「リモートワーク釈放」によって薬物依存から更正できたという報告

罪を犯して刑務所に入り、刑期を終えて出所したにもかかわらず、再犯によってまた刑務所に入る人は少なくありません。その大きな理由の一つとして、刑務所から出る際には一文無しで仕事もないケースが多いため、助けてくれる周囲の人がいない場合は「また犯罪に手を染めるしかない」となりやすい点が挙げられます。薬物関連の犯罪で約10年を刑務所で過ごしている男性が、インターネットを導入した刑務所内でリモートワークを許可されたアメリカ国内で初めての例として、具体的な経緯や意義について刑務所の中からブログを投稿しています。

How I got here - Inside thoughts
https://pthorpe92.github.io/intro/my-story/

プレストン・ソープ受刑者は17歳で実家を追い出されてホームレスになった後、ダークウェブで医薬品の卸売を行う犯罪行為に手を染めていったそうです。20歳のころに、バンクーバーから郵便でMDMAを受け取ったことが原因で、ソープ受刑者は初めて逮捕されました。ソープ受刑者は最初の刑務所での経験について、「刑務所では、タトゥーを入れ、運動し、何かが起こるのをただ見守るか、それに参加するために何らかのドラマが展開するのを待つか、以外に何もすることがありません」と語っています。

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数年後、弁護士費用や事務手数料によって一文無しになった状態で、ソープ受刑者は刑期を終えて出所しました。身分証明書や社会保障カードも失った状態であったため、時給10ドル50セント(約1600円)で派遣の肉体労働をするか、昔の仕事仲間と会って週に1万5000～2万5000ドル(約220万～370万円)を得るかという選択で悩んだあげく、ソープ受刑者は後者を選択してもう一度犯罪に手を染めました。結果として、2017年5月から2023年11月時点まで、ソープ受刑者はアメリカの刑務所で薬物依存と戦いながら10年間の刑期を過ごしています。

ソープ受刑者は2度目の収監で13か月の独房監禁の後、アメリカ最東部に位置するメイン州の刑務所に移動することになりました。このメイン州の刑務所は、刑務所内で問題の多い受刑者やギャングといった人物はほとんどいないか隔離されており、刑期の中で自分の生活を改善したり自分の時間を使ってやりたいことにチャレンジできるシステムとなっているそうです。そこでソープ受刑者は、有機化学や金融、オプション取引などについて学習を始めました。

そして、新型コロナウイルスが流行した時期に、面会のほかあらゆるアクティビティが閉鎖された受刑者のために、アメリカの刑務所でほとんど初めてインターネットが導入されました。ソープ受刑者はコンピューターオタクだった経験や、プログラミングやソフトウェア開発を学習した知識もあり、刑務所内のネットワークの設置や教育部門で協力したとのこと。

そして、ネットワークやソフトウェアがある程度完備された後に、ソープ受刑者は刑務所に対し「リモートでの雇用」を求めました。すると許諾が下りて、アメリカ国内で初めて刑務所内でリモートワークをする「リモートワーク釈放」を行うことになりました。

アメリカの刑務所には220万人の受刑者がいるとされており、特に麻薬の影響を受けている人に対し、ソープ受刑者は「教育と社会復帰の重要性を可能な限り認識してもらいたいと考えています。アメリカの刑務所制度では教育やテクノロジーへのアクセスが厳しく制限されています」と語っています。ソープ受刑者は自身の状況は極めて幸運で例外的だと述べつつも、「更正の機会を奪ってただ閉じ込めているだけでは誰も変わることはできません。投獄され、司法の影響を受けている人々の教育支援に興味がある場合は、私が現在働いているような獄中の労働者を支援する会社や、刑務所の環境改善に取り組む非営利団体への寄付を検討してください」と訴え、刑務所の姿勢や受刑者の意識を変えていきたい旨を示しています。