高速回転する磁石を別の磁石に近づけると磁石が回転・浮上するという不思議な現象の秘密が解明される
2つの磁石を同じ極同士で向かい合わせで並べると、磁石は互いに反発し合い、うまく一方の磁石をもう一方の磁石の下に配置すると、片方の磁石を浮かび上がらせることも可能です。しかし、ただ磁石を並べるだけではバランスが不安定で、浮上した磁石を維持することは困難です。そのため、磁石の浮上を安定させる手段として超伝導やサーボ機構、電磁誘導などの効果が存在しますが、2021年に発見された「高速回転するローターに磁石を取り付けて別の磁石に近づけると回転しながら浮上する」という反応は、これまでの磁気浮上では発見されていない仕組みでした。
Symmetry | Free Full-Text | Polarity Free Magnetic Repulsion and Magnetic Bound State
https://www.mdpi.com/2073-8994/13/3/442
Physics - How Rotation Drives Magnetic Levitation
https://physics.aps.org/articles/v16/177
Phys. Rev. Applied 20, 044036 (2023) - Magnetic levitation by rotation
https://journals.aps.org/prapplied/abstract/10.1103/PhysRevApplied.20.044036
リニアモーターカーをはじめとする磁気浮上式鉄道や磁気軸受、フライホイールなどの磁気を利用して物体を浮遊させるシステムは、一般的に磁場を安定させる「フィードバック機構」を用いています。また、「レビトロン」や「U-CAS」のような玩具は、磁石でできたコマを磁性板の上で回転させることで、ジャイロ効果によってコマが浮上するという仕組みを利用しています。
ハムディ・ユーカー氏が新たな磁気浮上に関する実験を行いました。以下はユーカー氏による実験の様子を紹介したXの投稿です。
永久磁石を高速回転させると別の永久磁石を回転浮上させることができるhttps://t.co/X8HWNXqzMA
— ゆきまさかずよし (@Kyukimasa) October 17, 2023
2年前に発見された新しい磁気浮上現象で、これまで安定して浮く理屈が追求されてなかったのだそうだ。
レビトロン(磁気浮上玩具U-CASのジャイロ効果)とも異なるし超伝導のピン止めとは全然違う pic.twitter.com/7SaI8n1FFA
まずユーカー氏は、高速回転する工具「ローター」の先に、磁石のN極とS極の間の軸がモーターの回転軸に対して垂直になるように磁石を取り付けました。
また、土台の上には「フローター」と呼ばれるもう一つの磁石が置かれました。
ユーカー氏がローターのスイッチを入れて磁石を回転させ、フローターの上にローターを近づけます。
すると、フローターは回転しながらローターの先端の磁石から数センチ離れた空間にフワリと浮き上がりました。
さらにユーカー氏はローターをさまざまな角度に動かしますが、フローターは落ちることなく、ローター先端の磁石の動きに付いてきます。
ユーカー氏がローターの電源をオフにすると、浮上していたフローターはポロリと落ちてしまいました。
ユーカー氏による実験の発表以降、多くの科学者が「フローターがなぜ安定して回転するのか」について研究を行いましたが、そのメカニズムを特定することはできませんでした。
しかし、デンマーク工科大学のラスマス・ビョーク氏らの研究チームは、市販のネオジム磁石と接着剤、電動工具を用いて家庭でも実験可能な環境を設計しました。研究チームは直径約19mmの球形磁石をローターに取り付け、回転速度を7500~1万7000rpmで変化させました。
フローターには直径5~30mmのさまざまな球形磁石が使用され、研究チームは記録装置と運動追跡ソフトウェアを用いて、浮上したローターの運動について測定を行いました。ビョーク氏は「今回の私たちの実験は、家庭でもできるほど非常に簡単です」と述べています。
測定の結果、研究チームは「フローターが回転を始めると、ローターに取り付けられた磁石と同期し、安定して浮遊することができる」「フローターは数度のわずかな傾きはあったものの、N極とS極の回転軸がローターの磁石に対して垂直を向いた」「極の軸がほぼ垂直を向くこの配置は、通常は不安定になるはずだが、今回の実験では安定して浮上した」と報告しています。
また、通常では不安定になる極の軸が垂直を向くことについて研究チームは「ローターから発生する回転磁場がフローターにトルクと回転力を与え、その結果、ジャイロ作用が働き、極の軸が垂直を向く」「ローターの回転に伴う磁場の変化によって、フローターにかかる力が変化し、ひとりでに浮上する」と推測しています。
ユーカー氏は、「ローターを動かすために必要な電気は非常に小さいため、今回のフローターの浮上に影響を与えた可能性は少ないです」と述べる一方で、「電気伝導体を磁場内で動かした時に発生する渦電流を考慮してシミュレーションを行うことで、結果を改善できる可能性があります」と語っています。
テクノロジー系企業「No-Touch Robotics」のマルセル・シュックCEOは「今回の磁石が回転するシステムは、従来の磁気浮上をアクティブ制御するシステムよりも単純で、さらに誘導電流の仕組みを用いたシステムよりもエネルギーの損失が少ないと考えられます。今回のシステムは原子の磁場トラップや磁力の操作に応用できる可能性があります」との見解を示しています。
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