サイエンス

「言葉による虐待」が子どもに強い悪影響を及ぼし大麻の使用や刑務所に入るリスクを増加させる


虐待と聞くと身体的な暴力や性的虐待、あるいはネグレクトなどを連想する人が多いかもしれません。ところが、子どもに暴言を吐いたりなじったりする「言葉による虐待」も子どもに強い悪影響を与え、子どもが将来大麻を使用したり刑務所に入ったりするリスクを増加させるという研究結果が発表されました。

Childhood verbal abuse as a child maltreatment subtype: A systematic review of the current evidence - ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0145213423003824


Calls for verbal abuse of children by adults to be formally recognised as form of child maltreatment | UCL News - UCL – University College London
https://www.ucl.ac.uk/news/2023/oct/calls-verbal-abuse-children-adults-be-formally-recognised-form-child-maltreatment

Shouting at children can be as damaging as physical or sexual abuse, study says | Children | The Guardian
https://www.theguardian.com/society/2023/oct/02/shouting-at-children-can-be-as-damaging-as-physical-or-sexual-abuse-study-says

児童虐待は主に「身体的虐待」「性的虐待」「ネグレクト」「精神的虐待」の4つに分類されていますが、このうち精神的虐待は子どもたちの感じ方が主体となっており、大人の行為のどこからが虐待に当たるのかが曖昧です。そこで、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンウィンゲート大学の研究チームは、子どもの感じ方ではなく大人の行為に焦点を当てた「言葉による虐待」という用語を採用することを提唱しています。

言葉による虐待には、子どもをけなしたり、子どもに向かって叫んだり、子どもを脅迫するような言葉をかけたりすることが含まれます。しかし、国や地域によっては子どもに対する強い言葉が「しつけ」として容認されていたり、明確に問題視されていなかったりするため、言葉による虐待を防ぐ取り組みはあまり進んでいません。この問題について明らかにするため、研究チームはこれまでに行われた児童虐待に関するさまざまな研究結果を分析し、言葉による虐待に関する体系的レビューを行いました。


研究チームが149件の定量的研究と17件の定性的研究を分析したところ、言葉による虐待を受けた子どもたちはそうでない子どもたちと比較して、成人後のメンタルヘルスや行動にさまざまな悪影響が出ることがわかりました。

以下のグラフは、イギリスに住む2万人を超える18~69歳の被験者を対象に、言葉による虐待の有無とさまざまな経験について調査した結果を示したもの。赤色が子どもの頃から言葉による虐待を受けていた被験者を、灰色が言葉による虐待を受けなかった被験者を表しています。「メンタル面の幸福度が低いと感じる割合」は言葉による虐待を受けていた被験者で20%を超えているのに対し、そうでない被験者は15%未満にとどまっているほか、「大麻の使用」「大量飲酒」「刑務所に入った経験」「暴力の被害者になる」「暴力の加害者になる」といった各項目で、子どもの頃に言葉による虐待を受けた経験がある被験者の方が明らかに多いという結果になっています。


また、11~17歳の被験者1000人を対象にしたイギリスの研究では、全体の41%が大人から非難・侮辱・批判の目的で自分を傷つける言葉を投げかけられたと回答しています。言葉による虐待の加害者として最も多いのは親の76.5%であり、家庭内の成人の保護者は2.4%、教師は12.71%、部活などのコーチが0.6%、警察が0.6%だったとのこと。

子どもたちが傷ついたり動揺したりした言葉には、「お前は役立たずだ」「お前はバカだ」「お前は何一つ正しいことができない」といったものが含まれていました。一方、子どもたちが肯定的に受け取った言葉には「あなたを誇りに思う」「あなたならできる」「あなたを信じている」といったものが挙げられたと報告されています。


論文の共著者でユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンの心理学者であるピーター・フォナジー教授は、「子どもたちは遺伝的に、大人の言うことを信用するようになっています。私たち大人の言うことを真剣に受け止めているのです。その信頼を裏切るような言葉を使い、教えるのではなく罵倒するようなことをすれば、子どもたちは恥を感じて孤立し、排除されるだけでなく、地域社会と関わったり社会的学習の恩恵を十分に受けたりできなくなってしまいます」と述べています。

研究チームは、言葉による虐待を含む精神的虐待を経験した子どもたちは、性的虐待や身体的虐待を受けた子どもたちよりも多いものの、明確に定義されていないため注目されにくいと指摘。実際に今回レビューした研究でも、「言葉による虐待」を指し示す用語は研究によってばらつきがあったそうです。

フォナジー氏は、「威嚇したり、恥をかかせたり、支配したりするために言葉を使うことは、身体的な脅威よりも明確に害が少ないように見えるかもしれません。しかし、言葉の乱用は自尊心の低下・ニコチンやアルコールの乱用・薬物中毒の増加・不安・うつ病といった、同様のリスクを増加させる可能性があります」と述べています。

論文の筆頭著者であるユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンのシャンター・デュベ教授は、「小児期の言葉による虐待は生涯にわたって悪影響を及ぼすため、虐待のサブタイプとして認められる必要があります。私たちは、身体的虐待や性的虐待の加害者をターゲットにした意識向上と介入により、これらの虐待の減少につながる進歩を目の当たりにしました」「加害者による『言葉による虐待』に焦点を当てれば、小児期の言葉による虐待とその影響を防ぐため、同じような活動が展開できるかもしれません」と述べ、大人たちの言動を変える必要があると訴えました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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