIA、Valve、Nokia、Ericsson、T-Mobileの親会社であるDeutsche Telekomなどが推進している「L4S」です。L4Sはウェブページやストリーミングの読み込み時間を大幅に削減し、ビデオ通話の不具合を削減することが可能になる新しいインターネット標準であると目されています。さらに、L4Sはインターネットの速度に対する考え方を変え、開発者に現在のインターネットでは実現不可能なアプリケーションの作成を可能にする可能性すらあると考えられているそうです。


インターネットはデバイスをどこかのサーバーに接続するための、相互接続されたルーター・スイッチ・ファイバーなどからなる広大なネットワークです。経路のどこかにボトルネックがあると、ネットサーフィン体験が損なわれることとなります。潜在的なボトルネックとして挙げられるのが、「動画をホストしているサーバーのアップロード能力が限られている点」だったり「インターネットのインフラストラクチャーの重要な部分がダウンしている点」だったりと、さまざまです。

しかし、本当に厄介な点は通信速度の最小容量が可能なことの限界を決定するという点にあります。例えば、インターネット通信速度の上限が「8Gbps」であっても、利用しているルーターの速度上限が「10Mbps」である場合、取り扱うことができるデータの上限は10Mbpsに限定されてしまうわけです。ここにさらに遅延が加算されることとなります。例えばコンピューター側で20ミリ秒、ルーター側で50ミリ秒の遅延が発生する場合、動画を再生したりウェブページを表示したりするには最低でも70ミリ秒待つ必要性が発生するわけです。

近年、ネットワークエンジニアや研究者はネットワーク機器が過負荷にならないようにするためのトラフィック管理システムが速度低下の原因になっているという懸念を表明しており、この問題はバッファ肥大化と呼ばれています。


バッファ肥大化が実際に何であるかを理解するには、まずバッファとは何かを理解する必要があります。ネットワークの各部分(スイッチ・ルーター・モデムなど)には処理できるデータ量に独自の制限があります。しかし、ネットワーク上にあるデバイスとそれが処理しなければいけないトラフィック量は常に変化しているため、一度に送信すべきデータ量を実際に把握しているコンピューターは存在しません。

それを把握するため、通常は一定の速度でデータを送信する必要があります。インターネット上でやり取りされるデータはパケットとして扱われますが、ネットワーク上の各部分が処理できないと判断したパケットは削除されます。パケットが削除されたとしても、コンピューターが必要に応じてパケットを再送信することとなるため、データの一部が欠損することはありません。パケットが削除された場合、送信側はパケットが削除されたというメッセージを受け取り、数ミリ秒以内に状況の変化に応じてデータレートを一時的に下げ、削除されたパケットを再び送信します。

これに対応するため、ネットワーク機器にはバッファが設けられています。デバイスが一度に大量のパケットを受信すると、パケットを一時的に保存し、送信するキューに入れることが可能となります。これにより、システムは大量のデータを処理可能となり、問題を引き起こす可能性のあるトラフィックのバーストを平滑化できるようになるわけですが、その代償として「遅延」が発生することとなるわけです。

このバッファが非常に大きくなっているというのが既存のインターネットの問題となっています。YouTubeやNetflixといったサービスの場合、デバイス上にバッファがあるため遅延による影響はそれほど感じないかもしれません。しかし、GeForce NOWのようなゲームストリーミングサービスなどを利用している場合、バッファによって発生する遅延が大きな問題となります。


既存のインターネット通信でとある楽曲をダウンロードするのにかかる時間を測定した場合、通信速度が100Mbpsのネットワークの場合「0.72秒」、250Mbpsのネットワークの場合「0.288秒」かかるとします。この場合、スループットの違いがダウンロードにかかる時間に影響をおよぼす割合は半分以下で、ダウンロードにかかる時間のほとんどがネットワーク全体で発生する遅延によるものです。より高速なインターネット通信回線を利用しても、実際にデータをダウンロードするのにかかる時間がそれほど変わらないのはこのような仕組みによるわけ。

複数の大手IT企業が推進している新しいインターネット標準のL4Sは、「Low Latency, Low Loss, Scalable Throughput」(低遅延、低ロス、スケーラブルスループット)の略で、パケットがネットワーク上で不必要に待機する時間を可能な限り少なくすることを目的としたものです。遅延のフィードバックループを短くすることを目的としており、L4Sでは輻輳(ふくそう)が発生すると問題を解決するために何らかの処理(通常は、送信データ量を減らす)を開始します。

L4Sではデータ転送にかかる時間を増加させる遅延を追加することなく、十分な量のデータスループットを維持するために、パケットに「あるデバイスから別のデバイスへの移動中に輻輳が発生したかどうかを示すインジケーター」が追加されます。そのままデータがやり取りされれば何も起きず、指定された時間を超える場合は、遅延が発生したとして記録されます。輻輳を検知した場合、デバイスは輻輳の悪化を防ぎながら、データの流れを可能な限り高速に保つことで、遅延を限りなくゼロに近づけることが可能となるそうです。


L4Sの規格策定に協力した研究開発企業・CableLabsの技術者であるグレッグ・ホワイト氏は、インターネットにおける遅延を減らすという点で、L4Sは「かなり必要なもの」だそうです。ホワイト氏は「バッファリングの遅延は通常、数百ミリ秒から、場合によっては数千ミリ秒にもなります。バッファ肥大化に対する過去の修正の一部では、バッファ肥大化が数十ミリ秒に短縮されましたが、L4Sではそれを1桁ミリ秒にまで短縮することが可能です」と言及しています。

なお、IPv6の導入に10年以上の年月がかかったことを考えると、L4Sが実際に利用可能となるまでまだまだ長い時間がかかると海外メディアのThe Vergeは指摘しています。しかし、Comcast、Charter、Virgin Mediaを含む約20社のネットワーク企業がL4Sをサポートしており、いくつかのインターネットサービスプロバイダー(ISP)もハードウェアとソフトウェアの両方でL4Sがどのように動作するかをテストするための実験を行っていると発表済みです。また、AppleもiOS 16およびmacOS VenturaでL4Sのベータサポートを開始しています。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
インターネットが開発されて50年の間に起きた5つの重大事件 - GIGAZINE

地球上のインターネットの基礎を作った「インターネットの父」が「惑星間インターネット」について語る - GIGAZINE

なぜインターネットは最悪の場所に成り果てたのか? - GIGAZINE

膨大な手数料を回避すべく独自にインターネットプロバイダーを構築した男「ファイバーケーブルガイ」がサービスを600世帯まで拡大 - GIGAZINE

「インターネット」と「伝書鳩」はどっちが速いのか? - GIGAZINE

「馬」と「インターネット」速いのはどっち? - GIGAZINE

in ネットサービス, Posted by logu_ii

You can read the machine translated English article here.