サイエンス

これまでに見つかった化学物質はわずか1%、新たな化学物質はどのように探索されているのか?


宇宙には何十億もの化学物質が存在するといわれていますが、これまでに人間が特定できたのはそのうちのわずか1%と考えられています。これまで見つかっていない新たな化学物質が、温室効果ガス問題の解決策になったり、ペニシリンのように医学分野の進歩を引き起こしたりする可能性が期待されており、新たな化学物質の発見に向けて、科学者たちは熱心に研究を続けています。

Only 1% of chemical compounds have been discovered – here's how we search for others that could change the world
https://theconversation.com/only-1-of-chemical-compounds-have-been-discovered-heres-how-we-search-for-others-that-could-change-the-world-211302


1869年にロシアの化学者ドミトリ・メンデレーエフが元素の周期表を発明して以降、科学者たちはさまざまな原子を発見してきました。現代では、核融合などを用いた物質の探索が行われており、2010年には原子番号117の合成元素である「テネシン」が発見されています。

しかし、宇宙に存在するのは原子単体だけではなく、水素原子と酸素原子の化合物である水など、複数の原子が組み合わさったさまざまな化学物質が存在しています。ノッティンガムトレント大学のマシュー・アディコート氏によると、化学者たちは新たな化学物質を作成するために日々研究を行っているとのこと。

窒素(N2)や酸素(O2)のような、2つの原子からなる化合物は「二原子分子」と呼ばれています。アディコート氏によると、化学者チームが1つの化合物を作り出すのに必要な時間はおよそ1年と考えられており、理論上6903種もの分子が存在する二原子分子を全て作り出すには途方もない時間がかかります。


また、H₂0やC0₂のような3つの原子が合わさって形成される「三原子分子」は約160万種存在すると考えられており、4原子、5原子と原子の数が増加するにつれて指数関数的に組み合わせの数は増加していきます。さらに、化合物の構造や安定性によっては探索や製造の工程が困難になることもあります。

それでも、一部の化学者は自然界のルールでは存在し得ない化合物を作り出すことに取り組んでおり、これまでに深宇宙の状態を再現できる特殊な実験施設で、一般的に他の原子と結合しない希ガス原子の化合物である「アルゴンフッ素水素化物」を作り出すことに成功しています。

既知の化合物から未知の新たな化合物を作り出す方法として、アディコート氏は「既存の化合物に含まれる原子に変更を加えること」「既存の化学反応を起こす際に新たな原料を加えること」を提示しています。前者は、既知の化合物に対して原子を追加したり、取り除いたり、入れ替えたりして、化合物の特性を少しだけ変化させる方法である一方、後者は同様の化学反応を用いるものの、最終的に生成される化合物がまったく異なる可能性があるとされています。


しかし、これらの手法はどちらも「元となった化合物」が必要です。そのため、未知数の化合物を無から作成することはできません。そこで化学者は新たな化合物発見のヒントとして自然の観察を行うそうです。イギリスの細菌学者であるアレクサンダー・フレミングは1928年に、培養皿に付着したアオカビがバクテリアの増殖を防ぐ現象を発見。その後、このアオカビが生産した化学物質を「ペニシリン」と名付け、その後の医学発展に大きな影響を与えました。

1945年にはイギリスの化学者ドロシー・ホジキンがペニシリンの化学構造を特定。ペニシリンの構造の一部にはこれまでほとんど予想されてこなかった、正方形状に原子が配置される構造があることが判明しました。しかし、ペニシリンを人間が一から作り出すことは困難とされており、現代でもカビなどを培養して抽出する方が簡単で安価と考えられています。

自然界にはこれまで人間が作り出すことができなかったさまざまな化合物が存在する可能性があり、新たな化合物の探求を行う化学者は自然界からインスピレーションを受けて研究を行っています。

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in サイエンス, Posted by log1r_ut

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