アート

アートにおける「ぼかし」の重要性とは?


絵画や芸術作品において、あえてくっきり描かずに「ぼかし」を用いて描くことがあります。そのような「ぼかし」がアートにおいてどのような意味を持つのか、オンラインのアートメディアであるArtsyが具体例を交えて解説しています。

Contemporary Painters Are Using a Hazy Aesthetic to Tap into Nostalgia | Artsy
https://www.artsy.net/article/artsy-editorial-contemporary-painters-hazy-aesthetic-window


レオナルド・ダ・ヴィンチが「モナ・リザ」を描いていたころ、ダ・ヴィンチは「人間の目が世界の特性をどうとらえるか」を研究していたとされています。ダ・ヴィンチが開発した「スフマート」というスタイルは、作品内のオブジェクトの周囲にぼやけた印象を与えることで、逆にオブジェクトを際立たせ、「モナ・リザ」の象徴的な表情を生んでいると考えられています。


このスフマート技法はダ・ヴィンチの時代から現代まで受け継がれており、Artsyによると現代の芸術の場合は「ぼかし」によって「時間」ないし「過去」を表しているとのこと。輪郭線を柔らかくし、ぼやけた印象をオブジェクトの周囲にほどこすことで、見る人にノスタルジックな距離感を提供しています。

1880年から1915年頃のアメリカでは、暗い色や灰色、茶色や青などの中間色を構成の主役として、雰囲気や影を強調するトーナリズム(色調主義)というスタイルが流行しました。トーナリズムもスフマートの系譜をたどっており、例えば木々を周囲に溶け込ませて曖昧に描くスタイルによって、逆に自然の崇高さを輝かせています。

現代の画家も、雰囲気のニュアンスを創出するためにスフマートやトーナリズムのインスピレーションを応用しています。Artsyが例として挙げているジェシカ・テイラー・ベラミー氏が2023年に発表した作品「地域の予言者」では、フォトリアリスティックに描かれた女性の背景に、オレンジとグレーで色合いや境界を曖昧にした「ぼかし」の空が描かれることで、主題となる人物を際立たせつつも背景の曖昧さに解けていくような雰囲気を出しています。


また、以下の画像はロサンゼルスを拠点とするアリョ・トー・ジョジョ氏が2023年に発表したもので、道路を走る車の風景全体にぼかしたアプローチが用いられています。


ジョジョ氏はArtsyのインタビューに対し、「作品を作り始めたときから意図的に霞ませようとしたわけではなく、エアブラシを使った結果このタッチになったのです」と答えています。ジョジョ氏によると、エアブラシは「過去のスタイル」を思い起こさせるツールとのことで、「ルネサンスから1800年までに活動した有名なヨーロッパの芸術家を指すオールドマスターズのようなペイントが、エアブラシを使うことでできるかどうか試したいと思っていました。瞑想(めいそう)を行う時は、思考がまるで雲のように通り過ぎていくのを経験したことがあるため、エアブラシによる技法はその感覚も呼び起こしてくれます」と語っています。

また、「主題をより鮮明に現実的な印象に描写するために、ぼかしの層を挿入する」という技法の筆頭として、Artsyはドイツの抽象画家であるゲルハルト・リヒター氏を挙げています。リヒター氏は2011年にThe Guardianのインタビューで、「私はすべてを平等にし、すべてが同じように重要で、同じように重要ではないように『ぼかし』を用いています」と話しています。リヒター氏によると、素人が実際に撮影した写真や、時がたって劣化した記憶のように、本物の壮大さが失われたものを「ぼかし」によって表現することで、重要なメタファーとして機能させています。


リヒター氏にインスピレーションを受けたと発言している南アフリカの画家であるクレイグ・キャメロン・マッキントッシュ氏は、「ぼかし」のスタイルは20世紀後半の映画を想起させる影響があると語り、「このアプローチは過去を振り返り、写真のスナップショットのように対象を描くのではなく、見た人がその瞬間を体験できるようにするものです」と説明しました。

夢や遠い記憶のように、距離が離れて初めて明らかになるものもあります。「ぼかし」の技法を取り入れた現代絵画は、鮮明な描写よりもぼやけた暗示によってかすかなノスタルジーを刺激し、見る人に自分の過去と結び付いているような幻想を与えます。

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in アート, Posted by log1e_dh

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