サイエンス

かつてヨーロッパには葬儀として死体を「共食い」する文化が存在したという研究結果


現代では世界中のほとんどの文化で、埋葬または火葬による葬儀が採用されています。ところが、約1万7000年~1万2000年前の西ヨーロッパに存在したマドレーヌ文化では、葬儀のために「共食い(カニバリズム)」をする文化的慣習が広まっていたという研究結果が発表されました。

Cannibalism and burial in the late Upper Palaeolithic: Combining archaeological and genetic evidence - ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0277379123003578


Oldest evidence of human cannibalism as a funerary practice | Natural History Museum
https://www.nhm.ac.uk/discover/news/2023/october/oldest-evidence-of-human-cannibalism-as-a-funerary-practice.html

'People Were Eating Them': Long Ago Cannibalism Was Normal, Study Says : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/people-were-eating-them-long-ago-cannibalism-was-normal-study-says

マドレーヌ文化は後期旧石器時代のヨーロッパ北西部に存在した文化で、フランスやスペイン、イギリスなどに主な遺跡が分布しています。イギリスのサマセット州チェダーにあるゴフ洞窟にあるマドレーヌ文化の遺跡からは、頭蓋骨をカップまたはボウルに加工した形跡や、遺体を共食いしたことを示唆する証拠が見つかっています。

以下の写真が、実際にゴフ洞窟で発見された頭蓋骨のカップです。

by Wikimedia Commons

しかし、果たして共食いがマドレーヌ文化において一般的な文化的慣習だったのか、それともゴフの洞窟に住んでいたグループが特殊だったのかは不明でした。そこでロンドン自然史博物館の古人類学者であるシルビア・ベロ氏とウィリアム・マーシュ氏の研究チームは、マドレーヌ文化に関連すると考えられている59の遺跡を分析しました。

その結果、59のうち25の遺跡で人間の葬儀に関する行動が確認され、10の遺跡では遺体が埋葬または安置されていた一方で、13の遺跡では葬儀のために共食いを行っていたことを示す証拠が見つかりました。残る2つの遺跡では、埋葬と共食いの証拠が両方みられたとのこと。共食いの証拠としては、遺体を食器などの道具として再利用したり、骨髄などを食べたりしたことに関連する傷や歯形、装飾目的とみられる彫刻などが見つかっています。

以下の図は、今回分析された59の遺跡の分布と、確認された葬送儀礼について示したもの。青い三角形が初歩的な埋葬が確認された遺跡で、赤い四角が共食いが確認された遺跡となっており、黒い点は葬送儀礼が確認できなかった遺跡です。


この分析結果は、マドレーヌ文化において葬儀のための共食いが広く行われていたことを示しています。ベロ氏は、「彼らは死者を埋葬する代わりに食べていました。私たちは、カニバリズムが短期間のうちに北西ヨーロッパ全域で複数回行われたという証拠を、この慣習がマドレーヌ人の集団の間で広まった葬送儀礼の一部だったと解釈しています。これは葬儀の習慣としてのカニバリズムの最古の証拠であり、これ自体が興味深いことです」と述べています。

さらに研究チームは、人骨の遺伝的な詳細情報が入手できる8つの遺跡について分析を行いました。これらの遺跡はいずれもマドレーヌ文化に関連するとみられていましたが、遺伝子情報を分析したところ、マドレーヌ文化に関連する「GoyetQ2」という遺伝子を祖先から受け継いだグループの遺跡と、主に南東ヨーロッパで栄えたエピグラヴェット文化に関連する「Villabruna」という遺伝子を祖先から受け継いだグループが混在していることが判明。さらに、死者を共食いする文化を持つ遺跡は、いずれも「GoyetQ2」の遺伝子グループに属することがわかりました。

葬儀の慣習が遺伝的グループによって異なるという事実は、北西ヨーロッパの葬送儀礼が共食いから埋葬に移行したのはマドレーヌ文化が新たな慣習を受け入れたのではなく、エピグラヴェット人がマドレーヌ人に取って代わったことを示唆しています。

ウィリアム氏は、「旧石器時代末期には、遺伝的な祖先と葬送儀礼の両方において入れ替わりが見られます。つまり、マドレーヌ文化に関連する祖先と葬送儀礼が、エピグラヴェット文化に関連する祖先と葬送儀礼に取って代わられたということです。これは、エピグラヴェット文化の集団がヨーロッパ北西部に移動し、人口が入れ替わったことを示しています。私たちはこのような葬送儀礼の変化は、文化を超えた拡散の例というよりも、ある集団が他の集団と入れ替わって移動してきたデミック拡散(人口拡散)の事例だと考えています」と述べました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
人間が人の肉を食べる「カニバリズム」の歴史とは? - GIGAZINE

古代の人類の親戚が殺し合ってお互いを食べていた最古の痕跡が見つかる、145万年前の骨の化石に石器による切り傷 - GIGAZINE

なぜカニバリズム(食人)を行う人がいるのか? - GIGAZINE

人肉はどのような味がするのか? - GIGAZINE

人肉を食べたら体に何が起こるのか? - GIGAZINE

イギリスで発見された世界最古の「髑髏杯(どくろはい)」、食人の形跡も - GIGAZINE

5億年以上前の三葉虫の化石から「世界最古の共食いの痕跡」が見つかる - GIGAZINE

母ザルが自分で産んだ赤ちゃんの死体を数日間持ち歩いた後に食べてしまう衝撃的な事例が報告される - GIGAZINE

in サイエンス, Posted by log1h_ik

You can read the machine translated English article here.